勇者ライフ!

わかばひいらぎ

文字の大きさ
14 / 133
現れし弟編

その8 逆襲からの〜?

しおりを挟む
「そんな……本当に蘇った……」

「フーリさんとマルセルさんは?一緒じゃないんですか?」

「あいつらは映画見に帰っちまったよ」

「残念だなぁ。一緒に行きたかった」

「あいつは俺が倒す!アウルは早く逃げ……うっ!」

「どうしたんですか!?」

「急に……気分が……ってか腹が痛たたた!」

「これもあいつの仕業かも知れません」

「俺は……カール様の……って痛たたたた!」

「クライブさん無理しないでください」

「でも、このままじゃ校舎はめちゃくちゃに……。勇者団も間に合わないだろう。だから、俺がやらないと……ってだから痛たたたた!」

 クライブは痛みで震える体を無理矢理立たせようとするが、直ぐに体勢を崩してしまう。

「クソっ!勇者なのに、なんで魔物一匹倒せないんだ痛たたたた!」

 悔しさ(と痛み)からクライブは思わず叫ぶ。すると、その声を聞きつけ校舎側から誰かが駆け付けてきた。マルセラとルイスだ。

「クライブさん!?どうしたんですか!」

「マルセラちゃん?それにルイスくん。無事だったのか?」

「はい。……え!?なんでまたあいつが動いてるの?」

「どうやらあいつは核ってのを壊さないと死なないらしい。でも、俺はどうやら動けないみたいだ。だから、二人とも逃げるんだ。アウル、頼めるか?」

「もちろん!二人とも、ここを早く離れましょう!そこにいるのは先生……かな?」

 外に出てからはルイスが服を引っ張ってハンスを運んでいた。

「遠くに避難です!もうそろそろ勇者団も到着するようなので……」

「その必要はないですよ。私とルイスくんで倒しますから、あの魔物。ね?ルイスくん?」

「そ、そうです!その、絶対!多分!頑張る!」

「自信なさげね……」

 ルイスはアウルにハンスを預けた。

「え!?ほんとに……?やめといた方がいいと思うけどなぁ……」

「じゃあ行くよ!来い、ベルゼブブ!さぁルイスくん乗って!」

「うん!」

 二人はベルゼブブに飛び乗り、魔物目がけて飛び出した。

「えっと……僕何すればいいんだろ」

「ト、トイレ……トイレに連れて行ってくれ……」

「トイレ無いんでそこの花壇でしてください」


 ベルゼブブの背の上で二人は話していた。

「まだ完全にくっついてないから中にある核が狙えるね」

「うん。一瞬見えたオレンジ色のやつでしょ?」

「みたいね。突っ込んでいくけど、今はベルゼブブ召喚中だから他の悪魔で守ってあげられないわよ」

 ベルゼブブは少し勢いを増して突っ込んでいく。腕は絡むように迫ってくるが、グルグルとアトラクションのように避けていく。そして、魔物の下部に残っている割れ目から内部に侵入する。真上に光り輝く核が見えた。

「垂直に上昇するから落ちないように掴まって!」

「掴まるって……どこに?」

「どこって、私の肩とか腰とかあるじゃない」

「え!そんなセクハラできないよ!」

「この際ちょっとくらいいいわよ!」

 ルイスは顔を赤くしてマルセラの肩に控えめに手を置いた。その間にもグングンと核が近づいてくる。

「今よルイスくん!切って!」

「うん!」

 左手はマルセラの肩を掴んだままで、右手で刀身を出し、ベルゼブブの飛ぶ勢いを利用し核を真っ二つに切り裂いた。

「やったね!切れたよ!」

「よし、じゃあ逃げるわよ!」

 当然核を失った魔物は崩れ始める。魔物は大きければ大きいほど魔素化が遅いので早くここから出なくては下敷きになってしまうだろう。大急ぎで割れ目から外に出ると、予想通り魔物は崩れ落ちていた。しかし、力を失った八本の大きい腕もうねりながら落下してくる。そのうちの一本がこちら目掛けて降ってきたのだ。

「わぁ!う、腕が!」

「ルイスくん!危ない!……来い、イブリース!」

 マルセラは腕からルイスを守るために戦いに長けた悪魔イブリースを召喚した。勿論ベルゼブブは消えてしまい二人は空中で引き離される。イブリースが腕を切った後、マルセラは再びベルゼブブをルイスの元に召喚し自らは落下していった。

「そんな……僕を守るために……。僕なら、腕を切れたはずなのに。僕が臆病だから、マルセラさんは……」

 ルイスは手に握っている柄をじっと見る。涙で目が潤んできたが、ぼやけた柄を見てあることを思い出した。

「柄頭の穴……そうだ!この中の風魔法石を使えば、少しの間なら浮遊できるはず」

 ルイスは、勇気を振り絞りベルゼブブの上から飛び降りた。風魔法石に意識を集中さる。この石さえあれば一般人でも簡単に魔法を使うことができるのだ。風魔法は攻撃と言うよりも空を飛ぶのに使われるため、この魔法を使い体勢を立て直しながらマルセラの元に飛んで行った。

「マルセラさあああん!」

「ルイスくん!?」

 ルイスはマルセラを抱きしめるようにして合流した。合流を果たした後も風魔法を駆使し何とか着陸したのであった。

「よかった……。なんとか助かった」

「ありがとうルイスくん。だから……その、そろそろ離してくれる?」

 ルイスはまだマルセラを抱きっぱなしだった。

「わぁ!ごめん!」

 急いで首に回していた腕を外した。

「まぁ、少しくらい、ならね?」

 マルセラは顔を赤らめて目線を逸らしてきた。お互いの間に変な空気が流れた。

「おーい二人とも!大丈夫~?」

「あっ!アウルさん……でしたっけ?」

「うん。いや~二人が突然でかいハエに乗った時はビックリしたよ~」

「あはは……そうですよね」

「ほら、勇者団の人達来てるから一緒に行こ。あの魔物と接触したなら来てくれって言ってるよ」

 こうして、ルイスの転校初日はなかなかに悲惨な終わり方をした。ちなみにクライブの腹痛はフーリに奢ってもらった四川風上海坦々麺広東風のせいだった。

~一方その頃~

in映画館

「あの~、『世紀末西部ぐへへ物語』を観たいんですけど~」

「いつ聞いてもとち狂ったタイトルだなこの映画」

「大人一人と子供一人で」

「……?すみませんが、お客様。年齢を確認できる物はありますか?」

 すごくマルセルに疑いの目が向けられている。

「え?でもこいつどう見ても子供ですよね?白髪っすけど」

「白髪じゃないよ!」

「白髪みたいなもんだろ」

「フーリ!言う事聞かないと服焼くよ!」

「わぁぁぁ!ほんとに焼くなよ!あぁでも服の裾が焼けてカッコイイデザインに……」

「お客様。年齢詐欺はいけませんよ」

 店員さんの手にはぎらりと光る包丁が握られている。多分年齢詐欺撃退マニュアルに書いてあるんだろう。

「あ、すみません~あはは~……逃げるぞ!」

「わぁ!フーリいきなり担がないでよ!」

 こうして、学校で死闘が繰り広げられている時、この二人のクソ勇者は詐欺をしようとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...