俺が死なない理由

わかばひいらぎ

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その7 ー最終回ー

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 扉の先には、大きな布を被った物があり、その横に一人の男が椅子に座っていた。
「ふん。来たか」
 男はゆっくりと立ち上がり顔を見せた。
「俺は鶴田だ。俺を覚えいるか?俺は、お前を忘れない」
「え、いや全然」
 すごく因縁みたいになってるけど全然覚えてない。
「ふん、覚えていないのか。じゃあこれでどうだ!」
 そう言うと、その男は髪の毛をはぎ取った。どうやらズラだったようだ。
「ごめんなさい、全く」
 ココ最近、ハゲを見過ぎたせいでごっちゃになっている。
「貴様はあの時、私のヅラを剥がしたことを覚えていないのか?」
 あー、あの人か。うん、覚えてる覚えてる。ハゲなのバレたことにブチ切れしてたってこと?
「貴様は我ら禿頭組の攻撃を見事かいくぐって見せた。あの暗殺者でさえ辞表を出す始末だ」
 禿頭組?ああ、だから今まで来たやつ全員ハゲだったんだ。
「貴様は生き残ったのだ。その功績を称え、この禿頭組組長の私に殺される権利を与えよう」
「え、普通にいらね」
「ふん、その調子でいられるのも今のうちだ!!」
 そう言うと、大きな布を引き剥がした。そこには、数十個を超える機関銃のようなものがあり、銃口がこちらに向いている。
「さぁ、ジ・エンドだ」
 鶴田がいつの間にか手に握っていた紐を引っ張ると、全ての銃から弾が吐き出される。が、案の定やってきた。あのギター音が。予想出来ているのでもう驚かない。
「お!やっほー!今回はいつにも増してピンチだね!」
いつもの調子でリペラがやってくる。だが、その笑顔の中には少し寂しさが混ざっているように見える。
「…どうしたんだ?」
「え?」
「なんか寂しそうだぞ?何かあったのか?」
「ふふ、死にそうなのに彩くんは優しいんだね」
 てくてくと俺の前に出てくる。
「ほら、ここ助けたら多分お別れでしょう?だから…寂しいなって。ちくわも貰えないし」
「ちくわそんなに大事か?」
 お互い小笑いする。
「じゃあ、今回のオネダリを発表します!」
 なんともしんみりとした雰囲気だ。
「助けて欲しかったら…。死ぬまで私の事忘れないでね」
「…ああ、当然だ。言われなくても」
 そう言うとリペラは小さく笑って俺の横に立ち、俺のことを押し始めた。俺がズルズルと横にズレていく。ん?俺が動いてる…?
「おいおい待て待てリペラ。ちょっと待て」
「へ?」
「お前は…俺の事動かせるのか?」
「うん」
「じゃあ…じゃあトラックに轢かれそうな時もそうしてくれよ!あれ痛かったんだぞ!」
「え~、だって会ったばっかりでベタベタお触りはあれかなーって」
「あの時俺の鼻と乳首あんなにつついてたけどな」
「あはは…それは…」
リペラは目を泳がせている。
「くそ…あの彩斗式部も意味ねぇじゃねえかよ」
「まぁいいじゃん!助かったんだし」
「いいけど良くねぇよ!」
 二人で見つめ合いながら言い合う。この死にそうな事態なのに何をしているのか。冷静になり再び見つめ合うと、二人で大笑いした。
「じゃあほら、助けろよ」
「うん!」
 リペラが銃の範囲外に俺を押し出す。景色に色がつき動き出す。銃弾は木製の扉を撃ち抜いた。
「何!?なぜそこにいる!?」
 相手からしてみれば、俺が瞬間移動したように見えたのだろう。
「くそ!これで…」
 鶴田は懐から拳銃を取り出すと、迷いなく引金を引いた。銃声とともにギター音が鳴る。
「よっ、また会ったな」
「へへ、また助けてあげる」
 リペラがひょいと拳銃に手を伸ばし、ちくわとすり替え、銃弾を指で潰す。そして時間が動き出すその刹那…
「彩くん!彩くんが死にそうな時にまた来るから、それまで元気にねー!」
 ふん、そんれなら会わない方が幸せだな。リペラの姿は消え再び世界に色がつく。鶴田は拳銃がちくわに変貌していることに絶句し、膝を着いた。もう戦う意思がないことを確信し近づく。
「俺を…殺すのか?」
「いや、殺さないよ」
「何故…今までお前をあんなにも殺そうとしているのにか?」
「ああ、俺にあんたを殺す術を持ってないからな。持ってるのは交田に貰ったちくわくらいだし」
「ひぃ!ちくわは、ちくわは止めてくれぇ!!」
 さっきの拳銃がちくわに変貌していたことがトラウマになったようだ。
「やだよォ…俺ちくわになりたくない…」
 鶴田は俺が物をちくわに変える能力者か何かと勘違いをしているらしい。
「じゃあ、ちくわにしないから警察のお世話になってくれ。いいな?」
「はい!なんなりと!」
そして、俺の110番によって俺の殺され続ける日々は終わりを迎えた。

~5年後~
 あれから時がたち、大学も無事卒業し仕事にも着いた。今は某友人の勧めもあり、ちくわ関係の会社に就職した。都会での生活は色々大変だが充実している。さて、今日も仕事頑張りますか!信号が青に変わったことを確認し横断歩道を渡る。
「おい!危ない!」
 後ろからおじさんの声が聞こえ、振り返るとそこには俺目がけてトラックが猛スピードで迫ってきた。嘘だろ…こんな所で…。

!?

 懐かしいギター音だ。思わず笑みがこぼれる。
「やっほー!久しぶり!」
「ああ、リペラ…。久しぶりだな。で、何して欲しいんだ?」
END
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