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第2章 レナード&ランス

第9話 合流

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 くいっ

「や、やめて下さい、霧雨きりさめさん! 私からはリナさんに何も喋ってませんよ!」
「でも、ユリシーズさんが言ってたとか」
「それは、父親である社長から聞いた話について、私に確認を求めただけですから」

 並木リナ。VRゲーム『ファラウェイ・ワールド・オンライン』の運営会社フォークロア・コーポレーションの社長の娘であり、私の『秘密』を何から何まで知っていた。とりあえず当初の予定通り、土曜日定例のミーティングでユリシーズさんをシメているわけだが。

「そんなこと言って、ユニークウェポンの取得方法も喋ったんじゃないんですか?」
「違います! あれは、リナさん…『ライナ』の実力です。社長も含めて、私達もびっくりしているんですから」
「じゃあ、『アバター同期率』も?」
「あらためてログを解析して確認しました。霧雨さんほどではないですが、拓也たくやくんや前島まえじまさんよりは高い数値が出ました」

 ユニークウェポンを取得できるほどのセンスがあったということか。でも、そのセンス、『緊急クエスト』に関わることになるかもしれないよ?

 と、いうことを警告したのだが。

「本人も社長も承知の上です。前島さんのようにユニークウェポンを自力で『現界』できるわけではありませんし、霧雨さんの…ミリアナの転移能力でアバター現界する分には、特に危険がないだろうと」
「でも、拓也を誘拐したような組織に嗅ぎつかれて、リアルで危険な目に合うかもしれませんよ?」
「彼女は『フォークロア・コーポレーション』の社長の娘という時点で、既にその危険がありますから」

 ああ、そういう意味では、前島さん同様、リナちゃんもセレブなお嬢様なのか。この会社、従業員規模は小さいけど世界中に拠点をもっていて、VR業界でも有名な企業である。それこそ、各国関係当局とのつながりまであるほどに。

 ふーむ、それじゃあ、何も問題はないのかなあ。いや、あるにはあるけど、リナちゃんを私の『現界』絡みに関わらせないようにしたところで何も変わらないというか。そもそも、ユーザに対してこんな扱いなのは私にだけだろうし。うーん。

「あ、あの、霧雨さん…。そろそろ私の首から腕を離してもらえませんか…。苦しいのもありますが、私も一応、健全な20代男性なので…」



 天空城ミストライブラ。弟の拓也たくや…ヘラルドが所有する、ユニークウェポン、あらため、ユニーク施設。総勢23名の戦闘メイドNPC込であり、他にいくつも存在するようなものではないという意味では、まさしくユニークである。
 普段は、ヘラルド率いるギルド『神々の黄昏』の領地である、避暑地を模した小さな町の上空に浮かんでいる。今は、ギルドホームも兼ねている。

「これから、よろしくね!」
「ああ。リアルでも知ってる人間だし、あまり不安はないけどな。強いて言うなら、魔導士と同じ後衛の弓使いってところか」
「でも、メイドさん達を除けば、紅一点だよな。並木なみきさん…じゃなかった、ライナちゃんって」
「そして、ユニークウェポン持ち! ユニーク装備をふたつも抱えるギルドなんて、他にはいないぜ!」
「今後も出てこないだろうなあ、そんなギルド」

 というわけで、リナちゃん…猫耳ビースト『ライナ・アセトアルカナ』は、拓也やそのクラスメート達にリアルの素性をあっさり明かし、ギルド『神々の黄昏』に所属することになった。

「えっと、本当に拓也…ヘラルドのギルドでいいの? アバターもリアルも男の子ばかりだよ」
「私としては、時々『ミリアナ・レインフォール』と戦うことができれば、どこでも良いので」
「だから、私とはパーティやギルドを組まないってことか…」
「お姉さん…コナミさんは、ミリアナ専属の鍛冶・調合師ですからね!」
「う、うん、そうなんだよね」

 私としては、内心ヒヤヒヤものである。何しろ、ライナ…リナちゃんは、拓也も知らない私の秘密を全て知っている。知っていて、私にリアルやゲームで接触してきたばかりか、クラスメートである拓也…ヘラルドがマスターのギルドへの加入を希望したのである。実力でユニークウェポン『嵐弓テンペストアセトアルカナ』を獲得した上で。

 もちろん、ライナは私の秘密をヘラルド達に話すことはないと言っている。ゲームではもちろん、リアルでも。割と積極的な彼女が、ギルメンやクラスメート達にうっかり口を滑らせないことを祈るばかりである。

「でも、お姉さんもこうして時々このギルドホームに来るんですよね! ああ、やっぱり…!」
「ら、ライナちゃん!? メイドさん達と、お、お茶にしない? ヘラルド、いい紅茶が入ったって言ってたよね?」

 あああっ、もうひとつ口を滑らせちゃいけないことがあったよ! 話をそらさないとー!

「『ファースト』がエリア28の街で見つけてきてな。でも、姉さんはジンジャーエールじゃなくていいのか?」
「え、お姉さんって、ジンジャーエールが好きなの?」
「ああ。そういえば、ミリアナも好きだって言ってたな。もしかして、それがきっかけで姉さんはミリアナと知り合ったのか?」

 ぎくっ。

「あ、あれ、言ってなかったっけ? エリア1の屋台のジンジャーエールが最高でね! 無名の頃のミリアナと一緒に楽しんだり」
「なるほどな。ふたりが一緒にいるところを見たことがないから、ピンとこないけど」
「ま、まあ、今となっては、一緒にいると変なことになるから」
「だな。俺達だけの秘密ってことで。ライナもいいな?」
「もちろん!」

 そう言って、『うふふ、わかってますよ』的な顔をしながら私を見るライナ。
 あああ、やっぱり不安だ…。
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