現世ではヒモだった男が異世界で英雄へと成り上がる

今野常春

文字の大きさ
31 / 40
第二章 国家解体

第30話 王国製帝国兵士の誕生秘話

しおりを挟む
 戦後、レイブル王国の現状は困難を極めていた。
 確かに独立は保たれたが、そこに自国の決定権は全て帝国執政官の承認が必要とされていたからだ。
 予算はあれどもすべての計画を執政官に持ち込み、承認を受けて初めて実行に移せる。
 とにかく時間が掛かった。中でも元兵士に対する補償が遅々として進まない。
 下々はその様な事を知らないため、王国政府に対し不満が高まっていた。
 国王はこの現状を憂い、執政官を玉座の間に呼び出し下問する。
「余は貴国の復興援助に大変感謝している」
「そうでしょうとも。何しろ帝国は人員と物資の多くを供出しています」
 歯に衣着せぬ物言いで、国王にまったく敬意を払っていない執政官に対し出席者は殺気を向ける。
「それで、国王陛下、本日はどの様な件でしょうか?」
「うむ。話は簡単だ。我が国で計画している復興計画の即時承認を得たい」
「それは私どもが精査をして初めて承認か否かを決めることです」
「それでは遅いのだ」
 国王も目の前の男の挑発に乗せられまいと必死に抑えて言葉を紡ぎだす。
「たとえ遅くなろうと、精査した結果良い政策に導けていることもありましょう」
「元兵士らへの仕事がないのだ。王国は備蓄を吐き出し、仕事を与えたいのだ」
 その報告は先刻承知の執政官は笑みを浮かべる。

「確か我が帝国との間にあった村々を復興させるとありましたな。加えてその村々は恒久的に予算を投じ、発展を続けさせるとも。行き着く先は帝国への反逆でしょうか?」
 計画では治安維持の名目で強固な防御陣地も盛り込むこととなっていた。素直に計画書を作成したツケである。
「我が国は負けたのだ。何を反逆などと」
「ですが、この防御陣地とは何でしょう。これでは我が帝国軍将兵が再び貴国を攻め込むという備えとも考えられる」
 実際そうなのだから仕方がない。国王は内心で思っていた。
「元兵士が多いのだ。これくらいの工事を行わなくては仕事にあぶれてしまう」
「ならば、鉄道を張り巡らせばよいではありませんか」
「鉄資源が高騰している今、厳しいと言わざるを得ない」
「そうですか。ですが、この案は保留とさせていただきます」
 その言葉に周囲は騒めく。一国の長が頼み込んだにもかかわらず、無下に扱われたからだ。

「これほど言っても認められぬか?」
「はい。ですが、私も陛下の国民を思う気持ちには賛同いたします。元兵士らが職を求めているのでしたら我が帝国が雇い入れましょう」
「何?」
 答えは簡単だった。帝国は新たなる兵士を求めている。
「だからと言って我が国の将兵が貴国に対し忠誠を誓うとは思えない」
「それはご心配なく。見事皇帝陛下の忠臣として変わらせることを誓いましょう」
 不気味な笑みを浮かべながら執政官は宣言した。
 その事に参列者は訝しむものの、これ以上の交渉は不可能と思い国王に合図を送る。
「そうか、まずは国民に日々の糧を与えることにある。貴国がそれで構わないのならそうして欲しい。ただし、なるべく早く頼む。国民はこうしている間も飢えに苦しんでいるからな」
 事実戦火によって村を追われた者、戦争で働き手を失った者の戦後は悲惨だった。
 その報告が多方面から上がっている現状を知る、王国はあの手この手で救済を行いたかった。一部では各都市の裁量として権限を行使しているが、予算の面から焼け石に水なのだ。大規模な救済が行えるのは王国政府となっていた。

