15 / 20
第十五話 僕はね
しおりを挟む
そこは村というには異質な場所だった。円錐状の幾つもの奇岩が威圧感を持って聳え立ち、至る所に大小様々な穴が空いている。
ニーナに聞くとそれぞれに村人が居住する為くり抜かれた部屋が存在しているらしい。
復讐の為だけに生きて来た【清め火】達に取ってこの穴蔵は揺り籠の様なものだと彼女は言った。亡くしてしまった母親達のせめてもの餞の場所、小さい頃から何かある度に聞かされて来たから本当は余り帰って来たくなかったんだ、悲しくなるからさ、とニーナは言った。
私とジンはそれに対しての言葉を持たずその場に呆けた様に立ち尽くしていた。
「そうだ、見えてる部分だけがこの村の全てじゃなくてね、実は地下に…」
ニーナが僕らに向かって振り返った時、彼女の肩の向こう、村の奥の方から異形の仮面達が集団でやって来た。先頭の仮面の背は低く杖をついていて赤銅色のローブを纏っている。どうやらこの村の長老の様だ。
「お前の中に穢れた神がいるのか?」
話しかけて来た声は錆びた剃刀の様で体温を感じなかった。私はなんとなくヨコに似ているなと思った、無言で頷く。どうやら仮面達は私達を手放しに歓迎するという意図は無いらしい、それは当たり前だと私はため息をついた。積年の恨みの元凶が目の前にいるのだ。憎しみと怒り、猜疑心と好奇心、そして哀れみが見て取れた。大いなる神を憎み、それを終わらせようとする者達の村。
獣の群れの中に放り込まれた様な心持ちになる。
私達三人はぐるりと取り囲まれまるで鳥籠の中にいる様だった。
「手紙は読ませてもらったよ、心臓にへばりつく蟲を取り除きたいんだろう?ここまでやって来た勇気とニーナに敬意を払い試してやろうじゃないか。
お前の中に巣食うそいつは対象物が死んだとなれば這い出して来て次の宿主を探す筈だ。だから、お前を一度仮死状態にして心臓を止めてしまえばもしかしたら分かつ事が出来るかもしれない。」
試した事もない全て仮定の話だ、とザラザラとした抑揚の無い声で長は言った。
私はジンとニーナの目を交互に見て言った。
「確かにもう手段はこれしか無いかもしれない。可能性があるならやってみよう。」
不安そうな二人の肩を叩く。大丈夫だと何度も言い聞かせながら、多分これは私自身への鼓舞でもあったのだ。
「死んだら殺す!絶対に生きて帰って来てね。」
ニーナが私を抱きしめた。
彼女の温もりを感じた私の目から不意に涙が溢れた。張り詰めていた心が緩み堰を切った様に嗚咽を漏らす。
––– 嗚呼、生きたかったんだ。
私はそう思った。
破れかぶれの様に、感情を殺す様に、大いなる神への怨嗟で心に蓋をして来たけれどもうそんな事はどうでも良くなった。
声を枯らしながら私は泣いた。そしてニーナを抱きしめた。ジンはそれを見て笑顔を見せていた。
鳥籠の中の私達は今人生で一番自由だった。
自らの意志でここに立っている。全ては一緒に生きていく為に。
「覚悟は決まったようだな若造、必死に生き残ってくれ、我々もここで終わらせたいのだ、そしてお前のような者をこれ以上増やさない為にこうやって生きて来たのだからな。死んでいった者たちの為にも帰って来てくれ。若い者が年寄りより先に死んではならんのだ。」
長が仮面を取ると長い白髪の厳しい老婆の顔が現れた。やはり顔は焼け爛れていて人の愚かさと醜さに私は決意をあらたにした。
ニーナに聞くとそれぞれに村人が居住する為くり抜かれた部屋が存在しているらしい。
復讐の為だけに生きて来た【清め火】達に取ってこの穴蔵は揺り籠の様なものだと彼女は言った。亡くしてしまった母親達のせめてもの餞の場所、小さい頃から何かある度に聞かされて来たから本当は余り帰って来たくなかったんだ、悲しくなるからさ、とニーナは言った。
私とジンはそれに対しての言葉を持たずその場に呆けた様に立ち尽くしていた。
「そうだ、見えてる部分だけがこの村の全てじゃなくてね、実は地下に…」
ニーナが僕らに向かって振り返った時、彼女の肩の向こう、村の奥の方から異形の仮面達が集団でやって来た。先頭の仮面の背は低く杖をついていて赤銅色のローブを纏っている。どうやらこの村の長老の様だ。
「お前の中に穢れた神がいるのか?」
話しかけて来た声は錆びた剃刀の様で体温を感じなかった。私はなんとなくヨコに似ているなと思った、無言で頷く。どうやら仮面達は私達を手放しに歓迎するという意図は無いらしい、それは当たり前だと私はため息をついた。積年の恨みの元凶が目の前にいるのだ。憎しみと怒り、猜疑心と好奇心、そして哀れみが見て取れた。大いなる神を憎み、それを終わらせようとする者達の村。
獣の群れの中に放り込まれた様な心持ちになる。
私達三人はぐるりと取り囲まれまるで鳥籠の中にいる様だった。
「手紙は読ませてもらったよ、心臓にへばりつく蟲を取り除きたいんだろう?ここまでやって来た勇気とニーナに敬意を払い試してやろうじゃないか。
お前の中に巣食うそいつは対象物が死んだとなれば這い出して来て次の宿主を探す筈だ。だから、お前を一度仮死状態にして心臓を止めてしまえばもしかしたら分かつ事が出来るかもしれない。」
試した事もない全て仮定の話だ、とザラザラとした抑揚の無い声で長は言った。
私はジンとニーナの目を交互に見て言った。
「確かにもう手段はこれしか無いかもしれない。可能性があるならやってみよう。」
不安そうな二人の肩を叩く。大丈夫だと何度も言い聞かせながら、多分これは私自身への鼓舞でもあったのだ。
「死んだら殺す!絶対に生きて帰って来てね。」
ニーナが私を抱きしめた。
彼女の温もりを感じた私の目から不意に涙が溢れた。張り詰めていた心が緩み堰を切った様に嗚咽を漏らす。
––– 嗚呼、生きたかったんだ。
私はそう思った。
破れかぶれの様に、感情を殺す様に、大いなる神への怨嗟で心に蓋をして来たけれどもうそんな事はどうでも良くなった。
声を枯らしながら私は泣いた。そしてニーナを抱きしめた。ジンはそれを見て笑顔を見せていた。
鳥籠の中の私達は今人生で一番自由だった。
自らの意志でここに立っている。全ては一緒に生きていく為に。
「覚悟は決まったようだな若造、必死に生き残ってくれ、我々もここで終わらせたいのだ、そしてお前のような者をこれ以上増やさない為にこうやって生きて来たのだからな。死んでいった者たちの為にも帰って来てくれ。若い者が年寄りより先に死んではならんのだ。」
長が仮面を取ると長い白髪の厳しい老婆の顔が現れた。やはり顔は焼け爛れていて人の愚かさと醜さに私は決意をあらたにした。
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
王子様への置き手紙
あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる