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本編⑤ 呪いの真相
47 前の時代の花姫たち
自室に戻った後、アリーシャは先ほどみたアリアの過去を説明した。
「アリア様が、ニコラス王とアンナ妃と花姫たちに陥れられていたとは……」
これでアリアの動機が判明した。後は彼女の呪いを唆した者についてだ。
侍女の特徴についてはうまく確認することができなかった。十代の若い女性であった。
そうなれば結構高齢なのではなかろうか。
「今の年齢を考えると、女官長と同年代か。まだ勤めているかどうかもわからないな」
ここでいったん終了になりそうだったが、アルバートは当時の花姫周辺も確認していた。
アリアの実家の伯爵家は断絶、アンナ妃の実家は落ちぶれていき今は親戚関係にあるスプリングフィールド公爵家の援助を受け、家計を建て直しているという。
「他の花姫たちは」
「他界されていたよ。当時の花姫は4人……今と同じだな。うち1人は俺の大叔母だ」
クロックベル侯爵家では珍しく魔力を持っていたようである。それでも非常に微弱である。花姫になれたのは運が良かったというしかなかった。
「その方はどこへ嫁いでいたのでしょう」
「いや、どこにも嫁がず遠方の修道院で出家した。家との交流も全て絶ち、家出に近かったようだ。花姫の時にもらった宝石類を全て修道院に寄付したそうだ。日記をつけていたようだが、本人の希望で親族であっても渡せないと言われてしまった」
出家したのは丁度、アンナ妃が自殺した数日後という。その時不眠症に悩んでいたと聞き、アリーシャはぞっとした。
もしかするとアンナ妃も同じ症状があったのかもしれない。
「もう一人の花姫は伯爵家に嫁いでいたが、産褥熱で他界された。確か20歳代だったと思う」
ニコラス王と花姫には立て続けに不幸なことが起きている。
「あまり口にされていないけど、呪われたニコラス王と呼ばれていました」
話を聞いていたドロシーは話に介入してきた。
「サイラス先王の花姫になった王太后様はとても怯えてしまい心身虚弱な状態でした。サイラス先王は王太后様が怖がらないようにとニコラス先王の噂を全て封じられました。だから今では知っている人は少ないかと。サイラス先王は王太后様の為に、南方の破魔の力を持つ神官の家系の侍女を望まれ祖母と母が呼ばれることになりました」
「ふーん、サイラス先王は随分王太后様に気を配っていたのね」
「それは、まぁ……唯一の花姫でしたし」
ニコラス王の不幸ごともあり、次の花姫の準備も行えていない時に崩御され急遽新しい花姫が開始されることになった。秘石に適合できたのはテレサだけだったという。
「サイラス先王は非常に優しい方で、王太后様をしっかりと守っておられました。王太后様もサイラス先王のアプローチに観念して花姫になって6カ月目でようやくしっかりと教育を受け始めたといいます」
テレサ王太后のことを思い出すと朗らかな女性であった。おっとりとしていて、争いを求めない性格だった。
他の花姫がいなかったことと、サイラス先王が良い方で良かったとしみじみ感じた。
翌日、フローエ夫人の授業を受けながらアリーシャは花姫の歴史について質問した。
「みんな妃を狙って切磋琢磨しているのであれば、こう仲悪くなりそうな気がするのだけど」
「ええ、その通りです。派閥争いならぬ花姫争いが苛烈になった時代はありました。それをうまく制御するのが花姫の監督である執事のジベール様です」
「ジベール様、その立場の人たち大変じゃないの。執事のお仕事だってあるでしょうし」
アリーシャの質問にフローエ夫人は嬉しそうに答えていった。
「はい、だから執事が委任した者に監督をしてもらうのです。女官長にお願いすることも多いですが、それぞれの花姫の健康面を定期的に確認できる治癒魔法使いも委任されることがあります。これで各花姫の性格や、相性をみて行事の立ち位置などを考えていったようです」
それだけでうまくいくとは思いにくい。実際、アリアの件があるではないか。
テレサ王太后の時代は運が良かったのかもしれない。相手がニコラス先王みたいな感じだったら、もう一人分の呪いが付加されていたかもしれない。恐ろしい。
そういえば、エリザベス王妃の時代の花姫にも何かあったのかもしれない。
続けて質問するがフローエ夫人は特に問題がなかったようであるとしか知らないようだ。その時はまだ成人前、成人してからは大学にいったので王宮の内情は把握しきれていないようだ。
