現代女子白書

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【高校生三久】言葉の魔法

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「そう?似合ってるじゃん」
たったその一言で、わたしの髪の毛はもう何年も肩に触れていない。



あれはわたしが高校1年の夏休み明け。

こんがり焼けた肌で、みんな夏休み気分が抜けず生き生きとしている気がした。



でもわたしだけは、とてもじゃないけどそんな気分にはなれなかった。



「青山、校舎に入るときは帽子脱げよ~」

玄関前に立っていた担任に、そう声をかけられた。



「…はい……。」

わかってた、わかってはいたよ。

帽子を被ってくるのが校則違反だなんてことは。

だけどそれでも、帽子を被らない選択肢がなかったのだ。



とはいえ堂々と校則を破る度胸もないわたし。

担任に言われた通り、帽子を脱いでリュックにしまい、俯いて教室へ向かう。



…入りたくない。

ここまで教室に行くのが嫌だと思うのなんて、小学校から数えても初めてのこと。



わたしは恐る恐る教室に足を踏み入れ、自分の席に着いた。

意外と誰もわたしのことなんて気にしていないから、正直ほっとした。



わたしの髪の毛は1学期まで肩より長かった。

校則で決まっているからポニーテールにすることが多かったけど、長い髪の毛はわたしにとってごく自然で。

だけど夏の魔法ってやつなのか、急に髪を切りたくなってしまったのだ。



大学生の姉と同じ美容室へ通っているわたしは、ほとんどおまかせ状態で「短くしたい」とだけ伝えた。

本当は切っている段階で「あれ、思ったより短い…?」と思ったものの…口を出す勇気はなく。



「気分変わって良かったです~!」なんてへらへら笑いながらお店を出たけど、それから一度も鏡を見て笑えていない。



「見慣れないだけだって!」

家族はそう慰めて、わたしを送り出してくれたけど…。



男の子みたいな短い髪の毛の自分に、やっぱり見慣れなかった。



早く伸びてほしい、わたしの願いはそれだけ。



でもその時…


「あれ、三久~?」

そう声をかけたのは、仲良しグループの1人、綾香。


もちろん話をするのはいつものことなんだけど、妙に周りの目が気になってしまう。


「あっ、おはよー!」

なるべく挙動不審にならないように、わたしは笑顔を作って答える。


手で精一杯、頭を多いながら。



だけどそんな努力は虚しく、言われたくなかった一言を言われてしまうのだ。



「三久、髪すごい短くなったね~!」



その綾香の声が、わたしには教室に響き渡ったかのように感じられて。



クラスメートからどんな反応をされるのか…恐ろしくなってしまった。



だから先に、こう言ったんだ。



「えへへ、切りすぎちゃったー!猿みたいじゃない!?」



わたしは昔からこんな風に、自虐することで自分の心を守っているのだ。

『言われなくても自分がよくわかっているよ』と示すことで、周りから傷つけられることもない。

どこかでそう思っているんだと思う。



「確かに三久、元気だからお猿って感じかも!」

仲の良い友達の中ではいじられキャラだから、わたしが自虐すれば笑ってくれる。



切りすぎて誰にも見られたくない髪の毛も、こうやって乗り越えていこう。

そう思った時…



「おー律!焼けたな!」

ドアの方から、男子のそんな声が聞こえて、心臓が止まるかと思った。




『律』

その名前は、普段なら1番聞きたいはずだけど、今日は絶対に聞きたくない名前だった。

来ない日もあるのに、なんで今日に限ってくるんだろう。



「本当だ、見てよ三久。2組の谷村、すごい黒くなってる~」

わたしの気持ちを知らない綾香は、そんな風にわたしの視線を誘導する。



「ん~…」

見ないのも不自然なので、わたしは一瞬だけ、目を向ける。

春から片想いをしている、谷村律くんに。



…本当だ。

夏休み前は普通くらいだったのに、すっかり黒く焼けている。

サッカー部だから、練習忙しかったのかな。

わたしはその時だけ、自分のへんてこな髪型のことも忘れ、谷村くんに釘付けになってしまった。



肌が焼けている姿も、かっこいい!!

