二度目は清く、正しく

かなり柘榴

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赤ん坊の一日

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「エリオの調子はどうだ?ホルン。」


自身と同じかそれ以上に長い間この家に仕えてきた忠臣に尋ねる。


「問題はないかと思われます。ただ、」


そこまで話して口をつぐむホルンにダリオは訝しんだ。


「どうしたのだ?」

「何と言いますか、エリオお坊ちゃまがたまに子供らしくないように思えてしまうのです。」

「というと?」

「何もないところを睨むように見つめていることや、奥様に抱かれると避けるように身じろぎをすることなど。他にも、これはいいことなのですが手がかからなさすぎる子のように思います。考えすぎだとは思うのですが。」

「…ふむ。私も気を配っておこう。他に何かあったらまず私に報告するように。」

「かしこまりました、旦那様。」

「うむ、頼む。さあ、エリオの世話に戻ってくれ。」


執務室を後にするホルンの背を見送りながら我が子を思う。
最愛の妻との間に授かった宝。初の子宝だ。もちろん不安もある。


「ままならないものだ。」


父親初心者のダリオは、頭を悩ませ続けるのであった。




そんな父の苦悩は露とも知らず、エリオは虚空を見つめていた。

毎日母や使用人に抱かれ世話をされ続ける日々。

見る人が見ればうらやましいというのはもちろんわかる。

だが待ってほしい。相手は母親だ。

慈愛をもって接してくれる肉親にそんな感覚は抱けない。使用人も同じだ。

ということで俺にできることはおとなしく世話を焼かれ続けることだけだった。

将来を見据え幼いうちから勉強や鍛錬を積もうと思ってもできることなんてたかが知れているしそもそも今の俺は常
に監視されているようなもの。

余りおかしなことはできない。だから一日の半分は眠ったふりをしながら考え事と頭の整理に取り組んでいた。

自分の名前に、両親、使用人の名前。境遇やこの世界の常識。

周囲の話し声を少しでも拾い続けて頭を回し続ける。

そうでもしていないとあまりに暇で感情が死んでしまいそうだ。
今日もひとまずわかっていることを並べていこう。

・俺の名前はエリオ・フィールス、生後7か月。

・父はダリオ・フィールス、32歳。

・母はエリノア・フィールス、24歳。

・フィールス家は貴族であり国家、カリウス王国建国期から存在する侯爵家。

・この世界には前の世界にない魔術というものが存在する。

・同じく前世に存在しなかった魔物という生物がいる。

・ここ最近は国内外で魔物の数が増えてきている。

他に何かあっただろうか。

正直会話を横で聞いているだけなのであまり正確性は当てにならないがそれはこの際いい。


目下注意すべきことは魔術と魔物についてだ。

魔術は何度か目にしたことがある。
使用人が雑用の時にものを浮かしているのを見た。
見た限りではある程度は誰にでも使えるものであるように思う。

次に魔物なのだが、こちらに関しては一度も見たことがない。
仮にも貴族の一粒種なのだから当然であるのかもしれないが。
だが聞いた限りではどれも通常の動物を上回る身体能力を持ち、個体によっては魔術の行使も可能とするらしい。


これ以上の情報は持っていない。後の情報は使用人のほくろの位置ぐらいのものだ。

さて、これらの情報で一体何について考えたものか。

なかなかどうして、赤ん坊生活も楽ではない。

心の中でそう独り言ちる0歳児、エリオ・フィールスは寝返りを打つのだった。
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