乙の子

ariya

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終 その後

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 次に政宗のもとへ出仕した折、小十郎はまた政宗の自室で碁を打っていた。
 はつの正体を聞いても政宗は特に驚いた様子はなかった。

「ほう、やはりな」

 やはりという言葉に小十郎はぽかんと口を開けてしまった。

「大殿は気づいていたのですか?」
「さぁな」

 くつくつ笑う政宗は笑った。

「それで、その大八はどうするのだ」
「男として片倉家で庇護します」
「何じゃ、阿梅は許したのか?」

 つまらんなと政宗は不満そうにこぼした。何がつまらないんだと小十郎は内心疑問に思った。

「ええ、はじめは難色を示しましたが、片倉家の縁戚の人間・片倉大八として養育すると提案して、ようやく」
「大八はどうしておる?」
「はじめは片倉の名前を名乗るのを憚っておいででした。それ以上迷惑はかけれないと。でも、私が説き伏せて名乗らせました」
「強引だなぁ」
「そうでもしないと大八は遠くへ行ってしまいそうですからね」
「片倉家の人間か」

 政宗は顎をさすりながら考えた。

「真田家の子は無理でも、片倉家の大八だったら儂の小姓として傍に置けるな」
「駄目です」

 小十郎は政宗の考えそうなことを否定した。

「大八は大殿の小姓にはやりません」
「何じゃ。何が不満か?」 
「絶対手出すでしょう」

 政宗はかなり有名な稚児趣味を持っている。
 彼の愛人の中に男が当然のようにいて、しかも傍の小姓の何人かにも手を出している。
 かくゆう小十郎も出陣の折、政宗に口づけをされた。
 女装しても小十郎が全く男と気づかなかった大八を政宗の傍に置けばどうなるか不安でたまらない。

「大八は私の子ですから、手を出したら大殿でも許しませんよ?」

 にっこり小十郎は笑った。それをみて政宗は苦笑いした。

「随分大八が気に入ったようだな」
「ええ、大八は私のお気に入りですので」

 小十郎は大八に槍を教えたり、学問を教えるのが楽しくて仕方ないという風だった。

「全く、羨ましい奴め」

 政宗は笑って、小十郎の笑顔を見詰めた。

   ◇   ◇   ◇

 それから何十年も後のこと。
 戦国の世を知る者が誰一人居なくなった頃である。

 仙台にやってきや真田本家の当主が家人の中に自分と同じ六文銭の紋を持つ男を見つけた。
 思わず声をかけたところ、その男は片倉家の者であった。
 片倉家はかつて真田幸村の娘を引き取ったことでこの家紋を用いたという。
 男は片倉沖之進と名乗った。
 片倉大八守信の子・片倉辰信である。
 その後、彼の家は仙台真田家として、幕末、現代まで残った。
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