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二人海

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海岸線に消えていく波打ち際の天使たち。
絶望の息は、吐息に消えた、死の接吻が迫るあなたはまるで、アクアマリンのティアラ、海の姫。
死を歌って、消えようとする私とあなたは、露わな太もも、感じ合う言葉が副交感神経に踊る、舞姫、望郷の楽隊。
白い服を着た、悪魔が、誘う、波にまとう制服はレッドリボン。
自転車で海岸線を走るあの詩人は、オレンジの流線形。稲妻のようなデザイン、まるで、心を消した怪人が、ナイフを持って、やってくる。
二人きりの砂浜、日輪のカモメが、飛んでいく。
そして、マーメイドは、ジュゴンの姿で、誘惑する。幻想の幾何学トランスジェント・バルカスサウンド。
セーヌが流れ込む、この岸辺に、漂うように、項垂れる風は、吹きつけた、空の河、波動のサバルテッド・ぬいぐるみ、抱きしめる、六月の花嫁。ブライト・センス・つないだ手が、離れない、詩人は筆記する、海に沈んでいく二人の姿、心中の悲劇主義、死を待つだけの人間が、詩を描く、隙間に流れ込む、激流は、アベンヌ・セーヌス・バルストス・百合の紋章。
波にさらわれた二人の胸には、傷心の傷跡が、残る、奪われた現実と、迫りくる誘惑、二人海。足元に水が、飲みこんだ、飲み干したグラスの底にのこる塩水の赤いエンゲージリング、はめたら、左手の人差し指に風がふれる。
酸化するリングは、色を変える。
まるで錆びてしまった恋心、しかし消えないのは、抱きしめ合った記憶と、黄昏を迎えた海、七色に光る月、クラゲの輝き、橙のコラーゲン。ふりっふふりっふと、泳ぐ、まるで最後のキスのように、少女を刺す、クラゲにされて、悲鳴が漏れる。
乙女の最期は、手を離すこと。
誘われた音楽に、克明な宣告が、そして、告げる、別れを告げるように、クラゲから、身を離し、もどかしい唇が、恋人の口に刺さる。
詩人は、涙を流さない。
代わりにシャッターを切るように、ノートに走らせる。
オレンジの言葉を。
セーヌの夜明けと、アベンヌの黄昏が、ある一点で交差する。
それが、死、二人の死
詩人は、少し寂しくなって、ペンを止める。
止まらない幻想恋歌。
それが、詩、二人の詩。
別れ際に恋人の叫び。
痛いわ。
まるで破瓜のように儚く、詩人を覆う蔓バラは、六月の海にばらける、切ったナイフは、感受性のエッジ・コントロール。
そして、海の情景が、瞼を閉じた世界で、死んでいく、花は薔薇。
赤い海に咲く波間の純情は、結ばれた小指に絡みつく愛黄昏の海、二人、切り、指切り、詩と死の同化、越えていく歌は、名前もない恋の流星、落ちていく命の儚さ、そのまま、投げ出した、海の底の蛍、二人きりのセクシャル・デッド・エンド。
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