神様、幸運なのはこんなにも素晴らしい事だったのですねぇ!

ジョウ シマムラ

文字の大きさ
160 / 572
第 八章 領主就任と町の掃除。

幕間26話 ある騎士団長の勧誘活動記。②

しおりを挟む
    ツール伯爵家の騎士団員を集めるために、闘技大会に出場した者を中心に勧誘していった。
閣下の帝国のザラ将軍との武勇伝が今冒険者や国軍の兵士の中で広まっているためか、勧誘もしやすかった事もあり、こうして一人また一人と増えていった。男は何故か全て人間種だが女性陣の方は、人族の他にエルフ族やホビット族、獣人族など多彩な種族がいる。その中の虎人族の女性のルージュの友人だという男、ライガと名乗る男が伯爵邸を訪ねてきた。 
   
    執事のカインが再び私に訪ねてきた者がいるというので会うと虎人族の立派な体格をした戦士だった。
    用件を聞くと、ルージュの知り合いだが、最近彼女がうちの騎士団に入ったと聞いて、どれだけの猛者がいるかと思ってきた。もし本当なら俺も騎士団に入れてくれと言ってきた。
    確かに強そうだ。私の感がこいつは強いぞと言っている。
そして、閣下の騎士団はまだまだ人数が少ない。腕の立つ男は欲しい人材だ。

「あんた強そうだな。あんたより強いヤツがここにはいるのかい?」

ライガが訊ねてくるので、答えた。

「ああ、お一人いる。それがなにか?」
「そいつと戦って俺に勝つようなら、騎士団に入って命令に従おう。」
「うちの閣下と戦いたいと言うのか?」
「ああ、その閣下とやらが強いというのならな。俺が負けたら、その人の剣となって従うさ。」
「・・・良いだろう。模擬試合を閣下に掛けあってやる。だがその前に私と戦って貰おう。私とて、閣下より騎士団団長を任された身。閣下の盾となり剣となるは私の務め。どうしても閣下と戦いたいならば、私に勝ってからにしろ。勿論私が勝っても、騎士団に入ってもらうが、承知か?」
「いいねぇ。あんたみたいな男は好きだぜ。」
「では、ついてこい。」


    屋敷裏にある訓練場に連れていく。何故か普段は滅多に来ない閣下が剣の型練習をしていた。
珍しい事なので、騎士団員が眺めている。

    「なあ、あそこで一人練習をしているのは誰だい?」
「どこだい?ああ珍しいな。あの方こそ、ツール伯爵のオオガミ閣下だ。」
「あの若者がルージュの言っていた人か。」
「ちなみに何てルージュはお前に何と言ったんだ?」
「あいつな、俺に向かって『世の中は広いわ。対峙して姿を一目見ただけで、あたし殺されると思って全身総毛立った』ってな。あの若いのがとてもそうだとは思えないのだがな。」
「ほう、ルージュがそんな事を言ってたか。最近閣下と訓練することで、彼女も大分強くなったようだがな。そんな事を言っていたか。」

実情を知っている身としては、彼女のいう言葉が身に染みて分かるな。

    「さて、模擬剣を使ってもらうが、獲物は何だい?」
「ああ、両手剣だがあるかい?」
「なら、こいつで良いかな?」
「おう、了解だ。」

ブンブンと二、三回振り回して感触を確かめると、納得して返事をする。
互いに向かい合い対峙するする。用意が整ったので声を掛ける。

「よし。ではいくぞ!」
「おう!」

    いきなりライガの巨体からは想像できないスピードで踏み込んで来た。以前の私なら、対処出来なかったと思う。しかし何とか盾で受け止められた。やはり、閣下に比べれば速いとはいえ、対処出来なくはない。

「良く止めたな。」
「何とかな。」
「なら、これはどうだ!」

    盾に止められた剣を、引いたかと思ったら、連続攻撃に移る。確かに速い剣捌きたが、これも何とか体がついていけている。普段もっと速いスピードの攻撃でやられているせいか、反撃の回数は少なくても防御は遅れることなく、出来ていた。これも、閣下との訓練をしていなければ、出来ないことだった。そんなやり取りを三十分近く続ける。

    ライガは一旦剣を引き、距離をとるとニヤリと笑う。

    「やるな、団長さん。俺の連続攻撃にこれだけ対処出来たやつは、今までいなかったさ。流石だな。」
「お前さんもな。閣下以外にはあの速さの攻撃をしてくる者は今までいなかったよ。その腕前、是非うちの騎士団に入って貰いたいな。」
「なら、俺を倒してみることだな。俺は俺より強い者にしか従う積りはない。」
「なら、その気にさせて見せるさ。」

    今度は、こちらから仕掛けた。接近しながら、付与魔法〈エンチャントウィンド〉を自身にかける。更にスピードが上がり、五分に戦えるようになった。出来れば、手足に着けた鉛の板を、外せれば楽に戦えるだろうが、閣下から禁止されているからな。
しかし、このライガという男、素でこの強さとは、是非とも欲しい。負けられないな。