自分の行動範囲で当時の王宮の様子を知っている者がいないか考える。あまりいない。いや、いた。
アリーシャは授業が終わった後、大量の書類の山に埋もれているジベールの執務室へと向かった。そこには例の引退紳士たちがジベールの手伝いをしていた。
「おお、これはアリーシャ様。以前お会いしたときより肌艶よくなりましたな」
「やっぱりお肉じゃよ。若いものはお肉をとって体力を作らねば」
「アリーシャ様、事前の連絡をしてくださいとあれだけ言ったでしょう」
ジベールははぁとため息をついて、とにかくソファに腰をかけるように促した。
「それで何でしょう。また何か問題が起きましたか?」
アリーシャ周辺のだいたいの問題は片付けたつもりであったがジベールの目に届かないことがあったのだろうか。
「女官長代理にドーラもいます。私の妻です。何なりと相談をお申し付けください」
そういえばドーラ・ジベール夫人もいたなとアリーシャは内心思ったが、彼女に花姫のことを聞くほどの仲ではない。
アリーシャはエリザベス王妃が花姫だった時代を知る人に話を聞きたかった。
「それならお前じゃろ。当時の花姫監督は」
ぺしぺしと頭を叩かれながら指名された紳士は前へ出た。
「エリザベス王妃の花姫の時代に何か問題は起きなったのでしょうか?」
きゅぴーんと彼の頭に光が走ったように思える。頭頂部の毛髪、生え際が怪しいからだろうけど。
「う、問題などないですよ」
明らかな嘘である。きっと隠されたアリアと似たような事件があったのだろう。
「教えてください。とても大事なことなの」
アリーシャは頭を下げ、紳士に頼み込んだ。
「何故そんなに知りたいかわかりませんが、アリーシャ様にはとても刺激が強いですよ」
そんな酷いことが近い花姫制度で起きていたのか。というか何でそれでも続けられたのだろうか。
「恐ろしかった……」
深刻そうな表情で老紳士は語り始める。
当時の花姫は6人であった。
どの花姫も非常にプライドが高く、喧嘩早くあちこちで喧噪が絶えない日々だった。
はじまりは公爵家の血筋がどうの、王族の血筋がどうの、家門の経済面がどうの、過去の功績がどうのというマウントの取り合いが多かった。
ついにしょうもないことからはじまることもあった。
「あら、臭いと思ったらデンファレの花姫じゃないの。毎日香水をきつくさせて、お鼻が詰まっているのかしら。良い治癒魔法士を紹介しましょうか?」
「あらあら、サンフラワーの花姫は毎日朝昼夕とお風呂に入っているとか。水不足が心配されている時期によくお水をじゃぶじゃぶ消費できますわね」
時には手袋を投げつけ、受け取ることから始まる剣術試合も開始された。無論花姫が剣を持つのではなく、花姫に指名された騎士たちが無理やりたたかわされていたのだ。
負ければやじが飛ばされ花姫に見損なわれる。騎士たちは泣く泣くしょうもないことからはじまった喧嘩の代理を行っていた。
時には花姫の無理難題で、パティシエ対決も繰り出された。とってもハンサムな料理人が勝っていたので、腕より顔で勝負されていたような印象だった。
通りがかりの侍女たちでさえ所属宮でお互いいがみ合っていた。
様々な職種が花姫のくだらない争いに巻き込まれておった。
当時の王宮の職場の雰囲気が過去最悪と記録されている。離職者がはんぱなく多かった。
当然彼もこれが終わったら執事引退しようと決め込んでいた。
「その勝負に勝ったのがエリザベス王妃じゃった。まぁ、どの花姫が勝ってもだいたい同じのような気がするが」
「あの一方が結託して1人の花姫を陥れるとかなかったのでしょうか?」
「全員お互いのことが大っ嫌いだったからのう。結束する頭があったかのう」
想像していた花姫とは何か違う気がする。6人もいてグループが作られなかったのはある意味すごいかもしれない。
その花姫の中に気が弱かったり、立場の弱い令嬢がいなくて逆に良かったかもしれない。
現場の多職種の面々は大変だろうけど。
「あのエリザベス王妃を妻にしてうつ病にならない陛下はすご……おっと、これは不敬。今のはなし。忘れてくだされ」
もしかするとアリーシャが知らないだけで彼女を恨んでいる人は結構いたかもしれない。
エリザベス王妃の毒殺事件は容疑者が多かったから捜査が難航していたのではなかろうか。
呪いの件だけで手いっぱいなので、エリザベス王妃の時代の花姫捜査はここで打ち切り終了にした。
