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48 あなたが一番 ☆

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ほんの少しだけアナル要素があります。嫌な方はごめんなさい。
あと主人公がクズです。さっきの話できれいに?終わっているので、ここは読まなくてもいいかも…。
41の伏線回収です。


***



 ドーヴァーのホテルで湯を使った後のガラティーンは、列車内でのアルジャーノンと初めて「つながった」時のことを思い出して、ふう、と熱いため息をつきながら、その後に下着に挟んでいたために汚れてしまったハンカチを洗っている。
 そのハンカチには精液やなにやらと一緒に血液も付いていた。処女を失うと出血するという話があったが、あれは本当なのだかどうなのか、とガラティーンは考えながらハンカチを洗っていた。
 そもそも彼女は列車の中でアルジャーノンの物を挿入する前にアルジャーノンの指やら何やらで慣らされていた。乗馬もしているし、膜が一枚や二枚あっても、そんなものはもうとうの昔に破れているのではないかと考えていた。
 そして、湯を流しながらガラティーンはある男のことをふと思い出した。
 それは、夜会で一度ちょっかいをかけてきたヘンリー・ストーナーのことだった。

 ガラティーンがアルジャーノンとベッドを共にするよう――とは言えまだお互いの体の愛撫のみで終わらせていた頃。アルジャーノンは紳士らしく、二人が結婚するまではとガラティーンの純潔を保つように気を配っていた。しかし、ガラティーンはそれではだんだん物足りなくなってきており、なんとなく自分で自分を慰めることを覚えていた。自分の指を蜜口に入れることもしてはみたが、自分で入れるのはどことなく恐ろしい。しかし、あてがってみたアルジャーノンのものをすぐ入れられるかというと、ここのところは何回ねだってみても鋼の自制心で我慢をしてしまうアルジャーノンのおかげで、本当に結婚をするまでは挿入はなしということになりそうだった。しかしガラティーンの、性的なものごとへの興味は増して、マダム・ヴァレリーにもう一度「相談」をしてみるかということまで考えていた。

 ある日気晴らしにと男性の服装をして、あるパブのサルーン・バーに入ったガラティーンは、どこかで見たことがある男性に目が行った。
 最初は誰だかわからなかったが、しばらく考えていたらようやく彼のことをヘンリー・ストーナーだと思いだした。
 彼もこの店に来るのだなと考えながらもぼんやりとラム酒入りのフィアカーを飲んでいたガラティーンは、ストーナーが自分に近づいてくるのに気が付いた。
「こんにちは。……どこかでお会いしたことはありませんでしたか」
「……あったかもしれませんね」
 陳腐な声かけをしてくるストーナーに、ガラティーンは愛想笑いを浮かべる。そしてまた一口フィアカーを口に運ぶが、ストーナーはそこからなぜか離れない。
「何を飲んでいらっしゃるんですか?」
「いえ、ラム入りの、フィアカーです」
「……私もそれを飲んでみようかな」
 ドリンクを頼んでちゃっかり戻ってきたストーナーとその後、ガラティーンは案外気さくに話ができる相手だということで、ふと思いついてしまったことがある。
 ストーナーを相手にして、自分の欲望を発散させようということだ。
 なぜならストーナーのものは、アルジャーノンの指よりもこころもち太いが、指二本にも満たない程度だった。「どうせ結婚したらアルジャーノンとしか寝ないのだから、一度くらい他の人間のものを入れるだけ入れてみたい」と思いついてしまったのだ。そんな相手にはストーナーはちょうど良さそうに良さそうな相手に思えたのだ。アルジャーノンの物ほど太くも大きくもなくて、挿入の際に痛みも少なそうだ。
 自分から名乗ってきたストーナーに名前を聞かれたが、ぱっと出てきたのが父の名前、アンソニーだった。ガラティーンは、亡き父には申し訳ないと思いつつもその名前でこの場を通すことにする。
 さてこれからどうやってそういう方向に持っていこう。そう考えたガラティーンだったが、逆に向こうから誘われる。これは都合がいい、とパブの上階へ上がる。ストーナーは男女ともに私のようななりの人間なら構わないんだな、と少し安心をする。金髪が好きという噂は本当だったのかもしれない。これならうまく行きそうだ。
 彼はこの日も、いつぞやの夜会と同じようにきつい合成香水をつけているが、この際文句は言わない。

