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本編⑤ 呪いの真相
46 あずまやでの会話
久々に王宮へやってきたアルバートの一言にアリーシャはかちんとなった。
「会う度に悩みどころを増えているな」
「好きで増やしていないもの」
大声で叫ばれアルバートは頭を抱えた。そして一緒に座っているエレン王子の方をみやる。
シオンがお願いして王宮に入ったのだろうというのは予測していたが呪いの件まで話されていたとは思わなかった。
「エレン王子、ご協力には感謝しますが呪いは危険なものです。今度見つけたとしても触れないでおいてください」
改めて注意されてエレンはふーんと不服そうだった。
「僕はシオンに頼まれてここに来たから、アルバートに言われてもなぁ」
なるほど、世間的な立場があろうとエレンにとって私的な場ではシオンの方がアルバートより優位のようである。わからなくはないとアリーシャは思った。
「呪いが変な方向に影響すれば、シオンにも迷惑がかかります」
自分の軽率な行動で大事な人にどう影響するかと聞かされ、エレンはわかったよと頷いた。
「それで庭のどこにその呪いがあったのですか?」
「ダイヤモンドリリーの庭のガゼボ(あずまや)あたりだよ」
今は花姫不在のダイヤモンドリリー宮がすぐに近くにある場所だった。その宮に合わせてつくられた庭だ。今は丁度みごろだろう。
予定はなかったと思うが、主となる花姫が存在しない宮は季節に合わせたお茶会や夜会の会場として利用されることがある。近くに目玉となる庭園が広がっており人々の目を楽しませることができる。
早速、三人で例のガゼボ(あずまや)にたどり着いた。
先日呪いに触れたが何もみることができなかった。アリーシャのサイコメトリーは発動できなかったのだ。それなら現場に来た方がいいとアルバートは考えた。
アリーシャはあたりを見渡した。呪いが埋められたあたりを触れてみると、ばちっと電流が走った。
目の前にいなかったはずの3人の令嬢と身分高そうな男性が1人あずまやのテーブルに座って語らっていた。
男性の特徴をみると薄い金髪に薄紫の瞳、王族だとすぐにわかった。
「アリア様が花姫を辞退されるって、ここ最近辞退者はいなかったのに」
「まさか、こんなに早く脱落するなんて思わなかったわ」
「不眠症で大変なのに、心配していた通り落馬事故を起こしちゃって」
くすくすと笑う声にアリーシャは息が詰まりそうになった。それに男の声が混ざる。
「全くお前たちと一緒に見学しておけばよかったのだ。あのお転婆は」
「まぁ、酷い」
男に対して令嬢は甘い声で非難する。
「不眠症はあなたがプレゼントしたアロマの影響でしょう。あの中に不眠と不安を誘発する呪いの粉を混ぜていたじゃないですか」
男は悪びれもなく笑い続ける。
「何、ほんの少しだ。精神的にしっかりしていれば特に問題なかったのに、弱かったからそうなったんだ」
悪いのは向こうだと言わんばかりの態度であった。
「お可哀そうなアリア様、殿下からの贈り物をとても嬉しそうに語られ毎日楽しんでいたというのに」
「お前たちだって酷いじゃないか。アロマに呪いを混ぜることを案はお前たちの案だろう」
その時の女たちの笑い声に頭痛がした。
「だってムカつくのですもの。あんな流浪の踊り子の血を持った女が妃になるなんて……アンナ様ならともかく」
「そうですわ。公爵令嬢であるアンナ様こそ王妃に相応しい」
「まぁ、みんな。そんなことを言ってはアリア様が可哀そうよ。アリア様だって頑張っているのに」
最も地位高い令嬢がアンナと思われる。アリア、アンナ、落馬事故……これはアリアが落馬事故後の後の会話だった。
アリアの落馬事故の原因は不眠によるもの。その不眠は作られたものだった。
「妃にはアンナが決まるだろう。アリアのいない今、お前が一番優秀なのだから」
「まぁ、殿下まで。アリア様に悪いわ」
悪いと全く思っていない様子に気持ち悪さが強くなる。
「何、構わないさ。むしろあんな踊り子の血が王家に入らなかったと安心している」
この男女からにじみ出るのは高貴な血筋の誇り、そして見下している血に対しての嫌悪であった。
呪いからはアリアの強い執念を拾うことができる。じゃあ、アリアはこの会話をどこかで聞いていたということになる。
どうして。
花姫を辞退が決まった後、ひっそりと宮を出る前に他の花姫たちに挨拶をと思いここまでやってきたのだ。侍女に車いすを押してもらいながら。