 この政策は瞬く間に王国領内へと布告された。
 帝国軍兵士として戦うことの葛藤よりも、困窮と言う背に腹は代えられぬ者たちは続々と帝国軍兵士となることを望んだ。志願兵を募集してはいるが、実際は徴兵であることは一目瞭然だった。
 一部の者はこの軽率とも言える行為に非難の声を上げるが、糧を与えられるのか、の問いに口を噤んでしまった。
 結局のところ。大半の国民は王国政府の失策であるとみなし、次第に求心力が失われる事となる。

「もはやどうにもならんな……」
 国王は執政官が退出するとひどく落胆して言葉を発した。
「陛下、こればかりは仕方ありません……」
 護衛役として付き従うレアは何とか励まそうとするも国王の表情は芳しくない。
 何しろ降伏後、帝国軍が進駐してくると瞬く間に重臣を拘束し、処刑される者が相次いだ。
 今この場に居る者はその後釜として実力はあれども経験が乏しい者が就任していた。本来は経験と実績を積むべき者が現場に出ていればどうしても後手後手となる。
 だからこそ国民に対し、有効な策が打てないでいた。
 国王は基本的には重臣の政策に任せていたが、彼とて長年この地位に就いている。
 その勘が国家の崩壊を告げていた。
 その発端が元王国軍兵士の帝国兵化であった。
「願わくは我が息子たちが再びこの国を再建することを祈る……」
 降伏寸前のところで国王は彼しか知らない秘密の通路から見事家族を脱出させていた。
 行先は伝えられず、しかし、必ずや帰ってくることを望むとこの国の将来を託したのだ。





「父上も粋な事をする……」
 共も付けられず、三人の息子たちは王宮の地下深くより一両の列車に乗って移動していた。
「何故王族の者は真っ先に魔道具の扱いを学ばされたのか分かった気がしますよ、兄上」
「ですね。フェン兄上、力み過ぎです!」
「悪い!」
 カーブに差し掛かったところで減速する気配がなく、三男のアーリーが次男のフェンを指摘する。
 彼ら三人は帝国軍の飛行船が王都内に侵入した時点で出発地点に連れられてきていた。
 父マクレイからはこの地を脱出すること。向こうでの暮らしは保証されていること。おそらく家族とは会えないことなど、長々と説明されていた。長男カールは父の言葉を思い出し、無念を晴らすべく、王家の子孫としての役割を果たそうと決意を新たにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。 敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。 結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。 だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。 「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」 謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。 少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。 これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。 【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ギルドの受付嬢はうごかない ~定時に帰りたいので、一歩も動かず事件を解きます~

ぱすた屋さん
ファンタジー
ギルドの受付嬢アイラは、冒険者たちから「鉄の女」と呼ばれ、畏怖されている。 絶世の美貌を持ちながら、常に無表情。そして何より、彼女は窓口から一歩も動かない。 彼女の前世は、某大手企業のコールセンター勤務。 営業成績トップを走り抜け、最後には「地獄のクレーム処理専門部署」で数多の暴言を鎮めてきた、対話術の怪物。 「次の方、どうぞ。……ご相談ですか?(クローズド・クエスチョン)」 転生した彼女に備わったのは、声の「真偽」が色で見える地味な能力。 だが、彼女の真の武器は能力ではなく、前世で培った「声のトーン操作」と「心理誘導」だった。 ある日、窓口に現れたのは「相棒が死んだ」と弔慰金をせしめようとする嘘つきな冒険者。 周囲が同情し、ギルドマスターさえ騙されかける中、アイラは座ったまま、静かにペンを走らせる。 「……五秒だけ、沈黙を差し上げます。その間に、嘘を塗り直すおつもりですか?」 戦略的沈黙、オウム返し、そして逃げ場を塞ぐイエス・セット。 現代のコールセンター術を叩きつけられた犯人は、自らその罪を吐き散らし、崩れ落ちる。 「あー、疲れた。一五分も残業しちゃった。……マスター、残業代三倍でお願いしますね」 これは、一歩も動きたくない受付嬢が、口先だけで悪を断罪し、定時退勤を目指す物語。

処理中です...