 客室内に入り、服を脱ぎ始めたストーナーに背中を向けてガラティーンも上着を脱いだ。上半身だけ裸になって、胸を晒した姿で一度ストーナーに向き直る。
「こう言う人間だけど、構わないかな?」
「素晴らしいね。倒錯的だ……」
 ストーナーはうっとりとした目つきで、真っ先にガラティーンの乳房に吸い付いて行く。
 ストーナーがこれで自分のことに気付くかと思ったら、彼はガラティーンのことを思い出しもしなかった。ガラティーンとしてはその方が気が楽ではあったが、少し鼻白む。
 しかしそんなストーナーの愛撫でも、ガラティーンの体に少しずつ火をつけていく。アルジャーノンと同じ場所を吸われても違う強さだったり、やはり癖が違うのだ。身体の形が違うだけではなく、そういうところもやはり人それぞれなのだとガラティーンは身をもって感じている。
 そしてストーナーはアルジャーノンが普段触ってこないようなところにも彼は指を伸ばしていく。
「そこ、は、だめ……!」
 ガラティーンは、アルジャーノンがいつも指を入れてくる蜜孔の後ろをつついてくるストーナーを止める。
「私はこっちが好きなんだけど……」
「私は好きじゃない!」
 そうか、とストーナーは残念そうに言った後に、乱暴にガラティーンの蜜孔に指を入れる。
「んんん!」
 いつもなら優しく、ガラティーンの快楽を引き出すような動きをしてくるアルジャーノンの指とは違う動きに、ガラティーンは反射的に大きな声を出す。
「そんなに良かった?」
 そんなガラティーンを見ながら、ストーナーはガラティーンの淫芽に舌を伸ばす。この男は舐めるのが好きなんだなと思った次の瞬間には、激しい刺激が脳まで走る。
「ひい!」
 身体がけいれんを起こしたように跳ねるが、それをストーナーに抑えられながら舐めしゃぶられ、指でかき回され続ける。
「だめ、だめ!怖い!」
 反射的に「怖い」とガラティーンは叫ぶ。日常生活を送っていると感じられない感覚が波のように襲ってくることも怖いが、自分がこの快感に流されていくことが怖いのだ。
 この事態を招いたのは、期待していたのは自分だった。しかし、相手のストーナーにではなく、流されていく自分に恐怖感が沸いていた。自分では冷静なつもりだったけれど、最後まで冷静でいられるかという自信がなくなっていく。
 そして快楽の極みに達して、ベッドにだらりと横たわっていたガラティーンの蜜口にストーナーは自分のものをあてがう。
「あ、待って。入れるのかな…?」
「そりゃあ入れるとも」
 ガラティーンは、中に射精されて子供ができては困る、ということだけは恐れていた。ここまで来て何を言うかとも自分でもどうかしていると思ってはいるが、最悪の事態の可能性は少しでも低くしたい。
「入れてもいいんだけど、最後は私の口に出して」
「君ねえ……」
 呆れた口調を作りながらも、その申し出はストーナーには魅力的だったらしい。
「いい女だなあ」
 にやりと笑ったストーナーは、ぐっとガラティーンの中に自らを押し込む。指とほぼ変わらないようなものがまた入ってくる。案外すんなり入ったな、とガラティーンは考える。やはりアルジャーノンのものは規格外なんだろう。
 そうしている間に彼の腰がガラティーンの秘所に何度も叩きつけられてくるので、「ああ挿入されたんだな」とガラティーンは気づいた程度の太さだった。アルジャーノンのものもこのくらいなら楽なのに、と思いながら、自分のぬるぬるとした粘膜をこすり上げるストーナーのものを感じ取る。ガラティーンは打ち付けられる腰に息を切らせながらいろいろ考えていた時に、ようやく擦られていて違和感しかなかった内側でも、入り口付近が気持ちがいいような気がしてきた。
「中も、いいよ、アンソニー」
 そううっとりと囁いてくるストーナーにガラティーンは返事をしない。ただ可愛らしい声を作って、中には出さないでと繰り返す。先ほどのように、熱を持ってしこっている淫芽をこすられたりでもしないかぎり、案外余裕があるなとガラティーンは頭の隅で考えていた。ストーナーとの行為には没頭ができない。ただ彼女は、このまま気持ち良くなって行ったら、そんなことまでどうでも良くなってしまいそうだとは思っていたので没頭できないならそれはそれでいいか、と考えていた。
