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第十三章 何でも準備中が一番楽しいのさ。
幕間61話 とあるドワーフの親方の酒日記。①
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俺の名前はガンテツ。これでもちったぁ名の知られている『穴堀屋』のガンテツ様よ。
言っておくが、『穴堀屋』は "二つ名" じゃあないぜ。これでも手下のドワーフ五十人従える土建商会の会頭だ。
『穴堀屋』は俺が作った商会の名前だよ。
今日も今日とて王都での依頼の現場を一つ仕上げて、手下の皆と祝い酒に酒場に出向いている所だ。
「頭酒場の親父が何か青い顔して言ってるんですが、どうしやしょう?」
「ああ?青い顔だと、そんなのいつもの事じゃねぇか。気にするな。飲め飲め!気にする間があればその分飲め!」
「そうすっね。いつもの事でしたね。親父、エールをお代わりだ!」
顔を青くした酒場のマスターは、何とかガンテツを捕まえて頼み込む。
「ガンテツ親方、頼むよ!この勢いだと、ウチにあるエールが底をついてしまう。沢山飲んでくれるのは有り難いが、こうエールばかり飲まれちゃエールの在庫が無くなっちまうよ。
このままじゃ、仕入れの為明日は店を閉めなくちゃいけなくなる。頼むよ、そろそろ、お開きにしちゃあくれないか?」
「なにぃ?明日は閉店になるだと?そいつぁ困る。野郎共、次の店に行くぞ。」
『へぇい!』
この日、ウチの一行が翌日店を休みに追い込んだ数は三つだったそうな。
(なんだ、たった三つだけかよ。ここしばらく、王都の仕事が多かった為か酒場の方でも警戒する店が増えちまったな。こりゃ暫く地方でほとぼりを冷まさないと、飲ましてくれる所が無くなっちまいそうだな。)
そう心配し始めた時に、城から注文が商会に舞い込んだ。
依頼主は宰相様だ。依頼内容は豪勢だぜ。一万人分の兵舎と厩舎や練兵場、倉庫と駐屯所一式だ。
話を聞くと、本当の依頼主は今度ツールの領主になる伯爵だとのこと。細かい所は伯爵と相談してくれと言われる。その伯爵がどんな野郎か気にはなったが、俺達ゃ、遣り甲斐のある仕事とエールがあれば、文句は言わねぇさ。ツールのエールはどんな味かねぇ。楽しみだ。翌日にはツールへ向けて、手下達を馬車に乗せて出発したよ。
途中、一回バカな盗賊が馬車を襲ってきたが、フルボッコにして、近くの街の衛兵に渡してやったぜ。何やら懸賞金がかかっていたヤツがいたらしくて、結構な酒代を貰ったよ。ありがてぇこった。その日の酒は旨かったぜ。なんせ店のエールを飲み尽くしてやったからな。
店を出るとき、マスターの野郎、泣きながら『有り難うございました』とか言っていたぜ。泣くほど喜んでくれるとは、こちらとしても、飲んだ甲斐があったってもんだぜ。
ツールに向かう道中、最後に立ち寄る街のリヒトを出発して、東にさらに向かう。
リヒトで買ったエールの樽があるお陰で、長い道中でも手下達は、文句も言わずに馬車に揺られている。毎晩エールの入った大きな樽からエールを汲み出して、飲んでいる。お陰でリヒトで買ったエールの大きな樽も残りあと僅かとなった日の朝。
山を乗り越えて下りた途端に、やたらと平らで真っ直ぐな道になった。王都の町中の石畳よりも平らで、石の無い道が真っ直ぐ東に向かって延びている。
王国中いろんな場所で仕事をしてきたが、こんなに綺麗で平らな真っ直ぐな道を見た事は無かった。人の力ではこうはいかない。魔法によって作られた道だと俺にはすぐ分かったね。
その道に驚きながら、さらにツールに向かうと、前方からとてつもない巨大な精霊魔法の力を感じる。何事かと思いつつも、そのまま馬車を走らせると、王都に引けを取らない巨大な城壁が南北に延びていて、その城門に当たる場所に、ポツンと黒い格好の冒険者らしき人影が見えた。不思議なことに、その人影の周りには、低級中級の精霊が沢山集まっているのだ。それを遠目に見てエルフの野郎かと一瞬思ったが、仕方ないので馬車をそのまま進めた。
近寄ると、その男はよっぽどに精霊に好かれているのか、俺達が近寄っても、精霊が逃げていくことはなかった。
「おー!なんだこりゃあ。」
近くで見て思わず王都の城壁にも劣らない立派な壁が南北に延びている事に驚いて、思わず叫んでしまったぜ。
俺の声に反応して、その冒険者が振り返った。
体調が悪いのか、少し白い顔色をした、かなり若い人間種の男の冒険者だった。ドワーフを見るのは初めてらしく、俺の姿を見て目を見張っている。俺がまず用件を切り出す。
「なあ、坊主。これやったの坊主かい?」
「これというのが、地ならしの事ならそうだけど。」
「坊主は人間か?土の精霊の力を感じる。坊主、お前ぇ精霊魔法を使ったな?」
「ええ、使いましたけど、それが何か?」
「人間種は精霊魔法は使えないはずなんだが?」
「世界は広いですよ。使える人間がいたって可笑しくないでしょう?」
「まあ、そう言われるとそうなんだがな。で坊主。ついでに聞くがこの道を行けばツールで合ってるか?」
「ええ、道なりに真っ直ぐ行って下さい。」
「おう、ありがとよ坊主。おい、あと少しだそうだ。野郎共、出発するぞ。」
『ウース!』
後ろに連なる馬車から同じく野太い声が帰って来た。
城門を通り過ぎても、道は相変わらず平らで真っ直ぐだ。これなら、予定よりも早く辿り着きそうだ。
街についたら、例の伯爵様に挨拶しないといけないな。正直人間の貴族は対応が面倒くさいが、これも商売のため。旨いエールを手下に飲ませる為だ。我慢しないとな。
お、町並みが見えてきたな。そろそろこの辺で、夜営の用意をさせるか。
古い城壁の跡の外側に馬車を止める。
御者席から下りて、手下に指示を出す。
「野郎共、夜営の準備をしろ。俺は、これからここの伯爵様に到着した挨拶と工事についての相談に行ってくる。俺が戻るまでに、まだ準備が出来てない班は、今晩のエールは抜きだ。代わりにスクワット千回の罰だ。気合い入れていけよ!」
『ウース!』
野太い返事が返って来た途端に、ドワーフ達はキビキビと動き出した。
それを見て確認してから、契約書等の書類や筆記用具の入った、マジックバックを持って町の中に向かっていく。この後、俺にとって忘れることが出来ない出会いが有るとも知らずに。
言っておくが、『穴堀屋』は "二つ名" じゃあないぜ。これでも手下のドワーフ五十人従える土建商会の会頭だ。
『穴堀屋』は俺が作った商会の名前だよ。
今日も今日とて王都での依頼の現場を一つ仕上げて、手下の皆と祝い酒に酒場に出向いている所だ。
「頭酒場の親父が何か青い顔して言ってるんですが、どうしやしょう?」
「ああ?青い顔だと、そんなのいつもの事じゃねぇか。気にするな。飲め飲め!気にする間があればその分飲め!」
「そうすっね。いつもの事でしたね。親父、エールをお代わりだ!」
顔を青くした酒場のマスターは、何とかガンテツを捕まえて頼み込む。
「ガンテツ親方、頼むよ!この勢いだと、ウチにあるエールが底をついてしまう。沢山飲んでくれるのは有り難いが、こうエールばかり飲まれちゃエールの在庫が無くなっちまうよ。
このままじゃ、仕入れの為明日は店を閉めなくちゃいけなくなる。頼むよ、そろそろ、お開きにしちゃあくれないか?」
「なにぃ?明日は閉店になるだと?そいつぁ困る。野郎共、次の店に行くぞ。」
『へぇい!』
この日、ウチの一行が翌日店を休みに追い込んだ数は三つだったそうな。
(なんだ、たった三つだけかよ。ここしばらく、王都の仕事が多かった為か酒場の方でも警戒する店が増えちまったな。こりゃ暫く地方でほとぼりを冷まさないと、飲ましてくれる所が無くなっちまいそうだな。)
そう心配し始めた時に、城から注文が商会に舞い込んだ。
依頼主は宰相様だ。依頼内容は豪勢だぜ。一万人分の兵舎と厩舎や練兵場、倉庫と駐屯所一式だ。
話を聞くと、本当の依頼主は今度ツールの領主になる伯爵だとのこと。細かい所は伯爵と相談してくれと言われる。その伯爵がどんな野郎か気にはなったが、俺達ゃ、遣り甲斐のある仕事とエールがあれば、文句は言わねぇさ。ツールのエールはどんな味かねぇ。楽しみだ。翌日にはツールへ向けて、手下達を馬車に乗せて出発したよ。
