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第5章 優希と優真、そして三人娘

第23話 優真の頼み

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 ボクの名前は前島まえじま優希ゆうきごく普通の高校二年生金持ちのおぼっちゃまだ。普通じゃないところがあるとすれば、市内でも美少女として超有名な霧島美奈子きりしまみなこ…ミナとクラスメートってところかな。一応、学校でよく一方的に話したり一緒に下校する勝手についていくことがある程度には仲良くしている。

 ある日曜日の午後。自宅前島邸のリビングでコーヒーを飲みながらくつろいでいると、弟で小学生の優真ゆうまがやってきて話しかけてくる。

「兄ちゃん、お願いがあるんだけど…」
「あらたまってなんだい。またVRゲームの付き添いだろう?」
「そうじゃなくて、その、『現界』してもらいたいところがあって…」
「ああ…いやでも、ミリアナのようにポンポン転移できないから、あちこち行くのは難しいよ?」

 優真は以前、VRゲーム内で『ミリアナ・レインフォール』に会って話をしたことがあり、その時に、『緊急クエスト』についていって月面都市への『現界』を経験した。ミナからの伝聞なので詳しくは知らないけど、アレから優真はますますミリアナに憧れるようになった。

 そして最近、ボクも『現界』機能を直接発現できるようになった。しかも、もともと現実世界への直接顕現が可能だった『聖盾アンサイルアイスフィールド』へのミリアナによる現界スキル付与という形で、である。そういう意味では、『現界』のためにはログインが必要なミリアナよりも使い勝手がいいのだが、1回の発動にMPがごそっともっていかれるため、MPポーションが大量にない限り、自然回復を待たなければ再発現できない。妙なところでバランス調整が効いている。

 とにかく、『現界』機能を手に入れたことは、優真や両親にも伝えてある。知っていてもらえれば、いざという身代金誘拐とかの時に役立つからである。

「1箇所でいいんだ。その…美奈子姉ちゃんの家に行きたいなって」
「ミナの家に? 直接じゃなく?」
「うん。実は、先月転校していった友達がいるんだけど、その子が美奈子姉ちゃんのファンで…」
「ああ、一旦『ファラウェイ・ワールド・オンライン』で合流して、それからミナの家に『現界』して連れて行きたいと」

 ミナが老若男女に人気なのは周知の事実である。おそらくその子も、どこかに出かけていたところを見かけたりしたんだろう。郊外のショッピングモールかな?

「でも、それならゲーム内でもいいんじゃない? ミナのアバター『コナミ・サキ』は、現実と全く同じだし」
「えっと、美奈子姉ちゃん、今日の午後はたぶん、ログインせずに自宅にいると思うから…」
「ん? それなら、なおさらログインしてもらった方がいいじゃないか」
「それは、そうなんだけど…」

 なんだろ? 優真の反応が妙だ。何か隠していることがある?

 ピロロロロロロ

 あ、ボクの携帯端末が鳴ってる。誰からだろ…って、ミナ!? なんて珍しい。

「もしもし、ミナ? どうしたの、通話なんて」
『前島さん、今、優真くんに「現界」をお願いされてない? 友達のことで』
「え、よく知ってるね?」
『前にログインした時、優真くん…ユーキくんからメッセージが届いていたから』
「そうなんだ。なんか、『現界』して現実世界のミナの家で会うって話なんだけど」
『ごめんなさい、それ、私の都合なの。いやもう、今日の午前は防衛戦ばっかりで…あ、ああ、もちろん、ミリアナのサポートでね。裏で「暴発」スキル付与の魔石を何個作り続けたか…』

 はて、ミナ…『コナミ・サキ』なら、スキル付与の魔石を事前に、かつ膨大に作れるって聞いていたんだけど。それでも足りなくなったのかな? まあ、いいか。

「わかった。じゃあ、ボクと優真がゲーム内でその友達と会って、それからボクがアイスフィールドでミナの家に連れて行けばいいんだね」
『うん、よろしく。それじゃ』

 ピッ

「ミナからだったよ。彼女の都合だったんだね」
「そ、そうなんだ。じゃあ、今すぐでいいかな?」
「うん、いいよ」
「そうね、私達も準備万端だから!」
「うわー、美奈子みなこ様の自宅にようやく入れる!」
「これまでは、遠くから眺める覗き込むだけだったのに…」
「キミ達、いつからこのリビングにいたのかな?」
「最初からだよ、ギルマス!」
優希ゆうき様の家って落ち着くのよねー。豪邸なのに」
「私達のホームグラウンド。私達の庭」

 はあ…。まあ、この娘達三人娘のことは優真もよく知ってるし、ミナも多少は予想しているだろうしなあ。こないだみたいに、『執行班』まで押しかけてこないだけマシか。

「兄ちゃん、前から聞きたかったんだけど、この3人のうちの誰が兄ちゃんの彼女なの?」
「3人とも、彼女じゃないよ…」
「ああ、兄ちゃんが美奈子姉ちゃんの彼氏になりたいってことはよく知ってるから」
「知ってるなら、聞かないでくれよ…」
「そろそろ、あきらめたのかと思って」
「あきらめてないよ!」

 そうして、ボクと優真の兄弟ふたりだけのはずが、5人ほどの団体で自宅のフルダイブ部屋に移動していく。リビングでは、ウチのメイドさんが慣れた手つきでコーヒーカップを片付けていた。4人分。本当に、いつの間に…。
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