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1章
5話 過去と決断
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「本当に魔王討伐に興味がないのか?」
「無いね。魔王なんて、勇者パーティに任せればいいと思ってるし」
「勇者の剣を無くした奴らが、勝てるとは到底思えないが」
「…」
それは確かに一理ある、とすれば勇者パーティは必ず私を探し出して奪い返しに来る筈だ。
ならば私としては早いとこ勇者の剣を売り払い母に送るのが最適解だろう、わざわざそんな危険を冒しに行く理由はない。
「…もし、魔王が倒されずに生き続けたら、どうなるの?」
「そりゃ勿論、迎えるのは破滅だけだ。人は皆死に絶え、残るは果てた大地だけ。良い事は何一つない」
「そうだとしても、私がわざわざ出向く必要もないでしょ。私は自分と母が幸せに暮らせるだけの金があれば十分なんだ」
「…そうか。ならこういうのはどうだい? 代々勇者は、魔王討伐後に富と名誉が手に入る。君の望む金も手に入り、地位も今より更に高くなる」
私は地位という言葉を聞いた瞬間、つい頭に血が上る。
勇者の剣を床に投げつけ、無意識に言い放つ。
「金はいい、でも地位なんてものはいらない! もしそれで貴族や勇者の奴らと同じになったら…それこそ、死んだほうがマシかもしれない」
「…そうか、君はそういう人たちが苦手なのかい?」
「苦手の上、嫌いなの。弱者を常に見下し、自分の利益しか考えないような奴らなんて…生きている資格なんてない」
全部吐ききった所でハッとなり我に返る、短気な性格は一行に治る気配はないようだ。
勇者の剣に「忘れて」と言い、窓の方を見る。王都の兵士たちが周囲を厳重警戒している様子が見て取れる。これでは闇商人の所へも迂闊に行けそうにない。
つまり、嫌でもこの勇者の剣と暫く一緒にいないといけないというわけだ。
「…そこまで嫌っているとは思わなかった。僕の方こそすまない事を言った。だが、それなら地位を得なければいい」
「…どういうこと?」
「魔王を倒せば、君は王に感謝されるだろう。もしそうなったならば、少しは政治や政策にも口を出せる立場になるだろう、実際私もその立場になった事がある。当然反対意見も多かったけどね」
「私が…新たな未来を作れる、と?」
「そうだ…いや、未来じゃないな。世界を作れるのだ、君の望む理想郷を、な!」
理想郷…私の望む理想郷。それはつまり、貴族や村民等の格差も無く、差別もなく、誰もが笑顔で笑いあい生活できるような世界にできるというのか?
さすがに誇張しすぎているが、勇者の剣が言うには大体そういうことなのだろう。
確かにそれは、金で買えるような物でもない。
「…成程」
「どうかな?」
「確かに、私の思うような明るい未来を作れるのならば、命を懸ける理由はあるかもしれない」
「だろう?」
椅子に腰をかけ、天井を仰ぐ。
「私、さ。小さい頃、故郷を支配していた貴族のポケットから宝石を盗んだことがあってね、天職のサガっていうのかな。その宝石を母に渡したら、スゴイ嫌な顔をされたよ」
「成程、確かに自分の娘が悪事をしたとなると、嫌な思いの一つや二つする物だ」
「うん、実際私もその自覚はあったから分かるよ。そしてその時に言われたんだ、『もう二度とこんなことしないで』って」
親は私を盗賊としてではなく、心優しい村娘として育てたかったのだろう。でも、それは結局叶う事なんてなかった。もし故郷が貴族に支配されてさえいなければ、それは変わっていたのかもしれないけれど。
「…でも、その約束は守れなかった。結局、私達みたいな何もできない弱者は、こうでもしないと生きる事ができなかったんだ…! どこへ行っても、天職が盗賊って知った途端に悪者や除け者扱いにされる。それならいっそ、こうやって盗み稼業をして生計を立てた方が稼げるって思ったんだ」
「…君は」
「…ごめん、気が高ぶりすぎた」
気づくと、涙が流れていた。今まで心の中に秘めていた物全てを吐ききったからだろうか? でも、少し身体にかかっていた重みが外れ、身体が軽くなったように感じる。
「…貴方のいう魔王討伐…もしかしたら、母との約束を果たす良い機会なのかもしれないね。人の為にもなり、私の為にもなる。自分の命を懸ける分、得られる対価も確かに多い」
「ということは…」
「…うん、受けるよ。私にできるというのなら」
「…ありがとう、やはり僕の見込んだ通りだ」
実を言うと、あまり深くは考えずに、答えを出してしまった。
でも、後悔はしていない。これでもし魔王討伐を果たして、誰もが笑って幸せに暮らせるようになるというのなら…、私の命なんて軽い物だ。
