国外追放されたくないので第二王子の胃袋を掴んだら溺愛されました!

和栗かのこ

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悪役令嬢、困惑する

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「セセリア、今日はなにを作ってくれたの?」

カイン殿下は、週末には必ず私の作った
お菓子を食べに来るようになっていた。

「今日はフィナンシェを焼きました。殿下の
お口に合うと良いのですが…。」

さきほど焼き上がったばかりの、まだ暖かい
フィナンシェを、紙ナプキンに包んで殿下に
手渡した。

「セセリアの作ったものが、僕の口に合わ
なかったことなんて一度もないよ。」

そう言って、殿下は幸せそうにフィナンシェを
口に運んだ。

「僕はいつも二番手で、なにをやっても兄上に
勝てないけど、この美味しいお菓子を食べて
いる時だけは、絶対兄上より僕の方が幸せ
だと思うよ。」

「私も、美味しそうに食べてくださってる
殿下を見ている時が一番幸せです!」

婚約破棄を回避するために、殿下の胃袋を
掴もうと始めたお菓子作りだけど、今の私は、
その美味しそうに食べる顔が見たくて作って
いる。

「そうだ、今日はたくさん作ったので、
アンセル殿下にもこのフィナンシェ、
差し上げてください。」

なんの意図もなく言った私は、殿下の顔が一瞬
強張ったのを見逃さなかった。

え?私、なにかマズいこと言った!?

「ダメだよセセリア。君の美味しいお菓子は、
全部僕一人のものだから、兄上には一口だって
あげられない。」

口調は優しいが、あきらかに殿下は怒って
いた。

「そ、そうですよね、ごめんなさい…。」

こんな風に殿下が怒ったことは、今まで一度も
なかったので、私は動揺した。

そうか…。ダメなのか。
ヤキモチなのか、お菓子を独り占めしたい
だけなのか、よくわからないけど。
今後、私の作ったお菓子を殿下以外の誰かに
食べさせるのは、やめた方がよさそうだ。

「もうすぐ王立魔法学院へ入学できるね。
そしたら毎日セセリアと一緒にいられる。
楽しみだな。」

クレイトン王国の王族と貴族は、15歳に
なると皆王立魔法学院に入学することに
なっていた。
一つ年上のアンセル殿下はすでに入学して
いて、私達は今年入学する予定だ。

毎日一緒にいられる…。それは私も嬉しいの
だけれど、お菓子は毎日作った方がいいの
だろうか。

実は殿下は、だいぶぽっちゃり体形に
なっていたのだ。もちろん私の作った
お菓子が原因で。

私はぽっちゃり殿下も嫌ではなかった。
もともと美形だった殿下は、ぽっちゃりに
なってもぬいぐるみのように可愛らしかった
からだ。

むしろ殿下がぽっちゃりでいてくれたら、
いずれ現れるゲームのヒロインに、攻略対象
として狙われる危険性もなくなる気がする。

ま、私は殿下がこれ以上太ったって全然平気
だし、深く考えなくてもいいか!

そう思っていたのだけど。
全然平気じゃない人がいたのだ。
王宮に。

「カインの食事、あれほど注意しろと
言ったのに、全く痩せないのはどういうこと
なの!?」
 
王妃に呼び出された殿下の侍従は、下を向いた
まま、ハンカチで額の汗を拭っていた。

「それがその…、お食事は充分に気を付けて
お出ししておりましたが、ローゼンバーグ
公爵邸に行かれる度に、ご令嬢のお作りに
なったお菓子を、大量に摂取されている
ご様子で…。」

侍従の申し開きに、王妃は大きなため息を
ついた。

「婚約者同志なのだから、仲睦まじいのは
良いけれどこのままにはしておけないわね。」

持っていた扇を閉じたり開いたりしながら、
王妃はしばらくなにかを考えていた。

「カインを呼んで。今すぐに。」

指示された侍従は、王妃の機嫌を損ねないよう
即座にカインのところへ走った。

「母上、お呼びでしょうか?」

青ざめた顔で呼びに来た侍従の様子から、
カインは嫌な予感がしていた。

「カイン、あなた、シュタイン王国に留学
しなさい。」

シュタイン王国とは、王妃の生まれた国で
ある。

「え!?どうしてですか?僕はもうすぐ
セセリアと一緒に王立魔法学院に入学するん
ですよ!?」

「口答えは許しません。シュタインには
あなたの従弟もいるし、きっとよい経験に
なります。」

「嫌です!母上!セセリアと離れるなんて…。」

「カイン!よくお聞きなさい!」

抵抗するカインを、王妃は叱咤しったした。

「あなたがセセリアを大切に想っているのは
わかっています。でも今のあなたは、自分の
想いに溺れている、ただの甘えん坊です。
そんなだらしない体で、なにかあった時に
セセリアを守れるのですか?」

王妃の言葉に、カインはなにも言い返せずに
いた。

「2年間シュタインで学んで、セセリアを
守れるだけの立派な男になって帰って
きなさい。」

カインは渋っていたが、この王妃の決定が
くつがえることはなかった。

カイン殿下留学の知らせは、翌日私のところに
届いた。

ちょっと待って!ゲームにはそんな展開
なかったよ!
私が殿下を太らせちゃったから、こんな
予定外のことが起きたの!?

「どうしよう…ベル!留学なんかしたら、
殿下は私のお菓子の味を、忘れてしまうかも
しれない!」

もしシュタイン公国の食べ物が美味しかったら、
私はお払い箱になるかもしれない。
そんな不安が頭をよぎる。

「お嬢様、人の舌はそんなに簡単に美味しかった
ものを忘れるものではありません。大丈夫、
殿下はお嬢様の作ったお菓子を忘れることなど
あり得ませんわ。」

「そうかな…だといいのだけど。」

「お嬢様は、殿下のお戻りを、お菓子作りの
腕を磨いてお待ちになればよいのです。」

ベルの励ましの言葉にも、不安を拭えない
まま、私は小さく頷いた。

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