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4 体の距離は心の距離 ☆

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 塔の上にいたはずなのに、目の前には本棚が並んでいます。あと、ジャーヴィス様がいらっしゃいます。悲壮感にあふれた顔です。ジャーヴィス様でもこんな顔をするんだな、と思ってしまいました。足元が少しふらついた気がしましたが、それはどうもジャーヴィス様がくずおれたからのような気もします。
「……ジャーヴィス様?」
「君は、僕との結婚がそれほど嫌だったのか」
「……はい?」
「それならそうと言ってくれ。僕が死ぬから。君には笑っていて欲しいんだ。僕と一緒に笑っていて欲しいんだ。それができないなら僕が死ぬ。でも僕が魔力を送れなくなると君の生活の質が下がってしまうから、魔力供給装置を改善するまでもう少し待ってくれ」
「何をおっしゃっているんですか?」
 彼は私の前に膝をつき頭をがっくりと垂れたまま、ものすごい勢いで話し始めたので私の方が焦ってしまいます。
「あの、あのですね。空が飛べるかと思ってしまったんです。それだけです。死のうとはさすがに思っておりません」
「さすがに!?」
「……それは……」
「何か悩みでもあるのか。やはり僕との結婚のことじゃないのか」
 確かに今の私の悩みは、ジャーヴィス様との結婚の事にはつながることです。一瞬言葉に詰まってしまったら、またジャーヴィス様に畳みかけられてきます。
「誰か好きな男でもいるのか。それとも僕のことが嫌すぎるだけなのか。僕のことが嫌いでなかったらお願いだから」
「嫌いじゃありません!」
「本当に?」
「本当です!」
 面倒だとは思っておりますが、さすがに嫌いではありません。心の中で「面倒な人だなあ」という思いはまた大きくはなりましたが、それも私への愛ゆえのことと思えばまあ、ある程度は。
この3年の間に不思議なこともいろいろありましたが、ジャーヴィス様はなんだかんだ言っても私の言葉をきちんと聞いてくださいました。この人となら楽しい家庭を築くことができると思ったのです。
「じゃあ僕のことが好き?」
 好きだと素直に口に出すのを思わずためらってしまったら、またジャーヴィス様がおかしくなってしまいました。
「やっぱり僕の事が嫌いなんでしょ。じゃあ僕が死ぬしかないじゃないか。でもちょっと待ってね、今後の君の生活のことがあるから」
「どうしてそう極端な考えになるんですか!」
 自分でも溢れそうになる涙をこらえるのが大変です。私も膝を折り、ジャーヴィス様と視線を合わせます。
「嫌いな人と結婚するなんて言いません!好きって言うのがまだ恥ずかしかっただけです!」
「……好き?」
 結局、好きと言ってしまいました。そして、ジャーヴィス様は恋する乙女もかくや、という表情で頬を染めていらっしゃいます。ああ本当に、この方のこういうところはとても可愛らしいのです。
「……はい」
 私はまだ「好き」というのは恥ずかしいので——先ほど言ってはおりますが――ジャーヴィス様の言葉にうなずきました。ジャーヴィス様は嬉しそうに、私の額にくちづけを落としてくださいました。
「じゃあ、どうしてあんなことをしようとしていたの」
 そうだ、この流れなら言えるかもしれません。私は勇気を振り絞ります。
「あの、あのですね、ジャーヴィス様」
「なあに?」
 とろけるような微笑みのジャーヴィス様を眼前で見たら、心がくじけそうになってしまいます。でも、機嫌が良くなっていらっしゃる今なら、いえ、今しかないように思われるのです。
「わ、わたしのからだ、おかしくなってしまったのです」
「……どうおかしくなっちゃったの?」
 ジャーヴィス様は私を床から立たせて抱き寄せ、耳もとで囁きます。ああ、ジャーヴィス様は声もよろしくていらっしゃる。
「あの、それは」
 どう説明しましょうか。私が言葉に詰まっているうちに、ジャーヴィス様は私の耳にいたずらをしてきます。今までこんなことをさせたことはありませんでした。既婚だったり、婚約者がいる友人から聞いていたことを実際にされる日が来るとは思いませんでした。いえ、来るとは思ってはいましたが、まさか結婚前に来ると思っていなかった、というのが正しいでしょう。
 そうこうしていたら、なんとなくその——男性のものが生えてしまっている部分に、何か違和感を感じてきました。
「あの、あのですね」
「ん?」
 ジャーヴィス様は私の瞼にキスをして、私の腰をぐっと彼の側に引き寄せました。これなら。これなら言わなくてもわかってもらえるかもしれません。
「ああ、感じてくれているんだね。嬉しいよローズマリー」
 ジャーヴィス様は私のその部分を嬉しそうに触ります。その手に反応してしまう自分が悔しいです。
いえ、それよりも。まさか。
「……あ、あの」
「おかしくなっちゃったのって、これ?」
 大きくなるのは気持ちが良ければ当たり前のことだよ、と私の唇に息がかかるくらいのところで囁いてきます。
「……ひょっとして、ジャーヴィス様」
「うん、これを生やしたの、僕」
 私はジャーヴィス様を突き飛ばしました。全力で。彼は数歩分だけ後ろに下がりました。
「え、だってこんなこと僕くらいしかできないのを君はわかってるでしょ」
「そうですけど!でも」
「僕、心配だったんだ。君がヘン・パーティで羽目を外してきちゃったりしないかって」
「わ、私がどれだけ気に病んでいたか!」
 とうとう私の目からは涙がこぼれおちてしまいました。我慢していたのに。
「そんな顔してかわいく言ってもだめですからね!」
 そうなのです。かわいい顔で、可愛い口調で甘えてこないでほしいです。やっていることは全くかわいくありません!
「え、僕、可愛い?」
「かわいくないです!」
 涙は流しても、しゃくりあげたりしてはこの人に口では勝てなくなるのをわかっているので、必死で抑えます。言葉が詰まったら負けが見えています。
「知らないうちに、こ、こんなことになっていたら、空だって飛びたくなりますよ!これじゃジャーヴィス様のところにお嫁にいけないってどれだけ悩んだことか」
 感情が高ぶってこみあげてくるものを止められなくなりましたが、私の言葉に驚いた顔をしているジャーヴィス様に腹が立ちます。どっちが驚いたと思っているんでしょう。
「ジャーヴィス様、朝起きていきなり胸が大きくなっていたらどうされますか」
 私はできるかぎり恨みがましい目を作ってジャーヴィス様を見つめました。でもジャーヴィス様は応えません。
「……好きなだけ触る」
 ジャーヴィス様はお胸が好きでいらっしゃるのね。でもその情報は今は不要です。
「じゃあ、下履きの中のものが、なくなっていたら」
「下履きの中?あ、ああ。うーん、トイレはどうしようかなあって思うけど、ま、女性と同じようになるんだからできるよねえ。あっ、でも、結婚するのについてないと困る」
「それです!私、ジャーヴィス様の妻になるのにこんなことになってどうしようかと」
「ふふ」
 気が付いたらジャーヴィス様は嬉しそうに、ゆるゆると私の前の部分を触ってきます。
