16 / 29
第16話
しおりを挟む
「良いか、これからは俺を呼ぶときは『あなた』と呼べ。特に戦の時、兵たちの前ではな。」
軍議のある部屋に向かう途中で廊下の角でリーネオさんが真顔で言ってきた。え? 突然どうしたの? 私は意味が判らなくて口をぱくぱくさせちゃった。
「間違っても『リーネオさん』などと他人行儀で『さん』付けで呼んではならぬ。そちらの呼び方が良いのなら『リーネオ』と呼び捨てにするが良い。」
ひぃっ、よ、呼び捨てとかもっと無理ですぅ!急にどうしたの、リーネオさん?
「さあ、どちらで呼ぶか、先ず選ぶが良い。時間が無い。さ、早くするが良い。」
私が何も言わないうちに「究極の二択」みたいになっちゃったよ。どうしよう。
「そ、それじゃあ・・・。『あなた』の方で・・・。」
勇気を振り絞って「あなた」を選択したよ。顔が赤くなるのが自分でも判る。
「何を赤くなっておる。さ、練習だ。呼んでみよ!」
「あ、あなた。」
下を向きながら精一杯呼んでみたけど、ちょっとどもっちゃった。
「下を向くな! 俺の眼を見ろ。真っ直ぐ見つめて自信を持って呼んでみよ!」
「あなた!」
顔が近い、近いですぅ。整った精悍な顔が息が掛かりそうなくらい近くにある。私は殆ど、自棄になって叫ぶように呼んでみた。一生懸命に彼の瞳を見つめながら。
「ふむ。まだ顔が少し赤いが良いだろう。直ぐに慣れる。その調子で頼むぞ。」
再び、軍議のある部屋に向かいながらリーネオさんは説明してくれた。【戦巫女】が王太子のことを他所他所しく呼んでいると兵隊さんたちの士気? つまり「やる気」が下がると言う事とか、もしかしたら、まだ【戦巫女】じゃないことを敵に悟られるかも知れない事とかだ。
ちょっと、それならそうで先に言って下さいよ。でも【戦巫女】の任命が終わったら結婚はまだでも婚約はするんだよね。今から「あなた」って言う呼び方にも慣れておかなくちゃね・・・。
「待たせたな! それでは軍議を始めようか。リン、其方は俺の横に座れ!」
「おお、貴方様が神々と交信が出来、悪神に罰すらお与えになれると言う【戦巫女】リン様であられますか! このお方が我が軍について居られれば此度の戦の勝利は間違いない!」
偉い兵隊さんの一人がそう言うと、周りの人たちも一斉に活気付いた。そうか、なるほど此処で、私が『リーネオさん』なんて他人行儀に彼を呼んじゃうと皆が不安になっちゃうわけか・・・。事情は分かったけど、もうちょっと早く行って欲しかったよ。男の人って、偶に言わなきゃいけない事の順番間違えるよね・・・。
「皆さん、この度は良く集まって下さいましたね。私は水の上での戦は初めてです。どうかお助け下さいね。それでは貴方、軍議をお始め下さい。」
私は集まっている人たちの眼を見ながら、出来るだけ丁寧に挨拶した。ちゃんと「あなた」も言えたぞ! 頑張ったよ、私。ちょっと頬っぺた赤くなった気がするけど。
「うむ。軍議を始める。皆の者、忌憚の無い意見を述べよ。」
リーネオさんが軍議を始めた途端、皆さんが活発に意見を出し始めたよ。その一つ、一つを最後までしっかり聞いてから、彼はその意見の良い所を拾い上げる。けれど、どうしても此処がダメと言う点があれば、どんなに良い所があってもその意見を取り入れることも無かった。
「うむ、天気が荒れた方が有利なのは確かか。我らがイコォーマの方が操船には長けておるからな。 して、明日の天候は?」
「漁師たちによると、明日は残念ながら快晴との見立てです。」
そうか。色々な条件を頭に入れて戦ってするんだな。私、感心しちゃったよ。だって、ゴルジョケアの戦の前には軍議なんて無かったし。適当に兵隊の頭数だけ比べて勝てるとか思ったら、直ぐに戦始めてたよ。部下に意見聞くとかしなかったもん。大体、【戦巫女】さえ居れば勝てるって相手のこと舐めてたし。
「ふむ。天候までは我らの意のままには出来ぬ。明日は此度の軍議で纏めた打合せ通りにやれば必ず勝てる。なんと言っても天下無双の【戦巫女】リンが我が方について居る。皆の者、明日は勝つぞ!」
リーネオさんが軍議を締める。って、私のことを持ち上げ過ぎないで下さい。大体、明日はティタルちゃんが【戦巫女】ですよぅ。過大評価、反対!
「さて、明日は朝早くから戦になる。早く、寝所に戻ってティタルと共に良く休むが良い。俺も準備を確認したら、直ぐに休む。明日は大働きしてやるからな!」
もう大張り切りだ、リーネオさん。私も絶対に足を引っ張らない様にしなきゃね。寝所に戻った私は寝ているティタルちゃんを起こさない様にベッドに入った。そうだ、寝る前に一つやらなきゃならないことを思い出したよ。私はそれを終えると直ぐに眠った。不思議と不安は無かった。
軍議のある部屋に向かう途中で廊下の角でリーネオさんが真顔で言ってきた。え? 突然どうしたの? 私は意味が判らなくて口をぱくぱくさせちゃった。
「間違っても『リーネオさん』などと他人行儀で『さん』付けで呼んではならぬ。そちらの呼び方が良いのなら『リーネオ』と呼び捨てにするが良い。」
ひぃっ、よ、呼び捨てとかもっと無理ですぅ!急にどうしたの、リーネオさん?
