運命に抗う傀儡王子は自身の命を顧みない

シロクチ

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2 二人の兄

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 サンスベリ王国には、国王の子となる男子が三人いる。
 王妃の子である第三王子アトラエル。側妃の子である第一王子エリエスと、第二王子ウリエク。アトラエルとその兄二人とは歳が七つは離れている。おまけに住んでいる場所も離れていた。側妃と兄たちは本城に、そして王妃とアトラエルは離宮にいたため本来であればお互いに会うことはほとんど無かったはずであった。しかし時を遡る前、誘拐されるよりも前のアトラエルは、兄たちによく会いに行っていた。当然ながら使用人の目を盗んで一人でである。人の目から隠れるのが上手かったアトラエルを止められた者は一人としてない。
 アトラエルが駆け寄れば長兄のエリエスは優しく抱きとめてくれた。

 ーーーいつもどうやって護衛を撒いているのやら。我らが末の弟は大人たちを困らせるのが得意のようだね。

 ーーーアトラエルにこうも毎回撒かれていては護衛たちの実力不足を疑わねばならんな。

 優しげにこちらを見つめ微笑んでくれるエリエス兄上も、強くて剣を振るう姿がカッコいい武人然としたウリエク兄上のことも、とても大好きだった。兄弟三人が仲良くいられるこの時間がずっと続くのだと思っていた。
 なのに二人とも死んでしまった。朧げな前世の記憶の中で、どうやって死んだのかはまるで覚えていないのに、死というその事実だけは刻まれている。
 時を遡ったのならば、兄上二人の死はこれから起こる未来の出来事だ。

「今のエリエス兄上とウリエク兄上は十歳くらいか」

 前世の僕がはじめて兄上たちと出会ったのはいつだったか。ああ、確か僕は幼い頃、ひどい熱で生死を彷徨ったと聞いたことがある。そしてその見舞いのために、兄上たちは初めて僕と会ったのだと。
 そこであらためて周囲の状況を確認する。人はちょうど誰もいなかったのだが、僕が今寝ているベッドの周りには物が多い。水の張った桶、タオル、水差し、薬の調合台…
 一つの可能性が頭をよぎったその時、

「弟は!アトラエルは無事か!」

 バン、と大きな音を立てて開かれた扉から少年が二人駆け込んでくる。

「あにうえ…」

 言葉が続かなかった。様々な想いが溢れて涙が頬をつたう。前世から言えば数年ぶり、そして今世では初めての兄たちとの邂逅だった。
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