現世ではヒモだった男が異世界で英雄へと成り上がる

今野常春

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第一章 国家消滅

第10話 不確定要素

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 ティーダ少佐の特訓も二週間が過ぎた。
「何とか中級魔法が使えるようになった……」
 歯を食いしばり、精神論を信奉するティーダは肉体的にいじめに苛め抜いてくるという荒療治を俺に施した。その結果俺はファイアボールの上位魔法を使えるようになっていた。
「俺も安心したよ。お前が俺のしごきに耐えてくれてな」
「分かっていらしたのですね……」
 俺は聞こえない声で呟いた。

 作戦開始まで二週間。
 俺たちは今日目的地ローテルへと出撃することになる。そんな中俺はギリギリまでしごきを受けていたということだ。
 俺だけ肉体的にはボロボロになりながら中隊全員が講堂に集められた。
「さて諸君、今日我らは王都を出発しローテルへと向かう。予定では若干の余裕があるとの報告を受けているが戦争は流動的だ。どうなるのか分からないことだけは心して欲しい」
 いつになくキリっとした指揮官のレイム少将は俺たちの顔を見ながらゆっくりと話し始めた。
「イラバニア帝国の主力は第一師団を吸収し三個軍一丸となって王都へと向かい進軍中だ」
 目の前に張り出された地図を指しながら丁寧に話してくれるお蔭で皆集中して言われたことを咀嚼することが出来る。

「以上だが何か質問はあるかな?」
 暫く反応を待ったが誰も挙手することがなかった。よってレイムは大きく頷いて俺たちに言い放った。
「よろしい。皆聞いてくれ。これは王国にとって賭けに近しい軍事行動だ。幾ら我らに分のある装備が有ったとしても一個中隊規模でしかない。だからこそ、決して無理はするな」
 俺は思わずズッコケた。普通ここでは死ぬ気で戦い抜けとか熱い言葉が飛び出すかと思ったのだ。あっ、マルも同じだ。笑ってやがる。
「レイム少将。それでは示しがつかないのではありませんか?」
「この位でいいんだよ。大丈夫だ。君たちをむざむざ死へと追いやる事はさせない。安心して己の責務を果たして欲しい」
 やばっ、これカッコいいって思ったわ。普段のレイムを思うとそのギャップが凄まじい。
「では出撃しよう。今から一時間後、中央参謀部広場に集合だ。以上」
「敬礼!」
 ティーダ少佐の言葉で解散となった。皆それぞれ荷物を持つと一時間という時間を潰す為散らばった。

 俺は一度体を休める為寮へと戻った。
「おかえりなさい、中尉」
「ああ、ただいまレイ准尉」
 気付けば俺たちは中尉、レイ准尉と呼んでいた。
「一時間後に広場に集合だ。俺はそれまで休むよ」
「分かりました。では間に合うように起こすので休んでください」
「ありがとう~」
 やっぱり俺の体は疲れていたらしい。彼の言葉を聞くと安心して寝入ってしまった。

「やはりまだ参加するのは早いのではないのでしょうか……」
 私は目の前で寝息を立てるユウスケ中尉を見て不安を覚えている。確かに魔力が高く、私も知らない特殊能力があるらしいことは認める。それでも三週間前までは最前線で戦っていた二等兵……
 対して他の隊員は少なくとも半年はこの場で訓練に明け暮れている。地力はあっても戦場では経験がものをいう場面が多々ある。
「私も参加出来たら……」
 間違いなくユウスケ中尉を補佐しながら護衛に徹することが出来る。
 残念だけど、私には魔法を使うことはできない。この特殊部隊は魔法使用者のみで編成されている。私は特例で部隊に所属することが認められるけど、戦地へ赴くことは許されなかった。
 私はタイプライターに向かい、小気味よいリズムでボタンを押しながらユウスケ中尉を起こす時間まで書類の作成に勤しんだ。





 俺は今臨時列車に乗っている。
 臨時列車で軍人が乗り込んでいることから大勢の国民が見送りに来ている。だが部隊の家族は誰一人見送りには来ていなかった。
 後から知らされたが、この部隊に所属していることは家族にすら秘匿されていた。俺は元から家族がいなかったが、家族がいる者は地位と高水準の生活を保障されることと引き換えにされていた。
 全員が乗り込むと大歓声と共に列車はあっという間に加速して王都を脱したのであった。