なんて。



そうしているうちに、わたしと綾香の周りにはいつもの仲良しメンバーが集まっていた。

ロングヘアだったわたしがばっさりショートになったので、やっぱりみんな反応してくれる。

気づいてくれるのは嬉しいことだけど、その度に自虐で心を守るわたし。

なんだか少しずつ、心がすり減っている気がしていた。



その時。

「あ、いたいた!高槻~!」

さっきまで男子と話していた谷村くんが、わたしの隣にいる友人に声をかけてきたのだ。



「ん?」

「今日日直だから練習遅れるって、先輩に言っといてくんない?」

「あーわかった!」



高槻と呼ばれた彼女の名前は高槻梨乃。

わたしの親友で、谷村くんを好きなことを唯一知っている存在でもある。

サッカー部のマネージャーだから、谷村くんとは仲が良いのだ。



いつもなら梨乃に感謝する場面だけど、今日は別。

できるだけ谷村くんに見つからないように、梨乃の背中に隠れて必死に下を向いていた。



でも…



「あれ、青山さん?」

普段はそんなに話さないのに、今日に限って谷村くんが声をかけてきたのだ。



嬉しいけど…見られたくない。

そんな複雑な心境の中、無視するわけにはいかないので控えめに顔を上げた。



「…はい?」

目が合った瞬間、間近で見る焼けた肌の谷村くんが、いつにも増してかっこよく見えた。

だけどそんな気持ちより、すぐに不安の方が勝ってしまって。

何を言われるか、怖くて仕方がなかった。



髪型に気づかれませんように…

でも、これだけ切ったのに気づかれないと、それはそれで悲しいかも…

一瞬のうちに、そんな矛盾した思いが頭の中をぐるぐるとしていた。



「髪すっげー切ったね!」



案の定、言われたくない言葉を言われてしまった。

すると、わたしが髪型を気にしているって知っていた梨乃から、こんな助け船が…。



「そーなの!めっちゃ可愛い!似合ってるよねー?」

わたしが自虐マンなのを知って、反対に持ち上げてくれたんだと思う。

谷村くんが肯定してくれれば、自信がつくと思ってくれたのかな。



梨乃の気持ちは嬉しかったけど、この後の反応がますますこわくなってしまったわたし。

だからここでも、先手必勝だ。



「いやいやっ!こんなに切るつもりじゃなくて~…自分でもびっくりしてるの!似合わなすぎて、お猿みたいだなーなんて!あははっ!」

谷村くんの口から似合わないと聞きたくなくて、自分で言ってみせた。

そうしたら、傷つかない…とまでは言わないけど、傷が浅くて済むと思ったの。



だけど谷村くんは、どこまでもわたしを好きにさせるんだ。



「そう?似合ってるじゃん!」

けろっとした顔で言う谷村くん。



周りの友人たちからは思わず「おぉ~!」なんて声も上がって…

梨乃はこっそり、わたしの背中を叩いた。



「やったね!」って言ってくれたんだと思う。



当のわたしは嬉しすぎてどう反応していいかわからず、すっかり固まってしまっていた。



その時廊下の方から、谷村くんを呼ぶ男子の声がして。



それに気づいた谷村くんが「じゃ!」と後ろを向こうとした時…

とびっきりの勇気を出して、こう言った。




「あっ…ありがとう!」

声が震えたの、気づかれてないといいな。



谷村くんはニカッと笑って、教室から出て行った。



きっと深い意味はなくて、同性の友達に言うみたいな感覚で言ってくれたんだろう。

だけどそれでも、彼の言葉がわたしに魔法をかけてくれたのは確かだった。

あんなに恥ずかしかったショートカットが、お気に入りになったんだから。



思えばわたしが谷村くんを好きになったのも、彼の言葉の魔法だったのかもしれない。



わたしと谷村くんはクラスが違う。

でも春の終わりから始まった、学校祭の実行委員が一緒で知り合った。



委員会の中でもいくつか役割分担されて、わたしたちは同じ看板係に。

本当は3人なんだけど1人が欠席で、谷村くんと2人で教室に残っていたことがあったんだ。



「わっ、雨降ってきちゃった!わたし傘持ってないや~…」

「俺も。天気予報では言ってなかったもんな。」



どんどん薄暗くなっていく空を見つめながら、そんな話をしていた。



結局話し合いが終わっても雨は止んでいなくて、貸し出し用の傘が余っていないか確認しに行った。



「急な雨だからないんだろうなー。」

そう思っていたけど、なんと傘は1本だけ残っていて…

駅まで相合傘をすることになったのだ。



この時は谷村くんを好きだとか思っていなかったけれど、やっぱり少し緊張する。

男の子と相合傘なんて、したことなかったから。



そんな緊張しているわたしとは反対に、谷村くんはいつもと変わらない様子で話しかけてくる。



「俺、雨の日って結構好きなんだー。」

その言葉に、わたしはびっくりした。



