世界を、倍の広さにするために~男装令嬢の結婚までのものがたり

西瓜すいか

文字の大きさ
16 / 48

16 ガラのことが好きなんだ

しおりを挟む
 デビュタント・ボールも近づいてきたある日。アルジャーノンの周囲からは、デビュタント・ボールの招待状を手に入れたという話が聞こえてくる。アルジャーノンはもちろん入手していて、ダニエルにも折々にガラティーンとのダンスをねだっている。そういう根回しはできるのにどうして自分はガラティーンに会いに行けないのかと一人で悩み続けていた。
 また、周囲からの声で小さくため息をつくアルジャーノンを見かねて、ハリーはとうとう声をかけてしまう。デビュタント・ボールやガラティーンの話が聞こえてくるたびにアルの様子が明確におかしくなるので、まあ何かあったのだろうかという好奇心と、多少の心配とで声をかけざるを得なくなってしまったのだ。
「アル」
「なんだ?」
 アルジャーノンはまだどことなく物憂げに答える。
「お前、その…ガラのこと、そんなに好きなのか?」
 その言葉にアルジャーノンの表情が固まったのを、ハリーは見逃さずに話を続ける。
「クーパー隊長から、ガラがデビューするっていうときに一緒に踊らせろって最初に言ってきたのはお前だって聞いたぞ」
「…ああ」
 ハリーの目を見ずにアルは返事をする。
「ガラに、会いに行った方がいいんじゃないのか?」
「あ、ああ…」
 アルジャーノンは歯切れの悪い返事しかできない。ハリーは、こいつはこんなに奥手な奴だったか?と首をかしげながら話を続ける。
「前に、来いって言ったのにアルだけ来てくれないって気にしてた」
「…ああ」
 アルジャーノンは、ガラが自分のことを少しでも気にしていてくれたということが嬉しいのとそれを表に出すには気恥ずかしいのとで、まともな返事もできずにハリーの話を流す。
「俺はともかく、トミーとジョニーとバーティは本当に狙いに行ってるからな」
「…お前は?」
 恋敵は少ない方が良いとも思うが、ガラティーンが魅力的でないと思う男はそれはそれで気に入らない。アルジャーノンはハリーに問いかけた。
「俺は、話がまとまりそうな子がいるからさ」
「そうだったのか」
 ハリーからの情報をアルはかみしめ、トミーとジョニーとバーティは明確にライバルだということを頭に刻み付ける。
「でも、俺でもちょっと考えちゃうからな。ガラと結婚したら、あのガラが家で待っていてくれるっていうことだから」
 アルジャーノンは初めて、妻としてガラが家にいて、自分を待っていてくれるという状況を想像した。彼が今まで想像していたのはガラティーンがシャツとトラウザーズ姿で普通に暮らしているところ、そしてベッドの上でのあれこれということだけだったのだ。想像力が足りていない。そして、思春期の少年と何も変わらない思考をしていたことを反省した。そうだ。ガラを手に入れたら一緒に家庭をつくって、未来を共に歩んでいくのだ。
「ああ…」
「大丈夫か、お前」
 ぼんやりしているアルジャーノンの肩をハリーは叩く。
「あんまり大丈夫じゃない。けど大丈夫だよ。悪いな」
「全然大丈夫じゃないように見えるけどなあ」
 アルジャーノンは今まで一人でやってきた家庭のことにガラが一緒にいることを想像していた。
「俺、ガラのことが好きなんだ」
 アルジャーノンは、初めてそのことを口に出した。そしてその瞬間に、かならず手に入れなければならないという決意が沸き上がってきた。
「みんなより出足は遅いかもしれないけど、それでも」
「…おう、頑張れよ」
 なぜかいきなりアルジャーノンがやる気になったのを見てハリーは「これで良かったのか悪かったのか」と考える。ハリーからすればアルジャーノンよりもトミーやジョニー、バーティの方が距離が近い同僚だ。しかしハリーの目から見ると、トミー達は浮かれて、仲間内で誰がガラを手に入れるかというようなゲームでもしているようで、なんとなくそれが気に入らなかった。それよりもガラのことを好きと言い――しかし一人で思い詰めている――アルジャーノンの方を応援したくなってしまったのだ。
「ありがとう」
 アルジャーノンは真面目な顔でうなずく。いかにも「頑張る」という顔をしているのでハリーは大笑いする。
「お前、部隊に入りたての頃みたいな顔してるよ」
「…そうか !?」
「頑張れよ」
「うん、頑張る」
 アルジャーノンはなぜハリーがそんなに自分の恋を応援してくれるのかもわかっていなかったが、頑張れと言われたら頑張らないわけにもいかない。
 頑張ると言ってももう、今からできることはと考えると、当日まで自分が死なないこと、ダンスの際には何か気の利いたことでも言うか、素直にガラティーンに愛の告白をすることしかないのだ。
 アルジャーノンは脳内で当日に向けてひたすら予行演習をするしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...