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後編
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一
真里谷信政を名乗る騎馬武者の叫び声にすかさず振り向く正木時茂であったが、その顔はみるみる失望に覆われた。
騎馬武者を見るに、なるほど真里谷の名字を名乗るだけあって纏う鎧兜は豪奢なものであったが、主の華奢な体に合っておらず、着慣れていないことが丸わかりである。いわば鎧に「着られている」といったところか。
声変わりを終えたばかりの細く若々しい声を振り絞って時茂を呼び止める様は、勇ましかったが同時に痛々しさも伴っていた。
時茂が馬首を巡らせると、信政は馬に鞭を入れ、瞬く間に時茂の眼前に突き進んだ。若さに似合わず、馬術の腕は確かな様子だ。
「真里谷……信政殿とおっしゃられたか」
「いかにも!我が生涯の一番首となってもらうぞ!」
なにを生意気な。
正茂は思わず鼻を鳴らした。
初陣を果たしたばかりの小僧が、このわしと一騎討ちできると本気で思っているのか。
槍を構え、今にも突きかからんとする若武者信政へ、時茂は冷たく言い放った。
「あいにくただ今は戦の真っ最中ゆえ、印地打ちのお誘いなら後にしていただけるかな」
後ろで様子を見ていた里見勢がどっと湧いた。
「真里谷の小童めが!大人しく引っ込め!」
「ぎゃあぎゃあ喚かずとも、すぐに親父ともども首実検にかけてくれるわ、震えて寝ておれ!」
しばらくの間、信政は場上で沈黙したまま、嘲笑と罵声を浴びていた。
勇んで一騎討ちを申し込んだつもりが、子どもの石投げ遊びと笑われてしまったわけである。最悪の形で始まった初陣。もはや彼の心は折れ、なすすべなく立ち尽くすしかないのか。
だが次の瞬間、信政は馬から飛び降りるや、足元の石を拾い上げ、渾身の力で時茂に投げつけた。
とっさに身を捻ってかわそうとした時茂であったが、鋭く飛んでいく石の狙いは彼ではなく馬であった。鈍い音を立て、馬の顔面に石がめり込む。
ヒヒーン!
上に乗った時茂のことなどお構いなしに、火のついたように馬は暴れ出した。
「どうじゃ、わしの印地は!今度押しかけてきたなら、こんなものでは済まさぬぞ、よく覚えておけ!」
ひとしきり言い返した後、信政は素早く馬上の人となり、鮮やかに駆け去っていった。初陣とは思えぬ俊敏さである。
馬を落ち着かせた時茂は歯噛みしつつこれを追う。若輩と思って侮っていた。まことに迂闊であった。
信政が里見の家の者であれば、長ずれば一角の武者になれようと楽しみに見守れたものだが、味方の眼前で面目を潰されたのだ。こうなれば自らの手で討ち取る以外はない。
造海城へ続く尾根道を、二騎の騎馬武者が懸命に駆ける。
前を行く信政も、追いかける時茂も、ともに馬の走る力を全て引き出せる才の持ち主であった。
それでもなお、じりじりと時茂の乗る馬は距離を詰めていった。
幼き日、一軍を預けられる大将ともなれば配下に下知するのも馬上、刀槍を振るうのも馬上、すなわち片手は常に塞がっている中馬を操らねばならぬと考え、両手で乗るのに慣れてからだと周りが止めるのも聞かずに、片手で手綱を取り馬に挑んだものだ。
若さと血気だけでは、大地に叩きつけられつつ身に付けたわしの馬術を超えることなどできようか……次第に信政の背中が大きくなってきた。城までの尾根道も半ばは過ぎ、残りは三分の一ほどか。
ぼやぼやしておると城の真里谷勢から応援が来る、一突きで終わらせねば!槍を場上で構えたその時であった。