「えっ、なんで!?」

わたしの中で雨とは、嫌なものでしかなかったからだ。



「青山さんは嫌いなの?」

そう尋ねられたので、わたしはこう答える。



「だってどんよりしててイマイチ元気出ないし、遠足や体育祭は中止になっちゃうし…」

改めて考えたことはなかったから、こんなことしか出てこない。



すると谷村くんは

「確かに青山さんはいつも元気いっぱい!って感じだから、晴れの日の方がらしいかも。」

と言って笑った。



「そんなこと言ったら谷村くんも、いつも笑ってるし晴れの日っぽいけどな。」

谷村くんは「そう?」と返した。



その後、どうして雨の日が好きなのか教えてくれたんだ。



「雨の日しか感じられない雰囲気が好きなんだよね。傘に当たる音とか、濡れた地面の匂いとか。なんか落ち着く。…変かな?」

ちょっと不安そうに笑う谷村くん。



わたしは考えたこともなかったその言葉に、まるで魔法をかけられたみたいな気持ちになったの。



わたしと谷村くんは同じ雨の日を過ごしていたはずなのに、見えている世界はこんなにも違ったんだと。



「ううん!全然変じゃない!むしろ凄いって思ったよ!谷村くんは日常を好きになるのが上手なんだね!…わたしも見習わないと。」

はじめは純粋に尊敬みたいな、そんな気持ちに近かったと思う。

そんな風に考えられる人になりたいなぁって、そう思ったんだ。



でも

「…そんなこと初めて言われた。ありがと。」

そう言って笑った谷村くんを見て、もっともっと知りたいなって思ったのに気づいた。

そうしたらもう次の日から、すっかり目で追いかけてしまっていた。



それから2年の月日が経って、わたしは高校3年生に。

谷村くんとは同じクラスになったけど、未だに気持ちは伝えられないまま。

だけどわたしの髪の毛は、未だにショートカットだった。

好きな人が褒めてくれたから、たったそれだけの理由で。



そして今年も学校祭が近づいて、準備時間。

わたしは谷村くんを含めた数人と、垂れ幕制作の係になった。

わたしの気持ちはもう友達にはバレバレだから、すぐこうやって谷村くんと同じグループにされる。

嬉しい、嬉しいけど…気持ちがバレていないか、いつも不安で仕方がない。



そんなある朝のこと。

わたしはその日提出の宿題を学校の机に忘れてしまっていて、いつもより早く登校した。



「あれ、誰かいる…?」

一番乗りでもおかしくないくらい早く来たのに、誰かがいるからびっくりした。



しかも…

「たっ谷村くん!」

相手が好きな人だったからなおのこと。



「あれ、青山さん。おはよー。なんでこんな早いの?」

「おっ、おはよう!机の中に数学の宿題忘れちゃって…」



谷村くんは水道で何かをしていて、わたしは尋ねてみることにした。



「谷村くんは何してるの?」

そう言いながら水道のシンクを除くと、そこにはパレットやら筆やらが。



「朝練終わって教室来たらあったから、洗ってる。」

それは昨日の放課後に垂れ幕準備で使ったもので、朝片付けようということになってたのだ。



「でも谷村くんは部活の練習でいなかったから、洗わなくて大丈夫だよ!わたし変わるね!」

谷村くんが使ったものじゃないのに、片付けさせてしまって申し訳ない…

わたしはそう思って変わろうとした。



でも…

「いーのいーの、青山さんは宿題やんないとヤバいじゃん。
それに俺はいっつも部活で途中抜けだからみんなに迷惑かけてるし。これくらいやらせて。」

谷村くんは申し訳なさそうに笑って言った。



やっぱり、谷村くんは優しい。

そうやってまた、わたしの心に魔法をかけていくのだ。



そしてその日の放課後。

垂れ幕メンバーはパレットや筆のことなんてすっかり忘れて、作業を始めている。



谷村くんが片付けてくれたこと伝えたいけど…

それはそれで片付けなかったこと責めてるみたいだしよくないかな…。

なんて、少しモヤモヤしていた。



結局言い出せないうちに終業時間になり、谷村くんは部活へ。



「じゃあ、ごめんな。部活行くわ。」

谷村くんは申し訳なさそうに手を合わせて教室から出て行った。



すると1人のクラスメートが言った。



「部活のやつはいいよなー、作業サボれて。」

「確かに。部活だからって言うけど、わたしたちには関係ないよね。負担増えてるだけだし。」

なーんて悪口が始まってしまったのだ。



これは…まずい空気…。



どうしていいかわからず、弱いわたしは聞こえないふりをして作業に没頭するしかなかった。



好きなのに、味方をして助けてあげられないなんて、わたしはなんて弱いやつなんだろう。

そんな自分のことが、嫌になった。



だけど…

「ね、青山もそう思わない?」

クラスメートが同意を求めてきたのだ。



なんで!?!?

