彼がスーツに着替えたら

森野きの子

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過ぎたるは及ばざるが如し3

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「わっ」
 冴子は思わず声を上げた。亮の腰に翼を広げた鷲のタトゥーが入っていたからだ。
「どうした?」
「亮さんタトゥー入ってる」
「え。今まで気づかなかったの? 十代から二十代後半までアメリカにいたんだけど、地元のライブハウスとか入り浸ってたら、周りに感化されちゃってさ。十九の時にいれたんだ。日本に戻ってきてからはちょっと後悔させられる時もあるけど、もしかして冴子ちゃんこういうの嫌い?」
「違う世界の文化だと思ってた」
 今まで知らなかった亮の秘密を知ったようで、ドキドキしてきた。正直なところタトゥーにいい印象は持っていなかったが、なんとなく亮にしっくりきていて、かっこいいと思ってしまった。
「家族からは嫌がられて半分勘当されてる。おれ、兄貴が二人と姉貴がいるんだけど、兄貴たちからは超見くびられてる。行けって言ったのは親父なのにアメリカに行かせたのは間違いだったって言われるしさ。ちゃんと言われた大学を卒業して、やる事やったのに」
「え! 亮さんアメリカの大学卒業してたんですか!?」
「まあ、一応ね。親父がアメリカの大学行って経営学修士号取ったら自由にしていいって言ったからさ。やるじゃん? 日本に戻っても調理の専門学校通ったり店出したりでやっと今落ち着いたのに、って、こんなの、真っ裸でする話じゃなくない? とりあえず、おれ行ってくるね」
「あっはい。いってらっしゃい」
 亮はリモコンで暖房を入れてから脱衣所に入り、服に着替えてくると、手に持っていたスエットを冴子に渡した。
「寒いからこれ着て待ってて」
 冴子が受け取って被って着ると、ちゅっ、と唇を啄まれた。なめらかに行われた不意打ちに、ぽおっとしているうちに亮はバタバタと部屋を出ていった。施錠の音が、ガチャリと響いた。
 一人残されて身体の熱が冷めると、やけに頭の中が騒がしくなってきた。知らなかったとはいえ、情報量が多すぎた。余計なお世話だが、個人経営の飲食店のマスターだけではもったいない学歴なのでは? と思ってしまう。しかし、腰のタトゥーにしても、ダイニングバーにしても、亮は自分自身を思い切り謳歌していて羨ましいと思う。冴子自身はそこそこの大学を出て、面接に受かった会社に入り、与えられる仕事をこなす。そのルーティンから外れないようにすることが、唯一頑張っていることかもしれない。亮とこうしてベッドを共にしているのは、自分の中ではかなりの冒険で、なかなか大きなイベントなのだが、彼にとってはどうなのだろうか。刺激的な人生を送っている亮にとっては、こんな情事、線香花火くらいのものなんじゃないかと思ってしまう。
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