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9、兄さんとはじめまして

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「僕のもの…?あんた…何で急に成体に…。」

地面に崩れ落ちながら驚愕した表情でそう零す女に、僕は首を傾げる。

「何で?僕を誰だか知っててやって来たんだろ?お前みたいな低級魔人と一緒にするな。」

瞬きの間ほどの時間で女の前に立ち腹を蹴り上げると、女は後ろに吹っ飛びゴホゴホと咳き込む。
それを無表情で見下ろしていると、不意に女から兄さんの匂いが漂って来た。

「お前、兄さんの何?」

「!…ッふふ!何って、そんなの言わなくても分かるのではなくて?」

急に勝ち誇った顔になる女に、僕は呆れて溜息をつく。

「…知る訳無いでしょ。現時点で分かる事はお前みたいな女を選ぶ兄さんは僕を失望させる位趣味が悪いって事だね。…イザード。」

「ハッ、ここに!」

どうせ何処かで様子を見ているだろうとイザードの名前を呼べば案の定すぐ様やって来て、僕はこめかみに青筋が浮かぶ。
そのまま跪くイザードの頭を上から足で押さえ付けると、平坦な声で尋ねた。

「見てたなら、その女が何かする前にここへ来れただろう?今まで何してた?」

「ガーガリアム殿下がレヴィウス殿下の魔人としての本能が戻るかもしれぬから様子を見ようと仰り私を拘束した為、身動きが取れませんでした!」

「イザードっっ!!!お前っ、俺だけ悪者にするなっ!」

ギリギリと圧を加えていく僕に、イザードはすぐ様兄さんを売る。
するとどこに隠れていたのか兄さんが姿を表し、僕を見てボッと頬を染めた。

「レ、レヴィたん…ッ、こんなに美しくなって…!…おいで!兄さんだよ!」

「…。」

甘ったるい声音で僕を呼ぶ兄さんに僕は白けた目を向けると、兄さんに返事をしないままイザードの頭から足を下ろしラルの側に移動した。

「ラル、大丈夫?腕痛いでしょう?僕、傷を治す力は持ってないんだ、すぐ薬を貰って来るから。」

地面に膝を着き血塗れの腕を抑えるラルにそう告げれば、今まで呆然と突っ立っているだけだった王子がハッと懐から何かを取り出す。

「こ、これを使え!非常時に備え携帯している治癒薬だ。血ならこれですぐ止まる!」

真っ赤な顔でオロオロと薬を手渡してくる王子に一応お礼を言うと、僕はすぐにそれをラルの腕に掛けた。

「レヴィたん!そんな人間などどうでもいいではないか!早く一緒に魔の国へ帰ろう!」

「兄さん、煩い。それにどの面下げて言ってんの?それ兄さんのだよね?自分のものも管理出来ない奴と一緒に帰るわけ無いでしょ。」

僕がラルの身体を支えながらそう吐き捨てれば、兄さんは愕然とした顔で立ち尽くす。
そのままジワッと涙目になり僕に駆け寄ろうとして来たので「こっち来ないで。」と制止した。

「そ、そんな、レヴィたん…。俺が嫌いになったのか?卵の時は命を懸けてまで助けてくれたじゃないか!俺達は半身だろう!?兄さんはレヴィたんが居ないと生きていけない!」

「大袈裟。ゴチャゴチャ言ってないで早くその女を連れ帰ってよ。」

僕が冷たく言い放てば兄さんは女の事など一瞥もせず、一瞬で燃やし尽くす。
部屋には女の断末魔が響きわたったが、いつからかイザードが防音していたらしく誰も部屋に駆け込んできたりはしなかった。

「ちょっと、何でここで処分するの。最悪…僕ここで暮らしてるのに。」

「えっ、でも、すぐ処分しないとレヴィたんは一緒に来てくれないと思って…」

…鬱陶しいな。

僕に固執する兄さんを見ながら、卵の時のことを思い出す。
別に兄さんを助けたのは気紛れだ。
僕は自分で持て余す程の魔力を、ちょうど殻がヒビ割れ瀕死となっていた卵があったからそれに移しただけ。

兄さんは冷酷無慈悲だって言われてるらしいけど、本当に冷酷なのはたぶん僕の方だろう。
これだけ求められているのに、全然兄さんの事を尊重出来ない。
魔力を分けたからか特別な相手だとは認識してるけど、それを無視して僕をぞんざいに扱うラルを優先してるんだから。

そんな事を考えていると、横からポコンと頭を叩かれた。

「お前の兄貴、お前の事ずっと心配してたんだろ?あんま無下にすんな。」

そう言われてしまえば何も言えなくなり、僕は仕方無く兄さんとイザードに声を掛ける。

「…分かった。ラルが治ったら一度そっちに行くから。だから先に帰っててよ。あ、イザード、僕のお世話セットはもう要らないから持って帰ってね。あれ邪魔でしょうがないんだよね。」

「畏まりました。」

兄さんは最後まで往生際が悪くゴネていたが、イザードに引き摺られ魔の国へと帰っていく。
やっと煩いやつが居なくなりホッとラルに微笑むと、ラルはどこか複雑な表情で僕を見つめていた。
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