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本編⑥ 影にひそむ女神
53 失踪者
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子供の時の辛さをアリーシャは思い出し表情を暗くした。エヴァはアリーシャの様子を伺いながら自分の知っている情報をアリーシャに伝えた。
「ローランはロヴェルを奪ったサーシャ・アリーシャ母子を許せずいた。幼稚なことだったと悔やんでいた。ローランは子供だったからな、育ての父を奪ったアリーシャを憎んでいたらしい」
エヴァはじっとアリーシャを見つめた。
「だが、同時にアリーシャを気にかけていた。気にかけるならはじめから保護しておけばよかったのに」
エヴァはぷんぷんと怒った。親に虐待された子供というのはエヴァにとっては耐えれない話である。それを放置したローランに軽蔑した時期もある。
「何となく思い当たる節があります」
今となっては子供の時のふしぎな体験である。
熱病にかかり物置小屋に放り出された日があった。眠っていた時に人の気配がして、母親じゃないかと怯えていた。目を開けなければと思ったが強い睡魔に襲われて目を開けれなかった。ひんやりとした大人の手がアリーシャの額に触れた。それが気持ちよくてアリーシャは「おとうさま?」と呼んでしまった。手の感触が消えた後、熱は下がってすっかり元気になっていた。
同じく怪我をしたときも翌日に綺麗に治っていたこともある。
あれはローランだったのだろう。
エヴァはローランに対して怒ってよいと言ったがアリーシャはそんな気分になれなかった。アリーシャにとってローランは雲の上の人である。王太子よりも、国王よりも上かもしれない。
それにローランがアリーシャを許せない気持ちも理解できる。ロヴェルがローランの前任祭祀だったと考えれば、ローランにとっての崇拝の対象を奪ったのがアリーシャになる。
ローランの訃報にしんみりとしていたアリーシャであったが、呪いに関する現状どこまで把握できているかお互い確認しあった。
「アリア様の実家と、血縁者について調べてみたけど例の女神の関係が出てこなかった」
シオンに手伝ってもらった情報についてアルバートは簡単に報告する。折角だからシオンも連れてこればよかった。
「アリア様の母方の祖母が踊り子というのが気になったが、元々国外………東海の方の出身の曲芸師だったようだ」
祖母がティティスの信仰者で呪いの知識元かと疑っていたが違うようだ。
「ねぇ、例の侍女についてなんだけど」
アリーシャは思い出したことを伝えた。ダイヤモンドリリーの庭でみたアリアの残存した記憶を改めて思い出す。
「侍女の顔はみていなかったけど、声がコレット様に似ていたのよ。そう思うとあの顔はコレット様じゃないかなとつい考えてしまって」
「コレット………ヴェルノヴァ伯爵令嬢か。伯爵家の縁者であれば侍女として王宮内に出入りしていた者もいただろう」
アリーシャの証言には確信はなかった。だが、何も掴めないよりはよい。思いつくことはできる限り調べておこう。
「ドロシー」
アルバートに名を呼ばれてドロシーはぴしっと背筋を伸ばす。
「侍女たちの間に探りを入れろ。ウェルノヴァ伯爵令嬢に似た者が過去に勤務していたか………さすがにアリア様の時代の話だから覚えている者はいないだろうが」
「わかりました。侍女の情報網を駆使して探し出してみせます」
アリーシャの言葉からはじまる捜索であり、気合がかなり入っている。
◇ ◇ ◇
王宮にて書類の提出と、報告を済ませてシオンは帰宅を急ぐことにした。
ときどき見かける豪奢な衣装を着た貴人が目に移る。
彼らはシオンの姿をみて嫌そうな表情を浮かべて無視した。シオンは礼儀として彼らに頭を下げるが、無視され続けている。無視されるだけならまだましな方だろう。唾を吐きかけるものもいるのだから。
王宮の出入り口付近まで来た時に声をかける者がいるとは思いもしなかった。
「シオン・シャーリーストーン殿」
ぞっとするほど無邪気な、同時に妙に落ち着いた雰囲気を漂わせた声であった。シオンは声の方へ振り向き、礼儀を示した。
「これは、花姫ともあろう方が私に何の用でしょうか」
アリーシャ以外の花姫が自分に声をかけるなど思いもしなかった。
数日後、シオンが行方不明になったという噂がアリーシャの元に届く。アルバートに確認すると間違いなく、シャーリーストーン家は彼を探しているという。
貴族たちはひそひそと噂し合っていた。
昔、処刑人の跡取りが嫌がって家出をしたことがあったが、処刑人の子とわかるや誰も雇ってくれない為結局跡を継ぎに戻ってきたという。
