勇者ライフ!

わかばひいらぎ

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日常編(単発)

巷で有名なヤンキー

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 ある日、マルセル、マルセラ、オォの三人は駅から離れた閑静な住宅街を歩いていた。マルセルの持つダウジングロッドのむく方向を頼りに進んだらここにたどり着いたのだ。
「ねぇお兄ちゃん、どこまで行く気なの?帰ろうよ」
「え~宝探し……」
「こんな所で見つかるわけないじゃない。ね?オォ」
「うん。オォもそう思う。やっぱりマルセルは馬鹿だな」
「ば、馬鹿!?そんな……今に見てろよ!このダウジングで……」
「お兄ちゃんさ、宝探し魔法みたいなのはないの?」
「……あ、ある」
 マルセルは、馬鹿だった。
「……うわぁぁん!マルセラとオォが僕を虐める~」
「なんで私に泣きついてくるのよ!ちょっと、服が汚れちゃうから止めて!」
 マルセルはあえなくマルセラに突き飛ばされた。その衝撃でマルセルが手に持っていたダウジングロッドがアスファルトの上にカラカラと音を立てて落ちた。それをオォがつまみ上げてジロジロ見たり匂いを嗅いだりしている。そして、オォは服の袖からスライムをにゅっと出してダウジングを吸い込ませた。
「わぁぁぁ!オォ何してんの!」
「ん?このヒモみたいのは食いもんじゃないのか?」
「違うよ!スライムの餌でもないし食べられるものですかないよ!」
「安心しろ!スライムはこのくらいじゃお腹壊さないぞ」
「そういう心配をしてるんじゃないの!」
 ついにマルセルは拗ねて走り出してしまった。兄は年齢的には二十歳を超えているというのに精神面では未だに子供のままだと痛感した。しかし、マルセルが走っていった方から鈍い音が聞こえた。
「お兄ちゃんどうしたの~?」
 少しカーブした道を進むと、視界が開けたところでマルセルが尻もちをついていた。その先には大柄な男性が仁王立ちしている。恐らく先程の音も加味して考えればマルセルが男性にぶつかったのだろう。
「お兄ちゃん何してるの?」
「こ、この人の体幹が強くてね~」
「要はぶつかったのね」
「お~。マルセルも人を褒められるようになったんだな!偉いぞ!」
「えへへ~」
「オォ……そういうのは褒めちゃ駄目なの。余計に調子に乗るから」
「お前ら……何の用だ?」
 今まで蚊帳の外だった男が話しかけてきた。
「俺だと分かってぶつかってきたんだろ?なら来いよ、全力で」
 何故か男はファイティングポーズになる。 
「えっと……貴様何者ですか?」
「貴様?ナチュラルに貴様?」
「俺は破壊神と異名で呼ばれている、この辺りでは有名なはずだが」
「は、はぁ……」
 こいつもナチュラルにそう言ってくるのでマルセラも顔を歪ませて頷くしかなかった。
「えー!お前自分で自分なこと有名とか言っちゃうんだ恥ずかしいやつだなー!」
「お兄ちゃん煽らないで!」
「聞いた?二人とも聞いた?破壊神だって!イタい奴だなー!」
「オォも真似しないでいいの!」
 恐らくこの煽り方はフーリから伝染したのだろう。
「お前ら俺を煽っているのか?いいだろう、ぶつかってきたのが故意だろうが偶然だろうが関係ない。俺はな、高校中退して街の不良を纏めてボディビル選手権で三十二位を獲得しているんだぞ」
「わー絵に描いたような不良!まぁ『良』に打ち消しの『不』がついてるくらいだからまともな人生は歩んでなさそうだもんね……」
「三十二位か……オォ凄いのか凄くないのかよくわかんないぞ」
「不良の欲張りセットだね」
 脅しても脅してもちっとも怯みもしない三人を目にして、不良の怒りは頂点に達したらしい。
「うらあああ!クソが!」
 という叫び声と共にマルセルに向かって連続パンチを繰り出した。
「うわぁ!痛い!痛いけど腰痛に効く!」
「腰痛に効くんだ。殴られてるのお腹なのに」
「肩こりには効かないんだ」
「そこガッカリする?」
 いくら殴っても全然ダメージを食らった素振りを見せなかったからか、それとも単純に疲れたからは分からないが不良は攻撃を止め一旦距離を取った。
「ねぇお兄ちゃん、この人どうするの?」
「さっき『全力で来い!』みたいなこと言ってたから全力で燃やすとか?」
「殺すのは可哀想よ」
「じゃあ社会的な死は?」
「オォ賛成!」
「それも充分可哀想でしょ!」
「さて……どう料理しようかな……」
 こうして、不良は上半身にびっちりと悪魔の烙印を押され、後に無事和解(?)して終わったのであった。ちなみにクライブはボディビル選手権で三十一位を獲得していたらしい。
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