iラバーポエマーズ

鏑木ダビデ

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レディワーク

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「ねえ、あれを見て」
 レディは、空を見て、飛んでいく鳥に、黒い犬をけしかける。
 爆発する野心と陽だまりにたむろするブラックドック&バード。
 鋭さの真下レディは、帽子のつばを直し、リンッとした面持ちで、風を行く。
漆黒の風が、レディを巻いて、彼女は、鳴きながら、物乞いに道を聴く、少女へ転身。
そこに、独りの黒服がやってくる。
「お嬢ちゃん、どうしたの?」
 黒服はハットを取って、にっこり笑う。
優しそうな中に、強さをはらむ、その顔はまるで、夢を追う少年のよう。
 髪を撫でられて、猫。
 従順さを装った猫は、したたかに、路上の薔薇を見つめる。
「どこへいくの?」
猫になった少女は、すっと、薔薇をくわえて、逃げていく。
どこからか「ボレロ」が聞こえる。
俺は、そんな場面を、電信柱に寄り掛かって眺めていた。
不意に、闇の奥、小道に視線を走らせた。
きらっとルビーの瞳が光る。
猫が俺に近づいてくる。しなやかに、忍び寄るように、影の群像をすりぬけ、俺の右肩に乗る。
野心を持ったような眼で、俺にすり寄る猫は、目をすっと細めて、何かをねだる。
「私は、野望がるの」
 と猫は言う。
 俺は薔薇を受け取って、猫にこう言った。
「それは、恋?」
「違うわよ。子どもの頃に見たシンデレラの城は、もういらないの」
「……」
「ようは」
「子供の頃に帰りたい?」
「私、愛する人の胸に帰りたい」
 そして猫は一瞬、ビルの間から空を見上げ、目に映りこんだ鳥に目をやった。
 タンっと飛び降りて、俺に、薔薇だけを残していってしまった。
 俺は指を見た。
 薔薇に棘は、無かった。
 ただ、諦めのような、陶酔があった。
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