アリーシャはそっと執務室を後にした。
「アリア様が、ニコラス王とアンナ妃と花姫たちに陥れられていたとは……」
これでアリアの動機が判明した。後は彼女の呪いを唆した者についてだ。
侍女の特徴についてはうまく確認することができなかった。十代の若い女性であった。
そうなれば結構高齢なのではなかろうか。
「今の年齢を考えると、女官長と同年代か。まだ勤めているかどうかもわからないな」
ここでいったん終了になりそうだったが、アルバートは当時の花姫周辺も確認していた。
アリアの実家の伯爵家は断絶、アンナ妃の実家は落ちぶれていき今は親戚関係にあるスプリングフィールド公爵家の援助を受け、家計を建て直しているという。
「他の花姫たちは」
「他界されていたよ。当時の花姫は4人……今と同じだな。うち1人は俺の大叔母だ」
クロックベル侯爵家では珍しく魔力を持っていたようである。それでも非常に微弱である。花姫になれたのは運が良かったというしかなかった。
「その方はどこへ嫁いでいたのでしょう」
「いや、どこにも嫁がず遠方の修道院で出家した。家との交流も全て絶ち、家出に近かったようだ。花姫の時にもらった宝石類を全て修道院に寄付したそうだ。日記をつけていたようだが、本人の希望で親族であっても渡せないと言われてしまった」
出家したのは丁度、アンナ妃が自殺した数日後という。その時不眠症に悩んでいたと聞き、アリーシャはぞっとした。
もしかするとアンナ妃も同じ症状があったのかもしれない。
「もう一人の花姫は伯爵家に嫁いでいたが、産褥熱で他界された。確か20歳代だったと思う」
ニコラス王と花姫には立て続けに不幸なことが起きている。
「あまり口にされていないけど、呪われたニコラス王と呼ばれていました」
話を聞いていたドロシーは話に介入してきた。
「サイラス先王の花姫になった王太后様はとても怯えてしまい心身虚弱な状態でした。サイラス先王は王太后様が怖がらないようにとニコラス先王の噂を全て封じられました。だから今では知っている人は少ないかと。サイラス先王は王太后様の為に、南方の破魔の力を持つ神官の家系の侍女を望まれ祖母と母が呼ばれることになりました」
「ふーん、サイラス先王は随分王太后様に気を配っていたのね」
「それは、まぁ……唯一の花姫でしたし」
ニコラス王の不幸ごともあり、次の花姫の準備も行えていない時に崩御され急遽新しい花姫が開始されることになった。秘石に適合できたのはテレサだけだったという。
「サイラス先王は非常に優しい方で、王太后様をしっかりと守っておられました。王太后様もサイラス先王のアプローチに観念して花姫になって6カ月目でようやくしっかりと教育を受け始めたといいます」
テレサ王太后のことを思い出すと朗らかな女性であった。おっとりとしていて、争いを求めない性格だった。
他の花姫がいなかったことと、サイラス先王が良い方で良かったとしみじみ感じた。
翌日、フローエ夫人の授業を受けながらアリーシャは花姫の歴史について質問した。
「みんな妃を狙って切磋琢磨しているのであれば、こう仲悪くなりそうな気がするのだけど」
「ええ、その通りです。派閥争いならぬ花姫争いが苛烈になった時代はありました。それをうまく制御するのが花姫の監督である執事のジベール様です」
「ジベール様、その立場の人たち大変じゃないの。執事のお仕事だってあるでしょうし」
アリーシャの質問にフローエ夫人は嬉しそうに答えていった。
「はい、だから執事が委任した者に監督をしてもらうのです。女官長にお願いすることも多いですが、それぞれの花姫の健康面を定期的に確認できる治癒魔法使いも委任されることがあります。これで各花姫の性格や、相性をみて行事の立ち位置などを考えていったようです」
それだけでうまくいくとは思いにくい。実際、アリアの件があるではないか。
テレサ王太后の時代は運が良かったのかもしれない。相手がニコラス先王みたいな感じだったら、もう一人分の呪いが付加されていたかもしれない。恐ろしい。
そういえば、エリザベス王妃の時代の花姫にも何かあったのかもしれない。
続けて質問するがフローエ夫人は特に問題がなかったようであるとしか知らないようだ。その時はまだ成人前、成人してからは大学にいったので王宮の内情は把握しきれていないようだ。
自分の行動範囲で当時の王宮の様子を知っている者がいないか考える。あまりいない。いや、いた。
