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case1 館
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魔王城。勇者と魔王はまさかのリビングで対峙していた。
『えぇい魔王!テーブルの下から出てこい!』
『他人の家に上がり込んで人殺しとか勇者のやることかよ!』
『不法侵入と殺害は勇者の特権なんだよ』
『そんな勇者、国民が支持すると思ってるのか!?』
『そこはご心配に及ばず。議会で魔王殺害法が制定されてて、司法からも許しが出てる。つまり、お前の死は民意が許してるわけだ』
『えー!やだまだ死にたくない!』
『うるせぇ!俺はな、この剣でお前を殺してレベル上げて、既知魔法で彼女を作るんだ!』
そう叫んだ勇者だが、剣を振り上げたところでぱっと消えてしまった。
丸瀬 琉はタクシーに乗って森の奥深くまで来ていた。しがない探偵である彼がなんのためここに来たのか。自殺じゃないよ。
有名作家である金銀銅次郎の館に一泊二日するという謎のチケットを貰ったというか、押し付けられたため嫌々向かっている。
「着きましたよ、お客さん」
「ありがとうございます」
「お代、一万円ちょうどです」
「高!」
ひ弱な探偵の財布には痛い。
タクシーを降りると、早速館を目の前にする。森の中にある洋館と言うだけでミステリアスさと言うか、禍々しさを感じる。外壁に生える蔦がそれをより助長しているように見えた。
両開きの大きなドアを開けて中に入ると、よくホラゲの舞台になりそうな内装をしている。真っ赤な絨毯にダークブラウンの壁。ロビーの天井にある豪華なシャンデリアが“まさに”といった感じだ。
そんな広いロビーに、二人の人がいた。彼らもチケットに当選したのだろう。ソファーに座って団欒している。
そこに行きたいのは山々だが、その前に、来たかどうかをチェックする紙がある。自分の名前を見つけてチェックマークを入れ、他の人の名前も見てみる。
「あれ、この花村金銀銅って人、どっかで聞いたことがある気がする。こんな変な名前忘れるはずないんだけどなぁ」
人の名前に対して失礼なやつである。確かに変な名前だけど。
一通り作業を終え、先程見えたソファーの方に赴き挨拶をする。
そこに居たのは眼鏡をかけ、スーツを着てオールバックにしている威厳だらけの中年男性と、元気なさげな若い男性がいる。
「どうも。丸瀬琉です。仕事は探偵やってます」
「探偵か、珍しいな。私は社長だ」
「え……あ、そうなんですね」
めっちゃ適当に返してしまった。その反応を見て社長ははっとした。
「ははは!すまない。社長というのは名前なんだ。社長雅仁。これが私のフルネームだ」
「そうなんですね。それじゃあお仕事は?」
「保育士だ」
「見た目とのギャップ!」
意外なギャップに驚き思わず体言止めを使うと、隣にいるもう一人の人がボソボソと挨拶してきた。
「僕は二宮出御座郎。変な名前ですけど、よろしく……。あと、仕事はテレビのADです」
「よ、よろしく……」
濃い名前の人ばかりで正直ビビっている。
「あと一人のようだが、まだ来ないみたいだね」
「さっきあの紙で見ました。花村金銀銅って人らしいですけど」
「金銀銅!」
「知ってるんですか?」
「知らないよ?」
「知らねぇのかよ!じゃあなんでエクスクラメーションマーク付けたんですか」
