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第五章『最大の厄介事開始!それは謎の招待状から始まった』
第69話「どちらの月も・・・」
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『謎の招待状』の騒ぎから2週間が過ぎた。
クォートの事を考えると、セディユは胸が締め付けられそうになった。
完全に吹っ切れた訳でも無かったが、最後に見せたクォートの笑顔を思い出し『これで良かったのだ』と、そう思うように努めている。
チルダは沢山寝た事で逆にパワーが有り余り、日々コロンと屋敷を駆け回っていた。
ウィンはと言うと、セディユの治癒魔法のお陰で一命は取り留めた。
5日ほど目を覚まさず、6日目で目を覚ました。
その時、開口一番セディユを見て「セディユ……良かったです」と言った時、セディユは言いようのない嬉しさを感じた。
(私にも帰る場所があり、待ってくれている方々がいるのだ)と、心から感じる事が出来たのだ。
悪魔達は『お礼に黒焦げクッキーをたっくさん焼いてくれ』とセディユにせがんだ。
セディユは黒焦げクッキーを量産した。その時、「もうクッキーくらい上手に焼けるんです、悪魔達のためにあえて焦がしているんです」と何度も言っていた。
すっかり元通りに戻ったようなウィン屋敷だが、それぞれの心境は騒ぎの前とは少し変わっていた。
――――――
セディユは屋上にあるテラスへと足を向ける。
今日は美しい満月だった。こういう夜はウィンが屋上に居る事が多いのをセディユは知っている。
テラスの扉を開けると、澄んだ風が顔にかかった。
そこに、月を見上げるウィンの背を見つける。
赤く長い髪が緩やかに揺らいでいた。
「やはり居ましたね」
そう声をかけながらウィンの隣に立つ。
「邪魔なら去りますが?」
ウィンはションボリと言う。
「いえ、月を見るだけなら自身の部屋から見れますので」
「え!?という事はまさか私に会いに来てくださったのですか!?」
グフフとした顔を見せる。
「そうですよ」
「え?……」
ウィンは表情をまともに戻すと、視線を斜め上に向けて口を噤む。
「クスクス、あなたって本当にこういう流れには弱いのですね」
「セディユは急に年上ぶる時があるので困りますね」
いつもの調子でそう言うが、そのテンションが若干低い事にセディユは気が付いていた。
「ウィン……本当に迷惑をかけました」
「セディユが謝る事では無いでしょう」
「ですが、クォートをあのように暴走させたのは天界族であり、その1つの要因に私が含まれていました……結果、あなたを危険な目に」
(もし、ウィンがあの時命を落としていたら……屋敷は元のように明るくはならなかっただろう)
セディユはそう考えていた。
「いえ、感謝するのは悪魔達にですね」
そう言って悔しげに背を向ける。最終的に、全て悪魔達の力により解決した事がウィンの気分を下げていたのだ。
「変な所でプライドが高いのですね」
セディユはクスリと笑う。
「そりゃ、悔しいですよ。私は大事な魔物ちゃんを傷つけない事にしか特化していません。ソレ以外の部分など本当に何も無いのに……なのに、セディユを止める力も、救う力も無かったのです……セディユの固い意志に私の意志は負けたのです」
自分自身に失望したと言うようにウィンは肩を落とす。
「別にいいじゃないですか?私は嬉しかったですよ、私のために翻弄されるあなたを見られた事。最後に悪魔が解決した所でいいじゃないですか……完璧である必要無いですよ」
「そうでしょうか?」
「そうですよ」
(少し前まで完璧を求めていたのは私の方なのに……)
そう考えて、なんだか不思議な会話だとセディユは思う。
ウィンはムッとしたような表情で月を睨む。普段は余裕顔か、キッショイ顔が定番のウィンなので、そういった表情を見せるのは珍しかった。
実を言うとあの出来事以来、こういうウィンをしばしば見れる事にセディユは喜びを感じている。
「だってよく考えたら私の方がズゥーット年上な訳ですし」
「ん?何か言いました?」
「いえ何もぉ」
「何ですかぁ?その言い方……気持ち悪いですよ?」
「あ……あなたの真似ですよ!」
「下手ですねぇ」
「そ!そんな事!」
セディユはムキになって返す。
ウィンはニマニマとしてその姿を見る。
少し前まで腹が立ったこのやり取りも、今は温かいとセディユは感じていた。
「綺麗な夜ですね」
ウィンは視線を月に向けて言う。しばらく2人で月を見上げる。
「天界が恋しくなりますか?」
不意にウィンは問う。
(私はそんな顔をして月を見ていたのだろうか……)
そう思い、セディユは月から視線を外す。
「いえ……そんな事を思って見ていた訳ではありません。ただ……なぜもっと平和に世界は1つになれないのか?と考えていただけです……」
「平和だったら、天界にも自由に行き来出来るのに?」
「……だから」
「別に天界に未練がある事を否定しなくていいじゃないですか?むしろ生まれた場所なのですからソレが普通です」
「そうでしょうか……天界は私のような者を拒み、そしてクォートのような不幸な者を生み出す。きっとこの先も変わらない。なのに……月や空を見上げるたびに未練がましく天界を見上げているようで……悔しいです」
セディユは天を見たくなくて視線を更に地に落とす。
「天界から見る月は、人間界から見るよりも綺麗ですか?」
ウィンは出会った時と同じ質問を再びセディユにした。
しばらく地をみつめていたセディユだが、その視線をユックリと月に向ける。
そこには輝く月。
ウィンと出会った時は、眩しすぎて目が開けられなかった事をセディユは思い出す。今は、表面の模様まではっきりと見えていた。
人間界から見上げる月を、眩しいと感じなくなった時。
その時、私はどうなってしまうのだろうか?
天使では無くなってしまうのではないだろうか?
以前はそこに答えが出せなかったセディユだが、今ははっきりと答えが出ている。
(人間界からの月を見慣れても、私は私のままだった……)
「天界から見ても、人間界から見ても月は綺麗です」
その返答にウィンは緩く笑う。
「セディユは両方から見る月の美しさを知っている……ソレは本当に羨ましい事だと思いますよ?ソレを誇ればいいじゃないですか」
そして表情を崩すと付け加える。
「まぁ、私の場合はセディユが視界に入るので!セディユの見ている景色よりも、より一層綺麗な景色になる訳で~す!」
「それなら私だって同じ事が言えるじゃないですか?」
「は?」
「天界から見る月も、人間界から見る月もウィン……あなたが視界に入った方が綺麗です」
「……」
ウィンは口を難しそうに噤む。その様子を見て、セディユは笑う。
「本当に、言う割には言われ慣れてないんですね」
何か言いたげに口を開けるウィンだったが、スグに閉じると視線を再び月に戻す。
「天界も、魔界も、人間界も1つになれればいい……クォートさんが望んだように、私も本当はそう思っているんですよ?ですがそうなった事で争いが起こる事は本意ではありません。自由に世界を行き来出来て、種族間の争いも無く、もっと沢山の魔物ちゃんと触れ合えたら……それこそが私の望むべき世界なんです」
クォートが望んだ事は、3種族の争いの上での統一だった。
ウィンが望むのは、全ての種族が世界を共有し、その上で皆が支え合い愛し合えるような、そういう世界と言う事だ。
(だけど……そんな世界を作るのは難しい……)セディユはそう思うが、すぐにハッとした顔をする。
「ああ……そうだ……あるじゃないですか……私そういう場所を知ってます……」
「まだまだ小さいですけどねぇ」
小さい。
確かにそうかもしれない。
だが、小さくてもそんな世界を作り出せるのはウィンしかいない。
もしかすると、ウィンならいずれはもっと大きくしてしまうかもしれない。
そんな風にセディユには思えた……
――――――
「あ!こんな所にいたぞえ!」
「屋上で何やってるのだ?」
悪魔達がドヤドヤと入って来る。
「セディユ!黒焦げクッキーのストックが無くなったぞえ!また焼くぞえ!」
「あんなに焼いたのに?ピリオドはその小さな体のどこに入っているのですか?」
「俺様いくらでも大きくなれるぞえ!」
