勇者ライフ!

わかばひいらぎ

文字の大きさ
73 / 133
日常編(単発)

とある日のオォ

しおりを挟む
 オォ。めっちゃ前に登場してそれ以来あんま登場してなかったけどマルセラの部屋で監視(?)されている魔物だ。今日は、そんな謎多き魔物オォの一日に密着してみました。

〈午前六時〉
 今日は祝日だがオォの朝は意外にも早い。お昼頃までベッドで寝過ごす勇者もいれば早起きする魔物もいるということだ。勿論この早起き癖をオォに叩き込んだのはこの部屋の主であるマルセラなのだが。
「おいっす!マルセラおはよ!」
「おはようオォ。顔は洗った?」
「これからー。マルセルは?」
「お兄ちゃんはお昼にフーリさんとクライブさんと一緒に出かけるって言ってまだ寝てるわ。私達も今日は少し遠くに出かけるんだから早く準備しましょう」
「うん!顔洗ったらすぐご飯食べに行くね!」
 彼女らの朝はスムーズなのだ。これまたどこかの勇者とは違って。室内の洗面所で顔を洗い終わったオォは一目散に食堂に向かう。そこには目玉焼き、ベーコン、ソーセージ、ハッシュドポテトなどが一つの皿の上に乗ったいつもの朝食が待っていた。勿論それを並べているのは使用人のエマだ。
「エマおはよう!そしていただきます!」
「オォさんおはようございます。今日はお出かけなんですね。気を付けてください」
「うん!あれ?マルセラは?アイツ早食いのプロだったのか」
「マルセラ様は先程服を選ぶと言ってクローゼットルームに向かわれましたよ」
「何?いつもの部屋にあるクローゼットじゃ駄目なのか?」
「遠出するのでお洒落がしたいのでしょう。オォ様の分も選んでくれるみたいですよ」
「オシャレ……オォは自分で服選んだことないから分かんないな」
「ほら、早く召し上がらないと時間になりますよ。七時半の電車に乗るんでしょう?」
「あ、そうだった!よーしオォも早食いのプロになるぞー!」
 そう言うとオォはがっついてかぶりつくようにソーセージにフォークを刺した。その粗暴さを見たエマに多少の静止をかけられながらオォは朝食を過した。
 ちなみに付け加えるように言うが、オォは問題を起こした際に速やかに排除できる保護者がいる場合のみ外出を許されているのだ。。

〈午前七時~七時半頃〉
 身支度を整え、持ち物も確認し、準備を終えた二人は最寄りの駅へ出発した。
「お気を付けて行ってらっしゃいませ」
「じゃーねーエマ!」
「お兄ちゃん十一時までに起きなかったら起こしてあげてね!」
 こうして二人は十分ほど歩き最寄りのちっさい駅に着いた。
 駅の1番線ホームから電車に乗り込み十分もすればデープ駅に着く。ちなみにマルセラが学校に行くのに降りるのもデープ駅だ。しかし、そんな道中の電車の中でオォは落ち着かない様子だ。
「どうしたのオォ?さっきから目がチラチラしてるけど」
「だって……その……この服露出が多いからさ、目線が気になって……」
「そんなにいちいち人の目なんて気にしてたら生きにくいわよ。それともオォは露出が多いの嫌い?」
「嫌いというか、今までこういうの着たこと無いからさ」
「そう。じゃあこれからたくさん着ていこうよ!それに可愛いじゃん!」
「可愛い……うん、これは可愛いぞ!」
 どうやら吹っ切れて自信のついたようである。走行している間に電車はデープ駅のホームに止まった。流石、国内最大級の駅なので迷路のようになっていて初見だと迷う人が多い。しかし今回はマルセラがオォの手を引いているので安心だ。
「ん……?ねぇオォ。なんか手ヌルヌルしてない?」
「あ、ごめん。スライム出しっぱなしだった」
「スライム!?」
「うん。こうやって手袋みたいに覆っておかないと手摺とか触りたくないんだよね」
「意外と潔癖だったのね……。でも暑くないの?」
「うん!むしろひんやりしてるよ。しかも体中に覆わせてるから日焼け止めにもなって万々歳!」
「う、羨ましい……私にも分けてよ!」
「だめ!スライム達はオォと一緒がいいの!」
「はぁ!?ちょっとくらいいいじゃない!あんまり束縛してると嫌われるよ」
「そんなこと言ったらマルセラだってルイスを無理やり引き止めてたじゃん」
「あれ、あれは……関係ない……関係ないよ!」
「何ムキになってるの?」
「ムキなんかじゃないもん!」
 二人は無益な言い合いをしながらデープ国で有名なファッションビル「ファッション井澤」に入っていった。ここには流行の服装から全然流行ってないクソみたいな服までと守備範囲は広い。  
「おー……すごい!オォが捕まってたとこより広いかもだぞ!」
「色んな服があるからオォの気に入った服を買っていいわよ」
「ほんと!?何着?」
「何着でも。なんだって金持ちですからね」
 マルセラは腰に手を当て「ふんっ」と強く鼻から息を吐きあからさまに自慢してきた。(突然家の物全部差し押さえになってホームレスになればいいのに)……おっと心の声が。
「ん?なんかどっかで悪口言われてた気が……」
「多分気の所為じゃない?そんなことよりさ、オォこれがいい!」
「え……これ?」
 目の前には、脚から胴体までを包み込むパッと見オーバーオールのような服があるが、下の札を見るとそこには「レンコンスタイル」と書いてある。
「オォ、これレンコン畑に入ってレンコン取る人の服と言うより長靴だよ?」
「そうだよ」
「そうだよって……それが分かってるならなんで?」
「じゃあこれはレンコン畑の人じゃないと着ちゃいけないの?オォにはこれを着る権利もないと?ふーん」
「オォ……あんためんどくさい性格になったわね」
「昔からよく言われたよそれ」
「よく言われたって誰に?」
「……誰だっけ?」
 こうして自由に好きな服を着る権利を主張したオォは無事レンコンスタイルを手に入れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...