「……花村金銀銅は、有名な作家さんです」
そう言い始めたのは二宮出だ。
「この前テレビに出演して頂いたんですけど、なんかよく分かんない小説書いてました」
「よく分かんないんだ」
「便器で人参を育てる話だった気がします」
「あ、よく分かんねぇわ」
「そうか?よくやると思うんだが……」
社長とは価値観的に反りが会わなそうだ。
そんな話をしていると、タイミングよく人が入ってきた。恐らく彼が花村金銀銅だろう。折り目正しいシャツを着て、息を切らしている。
「いや~すまないハァ。遅れてしまったハァ」
めっちゃ息を切らしながらチェックを入れこちらに来る。
「いえいえ。こちらも来たばかりですから」
「そうですかハァ。お気遣いハァありがハァとうございまハァすぅ……」
「いつまで息切れしてんだよ」
「遅れてしまい申し訳ない。私は花村金銀銅。作家だ」
「丸瀬です。探偵です」
「社長だ。保育士だ」
「二宮出御座郎です。ADです」
「おぉ……なんとも言えない面々だな」
金銀銅が言えたことではないが、濃い面々に驚きが隠せないようだ。
「皆さんはどうして銅次郎先生の館招待に応募したんですか?」
「僕は友達に無理やり押し付けられました」
「私は、預かってる子供の母親から貰ったな」
「……ディレクターが要らないって言うので貰いました」
「あっ、結構みんな嫌々なんだ」
「そう言えば、銅次郎さんはまだ来ないのかね?」
「ギクゥ!」
「なんですか一体。さっきから息切れといい反応といいうるせぇ人ですね」
「あはは……すまんすまん。きっと銅次郎さんは書斎にいるはずだ」
作家同士知り合いなのか、金銀銅は館の中をスタスタと歩き始める。行き着いた先には、模様が掘られたドアにルーズリーフが貼り付けられており、そこには細いペンで『書さい』と書かれている。
「意外と馬鹿みたいな感じなんですね」
「……『書』っていう字誤字ってますね」
「流石有名な作家だな!」
「そうはならないでだろ」
やはりこの社長、馬が合わない。
「失礼しまーすハァ。銅次郎先生ハァ、いっしゃいハァますかハァ?」
「階段登るだけで息切れすんなよ」
しかし、中から返答はない。
「銅次郎。……先生?入りますよ?」
「呼び捨てしたろお前」
花村がノブを回すと、ドアは開いた。
そして中には……部屋中に血を撒き散らし倒れている金銀銅次郎の姿があった。
「死んでる!?」
「死んでるな」
「……死んでますね」
「シンデルー」
「なんでリアクション適当なんだよ」
「よし、犯人探しを開始する!」
「誰だ!証拠を出せ!」
「早ぇよ切り替えが」
「……やっぱり探偵ですし、丸瀬さんに任せた方がいいんじゃないですか?」
「そうだな。じゃあ丸瀬くんに丸投げしよう!」
「そうしよう!」
「なんでそうなんだよ!おい待て!勝手に帰んじゃねぇ!」
殺害現場に取り残された丸瀬は、とりあえず死体を観察することにした。
「衣服が乱れてるから相当揉み合ったんだな。死因は……太い血管を切られたことによる失血死か」
今わかることはこれくらい。猫探し限定の雑魚探偵丸瀬にはこれくらいしか分からない。
「誰が雑魚だ!……でも、確かにこれ以上のことは分かんないし、隣の部屋でも見てみるか」
死体をまたいで隣の部屋のドアを開けると、そこに剣を構えた勇者のような人がいる。そっとドアを閉じた。そそくさと書斎から出ようとすると、勇者がドアを開けて勢いよく出てくる!
「おいちょ待てよ!」
「そんなキ〇タクみたいな感じで呼び止めんな!絶対犯人だろおめぇ!」
「そんなことねぇよ!」
「そんなことあるだろ剣持ってんだし!」
「剣は持ってるけど血がついてねぇだろ。それに、これだけの出血なんだから返り血浴びてねぇのもおかしいだろ」
確かにその通りだ。彼は変な鎧を着ているが、血は一滴も着いていない。
「くそ……変なタイミングで変なところに異世界転移してしまった……」
「なぁあんた!僕に協力してこの殺人の謎を解いてくれ!お礼になんか奢ってあげるから」
「う~ん……異世界転移までして餓死は嫌だし、いいよ」
「あ、結構軽いんだね。もっと葛藤あると思ってたわ」
まさかの食べ物で釣られた勇者が推理に参加してくれることになった。
「俺の名前は風莉。魔王討伐寸前の勇者だ」
「名前漢字なのかよ」
「あと経験値5000でレベルが上がるぞ。でもこの世界に魔物はいないみたいだから今までの苦労が水の泡だな!クソが!」
「めっちゃ怒るじゃん」
喜怒哀楽の変化が激しい勇者だが、本当に平気なのだろうか。
「よし、早速捜査開始だ」
「あ、ゴキブリだ」
「捜査開始って言ってんだろ。遊んでんじゃねぇよ」
「現れて 何処へゆくのか 御器噛」
「俳句読んでんじゃねぇよ」
「えいっ」
風莉は自然な流れでゴキブリを潰した。
「何が自然な流れだよ!俳句読んで潰すって」
風莉の手にはベッタリとゴキブリの死骸が張り付く。
「うぇ……それで触んなよ」
「ほれほれ~」
「ぎゃー!見せんなよ!」
なんとも幼稚な勇者だが、突然ハッとして上目になる。
「どうした?」
「……レベルが上がった」
「え?なんで?」
「ゴキブリって経験値一万入るんだな!もっと出てこいこの野郎!」
「うるせぇ勇者だなぁ」
「おい丸瀬!俺レベル上がったから魔法使えるようになったぞ!その名も既知魔法!」
「なにそれ?」
「既知だから、まぁその人の過去とかが丸見えってこと?」
「めっちゃ便利な魔法だな」
「多分これで犯人とかも分かるよ見てみよ」
風莉がじっと死体を見ると、ホワァ~ンと映像が浮かんできた。
『やめなさい!金銀銅!』
『銅次郎先生の体を~!包丁でグッサグッサ!』
『包丁でグッサグッサするのをやめなさい!ぎゃ~』
「なにこれ」
犯人が花村金銀銅だったということよりも、なんか色々とツッコミたいところがある。
「悲惨な殺人を犯した花村金銀銅。果たして動機はなんだったのでしょうか?見てみましょう」
「テレビの司会じゃねぇんだから」
再びホワワ~ンと映像が浮かんでくる。
『やめろ!金銀銅。何故こんなことをする?』
『お前はな、俺と同じ作家なのに金銀銅次郎って、ややこしいんだよ!』
「そんな理由かよ」
まさかの理由に少し唖然とした。
「殺害後は?」
「見せてあげる」
再び映像が浮かぶ。そこには、血で濡れた服を脱ぎ、風呂に入り、新しい服を着て正面玄関まで猛ダッシュする花村金銀銅の姿があった。
「これだけ走れば息切れもするわな」
なんとなく納得した。
「ねぇ風莉」
「なに?」
「この映像さ、本人に見せて自白させようぜ」
「いいよ」
マジで捜査もへったくれもなかった。
二人が下の階に降りると、三人は座って待っていた。
「2だ!どうだ出せないだろ」
「すみませんね、ジョーカーです」
「……すみません。スペードの3です」
「スペ3返しかよ!」
「なにそれ?ローカルルール?」
「おめぇらなんで大富豪で遊んでんだよ」
「あ、丸瀬くんじゃないか。それと……誰?」
「勇者です!」
「名前言えよ」
「風莉です。魔法で犯人見つけました」
理解してもらう気ゼロの発言をし、再び映像を浮かばせた。百聞は一見にしかずだ。
「ほら~。これ絶対金銀銅さんが銅次郎さん殺したんじゃないですか」
花村金銀銅は目を凝らして映像を見ている。そして……
「そうだ……俺がやったんだ……自首する……」
そう。この勇者の魔法のせいで殺害方法とか犯人の動機だとか、本来推理とか捜査して楽しむべき要素が全てダダ漏れなのでなんのも面白味もない。まぁミステリーじゃないから別にいいよね。
こうして、花村金銀銅はパトカーに乗せられた。これを機に、丸瀬風莉ペアは探偵として名が知れ渡った。
ちなみに、衣食住のない風莉は丸瀬の探偵業を助けるという名目で居候することになった。
『えぇい魔王!テーブルの下から出てこい!』
『他人の家に上がり込んで人殺しとか勇者のやることかよ!』
『不法侵入と殺害は勇者の特権なんだよ』
『そんな勇者、国民が支持すると思ってるのか!?』
『そこはご心配に及ばず。議会で魔王殺害法が制定されてて、司法からも許しが出てる。つまり、お前の死は民意が許してるわけだ』
『えー!やだまだ死にたくない!』
『うるせぇ!俺はな、この剣でお前を殺してレベル上げて、既知魔法で彼女を作るんだ!』
そう叫んだ勇者だが、剣を振り上げたところでぱっと消えてしまった。
丸瀬 琉はタクシーに乗って森の奥深くまで来ていた。しがない探偵である彼がなんのためここに来たのか。自殺じゃないよ。
有名作家である金銀銅次郎の館に一泊二日するという謎のチケットを貰ったというか、押し付けられたため嫌々向かっている。
「着きましたよ、お客さん」
「ありがとうございます」
「お代、一万円ちょうどです」
「高!」
ひ弱な探偵の財布には痛い。
タクシーを降りると、早速館を目の前にする。森の中にある洋館と言うだけでミステリアスさと言うか、禍々しさを感じる。外壁に生える蔦がそれをより助長しているように見えた。
両開きの大きなドアを開けて中に入ると、よくホラゲの舞台になりそうな内装をしている。真っ赤な絨毯にダークブラウンの壁。ロビーの天井にある豪華なシャンデリアが“まさに”といった感じだ。
そんな広いロビーに、二人の人がいた。彼らもチケットに当選したのだろう。ソファーに座って団欒している。
そこに行きたいのは山々だが、その前に、来たかどうかをチェックする紙がある。自分の名前を見つけてチェックマークを入れ、他の人の名前も見てみる。
「あれ、この花村金銀銅って人、どっかで聞いたことがある気がする。こんな変な名前忘れるはずないんだけどなぁ」
人の名前に対して失礼なやつである。確かに変な名前だけど。
一通り作業を終え、先程見えたソファーの方に赴き挨拶をする。
そこに居たのは眼鏡をかけ、スーツを着てオールバックにしている威厳だらけの中年男性と、元気なさげな若い男性がいる。
「どうも。丸瀬琉です。仕事は探偵やってます」
「探偵か、珍しいな。私は社長だ」
「え……あ、そうなんですね」
めっちゃ適当に返してしまった。その反応を見て社長ははっとした。
「ははは!すまない。社長というのは名前なんだ。社長雅仁。これが私のフルネームだ」
「そうなんですね。それじゃあお仕事は?」
「保育士だ」
「見た目とのギャップ!」
意外なギャップに驚き思わず体言止めを使うと、隣にいるもう一人の人がボソボソと挨拶してきた。
「僕は二宮出御座郎。変な名前ですけど、よろしく……。あと、仕事はテレビのADです」
「よ、よろしく……」
濃い名前の人ばかりで正直ビビっている。
「あと一人のようだが、まだ来ないみたいだね」
「さっきあの紙で見ました。花村金銀銅って人らしいですけど」
「金銀銅!」
「知ってるんですか?」
「知らないよ?」
「知らねぇのかよ!じゃあなんでエクスクラメーションマーク付けたんですか」
「……花村金銀銅は、有名な作家さんです」
そう言い始めたのは二宮出だ。
「この前テレビに出演して頂いたんですけど、なんかよく分かんない小説書いてました」
「よく分かんないんだ」
「便器で人参を育てる話だった気がします」
「あ、よく分かんねぇわ」
「そうか?よくやると思うんだが……」
社長とは価値観的に反りが会わなそうだ。
そんな話をしていると、タイミングよく人が入ってきた。恐らく彼が花村金銀銅だろう。折り目正しいシャツを着て、息を切らしている。
「いや~すまないハァ。遅れてしまったハァ」
めっちゃ息を切らしながらチェックを入れこちらに来る。
「いえいえ。こちらも来たばかりですから」
「そうですかハァ。お気遣いハァありがハァとうございまハァすぅ……」
「いつまで息切れしてんだよ」
「遅れてしまい申し訳ない。私は花村金銀銅。作家だ」
「丸瀬です。探偵です」
「社長だ。保育士だ」
「二宮出御座郎です。ADです」
「おぉ……なんとも言えない面々だな」
金銀銅が言えたことではないが、濃い面々に驚きが隠せないようだ。
「皆さんはどうして銅次郎先生の館招待に応募したんですか?」
「僕は友達に無理やり押し付けられました」
「私は、預かってる子供の母親から貰ったな」
「……ディレクターが要らないって言うので貰いました」
「あっ、結構みんな嫌々なんだ」
「そう言えば、銅次郎さんはまだ来ないのかね?」
「ギクゥ!」
「なんですか一体。さっきから息切れといい反応といいうるせぇ人ですね」
「あはは……すまんすまん。きっと銅次郎さんは書斎にいるはずだ」
作家同士知り合いなのか、金銀銅は館の中をスタスタと歩き始める。行き着いた先には、模様が掘られたドアにルーズリーフが貼り付けられており、そこには細いペンで『書さい』と書かれている。
「意外と馬鹿みたいな感じなんですね」
「……『書』っていう字誤字ってますね」
「流石有名な作家だな!」
「そうはならないでだろ」
やはりこの社長、馬が合わない。
「失礼しまーすハァ。銅次郎先生ハァ、いっしゃいハァますかハァ?」
「階段登るだけで息切れすんなよ」
しかし、中から返答はない。
「銅次郎。……先生?入りますよ?」
「呼び捨てしたろお前」
花村がノブを回すと、ドアは開いた。
そして中には……部屋中に血を撒き散らし倒れている金銀銅次郎の姿があった。
「死んでる!?」
「死んでるな」
「……死んでますね」
「シンデルー」
「なんでリアクション適当なんだよ」
「よし、犯人探しを開始する!」
「誰だ!証拠を出せ!」
「早ぇよ切り替えが」
「……やっぱり探偵ですし、丸瀬さんに任せた方がいいんじゃないですか?」
「そうだな。じゃあ丸瀬くんに丸投げしよう!」
「そうしよう!」
「なんでそうなんだよ!おい待て!勝手に帰んじゃねぇ!」
殺害現場に取り残された丸瀬は、とりあえず死体を観察することにした。
「衣服が乱れてるから相当揉み合ったんだな。死因は……太い血管を切られたことによる失血死か」
今わかることはこれくらい。猫探し限定の雑魚探偵丸瀬にはこれくらいしか分からない。
「誰が雑魚だ!……でも、確かにこれ以上のことは分かんないし、隣の部屋でも見てみるか」
死体をまたいで隣の部屋のドアを開けると、そこに剣を構えた勇者のような人がいる。そっとドアを閉じた。そそくさと書斎から出ようとすると、勇者がドアを開けて勢いよく出てくる!
「おいちょ待てよ!」
「そんなキ〇タクみたいな感じで呼び止めんな!絶対犯人だろおめぇ!」
「そんなことねぇよ!」
「そんなことあるだろ剣持ってんだし!」
「剣は持ってるけど血がついてねぇだろ。それに、これだけの出血なんだから返り血浴びてねぇのもおかしいだろ」
確かにその通りだ。彼は変な鎧を着ているが、血は一滴も着いていない。
「くそ……変なタイミングで変なところに異世界転移してしまった……」
「なぁあんた!僕に協力してこの殺人の謎を解いてくれ!お礼になんか奢ってあげるから」
「う~ん……異世界転移までして餓死は嫌だし、いいよ」
「あ、結構軽いんだね。もっと葛藤あると思ってたわ」
まさかの食べ物で釣られた勇者が推理に参加してくれることになった。
「俺の名前は風莉。魔王討伐寸前の勇者だ」
「名前漢字なのかよ」
「あと経験値5000でレベルが上がるぞ。でもこの世界に魔物はいないみたいだから今までの苦労が水の泡だな!クソが!」
「めっちゃ怒るじゃん」
喜怒哀楽の変化が激しい勇者だが、本当に平気なのだろうか。
「よし、早速捜査開始だ」
「あ、ゴキブリだ」
「捜査開始って言ってんだろ。遊んでんじゃねぇよ」
「現れて 何処へゆくのか 御器噛」
「俳句読んでんじゃねぇよ」
「えいっ」
風莉は自然な流れでゴキブリを潰した。
「何が自然な流れだよ!俳句読んで潰すって」
風莉の手にはベッタリとゴキブリの死骸が張り付く。
「うぇ……それで触んなよ」
「ほれほれ~」
「ぎゃー!見せんなよ!」
なんとも幼稚な勇者だが、突然ハッとして上目になる。
「どうした?」
「……レベルが上がった」
「え?なんで?」
「ゴキブリって経験値一万入るんだな!もっと出てこいこの野郎!」
「うるせぇ勇者だなぁ」
「おい丸瀬!俺レベル上がったから魔法使えるようになったぞ!その名も既知魔法!」
「なにそれ?」
「既知だから、まぁその人の過去とかが丸見えってこと?」
「めっちゃ便利な魔法だな」
「多分これで犯人とかも分かるよ見てみよ」
風莉がじっと死体を見ると、ホワァ~ンと映像が浮かんできた。
『やめなさい!金銀銅!』
『銅次郎先生の体を~!包丁でグッサグッサ!』
『包丁でグッサグッサするのをやめなさい!ぎゃ~』
「なにこれ」
犯人が花村金銀銅だったということよりも、なんか色々とツッコミたいところがある。
「悲惨な殺人を犯した花村金銀銅。果たして動機はなんだったのでしょうか?見てみましょう」
「テレビの司会じゃねぇんだから」
再びホワワ~ンと映像が浮かんでくる。
『やめろ!金銀銅。何故こんなことをする?』
『お前はな、俺と同じ作家なのに金銀銅次郎って、ややこしいんだよ!』
「そんな理由かよ」
まさかの理由に少し唖然とした。
「殺害後は?」
「見せてあげる」
再び映像が浮かぶ。そこには、血で濡れた服を脱ぎ、風呂に入り、新しい服を着て正面玄関まで猛ダッシュする花村金銀銅の姿があった。
「これだけ走れば息切れもするわな」
なんとなく納得した。
「ねぇ風莉」
「なに?」
「この映像さ、本人に見せて自白させようぜ」
「いいよ」
マジで捜査もへったくれもなかった。
二人が下の階に降りると、三人は座って待っていた。
「2だ!どうだ出せないだろ」
「すみませんね、ジョーカーです」
「……すみません。スペードの3です」
「スペ3返しかよ!」
「なにそれ?ローカルルール?」
「おめぇらなんで大富豪で遊んでんだよ」
「あ、丸瀬くんじゃないか。それと……誰?」
「勇者です!」
「名前言えよ」
「風莉です。魔法で犯人見つけました」
理解してもらう気ゼロの発言をし、再び映像を浮かばせた。百聞は一見にしかずだ。
「ほら~。これ絶対金銀銅さんが銅次郎さん殺したんじゃないですか」
花村金銀銅は目を凝らして映像を見ている。そして……
「そうだ……俺がやったんだ……自首する……」
そう。この勇者の魔法のせいで殺害方法とか犯人の動機だとか、本来推理とか捜査して楽しむべき要素が全てダダ漏れなのでなんのも面白味もない。まぁミステリーじゃないから別にいいよね。
こうして、花村金銀銅はパトカーに乗せられた。これを機に、丸瀬風莉ペアは探偵として名が知れ渡った。
ちなみに、衣食住のない風莉は丸瀬の探偵業を助けるという名目で居候することになった。
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