「ちゃんと僕の妻になってくれるつもりでいてくれたんだね」
 ジャーヴィス様はにこにこしながら私のスカートをめくり、下着の中に手を入れてきます。
「ヘン・パーティに行くの遅れたら良くないから、とりあえず抜いちゃおうね」
「抜く!?」
「あ、引っこ抜くとかじゃないから。うーんと、射精してもらうから」
 この器官を体から抜き取られるのかと思ったらそうではなかったのに安心したのは一瞬でした。射精って。それは男性の体じゃないとできないことなのではなかったでしょうか。
「大丈夫、怖くないからね」
 もう十二分に怖い思いをしています、とは口に出せませんでした。

 ジャーヴィス様は私のスカートをめくりあげて、下履きの中に手を入れてきます。
「え、やだ」
「いやだったら、自分で前をめくって見せてよ」
「……どっちもいやです!」
 結婚式までもうすぐなのにこんなところで私は何をしているんでしょう。
 またジャーヴィス様は悪い顔をして、仕方ないなあと言いながら私のスカートの前をめくりあげて、私の肩の近くに挟み込みました。そして彼はトラウザーズも緩めています。お互い、みっともない格好をしているなあと思います。……ええ、彼の股間のものは見なかったことにするように他のことを考えることに必死です。
「僕から逃げられないのはわかってるよね?」
「……逃げませんよ」
 どうせ逃げても魔術で引き寄せてしまうんでしょう、という言葉は飲みこみました。言っても仕方がないことですし。でもいつかは言えるようになれたらいいなあとは思っています。
「ひどいことはしないでくださいね」
「僕がローズマリーにそんなことするわけないだろう」
「これが、ひどいことじゃないっておっしゃるんですか…」
 つい口に出してしまいました。これを生やすことが、ひどいことじゃないと思っているのでしょうか。
「どれだけ不安だったか、ジャーヴィス様はおわかりになっていらっしゃらない」
 やっぱりこの方には、全て口に出さないと伝わらないということが改めて分かりました。
「私、ジャーヴィス様と一緒にやって行けるかどうかやっぱり不安です」
「もうこんなことは二度としないから!」
「これだけが問題なわけではありません!」
 ジャーヴィス様にいろいろ言い聞かせているうちに、私のものが力を失ってきました。
 私は自分の下着とスカートを直そうとしたら、その手をジャーヴィス様に抑えられました。
「僕がまたおかしいことしそうになっていたら言って。でもごめん、これだけはやらせて」
 彼は私のものに手を伸ばし、彼のものを寄せて、一緒に握ってきました。
「きゃあ!」
「さっき君のを見たときに、こうしたくてたまらなくなった」
 彼の左手で私の腰を引き寄せ、右手は激しく擦ってきます。男性はそうすると気持ちがいいらしい、ということは知識として知ってはいましたが、私は擦られたところが痛くてたまりません。
「やだ、やだあ」
 敏感なところがぴたりとつけられて、ジャーヴィス様の熱い手のひらに擦られます。そしてジャーヴィス様は私の唇に、噛みつくように唇を合わせてきました。
 そこは力強く擦られているので、多分私には刺激が強すぎるのです。ジャーヴィス様は気持ちいいのかもしれませんが、私は痛みしか感じません。
「ジャーヴィス様、痛いです」 
私は押しのけつつ泣き言を言った時に、つい視線を下げてしまいました。
私のものはジャーヴィス様と同じ形をしていました。一回り小さいくらいでしょうか。これはご自分のものを私に生やした、ということなのでしょうか。気付かなければ良かった!
