コロニー

神楽 羊

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第十六話 死者への祈りその行き先について

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 長の集団に導かれて私はジンとニーナの二人と共に螺旋階段を降りて行った。

 奇岩の住処の地下はとても深く、仮面達が照らす松明の明かりがなければ自分がどこにいるのか、生きているのか死んでいるのかさえ分からない、まるで深淵を歩いている気持ちになった事だろう。

 ローブを引き摺る仮面達は何も語らず私達をただその底の部屋まで運んで行く。
 深く深く落ちた先、小さな扉を開くと暖かい無数の蝋燭の光と祭壇が見えた。

「ここはな【清め火】の魂の場、迫害され殺された者達を弔う場所さ。
 ここで我々は一日に何度も祈りを捧げる。
 勿論もちろん、神になどではなく、何の落ち度も無く死ななくてはならなかった者達への安寧と平穏の祈り、それを願う場所さね。」

 蝋燭が取り囲む部屋の壁を見ると全ての壁一面に膨大な名前が刻まれていた。

 それほど村を追われた者達への迫害が悲惨で残虐で甚大だった事を物語っていてた。
 喉が詰まる。

「お前達からの手紙を読んだ時、方法を試すのはこの場所しかないと思った。どうか生きて戻ってくだされ、我々はここで継手の君の心臓が止まった事を確認し穢れた神を燃やす為に夜を明かしますので。」

 長はそう言うと紫色の液体が入った小瓶を取り出し私に手渡した、その手は少し震えていた。

「わかりました、必ず戻って来ます、大いなる神をどうかあなた方の手で打ち倒して下さい。」

心配そうなジンとニーナに私は笑顔を見せてから小瓶を一気に飲み干し、そのまま意識を失った。

「私とジンも一緒に寝ずの番やるから!」
 ニーナが何となく不穏な言葉を言ったのを覚えている。



***




他者からの攻撃は無力だと言ったろうに、無駄な事を、ただお前の寿命が縮まっただけだ。

–––気づけば大いなる神が大の字になっている私を見下ろしていた。

 前の男は、リンネと言ったか。あいつも中々興味深いやつだったな。

 継手は赤目には喰われる、そもそもそれを想定して私が造ったものなのだからな、守るべき防御壁自体、それが無い。
 それとリンネ、奴はコロニーの民の為に幾分無茶をし過ぎた。自ら出なくてもいいクリーチ狩りに出掛けては命を削ってな、自己犠牲の賜物たまものだよ、言っておくがこれは皮肉だ。

 赤目に喰い千切られる様はとても見応えがあった。蓄積された傷が無かったならば赤目すら敵では無かっただろうに自らを省みない心底哀れな男だった。

「お前は神と呼ぶには虫唾が走る程の邪悪だ。」

 お前は今までに地面に群がる蟻を踏む事について気にした事があるのか?お門違いも甚だしいな、身を弁えろ小僧。

 お前は私の存在を消そうとしている、そうだな?

 私はそこまで抗おうとするお前も買っているのだ、前の贄、リンネと同じように。

 そして慈しんでもいる。

 愛している者がいるのだろう、知っているよ。
 今、私はお前の一部なのだからな。

 映画のようだ、映画という概念がない世界に生まれたお前達を可哀想に思うよ。
 
対立し憎み合った部族に生まれた二人の愛とはこうも琴線に触れるものなのだな、恐れ入ったよ。

 まるでロミオとジュリエットの様だ。

 長くお前達を見ているうちにどうやら私も俗っぽくなった。

 そしてもう疲れた。

 お前に機会をやろう、これもただの戯れだ。

 私はお前の【敵】に対し全力で殺す様に出来ている。それを貫通する天敵であった赤目ももういない。

 私を傷つける事は出来ない。

 勘の良いお前の事だ、これで理解出来たろう。出来なかったのならそこまでだ、これは慈善事業じゃないのだからな。

 それでは若き継手、最期に一つ質問だ。

 これが運命だったと言えるか?

 お前が飲んだ毒に意味がなかったと分かった時掌を返すように仮面達は言うだろう。
 
お前ごと燃やしてしまえ、と


 人間というのは本当に面白いものだったよ、慈愛に満ちた個体が居ると思えば、どこまでも残虐になれる個体もいる。

 二面性には目を見張るものがあった。



 それでもなお、人を、彼らを含めそれでも救おうと思うのならばよく考え、行動をする事だ。

 
***

 私は激しい吐き気と共に飛び起きた。
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