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第8話
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手が離れる距離。
私の夢が、時を越えて、憂愁の黄昏に、置いてくる、それは、一つの誓い。
まるで、沈んでいく日々のあきらめに近い、街角、一瞬が永遠になればいいなんて、甘い感傷かしらとつぶやいて、涙が込み上げてくる。
呼吸が、乱れる。
街に、電線に、街路樹に、断線したストッキングのような痛み、胸が苦しい。
十代の夢。
追いかけてきた、恋よりももっと大きな憧れ。
星奈。
星が陰る時間に、唾を吐きたくなる。
あの真っすぐな瞳が、私を逆に戸惑わせて、家路を急ぐ私を、殺したくなるような衝動が襲う。
それにしても、見上げる。
遠い。
何て、台無しになるんだろうか。
血が、回って、心臓の鼓動が速くなる。
痛い。
その時、スマホが鳴った。
着信は「ビート&ブラック」
電話に出ると、太陽の声がした。
「もしもし、夜月」
「なに?」
「これから会わない。俺のダンスを見てもらいたいんだ」
「星にでも願えば」
「え」
「星にでも、願えば」
「何を言ってるんだよ」
「だから、星にでも願えばって言ってるんだよ」
「……」
スマホの向こうで、太陽の鼻息がする。
「誤解だよ」
「切るわよ。このサイテー男」
私は、躊躇なく電話を切って、そのまま、一歩踏み出した。
靴が脱げる。
アディダスの赤いスニーカーを、電柱に向かって、叩きつけた。
こんなに混乱するなんて、なんて考える余裕はなく、すっと鼻を触る。
血が右の鼻の穴から出ている。
心臓が異常な速度で鳴っているのに気が付くと、ふらっと、コンクリートに片膝をつく。
視線の先に、白い馬車がいた。
シンデレラが乗っていたカボチャの馬車だろうか。
私はカメラをバッグから取り出した。
シャッターを向ける。
レンズを覗き込んだ。
馬車から一人の少女が降りてきた。
赤いドレスを着て、手に、パンダのぬいぐるみを持っている。
手を振ってきた。
シャッターを切った。
私は、うつぶせに倒れる。
ビート&ブラックがまたなった。
地面に落ちたスマホに手を伸ばした。
手が届く前に、かすんでいく。
スマホは鳴りやまない。
スマホは、振動したまま、誰かが拾った。
眼がその足元に行く。
ガラスの靴を履いている。
「靴が合わないの」
「そう」
「探してほしい」
「何を」
「太陽が昇る前に」
太陽が昇る前に……。
「いやだ」
「……」
私は目を伏せる。
スマホを返して欲しい。
「スマホを、返してよ」
「ガラスの靴」
「いいから」
「まめができるから、受け取って」
パンダのぬいぐるみ。
何て綺麗な靴なのかしら。
靴はキラキラとしたストリートを映している、まるで、今を閉じ込めるように。
こんな写真があればいい。
でも、私は、早く家に帰りたかった。
誰かを愛することは、誰かを信じるたびに、無くしていく。
何をって?
靴に決まっているじゃない。
早く、家に帰って、眠らないと。
明日は早いんだから。
手が離れる距離。
私の夢が、時を越えて、憂愁の黄昏に、置いてくる、それは、一つの誓い。
まるで、沈んでいく日々のあきらめに近い、街角、一瞬が永遠になればいいなんて、甘い感傷かしらとつぶやいて、涙が込み上げてくる。
呼吸が、乱れる。
街に、電線に、街路樹に、断線したストッキングのような痛み、胸が苦しい。
十代の夢。
追いかけてきた、恋よりももっと大きな憧れ。
星奈。
星が陰る時間に、唾を吐きたくなる。
あの真っすぐな瞳が、私を逆に戸惑わせて、家路を急ぐ私を、殺したくなるような衝動が襲う。
それにしても、見上げる。
遠い。
何て、台無しになるんだろうか。
血が、回って、心臓の鼓動が速くなる。
痛い。
その時、スマホが鳴った。
着信は「ビート&ブラック」
電話に出ると、太陽の声がした。
「もしもし、夜月」
「なに?」
「これから会わない。俺のダンスを見てもらいたいんだ」
「星にでも願えば」
「え」
「星にでも、願えば」
「何を言ってるんだよ」
「だから、星にでも願えばって言ってるんだよ」
「……」
スマホの向こうで、太陽の鼻息がする。
「誤解だよ」
「切るわよ。このサイテー男」
私は、躊躇なく電話を切って、そのまま、一歩踏み出した。
靴が脱げる。
アディダスの赤いスニーカーを、電柱に向かって、叩きつけた。
こんなに混乱するなんて、なんて考える余裕はなく、すっと鼻を触る。
血が右の鼻の穴から出ている。
心臓が異常な速度で鳴っているのに気が付くと、ふらっと、コンクリートに片膝をつく。
視線の先に、白い馬車がいた。
シンデレラが乗っていたカボチャの馬車だろうか。
私はカメラをバッグから取り出した。
シャッターを向ける。
レンズを覗き込んだ。
馬車から一人の少女が降りてきた。
赤いドレスを着て、手に、パンダのぬいぐるみを持っている。
手を振ってきた。
シャッターを切った。
私は、うつぶせに倒れる。
ビート&ブラックがまたなった。
地面に落ちたスマホに手を伸ばした。
手が届く前に、かすんでいく。
スマホは鳴りやまない。
スマホは、振動したまま、誰かが拾った。
眼がその足元に行く。
ガラスの靴を履いている。
「靴が合わないの」
「そう」
「探してほしい」
「何を」
「太陽が昇る前に」
太陽が昇る前に……。
「いやだ」
「……」
私は目を伏せる。
スマホを返して欲しい。
「スマホを、返してよ」
「ガラスの靴」
「いいから」
「まめができるから、受け取って」
パンダのぬいぐるみ。
何て綺麗な靴なのかしら。
靴はキラキラとしたストリートを映している、まるで、今を閉じ込めるように。
こんな写真があればいい。
でも、私は、早く家に帰りたかった。
誰かを愛することは、誰かを信じるたびに、無くしていく。
何をって?
靴に決まっているじゃない。
早く、家に帰って、眠らないと。
明日は早いんだから。
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