道端に茂っていた藪の中から人影が二つ姿を現し、時茂に向かって奇妙な棒を構えた。長さは手槍ほど、その先に筒のようなものが取り付けられている。
やはり伏兵がいたか。しかし槍にしては妙だな……冷静に手綱を引き、馬の走りを緩める時茂であったが、次の瞬間、筒から轟音とともに火花と焼けた鉄玉が飛び出し、時茂に襲いかかった。
「ぐおっ!」
顔を伏せるのが精一杯であった。頭、胴、手足に弾丸が食い込んだ。鎧が守ってくれたとはいえ、苦痛に時茂の顔が歪む。
この火炎と鉄玉を裸で受けてしまった馬はもうひとたまりもない。悲鳴を上げて棒立ちとなり、ついに時茂は地面に投げ出された。
「今じゃ、網を!」
「おう!」
駆け戻ってきた真里谷信政の声に、さらに二人の真里谷兵が飛び出し、もがきながらも立ち上がろうとする時茂に網を投げかけた。
「く、くそっ!」
網を必死に外そうとするが、体に絡みついて離れない。丈夫な繊維で編まれた網は脇差しごときで切れるものではなかった。
転がりながらなんとか網から逃れようと苦悶する時茂は、ふと網から漂う潮の香りに気づいた。そうだ、山の中を駆けてばかりいたが、この城は海に面しているのだ、頑丈な漁網も、それを自在に打てる漁師も事欠かぬ。こうなれば自分は網にかかった魚、もはやこれまでか……。
両目に殺気をみなぎらせた信政が近づいてくるのを見た時茂は、観念して目を閉じた。
上にのしかかってくるのを感じる……だが、そのまま信政は動かなくなった。
「どうした信政殿、わしは命乞いなどせぬぞ、それともやり方を忘れたか」
「黙れ!」
だがやはり何も起こらない。そのうちに信政は時茂の体の上から降りてしまった。他の者たちも顔を強張らせたまま立ち尽くすばかりである。
そうか!時茂は体に巻き付いた網に目をやった。喉輪を外して喉を掻き切るところだが、首にも巻き付いた網でそれができないのだ。
一方の信政も焦っていた。戦場のど真ん中でこのまま立ち尽くしているわけにはいかない。後方から半狂乱になった里見勢が殺到してくる。
「若殿、どうしやす?」
「ぬうう……」
唸りながら脇差しをさやに納めた信政は、ぐっと大きく目を見開いた。
「皆、此奴を抱え上げろ!」
「なんと?」
「城に運び込め。後のことはその時考える」
生け捕りか。唇を噛む時茂だが、もはやもがくことしかできない。味方の声はまだはるか後ろだ。
信政ら五人は時茂の手足をむんずとつかみ、抱えあげると造海城へ小走りに駆け始めた。つい先程、勝ち誇って引き上げてきたはずの城門が、時茂の目に、再び大きく映り始めていた。
二
「信政、見事じゃ、よくやってくれた。此度の手柄に対し、これを授けよう。景光じゃ」
「有難き……幸せ!」
真里谷信政は目をうるませながら、父真里谷信隆から脇差を授かった。
「お見事でござるぞ、若殿!」
「いや目出度い!若殿が家督を継がれた暁には、真里谷の家の武名もさらに高まりましょうぞ」
後に控える家臣たちも、口々に信政を褒め称えた。
今宵は、信隆が信政の戦功を特別に褒賞するということで、防備に付いている者以外の全ての家臣が、祝意を伝えようと造海城の麓に構えられた居館の広間に集結していた。そこへこのようなときに備えて蓄えられていた酒肴もふるまわれ、ささやかながら宴の様相を呈していた。
「明日からはまた戦じゃ。里見の者共も引き上げたわけではない……だが今宵だけは、羽根を伸ばすがいい」
「有難きお言葉」
はにかみながら盃を受ける信政、そして陽気に飲み騒ぐ家臣たち。それを微笑みながら見つめつつも、信隆の心は暗かった。
