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第二章 国家解体
第29話 交渉
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イラバニア帝国が周辺国に宣戦布告を行い、ホーマル王国とアレルン王国を降したことで各国は漸く力を合わせて対処しようという雰囲気に入った。
その第一陣として帝国よりも国力の大きいボルドル王国の特使が皇帝に面会を求め帝都を訪れていた。
「よくぞ参られた、特使殿」
普段の威厳はどこへやら。皇帝は穏やかな笑みを浮かべ特使の前に姿を現す。
特使も話に聞いていたからか、皇帝の姿を見てキツネに摘ままれた様子だった。
「皇帝陛下、この度は我が国の特使を受け入れてくださり、真に感謝いたしております」
然りとて大国の意地か、特使は努めて冷静に挨拶を交わした。
「何、貴国とは貿易を通じ友好関係にある。こうして受け入れること造作も無い」
だが、こうして来ることの意味は誰が考えても分かることだった。当たり障りのない会話ののち、皇帝はさっそく要件を促す。
「イラバニア帝国の宣戦布告により周辺国が怯えております」
「なるほど…… 貴国は我が国の政策に異を唱えると」
「そうではありません。ですが、不用意に武力行使を為されると周辺国が怯えてしまうのです」
「不用意とな…… 余は臣民の幸福を考えている。それを不用意と」
「些か行き違いがあることをお許しください。ですが、武力を行使する前に、交渉で矛を収めることはできませんか?」
「交渉か、出来なくはないが。例えばどの様な?」
特使は皇帝が喰い付いたことに内心で微笑んだ。ボルドル王国としてはイラバニア帝国から宣戦布告を受けた国々から泣きつかれ、半ば盟主の様な立ち位置に祭り上げられていた。だが、帝国とは海を挟む間柄で、此方から攻める必要はなかった。故に極力事を構えたくはない、方針として他国の為に国力を減らしたく無いと言うのが
「今回は何故武力行使に至ったのか。先ずはそこからお話を伺い交渉材料を用意いたしたいと」
皇帝はこの言葉を待っていた。
「なるほど。では話そう。余は常々優秀な臣民らの生活向上に力を入れてきた。それもあって素晴らしい商品を他国に売り込めるようになっていた。ところがだ、資源を持つ国々は値段を吊り上げ、我が国の利益は減るばかり。これでは帝国は衰退してしまう。余はそう考えた」
特使は話を聞いていて頻りに頷き皇帝に寄り添っている風を装う。互いに二癖もある者の駆け引きとなる。
「分かりました。確かにイラバニア帝国から輸出される商品には目を見張るものがあります。中でも電化製品は素晴らしい」
これは偽らざる答えだった。特使の男もイラバニア帝国産の電化製品を所持している。
「そうであろう。にも拘らず、資源の値上がりでこのまま行けば我が国は潰れてしまうのではないか、という懸念を抱いたのだ」
「そうでしたか…… 恐れながら陛下、資源の値上がりは致し方ないかと思われます」
「ほう、つまり我が国は一方的に言い値で買わされるということか?」
「いえいえ、そうではございません。我が国でも資源の値上がりで国民の生活は厳しくなってきているのです」
「だが貴国は自前資源を持っている」
ボルドル王国はいち早く航海技術を確立し未開の地を自国領にしていた。それもあって資源と言う点では豊富だった。
「そうですが、近年生産量が減っているのです……」
特使は大粒の汗を拭きながら価格上昇の理由を話し始める。
「減っているなら増産させて価格を戻せないのか?」
「現地では相当テコ入れを致していると聞いておりますが、中々軌道に乗るまでは……」
特使の言葉に皇帝は大きな溜息を吐き出した。
「余は価格さえ戻れば臣民の生活も再び安定を取り戻すと考えている。余としても他国に出血を強いるようなことはしたくない」
「恐縮でございます」
それでも何とか特使は皇帝に対し、武力行使の中止を求める。
「ではこうするのは如何でしょう。期間限定で価格を元に戻すのです」
「話にならん」
「いえいえ、その間にイラバニア帝国はさらなる新製品を開発されればよろしい、おそらく高品質な商品は世界で引く手あまた! ならば価格が高くとも買い手はいるというものです」
資源は加工されて初めて付加価値を生み出す。ボルドル王国はその付加価値を生み出す構造には至っていない。否、いたのだがイラバニア帝国によって奪われていた。
にも拘らず、王国は帝国を応援しようというのだ。
「何が目的かね?」
「はて? 何の事でしょう」
「貴国は我が国に対し資源を安く販売すると申し出た。期間限定だが、その間だけでも確かに助かると認めよう。すると貴国はその間我が国の商品と熾烈な争いになるのだぞ」
資源価格高騰で帝国製商品は値上げして輸出していた。そのニッチを王国や他国が貪っていたのが現状なのだ。
「戦争は自国領で行えば破滅的な被害をもたらします。壊された建物ならば復興させればいい。ですが人命はそうはいきません。国王陛下は仰られておりました。戦争で得られる利益ならば、平時で得られる利益を優先せよと」
特使の言葉に戦争はしたくないという思いが命一杯込められていた。皇帝はそこを見逃さない。
「それは余も同じだ。どうすることもできないから余はレイブル王国を降したのだ。これは余の帝国が繁栄するか滅びるかの二択であった」
「では……」
「貴国の提案を受け入れる。但し、期間によっては認められぬと知ってもらおう」
特使はここまでは予想の範囲内だと内心で安堵していた。
「では、一年を……」
「短い。十年だ」
「じゅ⁉ 十年ですか……」
その数字は予想外であった。さらに汗を掻く特使に皇帝は畳み掛ける。
「それと、攻め滅ぼした二か国については併呑する。宣戦布告した国家とは二国間交渉によって妥結を図る。なお、交渉がうまくいかない場合は最悪武力行使もありうると考えてもらう」
それではこちらの提案が無意味になる! 特使は内心で叫んだが国王の命令から彼は皇帝の言葉を本国に持ち帰ると言い残し、この場を去った。
「ふっ、甘いのだ…… 力こそ正義、なり……」
皇帝は一人となった一室でそう呟いた。
その第一陣として帝国よりも国力の大きいボルドル王国の特使が皇帝に面会を求め帝都を訪れていた。
「よくぞ参られた、特使殿」
普段の威厳はどこへやら。皇帝は穏やかな笑みを浮かべ特使の前に姿を現す。
特使も話に聞いていたからか、皇帝の姿を見てキツネに摘ままれた様子だった。
「皇帝陛下、この度は我が国の特使を受け入れてくださり、真に感謝いたしております」
然りとて大国の意地か、特使は努めて冷静に挨拶を交わした。
「何、貴国とは貿易を通じ友好関係にある。こうして受け入れること造作も無い」
だが、こうして来ることの意味は誰が考えても分かることだった。当たり障りのない会話ののち、皇帝はさっそく要件を促す。
「イラバニア帝国の宣戦布告により周辺国が怯えております」
「なるほど…… 貴国は我が国の政策に異を唱えると」
「そうではありません。ですが、不用意に武力行使を為されると周辺国が怯えてしまうのです」
「不用意とな…… 余は臣民の幸福を考えている。それを不用意と」
「些か行き違いがあることをお許しください。ですが、武力を行使する前に、交渉で矛を収めることはできませんか?」
「交渉か、出来なくはないが。例えばどの様な?」
特使は皇帝が喰い付いたことに内心で微笑んだ。ボルドル王国としてはイラバニア帝国から宣戦布告を受けた国々から泣きつかれ、半ば盟主の様な立ち位置に祭り上げられていた。だが、帝国とは海を挟む間柄で、此方から攻める必要はなかった。故に極力事を構えたくはない、方針として他国の為に国力を減らしたく無いと言うのが
「今回は何故武力行使に至ったのか。先ずはそこからお話を伺い交渉材料を用意いたしたいと」
皇帝はこの言葉を待っていた。
「なるほど。では話そう。余は常々優秀な臣民らの生活向上に力を入れてきた。それもあって素晴らしい商品を他国に売り込めるようになっていた。ところがだ、資源を持つ国々は値段を吊り上げ、我が国の利益は減るばかり。これでは帝国は衰退してしまう。余はそう考えた」
特使は話を聞いていて頻りに頷き皇帝に寄り添っている風を装う。互いに二癖もある者の駆け引きとなる。
「分かりました。確かにイラバニア帝国から輸出される商品には目を見張るものがあります。中でも電化製品は素晴らしい」
これは偽らざる答えだった。特使の男もイラバニア帝国産の電化製品を所持している。
「そうであろう。にも拘らず、資源の値上がりでこのまま行けば我が国は潰れてしまうのではないか、という懸念を抱いたのだ」
「そうでしたか…… 恐れながら陛下、資源の値上がりは致し方ないかと思われます」
「ほう、つまり我が国は一方的に言い値で買わされるということか?」
「いえいえ、そうではございません。我が国でも資源の値上がりで国民の生活は厳しくなってきているのです」
「だが貴国は自前資源を持っている」
ボルドル王国はいち早く航海技術を確立し未開の地を自国領にしていた。それもあって資源と言う点では豊富だった。
「そうですが、近年生産量が減っているのです……」
特使は大粒の汗を拭きながら価格上昇の理由を話し始める。
「減っているなら増産させて価格を戻せないのか?」
「現地では相当テコ入れを致していると聞いておりますが、中々軌道に乗るまでは……」
特使の言葉に皇帝は大きな溜息を吐き出した。
「余は価格さえ戻れば臣民の生活も再び安定を取り戻すと考えている。余としても他国に出血を強いるようなことはしたくない」
「恐縮でございます」
それでも何とか特使は皇帝に対し、武力行使の中止を求める。
「ではこうするのは如何でしょう。期間限定で価格を元に戻すのです」
「話にならん」
「いえいえ、その間にイラバニア帝国はさらなる新製品を開発されればよろしい、おそらく高品質な商品は世界で引く手あまた! ならば価格が高くとも買い手はいるというものです」
資源は加工されて初めて付加価値を生み出す。ボルドル王国はその付加価値を生み出す構造には至っていない。否、いたのだがイラバニア帝国によって奪われていた。
にも拘らず、王国は帝国を応援しようというのだ。
「何が目的かね?」
「はて? 何の事でしょう」
「貴国は我が国に対し資源を安く販売すると申し出た。期間限定だが、その間だけでも確かに助かると認めよう。すると貴国はその間我が国の商品と熾烈な争いになるのだぞ」
資源価格高騰で帝国製商品は値上げして輸出していた。そのニッチを王国や他国が貪っていたのが現状なのだ。
「戦争は自国領で行えば破滅的な被害をもたらします。壊された建物ならば復興させればいい。ですが人命はそうはいきません。国王陛下は仰られておりました。戦争で得られる利益ならば、平時で得られる利益を優先せよと」
特使の言葉に戦争はしたくないという思いが命一杯込められていた。皇帝はそこを見逃さない。
「それは余も同じだ。どうすることもできないから余はレイブル王国を降したのだ。これは余の帝国が繁栄するか滅びるかの二択であった」
「では……」
「貴国の提案を受け入れる。但し、期間によっては認められぬと知ってもらおう」
特使はここまでは予想の範囲内だと内心で安堵していた。
「では、一年を……」
「短い。十年だ」
「じゅ⁉ 十年ですか……」
その数字は予想外であった。さらに汗を掻く特使に皇帝は畳み掛ける。
「それと、攻め滅ぼした二か国については併呑する。宣戦布告した国家とは二国間交渉によって妥結を図る。なお、交渉がうまくいかない場合は最悪武力行使もありうると考えてもらう」
それではこちらの提案が無意味になる! 特使は内心で叫んだが国王の命令から彼は皇帝の言葉を本国に持ち帰ると言い残し、この場を去った。
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