【完結】その悪女は笑わない

ariya

文字の大きさ
29 / 77
本編③ 狩猟祭の事件

28 怪我と鹿

しおりを挟む
 アリアの残留思念を求めて落馬事故の現場でずっとアリーシャはあたりを触れ回った。
 やはり明確な物質がないと探るのは難しいのだろう。
 4時間程経過しても読み込むことはできなかった。

「まぁ、そう気を落とすな。具体的な物じゃない、曖昧な場所で読み込むのはかなり難易度が高いらしい」

 アルバートは特に期待していなかったという。もしかしたらと思ってアリーシャにサイコメトリーの方法を教え、試してみたが厳しかったようだ。

 アリーシャはふぅとため息をついて座り込んだ。少しだけ落胆してしまった。

 少しでもアリアの情報が手に入ると意気込んでいたというのに。

 ドロシーとしては魔法で読み込むことができなくて安心しているようであった。

「少し風が冷たくなってきました。戻りましょう」

 確かに日が傾いており、風が冷たく感じた。

「お前は先に戻れ。俺はもう少し周辺を探ってみる」

 アリーシャはドロシーに伴われて天幕の方へ戻っていった。ドロシーが淹れてくれたお茶を飲みながら、今からのスケジュールを確認する。

 確か晩餐会が開かれる予定である。
 国王・王妃は晩餐会で参加者を労う。当然、花姫はそれに参加しなければならない。
 このまま寝台で横になって休みたいところであるが、時間になったところでアリーシャは晩餐会の会場へと向かった。

 晩餐会では本日の捕らえた獲物の話題で持ち切りであった。
 大きな猪を狩ったとか、美しい鳥を捕まえたとか。

 相変わらずのローズマリーの太鼓持ちのコレットとクリスの話を他所にアリーシャは食事を口に運んだ。
 ローズマリーはちらちらとアリーシャを見つめていたが気にしない。

 今日の食事は獣肉が多めであった。
 普段は食べない肉類を上品に調理された食事にアリーシャは関心した。

 獣肉は特に珍しいとは感じていない。
 アリーシャの故郷であるメデア村は山の中にある村であり、狩猟も行われていた。魔法道具を使ってが主な方法であったが。

 焼いて塩を振る、似て調味料を足すだけの簡単なものだった。
 貴族出身の母はいつも嫌そうな顔をしながら食べていたのを思い出す。

 こんなにできるものなのね。

「皆さま、楽しんでおりますか?」

 王妃のエリザベスは花姫の席に近づき声をかけた。
 成人した王太子の母であるが、それを感じさせない程の若さと美しさを持ち社交界の憧れであった。

 他の花姫たちに倣い、アリーシャは挨拶をする。

 予想通り王妃はアリーシャを一瞥してすぐにローズマリーと左右を囲んでいるコレットとクリスの方へ視線を向けた。

 彼女はスプリング公爵家と同じ権力を持つ公爵家の出身で、尊い血筋というのを崇拝していることで有名である。
 その為王族の血筋を持つローズマリーこそ王妃に相応しいと口にはしないでも、態度でまるわかりであった。

 王妃に必死に媚を売っていた回帰前が今では懐かしい。何であんな無駄なことをしていたのだろう。
 
「早速成果をあげており優勝者が誰になるか楽しみだわ」

 話題は狩猟祭の各参加者の活躍である。

「王太子も今年こそは優勝をすると意気込んでいたわ」

 去年の優勝者は国王の従弟にあたるシェリル大公の騎士だったと思う。
 シェリル大公は北の国境付近の防衛を任されている為、家門の騎士に実力者が多い。
 今年シェリル大公は不参加になっていた為国王が残念がっていた。
 国境付近で敵国の怪しい動きを察知したと警戒態勢に入っているという。
 回帰前では知らなかったが、参加前にアルバートから聞かされた。

「ですが、王太子は早速美しい狼を捕えられたといいます」
「ローズマリー様が羨ましいですわ」

 ローズマリーはにこりと微笑むだけであった。
 今となっては彼女に同情してしまう。
 このまま順当に王太子妃になれば、あのヴィクター王太子を夫としなければならない。そしてこのエリザベス王妃を姑として相手しなければならない。

 一応ローズマリーの血筋が問題なく王太子にも、王妃にも気に入られているからアリーシャがわざわざ心配する必要はないか。

 晩餐会は始まってから随分時間が経ち、ちらほらと退場する者がみられた。
 王妃と花姫たちの会話は弾んでいるが、彼女らの会話に混じる気が起きずアリーシャは会釈して晩餐会を後にした。

 そういえばアルバートは戻ってきているだろうか。

 自分の天幕に戻る前、アリーシャは彼の元へ訪れることとした。アルバートの天幕まで行くと奥からシオンが現れた。

「アリーシャ様、御機嫌よう」

 少し驚いた様子であったが、すぐに姿勢をただしアリーシャに挨拶をする。

「ご機嫌よう。兄の天幕に何か御用ですか?」
「ええ、少しだけ。明日が早いので私はこれにて」

 あまり理由を言ってくれずシオンは立ち去っていった。アリーシャの目にとまった彼の胸元にはシャツが赤く汚れていた。
 アリーシャはアルバートの部下を押し切って彼の天幕へと入る。

