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思うように

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優雅な、時が、そっと光を放ち、いたずらな妖精が、俺の鼻頭を撫でた。
浮遊するような調べ。
時と時が、交じり合う、ある一点の交差点で、空間をねじまげた、ドワーフは、斧で、樹を切るように、少女の心の闇を狩った。
神の後ろで隠された、神々の策略と、髪を整える、少女の頭に光るルビーの髪飾り。
まるで光が、後ろで隠れて、守る天使の指先。ハートに触れるとこしえの暗闇。
少女の夢は、きっと、大らかな大地の果てる先にある、望みの、消えゆく無限の地平線。
優美に歌う、歌姫は隠された楽譜を、探してくる、そんな一夜の旅行に出かけた。
帰ってくる。
でも、帰らないでもいい。
竜が、大きな炎を吐いて、血にまみれた両手をそっとなめとる、サロメのような繊弱な少女。
俺は、時の果て行く終わりの時に、登りゆく朝の太陽の、さざめいたときめきを胸に、旅立った恋人の面影を探している。
隣町の世界は、明るいに違いない。
でも、今いるこの時は、永遠とはいいがたい。
ピアノの調べに乗って、妖精が鍵盤の上ではねて、銀の踊り子が、華やかなに舞う。
膨れ上がるつぼみと、爆発していく気球。
ぼっと華が開いて、天国が見つかる。
花弁の中に、蜜に埋もれた恋人を見つける。
助け起こして、空を飛び、鳥の鳴き声で、危険を知って、雲の間の亀裂に迷い込む。
思うように、行かないことも、あるけれども、先へ進まなくては、何も始まらない。
光から光へ。
闇から闇へ。
旅をしていく青年は、励ますように、握手を交わす。
「竜を倒さなければ」
しかし、時間が足りない。隠れていく姫君の、白き顔に、憂いの陰りを感じて、半分見えなくなって、月が上る。
もう、帰れないのか。
望郷の黄昏が、切り裂く列車の音にかき消され、黄色い鈍く暗い光が、視界の片隅で、細められて、すっと、空を捕まえる時、俺は隣でこう言った。
「愛を求めればいい」
しかし、夕暮れが過ぎて、帰路に就く群衆は、もう、彼を感じない。
 俺は静かに、ため息をついて、ふっと空を見やり、明日への希望を痛みに変えた。
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