同意なんかしたくないよー…

だけど強く言う勇気も出ない…そんな時。



「ダメダメ、三久は青山のこと好きだから。」

女の子の1人がそう言った。



なぜかみんなにバレバレなのは知ってるけど、いざ面と向かって言われると恥ずかしくなる。

自分の顔がどんどん熱くなっていくのを感じた。



「えっ、そーなの!?」

「女子ん中では有名な話だよ~。」



でも谷村くんの悪口が続くよりはマシなのかもしれない、そう思ったのもつかの間。



「でも、どーなの?好きなヤツが部活を理由に作業サボってんのって。てかよく好きでいられるよな。」

「谷村って世渡り上手っぽいもんね~、爽やかにスルーしてちゃっかり得しようってタイプだよ。」

悪口はヒートアップしてしまった。

しかも、本当の谷村くんのことを知らないくせに、言いたい放題で。

気まずさから逃げたい気持ちよりも、頭にきた気持ちの方が勝ってしまった。



「それは違うよ!」

突然そんなことを言ったもんだから、2人は驚いてこっちを見た。



「今わたしたちが使ってる道具、朝早くから谷村くんが片付けてくれたものだよ。

谷村くんは部活で抜けなきゃいけないの気にしてて、だからできることはやりたいって言ってた。

部活を言い訳にしてサボってるんじゃない。

部活も文化祭の用意も、両方自分にできる精一杯でがんばってるんだよ!」



2人は驚いた顔でわたしの言葉を聞いていたけど、少しして言い返してきた。



「青山、熱くなりすぎだって~。」

「気持ちはわかるけど、うちらに迷惑かけてるのは事実じゃん。好きだからって盲目になりすぎだよ。」



違うのに。

いや、好きなのは違くないけど。

でも、そんなのに関係なく、谷村くんは本当にそんな人じゃないのに。



わたしが谷村くんを好きなせいで、唯一本当の姿を見たのに信ぴょう性がないんだ…。



「好きだよ!好きだけど…それとこれとは関係ない!」



しーん…



ついつい熱くなってしまって、いつの間にか大きい声を出してしまっていた。



教室に谷村くんがいないのが唯一の救いだけど、死ぬほど恥ずかしい。



「…ごめん、お手洗い行ってくる。」

わたしは2人にそう言い残して教室を出た。



…ら。

目の前にサッカーのユニフォームを着た谷村くんがいて。



嘘…聞かれてた…?

いつから…?

なんで…?



頭の中には色んなことが浮かんできたけど、全部真っ白になってしまって。

わたしは走ってその場を去るしかできなかった。



ずっとずっと隠してきたのに、こんな形でバレてしまうなんて…

同じクラスなのに、明日からどんな顔で会えばいいんだろう。

そんなことを考えているうちに、お手洗いをとっくに通り過ぎて校舎の端の空き教室に来てしまった。



…ここは実はグラウンドの見える特等席で。

梨乃に教えてもらってから、時々ここから部活中の谷村くんを見てたんだよな。



窓を開けて、雨上がりのひんやりとした空気を浴びる。

そうしたら少し冷静になってきた。



気持ちがバレちゃったとしたら、恥ずかしいけど。

でもあれで谷村くんの誤解を解けてたらいいな…。



…教室にも戻りづらい。

どうしようかな~なんて俯くと…まっすぐ下の中庭に、谷村くんの姿が。



「えっ!!」

わたしは驚いて思わず隠れてしまった。



こっち、見てたよね…?

今更隠れても遅い…?



ドキドキしていると、谷村くんの声が聞こえた。



「青山さん!」

「……。」

どんな顔をしていいかわからなくて、返事ができない。



すると…



「今そっち行くから待ってて!」

という声が聞こえてきた。



…え?

驚いてすぐ下を見たけど、そこにはもう谷村くんの姿はなかった。



今来るの?

ここに?

谷村くんが!?



