上 下
7 / 9

第7話

しおりを挟む


 壊れるような指使い
 仕草を舐めとるかのように、私の視線は星奈の指を見る。
 人物観察は癖。
 推測する。
 瞳が潤む。
 情景。
 客を紙芝居の黒子。
 主人公は私と星奈。
「星奈さん夢は?」
「ぶしつけですね」
「きれいなブラウス」
「恋人に送られたんです」
「訊いてないわよ」
 ふっと微笑んで視線を外す。
 面食らった様子で、星奈は、手元のカップに口をつける。
 不意に私は十代の頃を思い出す。
 すぐやめた。
 心が冷めないうちに、シャッターを切りたくなる。
 撮影対象の職業なんてどうでもいい。
 ただ、情熱だけがあればいい。
「どうして、私なんですか?」
「どうしてだと思う?」
「わかりません」
「声」
「声は写らないはずです」
 星奈が笑う。
 歯を見た。
 肩が少し揺れる。
 つられた振りをする。
「あなたが自分自身を撮ればいいんじゃないでしょうか」
 星奈は目を細める。
「私、憧れているです」
「フォトグラファーに?」
「太陽にです」
「……」
 私は、表情を悟られまいと、カップに口をつける。
「星が沈んだら、朝はやってきますよね」
「詩的ね」
「現実的です。夜月さん」
「夜間学校かしら?」
「よくご存じですね」
 私はカメラを取り出した。
「このブラウス気に入ってます。カッコよく撮ってください」
 星奈の眼を静かだ。
 嫌いじゃない。
 私はシャッターを切った。
しおりを挟む

処理中です...