 丸くなっている先の部分が、こっちを見ているような気がしました。「一つ目の魔物」という俗語があるそうですが、確かに目のように見えるな、と思います。
「ごめん。そうだよね、ローズマリーのは粘膜だものね」
 すまなさそうに謝ってきたジャーヴィス様は私の前に跪き、にやりと笑います。
「男のなんか口に入れたくないけど、ローズマリーのだと思えばおいしそうだ」
「え、あの、ジャーヴィス様!?」
 ジャーヴィス様は私のものをぱくりと口に含みました。
「やだ、やだ、そんなところ」
 やだ、とは口にしていますが、温かくてぬるりとしたものに含まれて、とても気持ちが良いのです。男性が女性の中にそれを入れたときには、こういう感覚なのでしょうか。
 ついジャーヴィス様の金の髪に手をやってしまいましたが、彼は私を見上げてふふっと笑ってきます。こんないたずらっぽい顔をするジャーヴィス様はとても可愛らしくて、実は私は大好きなのです。突拍子もない——突拍子もなさすぎることもされますが、思ったことを思ったようにすることができるジャーヴィス様がとてもまぶしいのです。そんな方が私の、結婚間近の婚約者です。そんな方に私は求められています。はしたないことだとは思いますが嬉しくて、結局本気で拒むことはできないのです。
 ジャーヴィス様がちらちらとこちらを上目遣いで見てくるので、つい彼をじっと見てしまいます。その彼は彼自身を自分でも擦っていらっしゃるようです。そして結局、立ったまま私は達してしまったようです。何かが出てくる感覚があって、まさか尿が出てきたのではないかと思って悲鳴をあげてしまいましたが、ジャーヴィス様はその後もしばらくその部分に吸い付いて、止めてくださいませんでした。私は泣き叫ぶような声を抑えられませんでしたが、ジャーヴィス様にはどうにかご満足いただけたようで、彼自身も達したようです。
「あの、ジャーヴィス様。先ほどは……粗相を……」
「ん?あれは違うから大丈夫」
 何がどう違うのでしょう。でも彼は満面の笑みを浮かべているので、彼が大丈夫というなら大丈夫なのでしょう。
「ほら、もうなくなったでしょう」
 私は慌てて、まだじんじんとしているその部分を覗きました。
「良かった!ありがとうございます、ジャーヴィス様」
 それを口にしてふと思いました。
「…ありがとうじゃないですよね。だって、あなたのせいなんですもの」
 少しふくれ顔になっていたのは自覚があります。でもそれは当たり前でしょう。そう自分に言い訳をしながらジャーヴィス様を見たら、ジャーヴィス様の顔が真っ赤になっていました。
「ローズマリーが可愛すぎる…」
「えっ?」
 今、そういう話をしていたのでしょうか。
「一目惚れだったんだけど、ローズマリーの色んなことを知るたびにもっと好きになるんだ」
 ジャーヴィス様のそんな言葉に、私の方が顔が赤くなります。
 ジャーヴィス様は可愛らしく笑います。もうじき30歳になると思うのですが、この方はこういう子供っぽい愛嬌があるところがとてもずるいと思います。
 そうしているうちにジャーヴィス様は何か魔術を行使したようで、自分の体や周囲の空気がすっきりしました。なんて便利な。こんなに魔術を使えたらそれだけ便利なことか。
 目を瞬かせていたら、彼がまた恥ずかしそうにしています。どうしたのかと思えば、先ほど整えたトラウザーズの前がまた盛り上がっているのです。ということは。
「あの、お手伝い、しましょうか?」
 ジャーヴィス様にお伺いをしてみましたが、真っ赤になった彼に断られました。
「そ、それはまた後で…」
「…そうですね。私も本当にそろそろ行かないと、パーティに遅れてしまいますし」
「うん。また今度、続きは結婚式の後にね」
 そう言ってくださったジャーヴィス様に頬にキスをされました。
「パーティの会場はリストランテ・パオリーノだったよね?」
「はい」
「あそこなら転移させてあげられるから、お茶でも飲んで行ってくれないかな」
「ありがとうございます。喜んでいただきます」
 はにかんだような笑顔のジャーヴィス様の背景に花が咲いているように見えます。
 私はジャーヴィス様に好かれているということに甘えて、自分のことをわかってもらおうとしていなかったということにふと思い至りました。
「ジャーヴィス様」
「なに?ローズマリー」
 ジャーヴィス様はにこにこしています。私も、そんなジャーヴィス様を見ていると嬉しくなってきます。
「これからは、もっとお話ししましょうね」
「……うん!」
 ジャーヴィス様はやはり、ちょっと、突拍子もないこともされる方ではありますが、話せばわかってくれる方のようで安心です。私も、あれが生えてしまっていてちょっとどうかしていたのでしょう。いえ、どうかしない方がおかしいとも思いますが。心配ごとが消えて少し安心しました。
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