「さあ、どちらで呼ぶか、先ず選ぶが良い。時間が無い。さ、早くするが良い。」
私が何も言わないうちに「究極の二択」みたいになっちゃったよ。どうしよう。
「そ、それじゃあ・・・。『あなた』の方で・・・。」
勇気を振り絞って「あなた」を選択したよ。顔が赤くなるのが自分でも判る。
「何を赤くなっておる。さ、練習だ。呼んでみよ!」
「あ、あなた。」
下を向きながら精一杯呼んでみたけど、ちょっとどもっちゃった。
「下を向くな! 俺の眼を見ろ。真っ直ぐ見つめて自信を持って呼んでみよ!」
「あなた!」
顔が近い、近いですぅ。整った精悍な顔が息が掛かりそうなくらい近くにある。私は殆ど、自棄になって叫ぶように呼んでみた。一生懸命に彼の瞳を見つめながら。
「ふむ。まだ顔が少し赤いが良いだろう。直ぐに慣れる。その調子で頼むぞ。」
再び、軍議のある部屋に向かいながらリーネオさんは説明してくれた。【戦巫女】が王太子のことを他所他所しく呼んでいると兵隊さんたちの士気? つまり「やる気」が下がると言う事とか、もしかしたら、まだ【戦巫女】じゃないことを敵に悟られるかも知れない事とかだ。
ちょっと、それならそうで先に言って下さいよ。でも【戦巫女】の任命が終わったら結婚はまだでも婚約はするんだよね。今から「あなた」って言う呼び方にも慣れておかなくちゃね・・・。
「待たせたな! それでは軍議を始めようか。リン、其方は俺の横に座れ!」
「おお、貴方様が神々と交信が出来、悪神に罰すらお与えになれると言う【戦巫女】リン様であられますか! このお方が我が軍について居られれば此度の戦の勝利は間違いない!」
偉い兵隊さんの一人がそう言うと、周りの人たちも一斉に活気付いた。そうか、なるほど此処で、私が『リーネオさん』なんて他人行儀に彼を呼んじゃうと皆が不安になっちゃうわけか・・・。事情は分かったけど、もうちょっと早く行って欲しかったよ。男の人って、偶に言わなきゃいけない事の順番間違えるよね・・・。
「皆さん、この度は良く集まって下さいましたね。私は水の上での戦は初めてです。どうかお助け下さいね。それでは貴方、軍議をお始め下さい。」
私は集まっている人たちの眼を見ながら、出来るだけ丁寧に挨拶した。ちゃんと「あなた」も言えたぞ! 頑張ったよ、私。ちょっと頬っぺた赤くなった気がするけど。
「うむ。軍議を始める。皆の者、忌憚の無い意見を述べよ。」
リーネオさんが軍議を始めた途端、皆さんが活発に意見を出し始めたよ。その一つ、一つを最後までしっかり聞いてから、彼はその意見の良い所を拾い上げる。けれど、どうしても此処がダメと言う点があれば、どんなに良い所があってもその意見を取り入れることも無かった。
「うむ、天気が荒れた方が有利なのは確かか。我らがイコォーマの方が操船には長けておるからな。 して、明日の天候は?」
「漁師たちによると、明日は残念ながら快晴との見立てです。」
そうか。色々な条件を頭に入れて戦ってするんだな。私、感心しちゃったよ。だって、ゴルジョケアの戦の前には軍議なんて無かったし。適当に兵隊の頭数だけ比べて勝てるとか思ったら、直ぐに戦始めてたよ。部下に意見聞くとかしなかったもん。大体、【戦巫女】さえ居れば勝てるって相手のこと舐めてたし。
「ふむ。天候までは我らの意のままには出来ぬ。明日は此度の軍議で纏めた打合せ通りにやれば必ず勝てる。なんと言っても天下無双の【戦巫女】リンが我が方について居る。皆の者、明日は勝つぞ!」
リーネオさんが軍議を締める。って、私のことを持ち上げ過ぎないで下さい。大体、明日はティタルちゃんが【戦巫女】ですよぅ。過大評価、反対!
「さて、明日は朝早くから戦になる。早く、寝所に戻ってティタルと共に良く休むが良い。俺も準備を確認したら、直ぐに休む。明日は大働きしてやるからな!」
もう大張り切りだ、リーネオさん。私も絶対に足を引っ張らない様にしなきゃね。寝所に戻った私は寝ているティタルちゃんを起こさない様にベッドに入った。そうだ、寝る前に一つやらなきゃならないことを思い出したよ。私はそれを終えると直ぐに眠った。不思議と不安は無かった。
0
あなたにおすすめの小説
◆平民出身令嬢、断罪で自由になります◆~ミッカン畑で待つ幼馴染のもとへ~
ささい
恋愛
「え、帰ってくんの?」
「え、帰れないの?」
前世の記憶が蘇ったニーナは気づいた。
ここは乙女ゲームの世界で、自分はピンク髪のヒロインなのだと。
男爵家に拾われ学園に通うことになったけれど、貴族社会は息苦しくて、
幼馴染のクローにも会えない。
乙女ゲームの世界を舞台に悪役令嬢が活躍して
ヒロインをざまあする世界じゃない!?
なら、いっそ追放されて自由になろう——。
追放上等!私が帰りたいのはミッカン畑です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる