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13、王子は要らない

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ラルの元へと戻ってから一週間ほど経ち、成体となった僕も徐々に神殿での生活に慣れてきた。
しかし面倒な事にあの侍従事件以来、赤髪の王子が僕に頻繁に会いに来るようになってしまった。

「あ、あのレヴィウス…あの事は考えてくれたか?」

そう言って花束を差し出してくる王子に、僕はまたかとげんなりする。

「考えるも何も、あなたが僕を拒絶したのでしょう。一度殺されかけた相手に仕えられる程、僕は神経図太く無いんですよ。」

王子は僕が本当に魔人だった事を確認し、惜しくなったらしい。
今まで周りを悩ませていた女遊びを止め、僕を自分の使い魔にしたいと足繁く口説きに来ていた。

「あ、あの時の事はすまなかったと思っている!しかし、どうしても諦め切れないのだ!頼む…!」

「嫌です。そもそも僕はラルの使い魔ですから。あと、今日の分の報告書はもう届けたでしょう、用もないのにこんな所まで来ないで下さい。」

ラルに言い付けられた僕の仕事は主に僕が見ても支障のない書類や荷物の配達と、ラルの補佐である。
補佐と言っても流石に魔人である僕に機密文書は触らせられ無いとの事で出来るのは簡単な手伝いと、茶を淹れる事位だ。

「そうだ、ラ、ラル!レヴィウスに私の使い魔になるよう命じてくれ!」

僕達を静観していたラルは王子のその言葉に、困った様に首を横に振る。

「申し訳ございません殿下。一度人と契約した魔人は他の人間とは契約し直せない上、何らかの理由で契約者が亡くなれば魔の国に戻されてしまうのです。もしレヴィウスと契約されたいのであれば、私が亡くなった後もう一度召喚の儀をされるしか…。」

「そ、そんな…。」

儚げな表情で適当な嘘を並べ立てるラルを横目で見ながら、僕は口を噤んだ。
そもそもラルとは契約などしておらず、僕が勝手に居着いているだけである。
僕はラルの側に居られるし、ラルは小間使い兼魔人の護衛を得られたのだから、僕達はお互いWin-Winな関係の筈だ。

うんうんと一人頷いているといつの間にか王子は居なくなっており、ラルが呆れた顔で僕を見ていた。

「何一人で頷いてんだよ。暇なら茶淹れてくれ。」

「分かった、ちょっと待ってて。」

僕が覚えたばかりのミルクティーを淹れていると、「…俺はお前の親じゃねぇんだけどな。」と言う呟きが聞こえた。

「そんなの分かってるけど。」

「じゃあ何で俺から離れようとしないんだよ。お前王子なんだろ?国に帰れば贅沢三昧だろうにこんな所で小間使いなんかされられて何が楽しいんだか。」

言われてみればその通りだが、やっぱりラルと離れるのは考えられない。
初めて出会った時に助けてくれて、その後何だかんだ世話を焼いてくれて、口ではグチグチ言いながらもラルは僕を見捨てなかった。
産まれたてで右も左も分からず頼る者が居なかった僕には、どんな理由であれラルの存在は大きい。

「もしかして僕を追い出そうとしてる?」

「は?そんな事言ってないだろ。」

「だってそういう風に聞こえたから。でも出て行かないよ。ラルと離れたくないんだ。」

僕がそう言えばラルはふいっと顔を逸らして耳を赤くする。
最近はいつもこうだ。
こんなに耳ばかり赤くなって、耳の病気なんじゃなかろうか。

僕はミルクティーを出しラルに近付くと、ふにふにと耳を引っ張る。
それにすぐ反応したラルは慌てて僕の腕を掴んだ。

「勝手に触るな。」

「だって赤いから。それに触ったら熱かった。やっぱり病気なんじゃないの?」

心配になり顔を覗き込めば、「違うからほっとけ。」と冷たくあしらわれる。

しかし何かの病気の前兆だったら困る。

今度イザードに相談してみるか。
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