悪役令嬢に転生したけど、推しが中の人だった件について

佐伯すみれ

文字の大きさ
8 / 19
市場に行こう!

市場に行こう!

しおりを挟む
――夏休み
 わたしは屋敷にアメリアを招待した。
ローゼン家の食卓に並ぶ料理は、どれも見事な品だった。銀の食器に盛られた肉料理、繊細な彩りの前菜、香り高いワイン。
けれどアメリアは、緊張で喉が詰まり、ほとんど箸を進められなかった。庶民の彼女にとって、この豪華さはむしろ居心地の悪さを増すばかりだった。

(……公爵令嬢として扱われるのは光栄なはずなのに。どうしてこんなに微妙に感じてしまうんだろう)

そんな時、街に外商がやってきて珍しい市が立つという知らせが届いた。普段は見られない輸入品や、職人の手作りの工芸品が並ぶらしい。

私はこの情報を得てアメリア、ルシアン、レオン、ノエル、ユリウスみんなを誘った。
「ねえ、みんなで市場に行かない? ルシアンも、ノエルも、ユリウスも!」

ルシアンは柔らかく微笑み

 
 「君が楽しめるなら」

 と快諾。

 
ノエルは

 「面白そうだな。珍しい品なら僕も興味がある」

と軽快に応じる。
 
ユリウスは少し間を置いて

 「……悪くない。外の風に触れるのもいいだろう」

 と静かに承諾した。

そして、庶民出の貴族レオンもその場にいた。彼はアメリアの緊張を見抜いていたのか、軽く肩をすくめて笑った。

 
「市場なら気楽だろう。俺も行こう。ウチは庶民からなりあがりの貴族だからかな?こういう雑踏の方が落ち着く」

その言葉に、アメリアの胸がふっと軽くなる。屋敷の豪華さに馴染めなかった自分を、レオンは自然に理解してくれていた。

夏の陽射しの下、五人は街へと向かう。
豪奢な屋敷から飛び出し、賑やかな市場へ――。
庶民と貴族の境界が少しずつ溶けていく、そんな夏の始まりだった。

街は夏の市で賑わっていた。人の声、屋台の呼び込み、香ばしい匂い――全部が眩しくて、胸が弾む。
私はふと足を止めた。目の前に並ぶのは、小さな宝石屋。値段は安いのに、光を受けてきらりと輝く石たちはとても質が良さそうだった。

「アメリア、見て。これ、色違いの髪飾り……一緒に買わない?」
そう言うと、アメリアの瞳もぱっと輝いた。二人で並んでつけたら、きっと楽しいだろう。
 しかし、アメリアはしゅんとして肩を落とすと

 
「ヴァイオレット様、あの品は私には高価で買えません。すいません……」

 と俯いてしまった。
 やってしまったー!
 わたしは今は公爵令嬢だが、アメリアは庶民。
 金銭感覚の違いに今頃気付くなんてー!

「あら、では私からプレゼントさせて下さいな。いつも仲良くしてくださってるお礼ですわ」

 スラスラと言葉が出てくる。
 よっしゃー!偉いぞ!お嬢様チート!

 けれど、その瞬間――ルシアンが静かに近づいてきて、柔らかく微笑んだ。
「それなら、僕からの贈り物にさせてほしい。二人に似合うと思うから」
そう言って、私とアメリアに髪飾りを手渡してくれた。

胸がどきんと跳ねる。嬉しい、でも少し照れくさい。
そして、彼が店の奥で何かを選んでいるのに気づいた。

 ……こっそり、誰かにネックレスを買っている。
 
(え、え、え……!もしかして私のプレゼント!?そんなの、反則じゃない?
 推しからプレゼントなんて、お風呂入っててもつけますよ!あ!そう言えば、髪飾りもプレゼントだった!――一生身につけます)

アメリアは隣で笑っているし、レオンは軽口を叩いて場を盛り上げてくれる。ユリウスは少し離れた場所で腕を組み、風のように静かに見守っている。
気づけば、私はゲームの主人公みたいにキャラクターたちに囲まれていた。

(なにこれ……ハーレム状態? キャピキャピしすぎて心臓がもたない!)

頬が熱くなるのを隠しながら、私は髪飾りをそっと髪に差した。
市場の喧騒の中で、私の夏は一層きらめいていた。
 
市場の賑わいを後にして、みんなと別れたあと。
私は少し名残惜しくて、胸の奥がまだ弾んでいた。髪飾りを揺らしながら歩いていると――。

「ヴァイオレット」
背後から呼ばれて振り返ると、ルシアンがいた。人混みから離れた静かな路地で、彼は少し照れたように笑っていた。

「さっきの店で……君に渡したいものがあるんだ」

そう言って、彼は小さな箱を差し出した。
開けると、中には繊細な銀のネックレス。光を受けて、宝石がきらりと揺れる。

「君に似合うと思って……こっそり買っておいた」

どきん、と心臓が跳ねた。
(え、え、え……! ルシアンが、私にだけ……!? キャー! キャピキャピすぎる!)

頬が熱くなって、言葉がうまく出てこない。
「……ありがとうございます。すごく、嬉しい……ですわ」
やっと絞り出した声は震えていた。

ルシアンは優しく微笑み、私の首元にそっとネックレスをかけてくれた。指先が触れた瞬間、さらに心臓が跳ねる。
(近い! 近い! こんなの、ゲームのイベントシーンじゃない!)

市場の喧騒から離れた静かな場所で、私だけに贈られた特別なプレゼント。
胸の奥でトキメキが止まらなくて、夏の夜風まで甘く感じられた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??

シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。 何とかお姉様を救わなくては! 日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする! 小説家になろうで日間総合1位を取れました~ 転載防止のためにこちらでも投稿します。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約

Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。 腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。 地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。 彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。 「死んで、私の影になれ」 彼女は知っていた。 この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。 そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。 これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

妹に幸せになって欲しくて結婚相手を譲りました。

しあ
恋愛
「貴女は、真心からこの男子を夫とすることを願いますか」 神父様の問いに、新婦はハッキリと答える。 「いいえ、願いません!私は彼と妹が結婚することを望みます!」 妹と婚約者が恋仲だと気付いたので、妹大好きな姉は婚約者を結婚式で譲ることに! 100%善意の行動だが、妹と婚約者の反応はーーー。

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ@『桜の嫁入り』発売中です
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

処理中です...