    一時間近く戦い互いに疲労のため、大分剣速が鈍り始めた辺りで、息をつく為に、また互いに距離をとった。

「両者止め。この勝負引き分けだ。」

    誰かとその声の主を見ると閣下だった。

「それ以上は、互いに大きなケガをするから、止めておけ。」

    閣下の言葉なので従い、剣を下ろす。そしたら、ライガが吠える。

「なら少し休んでから、俺と模擬試合してくれ。ルージュがいう、あんたの強さを見せてくれ。」
「なんだ、ルージュの知り合いか?ルージュ!この男は知り合いかい?」
「はい、同じ村の出身で傭兵をしているライガという男です。」
「ほう、傭兵かい。道理で強い訳だね。うちのレナードと同じレベルで戦える者を初めて見たよ。いいよ、少し休んだら私とやろうか?」
「閣下。閣下のお手を煩わさずとも私が何とかしますから。」
「まあ、レナードが勝つと信じているよ。ただ、私も彼とやってみたくなったんだよ。(笑)」
「閣下・・・。」
「まあまあ、たまには運動しないとね。」
「・・・わかりました。この勝負お譲りします。」
「ありがとう。済まないね。まあ、彼がうちの騎士になったら、好きなだけやりあうといいさ。」
「ほう、言ってくれるじゃないか。俺をあんたの騎士にしたいなら、俺に勝ってからにして貰おうか。」

    レナードと話している間に体力がかなり回復したようで、直ぐに模擬試合に移ることになった。
    閣下はいつもの半身の構えではなく、剣を力なく下ろしたままでライガに対峙する。

    「俺を舐めているのか?」

ライガが怒っていう。 

「やれば分かるよ。」

閣下が、穏やかにかえした。

「両者、試合始め!」

私の声と共に動き出すかと思っていたら、その場が突然深い海の底にでもなった様なとてつもなく重いプレッシャーが閣下から発せられている。動けない。余りのプレッシャーに、汗が出てきた。脇にいる私でさえこれなのだから、まともに向かい合うライガはどれ程なのか。
実際、ライガも始めの声があっても、一歩も動けないでいる。

「ほう、これに耐えるかい。なら、これはどうだい?」

その言葉と共に、閣下から何か熱い熱波の様な、風が吹いたかと思うと、プレッシャーが先程の倍以上になった。膝が自然と笑い始めた。ライガも体が震え始めている。その時、閣下からライガへ殺気が一瞬走った様に感じると、ライガはいきなり気絶して倒れた。

「そ、それまで。閣下の勝ちです。」

勝ちのコールをした途端に一気にプレッシャーは消えた。私も力が抜けて思わず膝をついてしまう。

「中々強かったね彼。ここまで私に力を出させたのは、レナード以外では初めての者かな?いや、良い騎士が入ってくれたよ。後は頼むね、レナード。」

    いつもの笑顔を浮かべて屋敷に戻っていく閣下。
閣下の笑顔が今更ながらに、恐ろしく感じられた。そしてそんな方が私の主であることの誇らしさも同時に沸き上がってきた。


    気を失っていたライガが気付き、起き上がると辺りを見回した。

「俺はどうしたんだ?たしか、あの人と向き合ってたはずなんだが。」
「お前は閣下の殺気に気絶したんだよ。覚えていないのか?」
「なんか、凄く空気が重くなって一歩も体が動かなくなってその後、アイツの目が光ったかと思ったんだが、そこから記憶がなくかったのか。意識を失ったみたいで憶えていない。
    俺が一歩も動けなくなるとは。ルージュ、お前の言った言葉の意味がやっと分かったよ。確かにお前は正しかったな。完敗だ。団長、俺を騎士団に入れてくれ。あの人のいかなる命令にもしたがおう。」

こうして、後に騎士団の副長になるライガが入団した。

    その後も勧誘や自薦で来るものを試験して採用したりして、何とか十五人の者を騎士に出来た。まだ数は少ないが、この者達なら相手が五十人でも楽に勝てるだろう自信がある。

    それでも、閣下にだけは今だに勝てる気がしないのは、さすが我が主であると思うよ。今いる十五人を隊長にして、いずれは最強の三千の騎士団をつくりあげてみせます閣下!














しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON
ファンタジー
核戦争で死んだ俺は、神災級と呼ばれるチートな力を持ったまま異世界へ転生した。 目的はひとつ――行方不明になった“妹”を探すことだ。 だがそこは、大量の転生者が前世の知識と魔素を融合させた“魔素学”によって、 神・魔物・人間の均衡が崩れた危うい世界だった。 そんな中で、魔王と女神が勝手に俺の精神世界で居候し、 挙句の果てに俺は魔物たちに崇拝されるという意味不明な状況に巻き込まれていく。 そして、謎の魔獣の襲来、七つの大罪を名乗る異世界人勇者たちとの因縁、 さらには俺の前世すら巻き込む神々の陰謀まで飛び出して――。 妹を探すだけのはずが、どうやら“世界の命運”まで背負わされるらしい。 笑い、シリアス、涙、そして家族愛。 騒がしくも温かい仲間たちと紡ぐ新たな伝説が、今始まる――。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

処理中です...