わたしが戸惑っていると、あっという間に谷村くんがやってきて。



いつにも増して緊張して、鼓動が最高潮に速い気がする。



「あの…」



谷村くんの口からどんな言葉が出てくるのか、予想が全くできない。

…聞くのが怖い。



「さっきは、ありがとう。誤解解いてくれて。」



発された言葉は、思っていたものとは全く違うもので。



でも聞いてみれば、ああそうだよな、谷村くんってそういう人だよな。

そう思えた。



「え…と、全然。」

でもやっぱり、それを聞いてたってことはわたしの気持ちもバレてるっていうことで。

まっすぐ谷村くんを見ることができない。



「…………」

「…………」



そのまま谷村くんも何も言わないもんだから、きまずい沈黙が続いて。



やっぱり、困らせちゃったかな。



谷村くんも同じ気持ちでいてくれるなんて思ってないけど、

けど…

もしかしたら、なんて思っちゃってた。



でも庇ってもらった手前、きっと断りにくいよねり

そんな考えが浮かんでからは、いつもどうり自虐ネタで切り抜けることばかり考えてしまった。



なんて言えば、傷を最小限にできるか。

なんて言えば、谷村くんに罪悪感を残さずいられるか。



だけどそんな答えは出てこなかった。



谷村くんのことが好きな気持ちはわたしの中で真剣で、大切すぎることだったから。

自虐なんか思いつかないんだ。



そうなったら、もうまっすぐ向き合うしかないじゃないか。



「「あの…」」

一世一代の勇気を振り絞った時、谷村くんも同じことを言った。



「どっ、どうぞ…!」

また同じ勇気を出せるか不安だけど、咄嗟に譲ってしまった。

わたしが譲ると谷村くんは気まずそうに自分の頭を触って、こう言った。




「嬉しかった、青山さんがそういう風に思ってくれて。」

「えっ…」



そういう風って、どれ!?

部活と文化祭どっちも頑張ってくれてるっていう話?

それとも…………?



わたしの頭と心は忙しい。



「青山さんはそうやって、ちゃんとわかろうとしてくれるから…1年の時、一緒に帰った時もその…嬉しくて。」

あ、やっぱり庇ったことに対してだ。

好きという気持ちを受け入れてくれてるわけじゃなさそう。

だけどそれでも、あの日のことを覚えていてくれてるのは嬉しかった。

谷村くんを好きになった、わたしにとってすごく意味のある日だから。







「それからずっと好きだった、青山さんのこと。」





突然聞こえてきたその言葉は、はじめ幻聴なのかと思った。

そうであったらいいなと思いすぎて、都合のいい言葉を自分で作り出してしまったんじゃないかって。



でも

「俺と付き合ってほしいです。」

次に聞こえたその言葉は、たしかに谷村くんから発されていて。



現実…………らしい。





「は…い。」

ほぼ放心状態で、わたしはそう答えた。



夢なんじゃないかって、まだ思ってる。



そんなほわほわ状態のわたしだけど、目の前にいる谷村くんがはにかんで笑ったのが見えて。

好きだなぁって思った。



そのあと谷村くんが、わたしの後ろにある窓の外を指さして言った。



「虹出てる!」

その言葉に反応してわたしが振り返ると、それと同時に谷村くんが横に並んだ。



触れている肩同士にドキドキしながら空を見上げると、たしかにそこには大きな虹が。



すると

「雨が降んないと、虹ってかからないもんな。」

谷村くんがそう言った。



それは当たり前のようだけど、きっとみんなが忘れがちなこと。

それはなんだか谷村くんっぽい一言で、笑えてしまった。



「うん、そうだね。」

ほわほわ状態がやっと解けて、わたしは谷村くんにほう言った。



それに谷村くんがまっすぐ目を見て笑ってくれて。



心がキラキラした気がした。



「よし、部活戻るわ!本当にサボりだって言われる!」

谷村くんが笑ってそう言って。



「あっ、そうだよね!わたしも戻らなきゃ。」

咄嗟に逃げてきてしまったことを、クラスメートに謝らないとと思った。



「俺、明日あいつらに自分で話すから。
青山さんはもう気にしないで。」

「うん、わかった。」

「じゃー!」

そう言って谷村くんは、グラウンドの方へ走って行った。



教室に戻ることを考えたら、さっきまで心がどんよりしていたのに。

谷村くんの言葉を聞いただけで、こんなにも軽やかに感じる。

谷村くんはやっぱり、わたしに言葉の魔法をかけるんだ。



教室まで戻る渡り廊下。

窓から入った優しい風が、わたしの髪を揺らす。

君が似合ってると言ってくれたから、ずっと切りそろえていたショートヘア。



わたしのことが好きだと言ってくれたから、今度はまた、伸ばしてみようかな。

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