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ファイトオブピラミット
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影形が見えない。
視覚がとらえる内部は、死の匂いに支配されている。
感覚の高まりとともに、徐々に暗闇から浮かび上がる、灯が点く。
回廊には、無数の青い光、壁に垂れるランプが、ザクロらを照らす。
一気に、走る。
何かを感じた。
ザクロの昂進する感覚が、高い天井、描かれた絵。
神話。
その一節、切り取られるように、死の世界の誕生だろうか。
髑髏の大群と死神の鎮座するそれは、蒼い光の中で、光の神を中心にして、血管のように走る星脈、光の神は、星に掲げるように、供物を持ち上げている。
足を止めて、しばらく三人は見上げていた。
「これは、古代の儀式」
と夢乃リスが言う。
「星の神話か、遺跡によくあるやつだな」
ラピスタ。
ザクロは、セリアのメモリー機能を使って、記憶する。
「しかし、何を表していると思う? リス」
「きっと、タイムスリップね。供物は、女か子供ね。よくあるやり方。蛍を利用したのよ」
「魂か」
「そうね、この世界にある万象システム、すなわち」
「ラカンティア・ソウル・システム」
「ええ、通称「Z」ね。眠っている子を起こさないように行きましょう。あまり見ていると知覚から攻撃を受けるわよ。襲ってくる」
「まあ、いい、先を急ごう」
しかし、甘かった。
もう、攻撃は始まっていた。
足元の床が溶ける。
幻灯が、体に這ってくる。
血。
体中の血が裏がえる。
眼が飛び出るような錯覚を受けて、ザクロは、目元を押さえた。
骨がすさまじい勢いで鳴り始めた。
「やべえな、敵はどこだ!」
ラピスタは、ダガーを抜く。
「これはまずいわね。遺跡が荒れている。普段は、安定しているのよ」
「そりゃそうだ。星間移動は、スムーズだったよ」
「つい三年前まではね」
星間移動には、本来危険はない。
三年前、「Z」に何らかの異常があったのだ。
ザクロは、マヒナルと療養していた星から、「戦争ボタル」と移ってこの「動物楽園」に来たのだが、確かに、遺跡を越えた。
ロッパルド警察の追跡を受けていたが、見事にかわして――しかし、追跡は熾烈だったけど、神聖人のザクロにとっては、それほどではなかった。所詮、ロッパルドは、ゴーダ、奴らは、群れるほどに残虐になる特性があるが、油断できなかったのは、遺跡に入る時。
ゴーダに突破できる科学力はないと言える。しかし、星と星は、単なる移動ではない。「神話を超えるように」と表現される。
神聖人と神々しか、遺跡を通ることが許されていない。越えられないと言える。
ゴーダ。
神聖人は奴らの名前を発するだけで、吐き気を覚える。それは想像に難くないだろう。
地面からやってくる手。
Zが攻撃するのは、侵入者だけ。
スクールを出る時に受け取るチップ。そう、脳に溶けたその許可証があれば、必ず通過を許してくれるのだが。一人でも仲間に神聖人がいれば通れる。「仲間」と信じていれば、精神感応で、夢乃リスも白雪蛇も、通れるのだが。
これは、認識で解る。
手が、引きずり込もうとする。
ザクロとラピスタは、必死に手を切る。
壁からも手が出てくる。
ザクロは、あまりの恐ろしさに、一瞬、天井を見上げてしまった。
天井画の死神が、鎌を構えたまま、その恐ろしい髑髏を揺らした。
壁画から、一気に髑髏の大群が抜けだしてくる。
さすがの夢乃リスも危険を感じた。
圧倒的な力の前に神聖人の二人はなす術もなく、死を感じる。
「ザクロ! 私に任せて!」
夢乃リスが叫んだ。
「何言ってる! お前に何ができる?」
「あなたを死なせるわけにはいかない」
「ああ? お前」
「力を全解放するから。目をつぶっていて」
ザクロとラピスタは察した。
夢乃リスのつぶらな瞳に、星々が宿っていた。
「お前、いったい?」
とラピスタ。
「Zを説得します」
「できるわけねえだろ!」
ザクロが叫ぶと、ラピスタはダガーを投げた。
それが、死神の大鎌に激突して、一瞬、ザクロの意識がそれる、再びリスに視線を向けると、リスは光体化していた。
古代ラカンティア語を呟いている。
聞いたことのない呪文だった。
二人は必死に手を切りながら、リスを守る。
髑髏たちが押し寄せる。
「Z、あなたは混乱している」
「……」
「Z、私の声を聴きなさい」
「……」
「Z、私がわかるでしょ」
「……お前は……」
「ユメノリス」
「ああ。なつかしい。元気か」
「ええ、返事をしてくれてありがとう」
「わしの娘は」
「元気よ。相変わらずだから、あなたも元気を出して」
「しかたない、ユメノリス。通してやる、もう、生命とかかわるのはごめんだと思っていたが、相変わらず、美しいな」
「ありがとう」
「行け、その憎しみに取りつかれた愚かな神聖人を連れて、今すぐ」
「はい」
夢乃リスが、ふっと発光を停止した。
「顕れは?」
「ああ、あいつか、関わるな、と言っても、もう消えた……ゆけ、わしを困らせるなよ。お前でも、憎しみが飛びかねない」
すると、夢乃リスは気を失う。
ザクロは瞬きした。
攻撃は、止んでいた。
夢乃リスを支える。
そして、曲が流れ始める。
次元テレポート、別名、星間移動が始まった。
視覚がとらえる内部は、死の匂いに支配されている。
感覚の高まりとともに、徐々に暗闇から浮かび上がる、灯が点く。
回廊には、無数の青い光、壁に垂れるランプが、ザクロらを照らす。
一気に、走る。
何かを感じた。
ザクロの昂進する感覚が、高い天井、描かれた絵。
神話。
その一節、切り取られるように、死の世界の誕生だろうか。
髑髏の大群と死神の鎮座するそれは、蒼い光の中で、光の神を中心にして、血管のように走る星脈、光の神は、星に掲げるように、供物を持ち上げている。
足を止めて、しばらく三人は見上げていた。
「これは、古代の儀式」
と夢乃リスが言う。
「星の神話か、遺跡によくあるやつだな」
ラピスタ。
ザクロは、セリアのメモリー機能を使って、記憶する。
「しかし、何を表していると思う? リス」
「きっと、タイムスリップね。供物は、女か子供ね。よくあるやり方。蛍を利用したのよ」
「魂か」
「そうね、この世界にある万象システム、すなわち」
「ラカンティア・ソウル・システム」
「ええ、通称「Z」ね。眠っている子を起こさないように行きましょう。あまり見ていると知覚から攻撃を受けるわよ。襲ってくる」
「まあ、いい、先を急ごう」
しかし、甘かった。
もう、攻撃は始まっていた。
足元の床が溶ける。
幻灯が、体に這ってくる。
血。
体中の血が裏がえる。
眼が飛び出るような錯覚を受けて、ザクロは、目元を押さえた。
骨がすさまじい勢いで鳴り始めた。
「やべえな、敵はどこだ!」
ラピスタは、ダガーを抜く。
「これはまずいわね。遺跡が荒れている。普段は、安定しているのよ」
「そりゃそうだ。星間移動は、スムーズだったよ」
「つい三年前まではね」
星間移動には、本来危険はない。
三年前、「Z」に何らかの異常があったのだ。
ザクロは、マヒナルと療養していた星から、「戦争ボタル」と移ってこの「動物楽園」に来たのだが、確かに、遺跡を越えた。
ロッパルド警察の追跡を受けていたが、見事にかわして――しかし、追跡は熾烈だったけど、神聖人のザクロにとっては、それほどではなかった。所詮、ロッパルドは、ゴーダ、奴らは、群れるほどに残虐になる特性があるが、油断できなかったのは、遺跡に入る時。
ゴーダに突破できる科学力はないと言える。しかし、星と星は、単なる移動ではない。「神話を超えるように」と表現される。
神聖人と神々しか、遺跡を通ることが許されていない。越えられないと言える。
ゴーダ。
神聖人は奴らの名前を発するだけで、吐き気を覚える。それは想像に難くないだろう。
地面からやってくる手。
Zが攻撃するのは、侵入者だけ。
スクールを出る時に受け取るチップ。そう、脳に溶けたその許可証があれば、必ず通過を許してくれるのだが。一人でも仲間に神聖人がいれば通れる。「仲間」と信じていれば、精神感応で、夢乃リスも白雪蛇も、通れるのだが。
これは、認識で解る。
手が、引きずり込もうとする。
ザクロとラピスタは、必死に手を切る。
壁からも手が出てくる。
ザクロは、あまりの恐ろしさに、一瞬、天井を見上げてしまった。
天井画の死神が、鎌を構えたまま、その恐ろしい髑髏を揺らした。
壁画から、一気に髑髏の大群が抜けだしてくる。
さすがの夢乃リスも危険を感じた。
圧倒的な力の前に神聖人の二人はなす術もなく、死を感じる。
「ザクロ! 私に任せて!」
夢乃リスが叫んだ。
「何言ってる! お前に何ができる?」
「あなたを死なせるわけにはいかない」
「ああ? お前」
「力を全解放するから。目をつぶっていて」
ザクロとラピスタは察した。
夢乃リスのつぶらな瞳に、星々が宿っていた。
「お前、いったい?」
とラピスタ。
「Zを説得します」
「できるわけねえだろ!」
ザクロが叫ぶと、ラピスタはダガーを投げた。
それが、死神の大鎌に激突して、一瞬、ザクロの意識がそれる、再びリスに視線を向けると、リスは光体化していた。
古代ラカンティア語を呟いている。
聞いたことのない呪文だった。
二人は必死に手を切りながら、リスを守る。
髑髏たちが押し寄せる。
「Z、あなたは混乱している」
「……」
「Z、私の声を聴きなさい」
「……」
「Z、私がわかるでしょ」
「……お前は……」
「ユメノリス」
「ああ。なつかしい。元気か」
「ええ、返事をしてくれてありがとう」
「わしの娘は」
「元気よ。相変わらずだから、あなたも元気を出して」
「しかたない、ユメノリス。通してやる、もう、生命とかかわるのはごめんだと思っていたが、相変わらず、美しいな」
「ありがとう」
「行け、その憎しみに取りつかれた愚かな神聖人を連れて、今すぐ」
「はい」
夢乃リスが、ふっと発光を停止した。
「顕れは?」
「ああ、あいつか、関わるな、と言っても、もう消えた……ゆけ、わしを困らせるなよ。お前でも、憎しみが飛びかねない」
すると、夢乃リスは気を失う。
ザクロは瞬きした。
攻撃は、止んでいた。
夢乃リスを支える。
そして、曲が流れ始める。
次元テレポート、別名、星間移動が始まった。
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