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side:エリエス1/2
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第一王子エリエスには双子の弟ウリエクがいる。年齢は一年離された。対外的には一つ下の弟。
そして七歳下の異母弟アトラエルがいるのだが、未だアトラエルに会ったことはない。
アトラエルが生まれてすぐに、正妃であるリトヴィアナ様と共に離宮に移ってしまったのだ。
侍従たちはアトラエルが病弱だからだと言っていたが、それからも一度として面会を許されることはなかった。正直、病弱だからというのを信じることはできなかった。互いに王位継承権を持つ王子。しかしあちらは第三王子とはいえ正妃の子。邪推するなという方が難しい。
そうして三年の月日が経ったある日、アトラエルが高熱に倒れたことを知った。
三日三晩熱は下がらず、このままでは命も危ないのだと。
知ったといっても、侍女たちの噂話を偶然にも耳にしてしまった程度のことであったが、次の瞬間にはもう駆け出していた。
向かう先は離宮。
本来ならば先触れを出して向かうことを告げ、移動も馬車を使う距離なのだが、その全てを無視する。
側近たちの静止をも振り切って一人走っていた。
何故こうも衝動的な行動に出てしまったのか、この時のエリエスにはわからない。
大切に囲われ守られているのであろう、一度も会ったことのない異母弟に会ってどうするつもりなのか。
途中、鍛錬場の側を通り過ぎたときに、剣術稽古をしていた筈のウリエクとも合流した。
ウリエクも何やら慌てた様子だったので、おそらく同じ話を聞いたのだろう。
「早く離宮に!」
「ああ!」
二人は揃って離宮へ向かった。
離宮は2階建てのこじんまりとした、宮というより屋敷といった方がしっくりときた。
深い青色の屋根が特徴的な、左右対称の古くも美しい建物だった。
エリエスもウリエクもここに来るのは初めてである。
急いで中に駆け込むと、全くと言っていいほど人の気配が無かった。
本当に正妃と王子がここに暮らしているのだろうか、離宮は別の場所なのでは、とエリエスが逡巡してしまう程度にはこの場所は静寂に満ちている。大切に守られているのではないのだろうか。
エリエスがウリエクの方に顔を向けると、同じことを感じ取ったのか、眉間に皺を寄せ疑問符を浮かべた顔をこちらに向けていた。
離宮にたどり着いたのは良いものの、まさか案内してくれる人間が一人もいないなどとは思ってもいなかった二人は、玄関口でしばし立ち尽くしてしまった。
とりあえず一部屋ずつ見て回るしかない、とウリエクが行動を開始しようとするが、
「エリエス王子殿下、ウリエク王子殿下!
なぜ…いや、よくここまで………本日はどういったご用件で?」
…人はいたようだ。
この離宮の執事であろう男性がこちらに近づいてくる。
執事は一瞬、信じられないものでも見るかのような顔をみせた。
予定外の訪問に驚きを含んだ声色ではあるが、その足取りに焦りなどは見られない。
その所作からベテランの執事であろうことがうかがえる。
「弟が…アトラエルが病気だと耳にしたんだ。一度でいいから会わせてほしい」
「部屋はどこだ」
「しかしお会いになるのは…」
エリエスとウリエクが執事に詰め寄る。執事はアトラエルと会わせるのを渋っているようだ。
確かに人に伝染してしまうような病にでもかかっている場合、王子二人をアトラエルにあわせるべきではないのだろう。
もしかしたら、そういう理由でこの離宮には人気がないのかもしれない。それでもエリエスは構わず言葉を続ける。
「僕達は、見舞うことも許されないのですか?」
およそ十歳とは思えない程に冷たく静かな声色で。
威圧するような物言いや態度は好きではないのだが、エリエスもなりふり構ってはいられない。
それに、先ほどから執事の態度にわずかな違和感を感じていた。
病が感染るものならそうだと言えば良いのにそれもなく、それでいてアトラエルには会わせたくないといった様子。
まさかこんな時でさえ後継争いのいざこざを持ち出すのかと一瞬暗い考えが頭をよぎり、あえて『僕達』を強調した。
執事の表情管理が上手いのかエリエスが未熟なためか、真意を窺い知ることは叶わなかったが。
エリエスは、こうなったら何が何でも弟に会おうと心に決めていた。
弟が倒れたのが命に関わる病であれば尚更、生きているうちに一目会いたいと。