 行き先はヘレルと呼ばれる都市だ。そこからトラックで移動し、ローテル付近で下車し徒歩で移動し物資集積場を襲撃破壊する。口にすれば短いものだがやることは重大だ。
 ヘレルという場所は王都より北西に位置する重要都市だ。何しろ魔導石を産出する唯一の都市なのだ。故にこの都市は王都以上に厳重な警備が為され、城塞都市と呼ぶべき防御力を有していた。
「なんでイラバニア帝国は王都を目指すのかな」
 俺は隣に座るマルに問い掛けた。すると彼は驚いた表情を浮かべた。
「お前何バカなこと言っているんだ。そりゃレイバン王国の首都だぞ。国王陛下がおわす地を攻めるのは当然じゃないか」
 この世界の常識は敵首都を落とすことで勝敗を決すると考えていいのか……
「じゃあ俺たちも帝国の首都を攻めるのかな」
「そりゃそうだろ。陥落させれば間違いなく俺たちの勝ちだ」
 マルの言いたいことは分かる。
 だが敵の戦力を考えれば首都陥落は容易なのか、と思ってしまう。

 戦力は三個軍、18万と言う規模だ。対して王都周辺には20万近い兵士が詰めている。立派な城壁に加えて大きな堀が回らされている。飛び道具が主体とはいえこちらには城壁の上から撃てる地の利があった。攻撃側は守備兵力の三倍が常識とされる中でどうにも腑に落ちない。少なくとも60万は必要な筈だ。

「どうかしたかな、ユウスケ中尉?」
 真後ろに座っていたレイム少将が俺たちの会話を聞いていたらしく参加してきた。
「えっ、いやえっと……」
 悩んでいるとマルが事情を説明し、レイムは納得した表情で頷いた。
「なるほど。敵からしたら普通王都めがけて進んでくるのが常識だ。でもユウスケ中尉は何か引っかかるんだね」
 席を移してレイムは俺たちの前に腰掛けた。

「引っかかるというか、敵の戦力は三個軍ですよね」
「そうだね。偵察からの報告ではそうなっている。我が情報部との擦り合わせでもその様な結果が出たばかりだ」
「でも普通王都を攻めるとなれば60万は必要なんじゃないのですか?」
「フム……」
 レイムは顎に手をやり考える。
「確かに常道からは外れているね……」
 レイムもその点は不思議に思っていた。だが長年軍に属すと、命令という概念が硬直化し、考えるということを止めてしまっていることに気付かされた。
 そこで目の前にいる青年の答えを知ろうとレイムは再び問い掛ける。
「仮にだ、中尉。君がその戦力で攻めるとして勝つ秘策はどこにあるのかな」
「王都を攻め落とすということですか?」
「不敬かもしれないがそうなる。幸いこの列車には私たちと鉄道技師たちしか乗っていない。安心してくれ」
 いつしか車内の騒がしさは収まり俺たちの会話を注視していた。

 俺は考えた。
 常識は非常識だ。特に戦争ともなれば相手の裏をかき、騙す、なんてことは当たり前の話だ。それを卑怯と言うのであれば引っかかる方が間抜けなのだ。だから、常道から脱した戦力で王都を陥落させるとなれば……
「空かな……」
「何だって?」
 俺はふと優雅に飛ぶ鳥を眺めて呟いた。だがレイムはその発言に大きく狼狽する。
「空ですよ。大砲は空に向かっては撃てません。だから空から爆弾を投下させれば我らは無防備です」
 確信に変わった気がする。この世界に染まったせいか航空機という概念を忘れていた気がする。そう爆撃機だ。
「確かに空からの攻撃なら……」
 レイムも俺の言葉に真剣に考え始める。不味いこれから戦地に向かうというのに空気が……

 これ以降レイムは指揮官にのみ与えられた個室へと籠ってしまった。
「俺、拙かったかな……」
「拙かったかも知れないけど、お前の言うことに一理あると俺は思ったぞ。確かに戦力がおかしい」
 マルの感想に周囲の人間も同調した。
「もしかして帝国軍の主力は囮だったりしてな……」
「縁起でもないことを言うなよ。俺たちはその主力を叩き潰すために作戦行動中なんだぞ。ほかの部隊も同様だ」
 マルは俺を咎めるような言い草だが、現実に起こって欲しくはないという気持ちを込めていたのは丸分かりだった。
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