アリーシャは授業が終わった後、大量の書類の山に埋もれているジベールの執務室へと向かった。そこには例の引退紳士たちがジベールの手伝いをしていた。
「おお、これはアリーシャ様。以前お会いしたときより肌艶よくなりましたな」
「やっぱりお肉じゃよ。若いものはお肉をとって体力を作らねば」
「アリーシャ様、事前の連絡をしてくださいとあれだけ言ったでしょう」
ジベールははぁとため息をついて、とにかくソファに腰をかけるように促した。
「それで何でしょう。また何か問題が起きましたか?」
アリーシャ周辺のだいたいの問題は片付けたつもりであったがジベールの目に届かないことがあったのだろうか。
「女官長代理にドーラもいます。私の妻です。何なりと相談をお申し付けください」
そういえばドーラ・ジベール夫人もいたなとアリーシャは内心思ったが、彼女に花姫のことを聞くほどの仲ではない。
アリーシャはエリザベス王妃が花姫だった時代を知る人に話を聞きたかった。
「それならお前じゃろ。当時の花姫監督は」
ぺしぺしと頭を叩かれながら指名された紳士は前へ出た。
「エリザベス王妃の花姫の時代に何か問題は起きなったのでしょうか?」
きゅぴーんと彼の頭に光が走ったように思える。頭頂部の毛髪、生え際が怪しいからだろうけど。
「う、問題などないですよ」
明らかな嘘である。きっと隠されたアリアと似たような事件があったのだろう。
「教えてください。とても大事なことなの」
アリーシャは頭を下げ、紳士に頼み込んだ。
「何故そんなに知りたいかわかりませんが、アリーシャ様にはとても刺激が強いですよ」
そんな酷いことが近い花姫制度で起きていたのか。というか何でそれでも続けられたのだろうか。
「恐ろしかった……」
深刻そうな表情で老紳士は語り始める。
当時の花姫は6人であった。
どの花姫も非常にプライドが高く、喧嘩早くあちこちで喧噪が絶えない日々だった。
はじまりは公爵家の血筋がどうの、王族の血筋がどうの、家門の経済面がどうの、過去の功績がどうのというマウントの取り合いが多かった。
ついにしょうもないことからはじまることもあった。
「あら、臭いと思ったらデンファレの花姫じゃないの。毎日香水をきつくさせて、お鼻が詰まっているのかしら。良い治癒魔法士を紹介しましょうか?」
「あらあら、サンフラワーの花姫は毎日朝昼夕とお風呂に入っているとか。水不足が心配されている時期によくお水をじゃぶじゃぶ消費できますわね」
時には手袋を投げつけ、受け取ることから始まる剣術試合も開始された。無論花姫が剣を持つのではなく、花姫に指名された騎士たちが無理やりたたかわされていたのだ。
負ければやじが飛ばされ花姫に見損なわれる。騎士たちは泣く泣くしょうもないことからはじまった喧嘩の代理を行っていた。
時には花姫の無理難題で、パティシエ対決も繰り出された。とってもハンサムな料理人が勝っていたので、腕より顔で勝負されていたような印象だった。
通りがかりの侍女たちでさえ所属宮でお互いいがみ合っていた。
様々な職種が花姫のくだらない争いに巻き込まれておった。
当時の王宮の職場の雰囲気が過去最悪と記録されている。離職者がはんぱなく多かった。
当然彼もこれが終わったら執事引退しようと決め込んでいた。
「その勝負に勝ったのがエリザベス王妃じゃった。まぁ、どの花姫が勝ってもだいたい同じのような気がするが」
「あの一方が結託して1人の花姫を陥れるとかなかったのでしょうか?」
「全員お互いのことが大っ嫌いだったからのう。結束する頭があったかのう」
想像していた花姫とは何か違う気がする。6人もいてグループが作られなかったのはある意味すごいかもしれない。
その花姫の中に気が弱かったり、立場の弱い令嬢がいなくて逆に良かったかもしれない。
現場の多職種の面々は大変だろうけど。
「あのエリザベス王妃を妻にしてうつ病にならない陛下はすご……おっと、これは不敬。今のはなし。忘れてくだされ」
もしかするとアリーシャが知らないだけで彼女を恨んでいる人は結構いたかもしれない。
エリザベス王妃の毒殺事件は容疑者が多かったから捜査が難航していたのではなかろうか。
呪いの件だけで手いっぱいなので、エリザベス王妃の時代の花姫捜査はここで打ち切り終了にした。
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