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イセゴブ(上)

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 俺は天王寺 ハヤト、ヒーローみたいな名前だが、現実は違った。みんなが俺を馬鹿にして笑いものにする。

 もうこんな世界は嫌だ。俺はここからダイブして人生をやり直すんだ。

 都会のあるビルの上で、1人の青年が飛び降りをしようとしていた。

「君!降りて来なさい!」
「うるせぇよ!俺はもう決めたんだ!」
「俺はこのビルからダイブして、新しい世界に旅立つんだ!この腐った世界なんて未練もねぇよ!」

「二階建てのビルから飛び降りてもせいぜい捻挫くらいしかしないぞ!仕事の邪魔だから早く降りてこい!」

 俺は無視して飛び降りたが、綺麗に着地し、すぐに警備員に捕まった。

「チッ!高さが足りなかったか…」
「何訳の分からんことを言ってるんだ!早く帰れ!」

 警備員はそう言うと俺を解放した。

「あーあ…異世界にでも転生できねぇかな!日本はつまらないなぁ!」
「おっ!こんな所にスタバあるじゃん!可愛い子バイトしてないかな?」

 俺がそう言ってスタバのドアを開けた時に体中に電流が走った。俺は直ぐに気絶してしまった。

「起きて…ねぇ…起きてよ」

 誰かが俺に話しかけている…?
 イタタタ…体が動かない…どれくらい気絶していたんだ。

 ゆっくり目を開けると、見た事のない風景が広がっていた。そこは自然に溢れ、山々に囲まれ、川のせせらぎが聞こえ、空を飛ぶドラゴンのさえずりが聞こえる。

「え、ドラゴン…?」

 俺は勢いよく起きた。落ち着け、さっき空をドラゴンが飛んでいたぞ。あれは間違い無くドラゴンだ。

「あなた大丈夫?酷く怯えているけど」
「あ、ああ、大丈夫…ちょっと気絶して異世界に転送された夢を見ているみたいだ」

 俺は優しく心配してくれる女性の膝に手を置いた。しかし、いやに膝がゴツい。競輪選手よりゴツい。なんならトゲトゲがあって軽く指を切ってしまった。俺はゆっくり彼女の方を見た。

 俺の横にいた彼女は、よくゲームとか漫画で見る“ゴブリン”そのものだった。

「ギャーーー!」

 俺は驚いて叫び、とっさにその辺にある岩で彼女の頭を殴った。

「ギャーーー!」

 いきなり頭を殴打された彼女は叫び、パタリと倒れてしまった。

「いきなり襲って来るからだ、バカ野郎!せめて最初の村で俺が装備を整えてから襲って来やがれ!」  

「カトリーヌ!カトリーヌ!大丈夫か!?」

 そう言いながらもう一人、森の向こうから馬に乗ったゴブリンが俺の所に近付いて来た。先程のメスゴブリンとは違い、彼は鎧を着ていた。

「カトリーヌ!?気絶しているのか?!」  

 馬から降りたゴブリンは俺が岩で殴打したメスゴブリンを抱え、心配そうに体を揺らした。

「お兄ちゃん…私は…大丈夫…ちょっと気を失ってて…」 
「そうか、でも無事で良かった!本当に良かった」

「は?お兄ちゃん?だと?このイカついゴブリンがお兄ちゃん?」

「もし俺が岩で妹をぶん殴ったとバレたら殺される…」

「カトリーヌ…何故気絶していたのだ?」 
「確か…この人が岩…「あー!そうだね!岩に君がぶつかったから介抱してたんだね!俺が!」

 二人は黙って俺を見た。俺はその視線に耐えられず、空を見上げた。

「そうよ!お兄ちゃん、思い出したわ!彼が空から落ちて来たの!」
「空から?この痩せたゴブリンが?」
「おい!お前!どこの洞穴出身のゴブリンだ!何故空から来た!?」
「どこ洞だ!?」

「どこ中だ!みたいに聞くなよ…」
「俺はゴブリンじゃねぇよ!人間だ!」
「ニンゲン?!まさか…本当にニンゲンがいるなんて…」

 二人は何やらゴソゴソ相談をし出した。俺をどうするか決めているに違いない。

 もしかしたら食べ方を決めているかも…いや、そんなはずは無い。こいつらは普通に会話もできるし、見た所野蛮な感じではない。

「焼くか」

 俺の食べ方が決まった。

「すみません…もう少し手間暇かけた調理法でお願いします」


異世界転送したけどゴブリンしかいない世界で何とか上手くやってます(上)終
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