こうまで立派に育ってくれた息子だ、本来なら里見義堯、真里谷信応、足利義明ら憎き敵どもにも、北条氏綱殿、内乱に明け暮れていた甲斐を再び己の足元に跪かせたと聞く武田宗家の信虎殿にも……。
坂東の武者全て、武田一族にもどうだわしの息子はと胸を張って誇りたかった。
しかし実際はどうだ。このぼんくらな父は息子を死地に追いやっている。明日なき戦いから救い出せずにいる。
苦戦にも関わらず最後まで付き従ってくれる忠臣が揃っていても、関東の大大名である北条氏から応援を受けていてもこのざまなのだ。
許せ、この不甲斐ない父を許してくれ……。
「いや信隆殿、立派なものでしたな、信政殿の武者振りは」
知らず知らずのうちに目を伏せていた信隆が顔を上げると、信政は席を移しており、根来金石斎が正面に座っていた。
「全ては金石斎殿の深謀遠慮によるもの。礼の言葉もござらぬ」
「いやいや、その褒め言葉は信政殿に差し上げましょう。よくぞ大役を引き受けてくだされた。返り討ちにされる覚悟がなければ、とても務まりませぬ」
一騎討ちに誘い出し、伏兵で動きが取れなくなったところを討ち取るという金石斎の策は、なるほどうまく当たれば正木時茂のような剛の者でも討ち果たすことができるだろう。問題は「誘い出し」というところ、時茂が是非討ち取らねばと心に決めるような者を、勝負の場に立たせなければならない。
この困難な任を、信政は進んで引き受け、そして見事成し遂げてくれた。
念には念を入れ、ある家臣が献策した「漁師に投網を放たせ動きを封じる」という策も一緒に実行してしまったため、首取りが生け捕りになったわけだが、大手柄であることには変わりはない。
「金石斎殿、こちらにおられましたか」
先程まで家臣たちと陽気に飲み騒いでいた信政が、再び戻ってきた。
「信政殿、お見事でした。北条家中にもあなたのような若武者がいてくれれば、上杉など数年で滅ぼせるものを」
「いやあ、昨夜より皆から褒められすぎ頭が茹だりそうでござる。なれども、金石斎殿が差し向けてくれたあの者たちの働きがなければ、それがしもどうなっていたことか」
信政の言葉に金石斎はにやりと笑った。
「慧眼ですな。あの二人に目を付けられましたか」
「いや、あの二人はわしも気になっておった。妙な杖を使うと思えば、そこから雷のような轟音が鳴り響くのだからな。金石斎殿、あの二人は何者じゃ?」
三人は、宴の末席で黙々と酒肴を口にしている二人をしげしげと見つめた。
「左は李、右は張と名乗りましたが、後は何一つ答えようとしませぬ」
「おお、唐人であったか。道理で」
「なんとかあの者たちが使う杖をもっと取り寄せられませぬか。百本、いや五十本もあれば里見勢を追い散らせてみせましょう」
「父上、それがしが出陣する折、あの者たちは筒の中に黒い粉を入れておりました。あるいは、妖術のための秘薬かもしれませぬ」
「いや、それがですな」
興奮する親子に対し、金石斎は渋い顔になった。
「金を積もうが女を宛てがおうが、ことその話になると言葉がわからぬとごまかすのです。信政殿の言う通り、あの黒粉にこそ秘密があると思うのですが」
「笑わせる。時茂を捕らえたときには、城に運び込めとそれがしが言うなり、即座に奴の体に飛びついたというに」
「まあ、唐には他にも伝はありますゆえ、なんとか探り当ててみるつもりです……それにしても、その時茂ですが、今いずこに?」
話題が変わるや、真里谷親子の顔が引き締まった。
「敵方といえども当主の信頼厚い重臣、しかもかの相模の名族、三浦氏の後裔じゃからな。土牢とはいえ、中をよく清めた上で入らせておる」
「此度のことは真里谷と里見の間のこと、北条は口を挟むつもりはないと前にもお伝えしたとおりですが、よろしければ時茂の身柄、いかがするか教えていただけますかな?」
「あやつも武士じゃ」
金石斎の問いに信隆はきっぱりと言い切った。
「傷が癒えるまでもなく自ら食を断ち、囚われの恥辱を命で雪ぐであろう。里見から時茂を帰せという申し出がないのは、奴らもそう考えておるからじゃ。時茂の骸を引き渡せば、仇を討たんと押し寄せてくるであろう。その時こそ無二の一戦を執り行う」
金石斎は信隆の答えに小さくため息を付いたが、信隆も信政もそれに気づくことはなかった。
広間の障子を開け放ち、縁側に歩み出た親子は燦々と輝く満月を満足気に見つめていた。欠けることなき真円の姿とその輝きは、最大の、そして最期の戦いに臨む我らの決意を反映しているのだ。
宴は夜更けまで続いていた。
三
「いかがいたしましょうや」
「ううむ……」
信政の手柄を祝い、賑やかな宴が繰り広げられたはずの居館の広間で、今や真里谷信隆は不快気な唸り声を上げていた。向かい合う真里谷家の家臣たちも渋い顔をしている。
信政が正木時茂を捕らえてから十日ほどが過ぎようとしていた。
里見勢の動きはない。
要所要所を厳重に固め、林の如く静かなれども山の如く動こうとしない。さらに、根来金石斎からの知らせによると、三崎城を始めとする海岸地域の北条方の城へ里見水軍が攻撃を仕掛け、周辺の漁村では放火や略奪を働いたという。
実害は僅かなものであったが、造海城へ予定されていた北条からの後詰めは、それらの城へと振り替えられてしまった。
この戦いはあくまで真里谷と里見の戦い、北条殿は米や武具を用立ててくれればそれで十分と胸を張ってみたところで、戦局を挽回する糸口はどこも潰えてしまったわけである。敵の有力武将を見事捕らえたという喜びや興奮は、急速に真里谷家中から失われつつあった。
問題はそれだけではない。
捕らえた正木時茂にしてからが……。
「是が非でもわしに会いたいと」
「はい。牢番も最初は相手にしなかったそうですが、その度に主君に対するような威儀と言葉遣いで丁重に頼んでくるそうで。さすがに申し訳が立たぬと訴え出てきた次第です」
「何を今更!聞く必要はございませぬぞ」
「左様。あるいは殿と刺し違えんと考え、そのような申し出をしておるのやもしれませぬ!」
家臣たちの言葉は皆、怒りと不信に満ちていた。
「皆の意見、尤もじゃ。一体、彼奴はなにを考えておるのか。本来なら自ら命を絶つことで、縄目の恥辱を免れんとするだろうに」
議論を聞く者の一人に真里谷信政もいたが、たまらず立ち上がり、次の間に向かった。
「金石斎殿」
「……なかなかまとまらないようですな」
苦笑して出迎えたのは、根来金石斎である。他家の家臣である彼の手を煩わせてはならぬと、父からは言われていたが、もはや躊躇ってはいられない。
「聞いてのとおりです。時茂の考えが読めない以上、こちらも身動きが取れずにおります」
「窮地にあっての行住坐臥など、その人の数だけございます!」
不意に金石斎は隣室にも聞こえるほどの大声で喝破した。
「したがって真意は時茂自身に聞くより他ございませぬ!」
金石斎の意図を悟った信政も負けじと怒鳴り返す。
「なれど、相手は里見の誇る豪傑、殿と指呼の間に置こうものなら何をしでかすか!」
「それならば即座に首を取り、里見方へ届けなされ。道は二つに一つ!」
言い終わると二人は耳を澄ました。隣室で父は、家臣たちは金石斎の意見を確かに聞いたはずだ。
道は二つに一つ。どちらを辿るか……。
四