そんなエリエスたちの様子から、引き下がらないだろうことを悟った執事は、アトラエルのいる二階の部屋へと二人を案内した。
そして七歳下の異母弟アトラエルがいるのだが、未だアトラエルに会ったことはない。
アトラエルが生まれてすぐに、正妃であるリトヴィアナ様と共に離宮に移ってしまったのだ。
侍従たちはアトラエルが病弱だからだと言っていたが、それからも一度として面会を許されることはなかった。正直、病弱だからというのを信じることはできなかった。互いに王位継承権を持つ王子。しかしあちらは第三王子とはいえ正妃の子。邪推するなという方が難しい。
そうして三年の月日が経ったある日、アトラエルが高熱に倒れたことを知った。
三日三晩熱は下がらず、このままでは命も危ないのだと。
知ったといっても、侍女たちの噂話を偶然にも耳にしてしまった程度のことであったが、次の瞬間にはもう駆け出していた。
向かう先は離宮。
本来ならば先触れを出して向かうことを告げ、移動も馬車を使う距離なのだが、その全てを無視する。
側近たちの静止をも振り切って一人走っていた。
何故こうも衝動的な行動に出てしまったのか、この時のエリエスにはわからない。
大切に囲われ守られているのであろう、一度も会ったことのない異母弟に会ってどうするつもりなのか。
途中、鍛錬場の側を通り過ぎたときに、剣術稽古をしていた筈のウリエクとも合流した。
ウリエクも何やら慌てた様子だったので、おそらく同じ話を聞いたのだろう。
「早く離宮に!」
「ああ!」
二人は揃って離宮へ向かった。
離宮は2階建てのこじんまりとした、宮というより屋敷といった方がしっくりときた。
深い青色の屋根が特徴的な、左右対称の古くも美しい建物だった。
エリエスもウリエクもここに来るのは初めてである。
急いで中に駆け込むと、全くと言っていいほど人の気配が無かった。
本当に正妃と王子がここに暮らしているのだろうか、離宮は別の場所なのでは、とエリエスが逡巡してしまう程度にはこの場所は静寂に満ちている。大切に守られているのではないのだろうか。
エリエスがウリエクの方に顔を向けると、同じことを感じ取ったのか、眉間に皺を寄せ疑問符を浮かべた顔をこちらに向けていた。
離宮にたどり着いたのは良いものの、まさか案内してくれる人間が一人もいないなどとは思ってもいなかった二人は、玄関口でしばし立ち尽くしてしまった。
とりあえず一部屋ずつ見て回るしかない、とウリエクが行動を開始しようとするが、
「エリエス王子殿下、ウリエク王子殿下!
なぜ…いや、よくここまで………本日はどういったご用件で?」
…人はいたようだ。
この離宮の執事であろう男性がこちらに近づいてくる。
執事は一瞬、信じられないものでも見るかのような顔をみせた。
予定外の訪問に驚きを含んだ声色ではあるが、その足取りに焦りなどは見られない。
その所作からベテランの執事であろうことがうかがえる。
「弟が…アトラエルが病気だと耳にしたんだ。一度でいいから会わせてほしい」
「部屋はどこだ」
「しかしお会いになるのは…」
エリエスとウリエクが執事に詰め寄る。執事はアトラエルと会わせるのを渋っているようだ。
確かに人に伝染してしまうような病にでもかかっている場合、王子二人をアトラエルにあわせるべきではないのだろう。
もしかしたら、そういう理由でこの離宮には人気がないのかもしれない。それでもエリエスは構わず言葉を続ける。
「僕達は、見舞うことも許されないのですか?」
およそ十歳とは思えない程に冷たく静かな声色で。
威圧するような物言いや態度は好きではないのだが、エリエスもなりふり構ってはいられない。
それに、先ほどから執事の態度にわずかな違和感を感じていた。
病が感染るものならそうだと言えば良いのにそれもなく、それでいてアトラエルには会わせたくないといった様子。
まさかこんな時でさえ後継争いのいざこざを持ち出すのかと一瞬暗い考えが頭をよぎり、あえて『僕達』を強調した。
執事の表情管理が上手いのかエリエスが未熟なためか、真意を窺い知ることは叶わなかったが。
エリエスは、こうなったら何が何でも弟に会おうと心に決めていた。
弟が倒れたのが命に関わる病であれば尚更、生きているうちに一目会いたいと。
そんなエリエスたちの様子から、引き下がらないだろうことを悟った執事は、アトラエルのいる二階の部屋へと二人を案内した。
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