「アリア様、戻りましょう」
状況を察した侍女は後ろからアリアに声をかけてきた。アリアはこくりと頷き、俯いたまま侍女に元いた場所へ戻してもらうことにした。
「お可哀そうな、アリア様。妃になれず、花姫を辞退して、自由に歩く足を失い、今も不眠に苦しんでいる」
後ろから侍女はひそひそと耳元へ囁いた。
「復讐をしませんか? まだ宮を退去していないアリア様なら彼女たちを呪いで亡ぼすことが可能です。私もお手伝いします」
「本当に、できるの?」
アリアは後ろの方へ振り返る。日差しによる侍女の顔が見えない。でもうっすらと笑っていて気味が悪かった。
どこかで聞いた声のようにも思えるが思い出すことができない。
「はい、アリア様の魔力があれば可能です」
そして、と笑った。
「ティティス様の名にかけてアリア様の復讐のお手伝いをいたしましょう」
アリアはこの王宮で、ずっと孤独な状態で戦っていたのだ。信じていた王太子も、花姫も自分を陥れることに躊躇がない。不眠、不安、頭痛の中、それでも気丈に振る舞い、そして狩猟祭に訪れたテレサへの慈しみを忘れなかった。自分の体がぼろぼろになっているのにも構わずに。
でも、もう彼女は気丈に振る舞うことができない。
足の自由を失った。アロマが途絶えた後も長く続く不眠の中苦しんでいる。
精神的にも、身体的にも彼女の全ては奪われてしまった。
残されたのは同期の花姫と王太子への憎悪感だけ、もう彼女にはそれしかなかった。
「うぅ……くっ……」
ぼろぼろと涙がこぼれた。それを見てアルバートは慌ててアリーシャをガゼボ(あずまや)のテーブルに付属している椅子に座らせた。
何を見たと聞きたかったが、今はそんな状況ではなさそうだ。
「あらぁ、そちらにいらっしゃるのはアリーシャ様じゃなくて?」
嫌な声にアリーシャはどうしようと思った。今のこの姿をこの女に見せたくない。
クリス、アリーシャに嫌みをいう花姫であった。
「御機嫌よう、クリス様」
エレンはさっと前に出て笑顔で挨拶をした。王族特有の容姿と端麗さにクリスはほうっとため息をついた。
「え、エレン王子もいらっしゃっていたとは」
大慌てで挨拶をする。傍らの侍女もそれに倣う。
ダイヤモンドリリーの庭に散策していたらアリーシャを見かけちょっかいをかけようと考えていたようだ。そこにエレン王子が出てきて嫌みがなかなか言えない。
「アリーシャ様はまだ不慣れな僕を王宮内の案内をしてくれていたのです。でも、体調が優れなかったようで……申し訳ありませんが僕の顔に免じて許していただけませんか?」
アリーシャが挨拶できないことを代わりにお詫びする。
「そ、そうなのね。アリーシャ様は確かに最近お勉強を頑張っておられますし、お疲れでしょう。でも、それなら案内はアリーシャ様じゃなくて私を頼っていただければよかったのに」
ちらちらとガゼボ(あずまや)の方をみる。アリーシャの介護をしているのはアルバートだった。貴族令嬢が婚約相手にと望む男の上位に入る男である。
「ところでクリス様はこちらへいらしたのは? ダイヤモンドリリーを鑑賞の為でしょうか」
「ええ、近々こちらでお茶会を開こうと思っていましたの。ちょうどよい時期ですし……その下見に散策していたのです」
花姫不在の宮は他の花姫が許可を出せばお茶会の会場にすることができる。
「エレン殿下もご招待いたします。まだ招待状は送っていないのですが」
「嬉しいです。でも、僕はクリス様のジャスミン宮に興味があるな」
突然可愛い動作にクリスは胸をきゅーと締め付けられる気分であった。
「まぁ、ジャスミン宮にご興味が?」
「はい、幼い頃から修道院、教会を転々としており美術品や建築には目がなくて」
「まぁ、それでしたら別のお茶会を用意いたします。是非いらしてください」
クリスは大はしゃぎにいう。ダイヤモンドリリー宮でのお茶会は大々的に行うが、自分の宮では規模を小さくすれば立て続けにしても問題ないだろう。実家に相談すれば資金調達もできるし。
「私も招待して欲しいです。無理でしょうか?」
前々からジャスミン宮への捜索を考えていたアルバートはガゼボ(あずまや)から顔を出して来た。
「ええ、是非。子爵様も大歓迎です」
クリスは顔をぽーっと赤らめた。ようやく涙が収まったアリーシャは状況を確認する。もしかするとクリスはかなり容姿端麗な男に弱いのではないか。気持ちはわからないわけでないが。