「中に出されると困るの。どこのお嬢様なんだ、君」
 それにもガラティーンは答えないでそっぽを向く、ただ、押し付けられるストーナーの鼠径部が彼女の淫芽を刺激した時にだけは、ガラティーンは泣きそうになってくる。
「お願い、もう、もう抜いて」
「しょうがないな」
 その後ストーナーは数回強く出し入れをした後に、ガラティーンの口の中に自分のものを押し込む。ガラティーンも黙って彼のものを口で受け入れる。
「私の精液、全部飲んでくれよ……」
 ストーナーはそう言いながらガラティーンの頭を逃がさないように抑え、ガラティーンの口に向かって腰を振り続ける。ガラティーンは、アルジャーノンとの時のことを考えながら口の中のアルジャーノンの物に舌をからめる。自分の蜜の味も、ストーナーの先走りの液の味もする。初めて会った女のここを舐めるなんてストーナーは大したものだ、と考えていたが、自分もさして変わらないことに気がつき、自嘲する。
 そしてガラティーンは自分の口の中でストーナーのものがいっそう硬くなった、と思った数秒後には、口の中に苦い液体を放出される。
「う……」
 先に精液を飲みこめ、と言われていたのでガラティーンは素直に飲み込む。下手に出すよりはまだ飲み込んだ方が味がしないかもと考えたが、やはり口の中にねばついた液体が残っているのが気持ち悪い。
「……ほら」
 水差しからコップに水を継ぎ、ガラティーンに渡してくるストーナーから素直にコップを受け取る。
「本当に飲むとは思わなかったな」
「……飲めって言ったから」
 ガラティーンは、水を飲んだ後もまだどことなく嫌な感じがしたので、脱いだ服からハンカチを出して、舌をぬぐう。
「中に出さないっていう約束を守ってくれたお礼ですよ」
「いや、君がいい女だったから、次があるかもしれないと考えると、約束の一つくらいはきちんと守るよ」
「……次ねえ」
 ガラティーンは、事を終えてスッキリとした頭で考える。
「いや、これっきりで」
 ストーナーとの情交は、気持ちよいということで言えば、気持ちがよかったのだ。アルジャーノンとはまた違った激しさで、違う相手と行うのも悪くないと思っていた。しかしそれに流されてはいけない。そしてなにより、アルジャーノンと「途中まで」している時ほども心が満足しないということに彼女は気が付いたのだ。
「もう会いませんよ。気持ちよかったですけどね」
 すっきりした顔で満足げに笑うガラティーンを見て、ストーナーは残念そうに苦笑する。
「そうか、じゃあ……また会ったら声をかけるよ」
「いや、知らないふりをしていただきたいですね」
「そうかい?」
「ああ。それが一番です」
 そう言いながらガラティーンはさっさと体を清め、余韻も何もなしにまた男の衣類を身に着ける。内腿が張っているような気がしたので、そうだ、思ってたいたよりも足を広げたからだと気が付く。そしてその時には「処女は流血をする」と言われていたけれどもそんなことはなかったことを確認し、軽く微笑む。アルジャーノンの指でさんざんいじられていた――そこまで激しくはなかったけれど――おかげで、ストーナーのものを受け入れるくらいならもうなんてこともなくなっていたのだ。
「もったいないなあ、そんないい身体なのに」
「何がもったいないんですか」
 後ろに一本で結んでいた髪を直すだけはガラティーンはストーナーに背を向けた。髪を下ろしたところで、今まで気づかれていなかった自分の正体に思いつかれたらたまらないと考えていたのだ。
「……娼婦ではないんだよね?」
 ストーナーはガラティーンに、彼にとってはある意味一番重要な質問を投げかける。
 ガラティーンは、そうだと言っていくらかでも金を受け取った方がよいのだろうかと考えたが、相場もわからないことだしと首を振る。
 その後も彼女の身元を探ろうといろいろ質問をしてくるストーナーをかわし続け、ガラティーンはわざと遠回りをしてから夜、暗くなってから屋敷に戻った。
 その日はリンダや家令たちから「帰りが遅い」と軽くたしなめられたなあーーと、ガラティーンはふと思い出していた。