途中、一回バカな盗賊が馬車を襲ってきたが、フルボッコにして、近くの街の衛兵に渡してやったぜ。何やら懸賞金がかかっていたヤツがいたらしくて、結構な酒代を貰ったよ。ありがてぇこった。その日の酒は旨かったぜ。なんせ店のエールを飲み尽くしてやったからな。
店を出るとき、マスターの野郎、泣きながら『有り難うございました』とか言っていたぜ。泣くほど喜んでくれるとは、こちらとしても、飲んだ甲斐があったってもんだぜ。
ツールに向かう道中、最後に立ち寄る街のリヒトを出発して、東にさらに向かう。
リヒトで買ったエールの樽があるお陰で、長い道中でも手下達は、文句も言わずに馬車に揺られている。毎晩エールの入った大きな樽からエールを汲み出して、飲んでいる。お陰でリヒトで買ったエールの大きな樽も残りあと僅かとなった日の朝。
山を乗り越えて下りた途端に、やたらと平らで真っ直ぐな道になった。王都の町中の石畳よりも平らで、石の無い道が真っ直ぐ東に向かって延びている。
王国中いろんな場所で仕事をしてきたが、こんなに綺麗で平らな真っ直ぐな道を見た事は無かった。人の力ではこうはいかない。魔法によって作られた道だと俺にはすぐ分かったね。
その道に驚きながら、さらにツールに向かうと、前方からとてつもない巨大な精霊魔法の力を感じる。何事かと思いつつも、そのまま馬車を走らせると、王都に引けを取らない巨大な城壁が南北に延びていて、その城門に当たる場所に、ポツンと黒い格好の冒険者らしき人影が見えた。不思議なことに、その人影の周りには、低級中級の精霊が沢山集まっているのだ。それを遠目に見てエルフの野郎かと一瞬思ったが、仕方ないので馬車をそのまま進めた。
近寄ると、その男はよっぽどに精霊に好かれているのか、俺達が近寄っても、精霊が逃げていくことはなかった。
「おー!なんだこりゃあ。」
近くで見て思わず王都の城壁にも劣らない立派な壁が南北に延びている事に驚いて、思わず叫んでしまったぜ。
俺の声に反応して、その冒険者が振り返った。
体調が悪いのか、少し白い顔色をした、かなり若い人間種の男の冒険者だった。ドワーフを見るのは初めてらしく、俺の姿を見て目を見張っている。俺がまず用件を切り出す。
「なあ、坊主。これやったの坊主かい?」
「これというのが、地ならしの事ならそうだけど。」
「坊主は人間か?土の精霊の力を感じる。坊主、お前ぇ精霊魔法を使ったな?」
「ええ、使いましたけど、それが何か?」
「人間種は精霊魔法は使えないはずなんだが?」
「世界は広いですよ。使える人間がいたって可笑しくないでしょう?」
「まあ、そう言われるとそうなんだがな。で坊主。ついでに聞くがこの道を行けばツールで合ってるか?」
「ええ、道なりに真っ直ぐ行って下さい。」
「おう、ありがとよ坊主。おい、あと少しだそうだ。野郎共、出発するぞ。」
『ウース!』
後ろに連なる馬車から同じく野太い声が帰って来た。
城門を通り過ぎても、道は相変わらず平らで真っ直ぐだ。これなら、予定よりも早く辿り着きそうだ。
街についたら、例の伯爵様に挨拶しないといけないな。正直人間の貴族は対応が面倒くさいが、これも商売のため。旨いエールを手下に飲ませる為だ。我慢しないとな。
お、町並みが見えてきたな。そろそろこの辺で、夜営の用意をさせるか。
古い城壁の跡の外側に馬車を止める。
御者席から下りて、手下に指示を出す。
「野郎共、夜営の準備をしろ。俺は、これからここの伯爵様に到着した挨拶と工事についての相談に行ってくる。俺が戻るまでに、まだ準備が出来てない班は、今晩のエールは抜きだ。代わりにスクワット千回の罰だ。気合い入れていけよ!」
『ウース!』
野太い返事が返って来た途端に、ドワーフ達はキビキビと動き出した。
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