「アリーシャ様、お茶会まで体調管理をしっかり整えるのですよ」
そう捨て台詞を吐いてクリスは立ち去っていった。もっと嫌味を言われるかと警戒していたが。
「会う度に悩みどころを増えているな」
「好きで増やしていないもの」
大声で叫ばれアルバートは頭を抱えた。そして一緒に座っているエレン王子の方をみやる。
シオンがお願いして王宮に入ったのだろうというのは予測していたが呪いの件まで話されていたとは思わなかった。
「エレン王子、ご協力には感謝しますが呪いは危険なものです。今度見つけたとしても触れないでおいてください」
改めて注意されてエレンはふーんと不服そうだった。
「僕はシオンに頼まれてここに来たから、アルバートに言われてもなぁ」
なるほど、世間的な立場があろうとエレンにとって私的な場ではシオンの方がアルバートより優位のようである。わからなくはないとアリーシャは思った。
「呪いが変な方向に影響すれば、シオンにも迷惑がかかります」
自分の軽率な行動で大事な人にどう影響するかと聞かされ、エレンはわかったよと頷いた。
「それで庭のどこにその呪いがあったのですか?」
「ダイヤモンドリリーの庭のガゼボ(あずまや)あたりだよ」
今は花姫不在のダイヤモンドリリー宮がすぐに近くにある場所だった。その宮に合わせてつくられた庭だ。今は丁度みごろだろう。
予定はなかったと思うが、主となる花姫が存在しない宮は季節に合わせたお茶会や夜会の会場として利用されることがある。近くに目玉となる庭園が広がっており人々の目を楽しませることができる。
早速、三人で例のガゼボ(あずまや)にたどり着いた。
先日呪いに触れたが何もみることができなかった。アリーシャのサイコメトリーは発動できなかったのだ。それなら現場に来た方がいいとアルバートは考えた。
アリーシャはあたりを見渡した。呪いが埋められたあたりを触れてみると、ばちっと電流が走った。
目の前にいなかったはずの3人の令嬢と身分高そうな男性が1人あずまやのテーブルに座って語らっていた。
男性の特徴をみると薄い金髪に薄紫の瞳、王族だとすぐにわかった。
「アリア様が花姫を辞退されるって、ここ最近辞退者はいなかったのに」
「まさか、こんなに早く脱落するなんて思わなかったわ」
「不眠症で大変なのに、心配していた通り落馬事故を起こしちゃって」
くすくすと笑う声にアリーシャは息が詰まりそうになった。それに男の声が混ざる。
「全くお前たちと一緒に見学しておけばよかったのだ。あのお転婆は」
「まぁ、酷い」
男に対して令嬢は甘い声で非難する。
「不眠症はあなたがプレゼントしたアロマの影響でしょう。あの中に不眠と不安を誘発する呪いの粉を混ぜていたじゃないですか」
男は悪びれもなく笑い続ける。
「何、ほんの少しだ。精神的にしっかりしていれば特に問題なかったのに、弱かったからそうなったんだ」
悪いのは向こうだと言わんばかりの態度であった。
「お可哀そうなアリア様、殿下からの贈り物をとても嬉しそうに語られ毎日楽しんでいたというのに」
「お前たちだって酷いじゃないか。アロマに呪いを混ぜることを案はお前たちの案だろう」
その時の女たちの笑い声に頭痛がした。
「だってムカつくのですもの。あんな流浪の踊り子の血を持った女が妃になるなんて……アンナ様ならともかく」
「そうですわ。公爵令嬢であるアンナ様こそ王妃に相応しい」
「まぁ、みんな。そんなことを言ってはアリア様が可哀そうよ。アリア様だって頑張っているのに」
最も地位高い令嬢がアンナと思われる。アリア、アンナ、落馬事故……これはアリアが落馬事故後の後の会話だった。
アリアの落馬事故の原因は不眠によるもの。その不眠は作られたものだった。
「妃にはアンナが決まるだろう。アリアのいない今、お前が一番優秀なのだから」
「まぁ、殿下まで。アリア様に悪いわ」
悪いと全く思っていない様子に気持ち悪さが強くなる。
「何、構わないさ。むしろあんな踊り子の血が王家に入らなかったと安心している」
この男女からにじみ出るのは高貴な血筋の誇り、そして見下している血に対しての嫌悪であった。
呪いからはアリアの強い執念を拾うことができる。じゃあ、アリアはこの会話をどこかで聞いていたということになる。
どうして。
花姫を辞退が決まった後、ひっそりと宮を出る前に他の花姫たちに挨拶をと思いここまでやってきたのだ。侍女に車いすを押してもらいながら。
「アリア様、戻りましょう」
状況を察した侍女は後ろからアリアに声をかけてきた。アリアはこくりと頷き、俯いたまま侍女に元いた場所へ戻してもらうことにした。
「お可哀そうな、アリア様。妃になれず、花姫を辞退して、自由に歩く足を失い、今も不眠に苦しんでいる」
後ろから侍女はひそひそと耳元へ囁いた。
「復讐をしませんか? まだ宮を退去していないアリア様なら彼女たちを呪いで亡ぼすことが可能です。私もお手伝いします」
「本当に、できるの?」
アリアは後ろの方へ振り返る。日差しによる侍女の顔が見えない。でもうっすらと笑っていて気味が悪かった。
どこかで聞いた声のようにも思えるが思い出すことができない。
「はい、アリア様の魔力があれば可能です」
そして、と笑った。
「ティティス様の名にかけてアリア様の復讐のお手伝いをいたしましょう」
アリアはこの王宮で、ずっと孤独な状態で戦っていたのだ。信じていた王太子も、花姫も自分を陥れることに躊躇がない。不眠、不安、頭痛の中、それでも気丈に振る舞い、そして狩猟祭に訪れたテレサへの慈しみを忘れなかった。自分の体がぼろぼろになっているのにも構わずに。
でも、もう彼女は気丈に振る舞うことができない。
足の自由を失った。アロマが途絶えた後も長く続く不眠の中苦しんでいる。
精神的にも、身体的にも彼女の全ては奪われてしまった。
残されたのは同期の花姫と王太子への憎悪感だけ、もう彼女にはそれしかなかった。
「うぅ……くっ……」
ぼろぼろと涙がこぼれた。それを見てアルバートは慌ててアリーシャをガゼボ(あずまや)のテーブルに付属している椅子に座らせた。
何を見たと聞きたかったが、今はそんな状況ではなさそうだ。
「あらぁ、そちらにいらっしゃるのはアリーシャ様じゃなくて?」
嫌な声にアリーシャはどうしようと思った。今のこの姿をこの女に見せたくない。
クリス、アリーシャに嫌みをいう花姫であった。
「御機嫌よう、クリス様」
エレンはさっと前に出て笑顔で挨拶をした。王族特有の容姿と端麗さにクリスはほうっとため息をついた。
「え、エレン王子もいらっしゃっていたとは」
大慌てで挨拶をする。傍らの侍女もそれに倣う。
ダイヤモンドリリーの庭に散策していたらアリーシャを見かけちょっかいをかけようと考えていたようだ。そこにエレン王子が出てきて嫌みがなかなか言えない。
「アリーシャ様はまだ不慣れな僕を王宮内の案内をしてくれていたのです。でも、体調が優れなかったようで……申し訳ありませんが僕の顔に免じて許していただけませんか?」
アリーシャが挨拶できないことを代わりにお詫びする。
「そ、そうなのね。アリーシャ様は確かに最近お勉強を頑張っておられますし、お疲れでしょう。でも、それなら案内はアリーシャ様じゃなくて私を頼っていただければよかったのに」
ちらちらとガゼボ(あずまや)の方をみる。アリーシャの介護をしているのはアルバートだった。貴族令嬢が婚約相手にと望む男の上位に入る男である。
「ところでクリス様はこちらへいらしたのは? ダイヤモンドリリーを鑑賞の為でしょうか」
「ええ、近々こちらでお茶会を開こうと思っていましたの。ちょうどよい時期ですし……その下見に散策していたのです」
花姫不在の宮は他の花姫が許可を出せばお茶会の会場にすることができる。
「エレン殿下もご招待いたします。まだ招待状は送っていないのですが」
「嬉しいです。でも、僕はクリス様のジャスミン宮に興味があるな」
突然可愛い動作にクリスは胸をきゅーと締め付けられる気分であった。
「まぁ、ジャスミン宮にご興味が?」
「はい、幼い頃から修道院、教会を転々としており美術品や建築には目がなくて」
「まぁ、それでしたら別のお茶会を用意いたします。是非いらしてください」
クリスは大はしゃぎにいう。ダイヤモンドリリー宮でのお茶会は大々的に行うが、自分の宮では規模を小さくすれば立て続けにしても問題ないだろう。実家に相談すれば資金調達もできるし。
「私も招待して欲しいです。無理でしょうか?」
前々からジャスミン宮への捜索を考えていたアルバートはガゼボ(あずまや)から顔を出して来た。
「ええ、是非。子爵様も大歓迎です」
クリスは顔をぽーっと赤らめた。ようやく涙が収まったアリーシャは状況を確認する。もしかするとクリスはかなり容姿端麗な男に弱いのではないか。気持ちはわからないわけでないが。
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