 しかしやっぱりアルジャーノンとの交接は、あんなのよりも全然良かった。アルジャーノンのペニスの方が大きいというのもあるけれど、自分のことを愛してくれているというのが伝わってくるキス。指先。囁き声。
 ストーナーとのことは、あの後の月経まではさすがに覚えていたが、その後は今の今に至るまで全く思い出さなかった。本当の処女というのはストーナーが持っていったのかもしれないが、本当に奥の奥まで突かれて、擦られて、痛みがあるわけではないけれども粘膜を傷つけたほど激しく愛を交わした、数時間前のアルジャーノンとの「初めて」が、やはり自分の「初めて」だと、ハンカチを洗いながら頬を染める。

 ――そういえば「あの事」があったあとに、アルジャーノンが男装している自分とサヴォイにいるのをヘンリー・ストーナーが見ていたと言っていた時には少し驚いたな、とガラティーンは思い出す。
 アルジャーノンから話が出てついうっかり、少しだけ驚いてしまった。そういえばそんな男もいたな、とさすがにその時だけはまたストーナーのことも思い出した。しかしまた今の今まで思い出さなかったのだ。

 自分は、アルジャーノンがいなかったらどんな人生を歩むことになっていたことやら、とガラティーンはため息をつく。
 自分のことを理解してくれる、素敵な旦那様を見つけることができて本当に私は幸せものだと、ガラティーンはアルジャーノンとの「ホテルでの初夜」をうっとりと想像する。
 口に出して言われると恥ずかしいけれど、頭の中ではいろいろ妄想してしまうなあ、などとも考えながら、ガラティーンはハンカチを絞る。少し血の跡が残っているくらいの方がアルジャーノンは嬉しいのかなと、首をかしげながらハンカチを広げて眺める。
「奥様」
 洗面所の外からリンダが声をかけてくる。奥様?と思ったが、そうだ、今はもうアルジャーノンの妻なのだと、ガラティーンはその喜びを再度かみしめる。
「今行くよ」
 ドアを開けて、これを干しておいてねとリンダに頼む。リンダはそのハンカチを見て、小首をかしげる。
「何か汚してしまったんですか」
「ああ、うん。列車の中でね」
「……奥様」
 ひょっとしてあの中で最後までしてしまっていたのか、とリンダは顔をこわばらせる。その顔を見てガラティーンは大きく口を開けて笑う。
 我慢をしないなんて旦那様も旦那様だ、とぷりぷりしながらもリンダはガラティーンに娘らしい夜着を着せる。
「せっかくこんなものまで用意したのにねえ」
 ガラティーンはまだ笑いながらそれを身に着け、じゃあまた明日、とリンダに言伝る。
「明日は船に乗る前にはホワイトクリフを観に行くんだっけ。一応起こしてくれよ」
「ええ、そうさせていただきます」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさいませ」
 そう言ったリンダが「この挨拶でいいのかしら」と首を傾げたところで、またガラティーンの笑いが爆発する。
「……ガラ」
 寝室の方からアルジャーノンが苦笑しながら出てくる。
「ああ、お待たせしました」
 まだくすくす笑っているガラティーンを見ながら、リンダは今度こそ部屋から下がる。
 自分たちの、変わり者だけれど大切なお嬢様が、立派な旦那様をお迎えできたということでリンダは満足していた。
 花を渡り歩く蝶のように、思ったように飛びまわることしかしないガラティーンは、結婚したからと言って一朝一夕では変わるまい。しかし穏やかな旦那様とうまくやって行ってくれそうだ――さて荷物を片づけたら自分も寝よう。明日も早い。
 リンダは誰にも見られていないことを確認してから、大きく一つ伸びをした。


***

これで終わりです。お付き合いいただきありがとうございました。
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