緊張の面持ちで信政が見守る中、襖が開き、その男がゆっくりと姿を現した。
若いな。
それが、信政が正木時茂に対して抱いた第一印象であった。
精悍そのものの容貌に鋭く輝く眼を岩のように鍛え抜かれた体躯がしっかりと支えている。今のところおとなしい動きしか見せていないが、機を見るやまたあの恐るべき武者振りを見せつけるのだろう。
元服し、一人前の武将と見做されるようになってからは、父や根来金石斎、重臣たちと上下問わず年上ばかりと接してきた信政の心に、時茂の存在は以外な新風をもたらしていた。
そんな信政など知らぬげに、時茂は広間の真ん中までゆっくりと歩み出た後、おもむろに着座した。一騎討ちにおいて火炎や鉄丸を浴び、落馬したとはいえ、たいした傷は負っていないようだ。歩み方、身のこなしに変わったところはない。
まさか鎧を着せてというわけにもいかないので、背丈の似た家臣の肩衣に身を包んでいる。
当然ながら丸腰である。
「正木大膳亮時茂にござる。此度は、敵方のそれがしが願い聞き届けていただき、感謝の言葉もありませぬ」
口上を述べるや時茂は静かに平伏した。
「うむ、面を挙げられよ……真里谷八郎太郎信隆である。これにあるは一子信政じゃ」
その瞬間、信政を凄まじい殺気が襲った。圧倒される信政であったが、しかしそこに満足を覚えていた。
臆するな、これだけの気迫を放つ荒武者を自分は見事謀り、虜にしてみせたではないか。ここで借りをを返すというのなら受けて立つのみ!
勇気を振り絞った信政が目を開けると、何事もなかったかのように時茂は信隆に向き直っていた。
ほんの僅かに視線を向けられただけでこの迫力とは……。
傍からはただ父の傍らに控えているだけのように見える信政だが、内心この後どのような事が起きるのか、二人の会話に聞き入っていた。
「願いと申したな。だが、わしの面を拝むだけでそれが叶ったことにはなるまい。何ぞ、申し述べたいことがあるのだろう」
「いかにも」
「遠慮なく申せ。満座の中では思うように物を言えぬと思い、このとおり広間にはわしと信政しかおらん……ああ、あの僧は麓の寺の和尚でな。戦で出た死人を弔いたいと、時々城の周りを巡っておる。気にするに及ばぬ」
言うまでもなく根来金石斎である。相手は何を考えているのか、何を仕掛けてくるのかわかったものではないと渋い顔を崩さない信隆を説得し、時茂と邂逅する機会を得たわけである。
それがしはそこらの寺の和尚と思ってくだされ。気を遣われるとかえって時茂にも気取られます故。
実際、信政から少し離れたところに瞑目して端座する金石斎は、時茂とは対象的に気配といったものをほぼ消しており、さながら仏像のようであった。
「それならば……」
一瞬金石斎を見やっただけで視線を信隆に戻した時茂は、決然と言い放った。
「それがしをこの城から解き放ち、里見の陣へ戻していただきたい」
「なっ!」
思わず妙な叫びが漏れてしまった。慌てて周りを見渡す信政だが、誰も気に留めていないようだ。
「ほほう、それが願いと申すか」
「いかにも」
「よかろう。その願い、聞き届けよう」
「ありがたき幸せ」
素直に頭を下げる時茂だが、信隆は更に言葉を続けた。
「だが、条件がある」
「と申されますと」
「うむ、まずは里見義堯に書を送り、城の囲みを解き、安房へ戻るよう要請するのじゃ。里見勢が退いたのを確認できれば、そなたを解き放とう」
「それはできませぬ」
「どうした?言う通りに書を送って一旦軍勢を退かせ、己が里見の陣に戻り次第、また押し寄せる程度の知恵も沸かんのか?」。
信隆の揶揄に時茂の顔は憮然となった。