シオンも若いのでそういう時期になったのだろう。いつ戻ってくるかと賭け事をする者もいてアリーシャは不愉快であった。
「ローランはロヴェルを奪ったサーシャ・アリーシャ母子を許せずいた。幼稚なことだったと悔やんでいた。ローランは子供だったからな、育ての父を奪ったアリーシャを憎んでいたらしい」
エヴァはじっとアリーシャを見つめた。
「だが、同時にアリーシャを気にかけていた。気にかけるならはじめから保護しておけばよかったのに」
エヴァはぷんぷんと怒った。親に虐待された子供というのはエヴァにとっては耐えれない話である。それを放置したローランに軽蔑した時期もある。
「何となく思い当たる節があります」
今となっては子供の時のふしぎな体験である。
熱病にかかり物置小屋に放り出された日があった。眠っていた時に人の気配がして、母親じゃないかと怯えていた。目を開けなければと思ったが強い睡魔に襲われて目を開けれなかった。ひんやりとした大人の手がアリーシャの額に触れた。それが気持ちよくてアリーシャは「おとうさま?」と呼んでしまった。手の感触が消えた後、熱は下がってすっかり元気になっていた。
同じく怪我をしたときも翌日に綺麗に治っていたこともある。
あれはローランだったのだろう。
エヴァはローランに対して怒ってよいと言ったがアリーシャはそんな気分になれなかった。アリーシャにとってローランは雲の上の人である。王太子よりも、国王よりも上かもしれない。
それにローランがアリーシャを許せない気持ちも理解できる。ロヴェルがローランの前任祭祀だったと考えれば、ローランにとっての崇拝の対象を奪ったのがアリーシャになる。
ローランの訃報にしんみりとしていたアリーシャであったが、呪いに関する現状どこまで把握できているかお互い確認しあった。
「アリア様の実家と、血縁者について調べてみたけど例の女神の関係が出てこなかった」
シオンに手伝ってもらった情報についてアルバートは簡単に報告する。折角だからシオンも連れてこればよかった。
「アリア様の母方の祖母が踊り子というのが気になったが、元々国外………東海の方の出身の曲芸師だったようだ」
祖母がティティスの信仰者で呪いの知識元かと疑っていたが違うようだ。
「ねぇ、例の侍女についてなんだけど」
アリーシャは思い出したことを伝えた。ダイヤモンドリリーの庭でみたアリアの残存した記憶を改めて思い出す。
「侍女の顔はみていなかったけど、声がコレット様に似ていたのよ。そう思うとあの顔はコレット様じゃないかなとつい考えてしまって」
「コレット………ヴェルノヴァ伯爵令嬢か。伯爵家の縁者であれば侍女として王宮内に出入りしていた者もいただろう」
アリーシャの証言には確信はなかった。だが、何も掴めないよりはよい。思いつくことはできる限り調べておこう。
「ドロシー」
アルバートに名を呼ばれてドロシーはぴしっと背筋を伸ばす。
「侍女たちの間に探りを入れろ。ウェルノヴァ伯爵令嬢に似た者が過去に勤務していたか………さすがにアリア様の時代の話だから覚えている者はいないだろうが」
「わかりました。侍女の情報網を駆使して探し出してみせます」
アリーシャの言葉からはじまる捜索であり、気合がかなり入っている。
◇ ◇ ◇
王宮にて書類の提出と、報告を済ませてシオンは帰宅を急ぐことにした。
ときどき見かける豪奢な衣装を着た貴人が目に移る。
彼らはシオンの姿をみて嫌そうな表情を浮かべて無視した。シオンは礼儀として彼らに頭を下げるが、無視され続けている。無視されるだけならまだましな方だろう。唾を吐きかけるものもいるのだから。
王宮の出入り口付近まで来た時に声をかける者がいるとは思いもしなかった。
「シオン・シャーリーストーン殿」
ぞっとするほど無邪気な、同時に妙に落ち着いた雰囲気を漂わせた声であった。シオンは声の方へ振り向き、礼儀を示した。
「これは、花姫ともあろう方が私に何の用でしょうか」
アリーシャ以外の花姫が自分に声をかけるなど思いもしなかった。
数日後、シオンが行方不明になったという噂がアリーシャの元に届く。アルバートに確認すると間違いなく、シャーリーストーン家は彼を探しているという。
貴族たちはひそひそと噂し合っていた。
昔、処刑人の跡取りが嫌がって家出をしたことがあったが、処刑人の子とわかるや誰も雇ってくれない為結局跡を継ぎに戻ってきたという。
シオンも若いのでそういう時期になったのだろう。いつ戻ってくるかと賭け事をする者もいてアリーシャは不愉快であった。
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