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消えゆく夏

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思い出が、消えていく、夏を渡る記憶、寂しげな蛍は、晩夏に泣く、痛む胸を信じて。
壮大な星空が、僕たち家族を包み込む、オーケストラのようなこの景色に、写真を撮った避暑地の高原。
サーバルトの別荘で、夢を語った一人で遊ぶ口笛と、優しい母の心。
包み込む愛は、まだ、頬も赤い僕を、撫でる鼻の頭にキスをして、人形とクマが躍る、この幻想の森深く。
さらさらと吹いてくるカーテンのような響き、おいしいお菓子をください。母さん。
背広を脱いで、かけるハンガー、記憶の中の父さんは、いつもおみあげ、ラーダの第九地区笹目氷の結晶饅頭。
おいしく頬張る僕の首に腕を回し、熱いからだが、冷めるまで、語ってくれたいつかの冒険のことを。
そんな父と母を、慕っている偉大な二人、父は、総督、母は女王。
ラミーダの海を渡る涙鳥が、泣くままに、泣き続けて、僕もないた、独りきりの航海。
旅立っていく父と母は、後悔をしないでねって言って、抱きしめてくれた。
海に沈んでいく星と、運命を歩く夜の虹、一歩一歩、気持ちのいい潮風は、朝になって、前髪を濡らした、顔を洗う真水で、樽には、シューローの水。
体を洗って、気分が晴れたら、船の上に出て、朝の虹を見る。
ずっと輝いているまるでアーチは、故郷の家の門のような、そこで笑う僕の父と母、記念に撮った写真を胸に抱いて、甘ったれなこの僕をいつも守ってくれていた二人に、あいさつ、今日も、行ってきます。永遠の旅が、終わらないこの道で、航路を進む僕の気持ちに答えてくれ、僕の愛するリスたち、なぜ? リスは、海にはいないけれど、シューローの水をかけた濡れる体毛が、プルリと震えて、朝の食事の後に、仕事を始める。
詩人の僕は、この空と海と向こうにいる父母の後を追うように、走っていく、永遠の夏の庭で。
夏草を指に巻いて、髪飾りを作ってくれる少女、まるでリスのような瞳で、愛を語る君初恋の永遠恋華。
ノートにつづる言葉は、揺れる船に酔う前に、酒を飲む、情景浄朝。
昼を迎える前に、先に行く、消えゆく夏は、朝に濡れる朝露、でも今は、旅の途中。
永遠。
生きなければいけない。
としたら、自分で決める。
父の背中を追って、母の手のぬくもりに愛を感じながら。
愛されながら。
やあ、虹を飛ぶ小鳥さん
アーチを抜けて、永遠に架かる光の思い出に帰っていくなら、思い出す。
ああ、家族がいてくれたことを。
忘れたくないから、詩を書いて、今を生きる、秘めたる胸は、いつも、夏に帰っていく、そうあのサーバルトの日差しに。

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