自由が『ない』世界から『ない』世界に転移しても何も面白く『ない』

わかばひいらぎ

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革命。そして転移へ

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 ユリウス暦1917年二月某日。ロシア帝国は革命の真っ最中にある。

 戦争第一次世界大戦により国民へ食料が行き届かなくなり、国内は荒れに荒れていた。ペトログラードでは多くの人が反戦を訴え大規模なデモをする。

 その中に、ヴィヴォロフスキーという男がいた。彼はタンネンベルクの戦いでの大敗を受け、兵士の身でありながら革命勢力の一員になっていた。

 もちろん、都市には憲兵がいるため逮捕者が、時には死者までもが出る。

 路地から銃を構えた二人の兵士が出てくると、それを見た人々は逃げ惑った。が、ヴィヴォロフスキーは憲兵に立ち向かった。

「なんだ貴様は!」
「俺らは戦争に反対しているだけだ。お前らも分かってるだろ、この戦争に意味なんてないって。お前らの食ってるパンや芋は、ここにいる農民が作ってるんだ。農民無くしてこの国は成り立たない!でも、この国はそれをわかってない。ミール制も、ミール解体も何も意味なんてなかったじゃないか」

 兵士はお互い目を合わせてキョトンとしている。

「土地や工場を国有化して、労働者や農民が働きやすい社会をつくる必要がある」

 ヴィヴォロフスキーは続けた。

「そもそも、このツァーリ政自体が時代遅れなんだ。イギリスもフランスも議会が主導だ。だが、ドゥーマ国会は役に立たないばかりか、未だに皇帝ニコライ2世が実権を握ってやがる。だから革命を起こして、ツァーリ政を打倒する。俺も元兵士だ。お前らにも分かるだろ?」

 元兵士という身分を頼りに、こう同意を求めた。

 しかし、願い叶わず、一人の兵士はヴィヴォロフスキーの腹を膝で蹴り、その場に崩れる彼に銃口を向けた。

「そうか、元兵士なのか。元兵士がこんなへっぴり腰だとはな!」
「今その考えを改めれば、極刑は免除して終身刑に格下げしてやるよコミュニスト。元兵士のよしみでな」

 彼らの周りでも数人捕まっていて、デモ隊は完全に解散している。とても助けてくれる人はいない。

「……それはごめんだ。必ず、この闘争は俺らが勝つ!人民の力を思い知……」

 乾いた銃声が雪降るペトログラードに響いた。

 ヴィヴォロフスキーは最後まで己の信条イデオロギーを捨てなかった。しかし、それ故に死んだ。人民の勝利を信じて……。


『強く巨大な圧政に立ち向かわんとするその意思、認めた。貴殿に再び闘争の場を与えよう』


「うぅ……」

 ヴィヴォロフスキーは硬い床の上で意識を取り戻した。

 目を開けると、コンクリートが剥き出しになった部屋に木製のテーブルがあり、そこを囲むように四人の人が立っている。

「だっ、誰だ!?」
「いつの間に?」
「王国のスパイか?」

 そこにいた一人を除いて反応を見せる。

 ここにいる全員が状況を把握できていない。

「ここは……どこだ?お前らは同志か?」

 彼らの格好はとても兵士のようには見えない。少なくとも捕まったわけではなさそうだ。

「どうやら何か事情がありそうだね」

 先程反応を見せなかった一人がそう言う。続けて質問してきた。

「あなたの名前は?」
「ヴィヴォロフスキーだ」
「ありがとう。私はレイニンだよ」

 レイニンと名乗る青年はこちらに歩いてきて握手を求めた。それに応える。

 続いてレイニンは他の人達を紹介しだした。

「あの不機嫌そうなのがリンスター。本名は長いからいつもあだ名で呼ばれてる。あそこで本を読んでるのがマオ。髪の毛は後退してるけど一番若い。そして、ツルハシ恐怖症のレフトロ。なんでかは知らないけどね」

 レイニンは全員の自己紹介を終えた。

「それで、俺らの次はヴィヴォなんとか、お前だ」

 リンスターが不機嫌そうに言う。どうやら彼は長い名前を覚えるのが苦手なようだ。

「勝手にやっといて勝手に次かよ」
「質問に答えてくれるだけでいいんだ。協力してくれ」
「まさか、今になって王国側の人間だなんて言わないよな?」

 レフトロまで加勢して詰め寄られる。

「そもそも!王国王国って、トップは皇帝ツァーリだろ?」
「皇帝?皇帝がいる国って言ったらインジクス帝国か?」
「インジクスから来たのか。だとしたらなんで……」
「は?待て待て、なんだよその国。俺の国はロシア帝国だ」
「ロシア?聞いたことも無いな」

 一同困惑していた。

 そんな中、一人がポツリと発言した。

「……異世界転移」

 それはマオだった。
 こうして見ると、彼だけアジア人のような顔立ちだ。

「異世界転移……あぁ、そういうことか!」

 レイニンは納得したように言った。

「死の際に強い信念を持った人は、違う世界で同じような信念を掲げる人の元へ転移することがあるって、知ってるだろ?」
「成程、それか!」
「じゃあこいつは同志の可能性があるってことか?」

 怪訝そうな顔をしていた面々は次々に顔色を変えていく。

「君の事を同志として受け入れよう。改めてよろしく。ヴィヴォロフスキー」
「急になんだよ、さっきから勝手に盛り上がりやがって。異世界転移とか何とか、意味わかんねぇよ」
「一から説明させてもらうよ。さっきも言った通り、強い信念、イデオロギーを持ったまま死んだ者は、異世界の同志の元に転移する。その事を異世界転移って言うんだ。その際に転移者は何かしらの能力を持って転移する。恐らくヴィヴォロフスキーも」
「……」

 ヴィヴォロフスキーは黙って自分の体をまじまじ見た。何も変化があるようには見えない。

「今は分からなくてもいい。いつか絶対分かるから。もし君が僕らに協力してくれたら、君はきっといい助けになる」

 レイニンは真っ直ぐな瞳だ。

「……お前らは何をするつもりなんだ?」
「わざわざ聞いてくれるってことは興味ありってことだね」

 レイニンはニヤリと笑って言った。

「言論統制に行き過ぎた管理体制によって国民の自由、尊厳を喪失し、領事裁判権や関税自主権も失っているこの国を、母国を建て直す革命。これが私達『コミュニテーター』の目指すところさ」

 母国を建て直す革命。この一文はヴィヴォロフスキーにも通じるところがあった。

「分かった。参加してやるよ。この革命に」

 四人全員がニッと笑った。

 この時のヴィヴォロフスキーはまだ気づいていない。この世界唯一の魔法使いになっているということに。そして、もう一人、いうことに。



〈スィング王国 王室〉

『先祖より継いだ母国を再び強くせんとするその意思、認めた。貴殿に再び闘争の場を与えよう』

 王室は唖然としていた。厳重な警備の王室に、突如謎の男が現れたのだ。

「ここは……?アレクサンドラは……オリガは……。先程の襲撃者は……」

「なんだお前は!」

 一人の警備兵が剣を抜く。しかし、それを王様が制止した。

「待て。異世界転移者かもしれん。我が元に転移してきたということは王族だな?名前は?」

 状況が読み込めていないその男は、ヨロヨロと立ち上がりながら言った。

「私はニコライ=ロマノフニコライ2世だ」
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