こうして、私は新たな道を歩みだしたのだ。
「無いね。魔王なんて、勇者パーティに任せればいいと思ってるし」
「勇者の剣を無くした奴らが、勝てるとは到底思えないが」
「…」
それは確かに一理ある、とすれば勇者パーティは必ず私を探し出して奪い返しに来る筈だ。
ならば私としては早いとこ勇者の剣を売り払い母に送るのが最適解だろう、わざわざそんな危険を冒しに行く理由はない。
「…もし、魔王が倒されずに生き続けたら、どうなるの?」
「そりゃ勿論、迎えるのは破滅だけだ。人は皆死に絶え、残るは果てた大地だけ。良い事は何一つない」
「そうだとしても、私がわざわざ出向く必要もないでしょ。私は自分と母が幸せに暮らせるだけの金があれば十分なんだ」
「…そうか。ならこういうのはどうだい? 代々勇者は、魔王討伐後に富と名誉が手に入る。君の望む金も手に入り、地位も今より更に高くなる」
私は地位という言葉を聞いた瞬間、つい頭に血が上る。
勇者の剣を床に投げつけ、無意識に言い放つ。
「金はいい、でも地位なんてものはいらない! もしそれで貴族や勇者の奴らと同じになったら…それこそ、死んだほうがマシかもしれない」
「…そうか、君はそういう人たちが苦手なのかい?」
「苦手の上、嫌いなの。弱者を常に見下し、自分の利益しか考えないような奴らなんて…生きている資格なんてない」
全部吐ききった所でハッとなり我に返る、短気な性格は一行に治る気配はないようだ。
勇者の剣に「忘れて」と言い、窓の方を見る。王都の兵士たちが周囲を厳重警戒している様子が見て取れる。これでは闇商人の所へも迂闊に行けそうにない。
つまり、嫌でもこの勇者の剣と暫く一緒にいないといけないというわけだ。
「…そこまで嫌っているとは思わなかった。僕の方こそすまない事を言った。だが、それなら地位を得なければいい」
「…どういうこと?」
「魔王を倒せば、君は王に感謝されるだろう。もしそうなったならば、少しは政治や政策にも口を出せる立場になるだろう、実際私もその立場になった事がある。当然反対意見も多かったけどね」
「私が…新たな未来を作れる、と?」
「そうだ…いや、未来じゃないな。世界を作れるのだ、君の望む理想郷を、な!」
理想郷…私の望む理想郷。それはつまり、貴族や村民等の格差も無く、差別もなく、誰もが笑顔で笑いあい生活できるような世界にできるというのか?
さすがに誇張しすぎているが、勇者の剣が言うには大体そういうことなのだろう。
確かにそれは、金で買えるような物でもない。
「…成程」
「どうかな?」
「確かに、私の思うような明るい未来を作れるのならば、命を懸ける理由はあるかもしれない」
「だろう?」
椅子に腰をかけ、天井を仰ぐ。
「私、さ。小さい頃、故郷を支配していた貴族のポケットから宝石を盗んだことがあってね、天職のサガっていうのかな。その宝石を母に渡したら、スゴイ嫌な顔をされたよ」
「成程、確かに自分の娘が悪事をしたとなると、嫌な思いの一つや二つする物だ」
「うん、実際私もその自覚はあったから分かるよ。そしてその時に言われたんだ、『もう二度とこんなことしないで』って」
親は私を盗賊としてではなく、心優しい村娘として育てたかったのだろう。でも、それは結局叶う事なんてなかった。もし故郷が貴族に支配されてさえいなければ、それは変わっていたのかもしれないけれど。
「…でも、その約束は守れなかった。結局、私達みたいな何もできない弱者は、こうでもしないと生きる事ができなかったんだ…! どこへ行っても、天職が盗賊って知った途端に悪者や除け者扱いにされる。それならいっそ、こうやって盗み稼業をして生計を立てた方が稼げるって思ったんだ」
「…君は」
「…ごめん、気が高ぶりすぎた」
気づくと、涙が流れていた。今まで心の中に秘めていた物全てを吐ききったからだろうか? でも、少し身体にかかっていた重みが外れ、身体が軽くなったように感じる。
「…貴方のいう魔王討伐…もしかしたら、母との約束を果たす良い機会なのかもしれないね。人の為にもなり、私の為にもなる。自分の命を懸ける分、得られる対価も確かに多い」
「ということは…」
「…うん、受けるよ。私にできるというのなら」
「…ありがとう、やはり僕の見込んだ通りだ」
実を言うと、あまり深くは考えずに、答えを出してしまった。
でも、後悔はしていない。これでもし魔王討伐を果たして、誰もが笑って幸せに暮らせるようになるというのなら…、私の命なんて軽い物だ。
こうして、私は新たな道を歩みだしたのだ。
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