ピリオドはそう言うと、丸まる太った巨大カラスの姿になる。
その見た目がちょっと愛らしいとセディユは思ってしまう。
「そういえば、ピリオドがアキュレートの姿になれたという事はお知り合いだったのですか?」
ウィンの問いにセディユも『そういえば!』と思い出す。
ピリオドは見た対象にしか変化出来ないのだから、そういう事になる。
「知ってるも何も、俺様の父の弟ぞえ」
ウィンとセディユは「え!?」と驚いた顔を見せる。
「ピリオドの叔父さんって事ですか?」
「そうぞえ」
「でも、確か『作家』をしてらしたんですよね?ピリオドの家系という事は王族ですよね?」
ウィンの問いにピリオドとシグマは「それはそう」と頷き続けた。
「アキュおじはいつも魔界にいなくて父は呆れていたぞえ」
「本を書くために人間界にもよくいらしてたそうですね」
「そうなのだ!俺はアキュレートの本の大ファンなのだ!」
目を輝かせてシグマは言う。
「アキュおじの本は、悪魔なら皆読んだことがあるぞえ!有名人ぞえ!」
「俺は、特に『人間界の落ちこぼれテイマー、魔族に転生して100匹の悪魔と契約する!』シリーズが大好きなのだ」
「そうぞえ!あの主人公に憧れてテイマー最強ってなったぞえ!それで俺様ウィンの使い魔になったぞえ!」
「ええ……そういう理由だったんですか……軽すぎます」
ウィンはため息を吐く。
(なんとも気の抜けた話だ)セディユはそう思うが、ピリオドがアキュレートを知っていた事で最終的にクォートの魂まで救済出来たのは事実だ。
そういえば悪魔達にお礼がまだだった事をセディユは思い出す。コホンと咳ばらいをして悪魔達を見る。
「クォートの魂を救ってくれて有難うございました。それから、私の事も……心からお礼を言います」
一時は、ウィンに言伝として頼んだ言葉だが、セディユは自身の口から直接伝える事が出来た。
「おおー!そういえばクォートすっごく綺麗だったのだぁ」
シグマが思い出すように言う。
「え?」
(呆れた……シグマは天使なら誰でも綺麗に見えていたのか……自分にだけ向けた言葉では無かった)
清々しい気持ちが一気に消えセディユはムスッと膨らむ。
「あの綺麗な黒の翼!最高だったのだ!」
「翼?」
「そうなのだ、翼が綺麗だったのだ」
その言い方を聞いて、セディユの心は再び晴れる。
「あ……ああ……そういう事ですか、黒も素敵でしたよね」
「え?」
「ほえ?」
「セ……セディユ?」
全員がセディユを驚いた顔で見た。
「え!?あ!違います!!クォートの姿が綺麗だったと言っただけで……別に私もそうなっていいと言う訳では!!」
「セディユ、黒くなりたいなら俺にいつでも言うのだ」
シグマは牙を見せて笑う。
『そんな事!有り得ない!』とセディユが言う前に、シグマが言う。
「だが、俺は白い翼のセディユも好きなのだぁ~!」
そう言って、セディユの体をヒョイと持ち上げる。
「え!?ちょ!シグマ!」
それはまたお姫様抱っこの形で、セディユはジタバタと暴れる。だが、月が目に入って動きを止めた。
「お?大人しくなったのだ」
「……今も、天界から見られているような気がします」
「嫌なのだ?」
「バカにされているでしょうね。悪魔や人間と慣れ合ってって……」
シグマは難しそうに首を捻る、そしてセディユの体を下ろそうとする。
だがセディユはシグマの首にしがみつく。
「お!?」
「だからこそ見せ付けてあげるのです!」
「バカにされるのに?」
「いいんです、私は逆にバカにしてやるのです。この素晴らしい世界をまだ知らない愚か者達を」
「セディユ腹黒すぎなのだぁ」
そう言って牙を見せて笑う。そして、更に高く舞い上がる。
月との距離がほんの少し縮まる。
「シグマ……天からバカにする笑い声が聞こえた気がします……」
「俺も聞こえたのだ」
「堕ちた天使が堕ちた先で血迷ったって笑ってます」
「きっとそうなのだ、どういう気分なのだ?」
「それはもちろん……」
セディユは天を仰ぐ。
「それはもちろん、最高にいい気分です!」
天からの笑い声はまだ止まない。
だが、もう恥じる事など何も無い。
ほら?よく見るといい。
月に美しく照らされているのは、私達の方なのだから。
クォートの事を考えると、セディユは胸が締め付けられそうになった。
完全に吹っ切れた訳でも無かったが、最後に見せたクォートの笑顔を思い出し『これで良かったのだ』と、そう思うように努めている。
チルダは沢山寝た事で逆にパワーが有り余り、日々コロンと屋敷を駆け回っていた。
ウィンはと言うと、セディユの治癒魔法のお陰で一命は取り留めた。
5日ほど目を覚まさず、6日目で目を覚ました。
その時、開口一番セディユを見て「セディユ……良かったです」と言った時、セディユは言いようのない嬉しさを感じた。
(私にも帰る場所があり、待ってくれている方々がいるのだ)と、心から感じる事が出来たのだ。
悪魔達は『お礼に黒焦げクッキーをたっくさん焼いてくれ』とセディユにせがんだ。
セディユは黒焦げクッキーを量産した。その時、「もうクッキーくらい上手に焼けるんです、悪魔達のためにあえて焦がしているんです」と何度も言っていた。
すっかり元通りに戻ったようなウィン屋敷だが、それぞれの心境は騒ぎの前とは少し変わっていた。
――――――
セディユは屋上にあるテラスへと足を向ける。
今日は美しい満月だった。こういう夜はウィンが屋上に居る事が多いのをセディユは知っている。
テラスの扉を開けると、澄んだ風が顔にかかった。
そこに、月を見上げるウィンの背を見つける。
赤く長い髪が緩やかに揺らいでいた。
「やはり居ましたね」
そう声をかけながらウィンの隣に立つ。
「邪魔なら去りますが?」
ウィンはションボリと言う。
「いえ、月を見るだけなら自身の部屋から見れますので」
「え!?という事はまさか私に会いに来てくださったのですか!?」
グフフとした顔を見せる。
「そうですよ」
「え?……」
ウィンは表情をまともに戻すと、視線を斜め上に向けて口を噤む。
「クスクス、あなたって本当にこういう流れには弱いのですね」
「セディユは急に年上ぶる時があるので困りますね」
いつもの調子でそう言うが、そのテンションが若干低い事にセディユは気が付いていた。
「ウィン……本当に迷惑をかけました」
「セディユが謝る事では無いでしょう」
「ですが、クォートをあのように暴走させたのは天界族であり、その1つの要因に私が含まれていました……結果、あなたを危険な目に」
(もし、ウィンがあの時命を落としていたら……屋敷は元のように明るくはならなかっただろう)
セディユはそう考えていた。
「いえ、感謝するのは悪魔達にですね」
そう言って悔しげに背を向ける。最終的に、全て悪魔達の力により解決した事がウィンの気分を下げていたのだ。
「変な所でプライドが高いのですね」
セディユはクスリと笑う。
「そりゃ、悔しいですよ。私は大事な魔物ちゃんを傷つけない事にしか特化していません。ソレ以外の部分など本当に何も無いのに……なのに、セディユを止める力も、救う力も無かったのです……セディユの固い意志に私の意志は負けたのです」
自分自身に失望したと言うようにウィンは肩を落とす。
「別にいいじゃないですか?私は嬉しかったですよ、私のために翻弄されるあなたを見られた事。最後に悪魔が解決した所でいいじゃないですか……完璧である必要無いですよ」
「そうでしょうか?」
「そうですよ」
(少し前まで完璧を求めていたのは私の方なのに……)
そう考えて、なんだか不思議な会話だとセディユは思う。
ウィンはムッとしたような表情で月を睨む。普段は余裕顔か、キッショイ顔が定番のウィンなので、そういった表情を見せるのは珍しかった。
実を言うとあの出来事以来、こういうウィンをしばしば見れる事にセディユは喜びを感じている。
「だってよく考えたら私の方がズゥーット年上な訳ですし」
「ん?何か言いました?」
「いえ何もぉ」
「何ですかぁ?その言い方……気持ち悪いですよ?」
「あ……あなたの真似ですよ!」
「下手ですねぇ」
「そ!そんな事!」
セディユはムキになって返す。
ウィンはニマニマとしてその姿を見る。
少し前まで腹が立ったこのやり取りも、今は温かいとセディユは感じていた。
「綺麗な夜ですね」
ウィンは視線を月に向けて言う。しばらく2人で月を見上げる。
「天界が恋しくなりますか?」
不意にウィンは問う。
(私はそんな顔をして月を見ていたのだろうか……)
そう思い、セディユは月から視線を外す。
「いえ……そんな事を思って見ていた訳ではありません。ただ……なぜもっと平和に世界は1つになれないのか?と考えていただけです……」
「平和だったら、天界にも自由に行き来出来るのに?」
「……だから」
「別に天界に未練がある事を否定しなくていいじゃないですか?むしろ生まれた場所なのですからソレが普通です」
「そうでしょうか……天界は私のような者を拒み、そしてクォートのような不幸な者を生み出す。きっとこの先も変わらない。なのに……月や空を見上げるたびに未練がましく天界を見上げているようで……悔しいです」
セディユは天を見たくなくて視線を更に地に落とす。
「天界から見る月は、人間界から見るよりも綺麗ですか?」
ウィンは出会った時と同じ質問を再びセディユにした。
しばらく地をみつめていたセディユだが、その視線をユックリと月に向ける。
そこには輝く月。
ウィンと出会った時は、眩しすぎて目が開けられなかった事をセディユは思い出す。今は、表面の模様まではっきりと見えていた。
人間界から見上げる月を、眩しいと感じなくなった時。
その時、私はどうなってしまうのだろうか?
天使では無くなってしまうのではないだろうか?
以前はそこに答えが出せなかったセディユだが、今ははっきりと答えが出ている。
(人間界からの月を見慣れても、私は私のままだった……)
「天界から見ても、人間界から見ても月は綺麗です」
その返答にウィンは緩く笑う。
「セディユは両方から見る月の美しさを知っている……ソレは本当に羨ましい事だと思いますよ?ソレを誇ればいいじゃないですか」
そして表情を崩すと付け加える。
「まぁ、私の場合はセディユが視界に入るので!セディユの見ている景色よりも、より一層綺麗な景色になる訳で~す!」
「それなら私だって同じ事が言えるじゃないですか?」
「は?」
「天界から見る月も、人間界から見る月もウィン……あなたが視界に入った方が綺麗です」
「……」
ウィンは口を難しそうに噤む。その様子を見て、セディユは笑う。
「本当に、言う割には言われ慣れてないんですね」
何か言いたげに口を開けるウィンだったが、スグに閉じると視線を再び月に戻す。
「天界も、魔界も、人間界も1つになれればいい……クォートさんが望んだように、私も本当はそう思っているんですよ?ですがそうなった事で争いが起こる事は本意ではありません。自由に世界を行き来出来て、種族間の争いも無く、もっと沢山の魔物ちゃんと触れ合えたら……それこそが私の望むべき世界なんです」
クォートが望んだ事は、3種族の争いの上での統一だった。
ウィンが望むのは、全ての種族が世界を共有し、その上で皆が支え合い愛し合えるような、そういう世界と言う事だ。
(だけど……そんな世界を作るのは難しい……)セディユはそう思うが、すぐにハッとした顔をする。
「ああ……そうだ……あるじゃないですか……私そういう場所を知ってます……」
「まだまだ小さいですけどねぇ」
小さい。
確かにそうかもしれない。
だが、小さくてもそんな世界を作り出せるのはウィンしかいない。
もしかすると、ウィンならいずれはもっと大きくしてしまうかもしれない。
そんな風にセディユには思えた……
――――――
「あ!こんな所にいたぞえ!」
「屋上で何やってるのだ?」
悪魔達がドヤドヤと入って来る。
「セディユ!黒焦げクッキーのストックが無くなったぞえ!また焼くぞえ!」
「あんなに焼いたのに?ピリオドはその小さな体のどこに入っているのですか?」
「俺様いくらでも大きくなれるぞえ!」
ピリオドはそう言うと、丸まる太った巨大カラスの姿になる。
その見た目がちょっと愛らしいとセディユは思ってしまう。
「そういえば、ピリオドがアキュレートの姿になれたという事はお知り合いだったのですか?」
ウィンの問いにセディユも『そういえば!』と思い出す。
ピリオドは見た対象にしか変化出来ないのだから、そういう事になる。
「知ってるも何も、俺様の父の弟ぞえ」
ウィンとセディユは「え!?」と驚いた顔を見せる。
「ピリオドの叔父さんって事ですか?」
「そうぞえ」
「でも、確か『作家』をしてらしたんですよね?ピリオドの家系という事は王族ですよね?」
ウィンの問いにピリオドとシグマは「それはそう」と頷き続けた。
「アキュおじはいつも魔界にいなくて父は呆れていたぞえ」
「本を書くために人間界にもよくいらしてたそうですね」
「そうなのだ!俺はアキュレートの本の大ファンなのだ!」
目を輝かせてシグマは言う。
「アキュおじの本は、悪魔なら皆読んだことがあるぞえ!有名人ぞえ!」
「俺は、特に『人間界の落ちこぼれテイマー、魔族に転生して100匹の悪魔と契約する!』シリーズが大好きなのだ」
「そうぞえ!あの主人公に憧れてテイマー最強ってなったぞえ!それで俺様ウィンの使い魔になったぞえ!」
「ええ……そういう理由だったんですか……軽すぎます」
ウィンはため息を吐く。
(なんとも気の抜けた話だ)セディユはそう思うが、ピリオドがアキュレートを知っていた事で最終的にクォートの魂まで救済出来たのは事実だ。
そういえば悪魔達にお礼がまだだった事をセディユは思い出す。コホンと咳ばらいをして悪魔達を見る。
「クォートの魂を救ってくれて有難うございました。それから、私の事も……心からお礼を言います」
一時は、ウィンに言伝として頼んだ言葉だが、セディユは自身の口から直接伝える事が出来た。
「おおー!そういえばクォートすっごく綺麗だったのだぁ」
シグマが思い出すように言う。
「え?」
(呆れた……シグマは天使なら誰でも綺麗に見えていたのか……自分にだけ向けた言葉では無かった)
清々しい気持ちが一気に消えセディユはムスッと膨らむ。
「あの綺麗な黒の翼!最高だったのだ!」
「翼?」
「そうなのだ、翼が綺麗だったのだ」
その言い方を聞いて、セディユの心は再び晴れる。
「あ……ああ……そういう事ですか、黒も素敵でしたよね」
「え?」
「ほえ?」
「セ……セディユ?」
全員がセディユを驚いた顔で見た。
「え!?あ!違います!!クォートの姿が綺麗だったと言っただけで……別に私もそうなっていいと言う訳では!!」
「セディユ、黒くなりたいなら俺にいつでも言うのだ」
シグマは牙を見せて笑う。
『そんな事!有り得ない!』とセディユが言う前に、シグマが言う。
「だが、俺は白い翼のセディユも好きなのだぁ~!」
そう言って、セディユの体をヒョイと持ち上げる。
「え!?ちょ!シグマ!」
それはまたお姫様抱っこの形で、セディユはジタバタと暴れる。だが、月が目に入って動きを止めた。
「お?大人しくなったのだ」
「……今も、天界から見られているような気がします」
「嫌なのだ?」
「バカにされているでしょうね。悪魔や人間と慣れ合ってって……」
シグマは難しそうに首を捻る、そしてセディユの体を下ろそうとする。
だがセディユはシグマの首にしがみつく。
「お!?」
「だからこそ見せ付けてあげるのです!」
「バカにされるのに?」
「いいんです、私は逆にバカにしてやるのです。この素晴らしい世界をまだ知らない愚か者達を」
「セディユ腹黒すぎなのだぁ」
そう言って牙を見せて笑う。そして、更に高く舞い上がる。
月との距離がほんの少し縮まる。
「シグマ……天からバカにする笑い声が聞こえた気がします……」
「俺も聞こえたのだ」
「堕ちた天使が堕ちた先で血迷ったって笑ってます」
「きっとそうなのだ、どういう気分なのだ?」
「それはもちろん……」
セディユは天を仰ぐ。
「それはもちろん、最高にいい気分です!」
天からの笑い声はまだ止まない。
だが、もう恥じる事など何も無い。
ほら?よく見るといい。
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【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
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