往々にして咲かせよ櫻

笹木餅子

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ひこばえの兆し

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「『残桜』ついに終演か」
あの日から数カ月。役目を終えた相棒を研ぎ直す事も出来ず、ぶら下げるだけの毎日だった。
刀がなければ剣舞も出来ない。刀でしか存在を証明出来ない。この時代に不適合の自分が、とうとう刀を無くした。
自分の体が少しずつ透過していく、そんな気がした。
残桜がとうとう散ったことを報じる瓦版を思いのままに破った。
誰一人通らない畦道を細かく刻まれた紙が舞う。その様子に嫌気がさして足元に視線を落とした。
そこに一枚だけ、風に飛ばされず下駄に挟まれた紙片が目に留まった。
「古き名将の(破られていて読めない)刀を求める者をここで待つ (丁度名前と住所が分からない状態)」
もしかしたらと希望を捨てきれず、瓦版をもう一度買いその住所が示す場所へと向かった。
 瓦版には戦国の世で名を轟かせた刀鍛冶の名前が書いてあった。かつての仲間が、わざわざそこの刀工に刀を依頼したと言っていたような気がする。
自慢された刀を見たとき、血を吸わせるのがもったいないと思うくらい、綺麗な刀だと思った。
山を登り、渓谷を超え、人里離れた森を切り拓いたところに小さく素朴な家屋が建っていた。
一定の拍子で聞こえる鉄を叩く音が森を揺らす。大気を震わす。そこで確かに刀が打たれている。
震える手で静かに家屋の戸を開けた。その瞬間に背を向けた刀鍛冶は振り上げた手を静止させ、静寂を作り出した。
衣擦れの音さえも許さないその空間に戦場に似た緊張感を覚えた。たった数秒を数時間と幻覚する。刀鍛冶は静かに振り上げた手を下すとゆっくりとこっちに体ごと向けた。
「…その腰にある刀はまだ死んじゃいないぞ」
俺の顔を見るより先に刀を抜き取った。
「数日あれば脇差程度の長さになら研ぎ直せよう」
そう言ってから初めて俺の顔に目を向けた。その男は片目が潰れていて、貫禄には見合わない童顔だった。
「…あんたはどうしたい?随分と使い込まれた良い刀だ。ここで殺すのは惜しいと見る」
「長さを戻すのは難しいだろうか」
そう言うと刀工は大きくため息をついて呆れた顔をした。
「すまないが、俺は妖術師だとかそんな類じゃないんだ。出来ても折れた刀をもう一度玉鋼の状態に戻し、打ち直すことだな。分かるだろうが、元の姿とは刃紋も反りも変わるだろう。こいつはこいつじゃなくなるといっても過言じゃない」
「それでもいい。刀鍛冶殿の出来る全てを使って、新しい刀の意義を持つ刀に生まれ変わらせてくれ」
俺の悔いも過去の過ちを悔やむこともこいつにはさせなくていい。俺だけでいい。こいつはこいつでこの時代で存在価値を証明させたかった。
「…承知した。今じゃ包丁ばかりを打っているが、仮にも刀鍛冶だ。最大限尽力しよう。他に要望はあるか?」
「人を斬れないようにしてほしい」
人を斬れない刀は本当に刀といえるのか。だが、面白いと快く引き受けてくれた。
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