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ドール・ドール・カラフル

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 人形。
 おもちゃ箱には、大切にしてあるクマのおもちゃがはいっていました。
 ナナは、いつもお人形遊びをして、家じゅうを夢色に染めるように、白い壁に落書きをしていました。
 カラフルなパレット。
 夢を描きました。
 お姫様になって、王子様が迎えに来てくれる、何て言って微笑んで、ペットの白い猫にいたずらをします。
「こら、ナナ!」
 ママが、注意をしても、ナナは落書きをやめません。
「ようこそ、私の世界へ」
 ナナはその声に反応して、おもちゃ箱をぽっと覗き込みます。
「わああ!」
 発見しました。
 大切にしているクマのおもちゃ、
「あい、あっしは熊でごんす」
 ナナは、驚いて、さっと後ろに飛んで、また恐る恐る、おもちゃ箱を覗き込みます。
 白猫ニニャは手をなめて、遊んでいます。
「ねえ、ニニャ! こっちへきて、すごいよお」
 白猫ニニャは、ニャーッと鳴きます。
 窓辺にあった、ホワイトフラワーが、踊りだす。
「ぽ、ぽ、ぽ、わたくしほっとブレイクタイム」
 音楽が流れます。
 ワルツ・フォー・デヴィ。
 昼下がり、お日様が、照っています。
「あっしは、ナナ様のおともをします」
「本当に?」
「はい、何でも言いつけてください」
「じゃあ、王子様を探してほしいの」
「はい、それはおやすいごようです」
 窓辺のホワイトフラワーが言う。
「ほ、ほほ、ぽっと一息しませんか。かわいいナナ様、自由なお絵描き」
 白いノート。純白錬金。夢の扉。
 滅茶苦茶に落書きをしたナナの絵は、王子様の指先をなぞる恋のゆきさき。
 ぱ、ぱ、ぱ。
 ライトフラッシュ。
 その時、電気が消える。「なに?」「にゃあ!」
 ぱ、ぱ、ぱ
 光のダンスをしましょう。
 王子様が、星のビスケットをくれました。「にゃあ!」
「どうですか?」
 王子様の声は、ワルツを踊るように軽快です。
「楽しみましょう」「にゃあ、にゃ、にゃあ!」
 おもちゃ箱から、次から次に、やってくる、おもちゃのダンサー。
 カラフルなネオンが、かちこちと動き出す。
 ネオンのメヌエットに合わせて、夢見心地で踊りだす。
 パープル、オレンジ、レッド&ナナ。
 色彩のナナ色ダンス。手を取る王子は、優しい瞳で、笑いかけて、一緒にブレイク。
 夢を見ている。そんな気持ちで、ナナはうっとりと王子の顔に唇を寄せました。
「あなたはお姫様」
「うれしい。ありがとう」
 キス。転調して瞬く間に、子犬のワルツに声を合わせます。るんるるるん。ふふふっとわらう、るんるるん。
 ポータブルスピーカーはつけっぱなしで、ダンスはしっぱなし、やがてつかれて、クマのおもちゃがこう叫びました。
「もう、そろそろ、ようござんすか」
 光のダンサーは滑りながら、交じり合う。ときめきの色彩旋律。「にゃん! にゃあああん!」
 溶けていく。そのまま、落ちて、転がりまわる白猫ニニャ。
「どうか、そろそろ、おつかれでごす」
「まだ、踊りたいのよ。夢の中にいたいの」
「にゃあにゃなあ」
 駄々をこねる白猫ニニャ、ナナも、物足りない。ママの声がしたから。

「おやつよ!」
 ナナは、昼下がりのおやつタイムに、はっとして、ダンスをやめました。
「また、会いましょうね。お姫様」
 クリッとした黒い瞳が一回閉じて、巻毛に指を絡め、夢の静寂に落ちる時。
 音楽が終わる。
 ワルツは途中で、おしまいです。
 おもちゃ箱に帰っていく、紅茶の香り、ダージリン。白猫ニニャは、大あくび。
 そんな日々はきっと一番大切な宝箱。
 一人遊びは、独りで、やるもの。少女の頃は過ぎ去っても、追憶は甘いクッキーとダージリンの香り。ワルツ・フォーレディ。君に捧げる最高の贈り物。王子は君を待っている。
そう現実の世界で。夢はかなわないもの、でも、かなえようと努力することが、幸福につながる。いつか死んでいく、ヤングブラッド、ロイヤルストレートフラッシュバック、メモリーダンス&七色の少女。
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