運命に抗う傀儡王子は自身の命を顧みない

シロクチ

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side:エリエス2/2

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「アトラエル王子殿下は一番奥のお部屋におられます。先程解熱剤を服用されたばかりですから症状は落ち着いておられるかもしれませんが、どうかお静かに」

 階段を登りきってから執事は、王子二人に注意事項を告げる。
 二人は頷くと、あまり足音を立てないようにと注意しながらも駆け足で、ようやくアトラエルの部屋の前まで来ることができた。
 噂を聞いてからここまでですでに半刻以上経っていた。エリエスとウリエクは二人で勢いよく扉を開ける。

「弟は!アトラエルは無事か!」

 駆け込むようにして入った部屋は、三歳の子どもの部屋にしてはいささかシンプルすぎる壁紙に床。家具もほとんど無くがらんとしていて、ひどく殺風景だった。
 扉から向かって右手に視線を移せば、ベッドから身を起こした幼子と目が合った。
 刹那、幼子の目から涙が溢れ出す。

「あに…うえ」

 白く透き通った髪に、涙で潤んだその瞳は輝く金色。
 エリエスやウリエク、そして正妃リトヴィアナ様とも違うアトラエルのその容姿は、この世のものとは思えないほどに隔絶された美しさだった。
 そのあまりの人間離れした容姿に、エリエスとウリエクはしばし固まっていた。
 見惚れたと言い換えても良い。
 会えば色々と話したいこともあったはずだが、それすらも出てこない。
 二人揃って頭が真っ白になってしまった。
 その状態から立ち直るのがわずかに早かったのはエリエスである。

(……今、まさか兄と?…呼んでくれた、のか僕達を!)

「アトラエル!」

 思わず抱きしめてしまいそうになったが、アトラエルが病気で弱っているであろうことを思い出し踏みとどまった。
 それよりも今は、

「どうして泣いているの?
 どこか痛いのかな、それとも怖い夢を見た?」

 ただただ涙するアトラエルは、どうしようもなく可愛らしかった。正妃の子であるとか、後継争いのあれやこれは頭の中からすべて吹き飛んだ。
 何かに苦しんでいるのならどうにか解消してあげたい、アトラエルを見たエリエスの庇護欲には火がついていた。強火である。
 そばにあった清潔なタオルで涙を優しく拭き取る。ウリエクはその様子を見守りながら、一言も発することなくただオロオロしていた。ウリエクをよく知る者が今の様子を見れば、彼らしからぬその行動に絶句するに違いない。ムスッとした表情は崩さないので、側から見ればイライラしている様に見えるかもしれない。アトラエルが怖がったらどうするんだ。
 手をアトラエルのおでこに当ててみたが熱は感じない、お薬が効いているようだった。
 扉の前には今まさに、エリエス達が駆け足だったために置いてきてしまった執事が到着し、

「ア、アトラエル殿下!!目を覚まされたのですね!」

 お医者様に報告を!と、部屋を離れどこかへ行ってしまった。
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