「失礼します。アルバート様」

 中を覗くと彼の寝台の周りに血で汚れた布が大量に散乱していた。
 おびただしい血の量にアリーシャはさぁっと青ざめる。

「俺の許可なく入るなんて、礼儀がなっていないぞ」

 彼は呆れたようにアリーシャに注意した。だが今更のような気がしているので、それ以上のお小言は言わない。

「怪我でもしたの?」

 先ほど言いたいのを忘れてアルバートの様子をみる。先ほど見た時よりも顔色が白く、疲労感が見えた。

「鹿の角が脇腹に貫通した。言いふらすなよ」

 さらっと怖いことを言う。

 アリーシャたちと別れた後、アルバートは現場付近を捜索していた。
 その時に大きな鹿を丁度見つけて、折角だし仕留めてみようと試みた。
 動かなくなった鹿の回収をしようと思ったらまだ生きていたようで角がアルバートの脇腹に刺さった。

 アルバートとしては今回の怪我をあまり知られたくなかくアリーシャに何度も口を閉じるように繰り返した。
 アリア・クロックベル前侯爵夫人のことがあるため、変な噂が立てられるのは目に見えている。

「医者にはみせたの?」
「今診てもらった。口が堅い信用できる奴だ」

 今天幕から出てきたのは医者ではなくシオンだったと思う。

「シオンは医者だ。傷については凄腕のな」

 王族お抱えの医者を呼ぶよりは、シオンを呼んだ方が早いと判断した。
 シオンは処刑人であるが、多くの平民の病やけがを無償で診る医者でもあることを説明してアリーシャはへぇと感心した。

「あいつは治癒魔法も使えるし、思った通り傷は早めに閉じてくれた。まだ気を抜くと開きそうだが」

 彼はぽすんと寝台の上に身を投げて横になった。
 その時に眉を顰めていたのでまだ痛みはかなり残っているようだ。

「ねぇ、随分シオン様のことを知っているのね」

 前回の会話の時もジュノー教会に行っているということでシオンの名を出した。
 彼がそこを出入りしているというのを知っていたということになる。

「シオンとは同じ寄宿学校に通っていた時期があったんだ」

 予想外の事にアリーシャはさらに質問を重ねようとした。

「俺は疲れているんだ。お前のお喋りに付き合う余裕はない」

 けちだとアリーシャは不満げであった。
 だが、事実アルバートの傷は重傷だったと思う。
 晩餐会の間の短い時間でよくアルバートの治療をしたものだとシオンの能力を褒めてしまいたくなる。

「これからの予定だけど、やはりアリア様の情報は出てこなかった。ここで打ち切りにしてもいいと思っている」

 再度王宮内の呪い探索をしていく他ない。

「狩猟に関しては、さっき仕留めた鹿で勘弁してくれ」

 アルバートを傷つけた鹿はアリーシャに捧げる獲物だった。
 それなりの大きさなので、優勝は無理でも上位には入れるだろう。

「そんなこと別にいいわよ。早く良くなってね」

 内心意外に彼のことを労わる言葉を出せたのかと自分に関心した。
 この程度でアルバートとの冷えた仲をよくしようとは考えていない。アルバート自身も同じだろう。
 あくまで目的と目標が被っただけの協力関係である。

 それでも、回帰前にクロックベル侯爵家がアリーシャを見捨てたのは未だに覚えている。
 利用しようとしておだてて、価値がないと思えば放置する身勝手さを今も思い出せば腹が立つ。
 だが、いざ酷い怪我を目の前に負われると目覚めが悪く、鼻で笑う気は起きない。

 アルバートの天幕から出ると入れ違いに彼の部下と思われる騎士が会釈をした。
 そういえばこうして侯爵家の騎士と接触する機会はなかったなとアリーシャは思い出し挨拶をした。

「向こうにアルバート様が仕留めた鹿を置いていますよ。見に行かれますか?」
「私が?」

 何故と聞くと、例の鹿はアリーシャへ捧げる為に仕留めたというのだ。

「狩猟祭が終われば上等な防寒具にする予定です。アリーシャ様のですよ。楽しみにしていてくださいね」

 アリーシャは反応に困った。
 別に欲しいと言った覚えはない。
 だが、王宮を出る時にあった方が便利かもしれない。それならもらえるならもらっておこう。

 回帰前に自分が処刑される頃は今にも雪が降るのではないかと思う程の寒さだった。
 きっと王宮を出られる時は寒い季節になるだろう。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!

音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ 生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界 ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生 一緒に死んだマヤは王女アイルに転生 「また一緒だねミキちゃん♡」 ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差 アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

処理中です...