王子と俺は国民公認のカップルらしい。

べす

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おまけ


穏やかな午後の昼下がり、俺は王宮の中庭で御年三歳となる王太子殿下のご子息ミルバ様と鬼ごっこに勤しんでいた。

「ほら、レダ、おそいぞ!早くつかまえてみろ!」

「待ってくださいよ~。」

幼子がてててっと芝生の上を駆ける姿は癒やし以外の何でもない。
ただ、それを眺めている人物たちが視界にチラつかなければだが。

「ご覧下さい、兄上。無邪気に走るレダの何と愛らしい事か…。青空の下元気いっぱい駆けるレダを見ているだけで仕事の疲れなど吹っ飛びます。」

「…ロギルダ。それは本来私の息子を見て放つべき台詞だぞ。いくら見目麗しかろうが二十歳の騎士を見て出て来る感想ではないだろう。」

全くその通りである。

ここ最近、ロギルダ殿下は前にも増して柔らかく穏やかになったと評判だ。
本人曰く俺が伴侶になる事を了承したことで長年焦れていた想いが昇華され、余裕が出来たらしい。
しかしそのせいでロギルダ殿下の妃の座を諦めきれない令嬢たちが〝今なら私も第二夫人にして貰えるかも!〝と奮起し、連日大量の手紙やアポ無し訪問が増えていた。

「そう言えば、先日も公爵家のエリーザ嬢がロギルダに会いに登城していたな。執務室にまで押し入ったと聞いたが、大丈夫だったのか?」

王太子殿下の発言に、俺の耳はピクリと反応する。

公爵家のご令嬢に押しかけられただと…!?
聞いてないぞ!
まさか、俺に言えない様な如何わしい事があったんじゃ…。

「ヤダな、兄上。何もあるわけ無いでしょう。忙しい私が路端の石相手にお喋りする様な奇人に見えますか?早々に退室頂きましたよ。」

路端の、石。

思わず何とも言えない顔になっていると、ミルバ様が俺の元に駆けてきて心配そうに顔を見上げていた。

「そもそも、彼女達はどうしてあそこまで自意識過剰なのでしょうか?レダは中身も純粋で愛らしいですが、あの珠のような肌や髪は私が幼い頃から丹精込めて手入れをして来たのですよ。勿論私が側を離れている間は義母上にも尽力頂きましたが、元々の飛び抜けた美しさに一国の王子である私の私財と手間と言う名の愛情を惜しみなく注いだのです。そんなレダに敵うはずが無いでしょう。それを自分の方が美しい等と揃いも揃って可笑しな事を…本当に笑ってしまいますよ。」

ロギルダ殿下の言葉に思わず頬を押さえると、もちっとした自分の頬にハッとする。

確かに、屋敷ではメイドや母がやたら美容に煩かった。
それに外での鍛錬前後はロギルダ殿下が必ず俺の顔や肌に何か塗りたくっていたし、居ない時は騎士団長が「ロギルダ殿下に渡されたクリームは塗ったのか!?」と毎回しつこく確認しに来ていた。

…てっきり何か重要な薬だと思ってたけど、美容の為だったのか…!

がくりとその場に膝を付いた俺に、ミルバ様が頬を撫で慰めてくれる。
しかし何度か撫でているうちに何故か目を見開き、次の瞬間には小さな両手で頬をがっちりと挟まれた。

「え、ミルバさま…どうし…」

「レダのほほはもちもちでおいしそうだな!あじみさせてみろ!」

え?何その変態親父みたいな発言…

そのまま唇を突き出し頬に吸い付こうとしたミルバ様だったが、いつの間にか背後にいたロギルダ殿下に両脇を掴まれブラブラと持ち上げられていた。

「ミルバ、駄目だよ。レダを味見出来るのは私だけなんだ。いくら幼いとは言え人のものに手を出してはいけない。兄上、きちんとミルバに教えておいて下さらないと。」

「いや…お前な…。」

ロギルダ殿下はミルバ様を王太子殿下に渡すと、すぐに俺の手を引きその場を後にする。
何処に行くのかと思えば近くの四阿で、隣り合って座らせられた俺はロギルダ殿下にすぐさま腰を抱かれ顎を持ち上げられた。

「幼子まで虜にしてしまうなんて、悪い子だね。ちゃんと自分で自衛出来ないなら、いっそ私の部屋だけで暮らしてみる?」

真顔で見詰められながらそんな事を言われ、慌てて首を横に振る。

やんわりした言い回しだけど、今の監禁するって意味だよな!?

「じゃあ、どうするの?婚約者の私をこんなに不安にさせて…レダはこの不安をどう解消してくれるのかな。」

そう言って親指でふにふにと下唇を弄られ、俺は至近距離のロギルダ殿下に思わず息を呑んだ。

う…くそ。
あんま顔近づけんな…胸が…胸が!

「駄目だ、ドキドキする…」

「え?」

ぽろっと零れた言葉にパンッと手で口を塞ぐも、すぐにロギルダ殿下に外された。

「…レダ、私にドキドキしてるの?どうしてそうなるのか、教えてくれる?」

「え…は…?」

ドッと一気に甘みを増した声で囁かれ、顔に熱が集まる。

「そんなの…わ、分からな…」

「分からないの?可愛いな。なら、私がいつもレダにドキドキしてる理由を教えてあげようか。」

そのまま優しくベンチの上に押し倒され、ロギルダ殿下の髪が顔を掠める。
手は殿下の心臓の上に導かれ、熱い吐息が俺の唇にふっと掛かった。

「愛してるから。どうしようもなく好きで好きで堪らないから、レダを見ているだけでドキドキするんだ。レダも、私と同じだったら嬉しいな。」

話す度付きそうで付かない唇がもどかしくて、そういえば今日は一度もキスして貰ってないなと気付く。
気付いてしまえば更にウズウズして、俺は思い余って下からちゅっとロギルダ殿下の唇にキスしてしまった。

「……んんっ…!」

俺の触れるだけのキスで火がついたように唇を貪られ、思わずロギルダ殿下の背中をギュっと抱き締める。
暫く二人で舌を絡め合った後、ロギルダ殿下は色気たっぷりな笑顔で俺を見つめた。

「何て可愛いの…キスでお返事してくれるなんて。まだ直接言うのは恥ずかしい?なら、私が沢山お手本を見せてあげるから、早くこの可愛い唇で私への想いを紡いでね?」

「ふぁぃ…。」

◇◇◇

偶然通り掛かった四阿の前。
見たくなかった光景に、私達は二人して自分達の不運さを呪った。

「チリク…あれは、ロギルダ王子とあの青年ではないか?今は真っ昼間で、ここは頻繁に人の往来がある場所だと思うのだが…。」

「…そうですね。もうあれがこの国の日常なのでしょう。現に誰も気にしておりませんしね。」

どこか達観した様子のチリクに、私も自然と頷いた。

「…もう二度とこの地に足を踏み入れたくないと思っていたが、まさか前回の視察があんなにも兄上に評価されるとはな。…次はもう無いと思うか?」

「いえ、二度あることは三度あると言いますしね。…次は、ロギルダ殿下の結婚式でしょうか。」

私達は遠い目をしながら、四阿で盛る二人から目を逸らしたのだった。
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