「それがしも義堯様も、騙し討ちで親を失い申した。故にやると誓えば必ずやり抜き、退くと約せば二度と造海に姿を見せはしませぬ。なれど、もし里見勢が造海城より退いたところで、それを聞いた小弓公方様がすかさず房総三国の武者を挙って造海城へ押し寄せてきましょう」
「あの御仁なら、そうするな」
「さすればこの堅城とて持ち堪えられますまい。そして里見家は不手際の責を問われること必定」
「で、義堯はそなたの首を差し出すと」
「はい、里見家を守るにはそれしかありませぬ。これでは、書を認めるだけ無駄になるかと」
「なるほどな」
信隆は低く唸った。
「わしも愚かなことを口走ったものよ。だがな、そなたが城門から出て行くのを指をくわえて眺めるだけというのは、それ以上に愚かなことに思えてならん……そうだな、何かしらこちらが用意した試練を越えてみせれば、考えないでもない」
「いかなる試練も乗り越えてみせましょう。それがしの武勇の程、他ならぬ信隆殿はよくご存知のはず!」
意気込む時茂を、信隆は冷たくせせら笑った。
「武勇は知っておるがどうにも脇が甘い。だからこそこのように囚われの身となっておるではないか。今もそう、誰が武勇を試すと言うたか」
「では、試練とは」
時茂の問いにしばらく考えを巡らせていた信隆だが、やがてにやりと微笑んだ。
「試練は武道だけにあるわけではない。歌道じゃ。この造海城を歌った和歌をわしの前で詠み上げてみせよ。和歌を、そうだな……百首読み上げれば、そなたは城を出て良いものとする」
「歌……でございますか……」
一瞬悄然となった時茂であるが、やがて気を取り直し、天井の一点を見つめて動かなくなった。頭脳を最大限に振り絞っているのだろう。
「ハハハ、そう堅くなっては名歌は生まれんぞ……おい信政……信政!」
「はい!」
先程から事態の展開に呆然となっていた信政を信隆は一喝した。
「何をしておる。筆と墨、それに短冊を用意させよ。これから里見家の歌道がいかなるものか、とくと見られるのだぞ。失礼の無いようにせねばな」
「は、はい……」
万が一に備え、隣室に控えていた近習たちに合図を送る信政。すぐに襖が開き文机、硯、筆、短冊の代わりに巻紙があらかじめ準備していたかのように次々と置かれていく。
こうして、奇妙な歌会が始まった。
五
「造り海かけ引自由なりければかかりし魚にひとしきは敵」
「うむ、よかろう」
「夜をこめて燈篭坂を越えぬれば味方の光日の出ますます」
燈籠坂とは、信政と時茂が死闘を演じた尾根道の辺りに付けられた地名である。
「うむ、よし」
鷹揚にうなずく信隆。端で聞いている信政も同じようにうなずいた。
この場にいる四人、皆一廉の武人であっても歌才豊かとは言い難いが、この時代、和歌は武家や公家、僧侶といった身分の敷居を超えた上流階級の共通教養として幅広く受け入れられていた。即興と言えども時茂が歌を詠み出すことができたのはそう驚くことではない。
巻紙に書かれていく歌を見ても、音数を大きくはみ出さず、歌われた情景も簡単に思い浮かべることができる。名歌とまではいかなくても秀でた歌、秀歌くらいは言えるだろう。
「風そよぐ萩生の野辺を狩りくらし今ぞ里見る有明の月」
「むむ……」
「萩生」が造海城周辺の地名である以上、条件に適っているとはいえ「今ぞ里見る」の一句に眉をひそめた信隆だが、それ以上止めようとはしなかった。
「里を見よはげしき春の山あらし世をつくろうみにさはらざりけり」
時茂はすかさず重ねてきた。これには信隆も苦笑いするしかない。
「世をふるまでとうろふ坂と聞くときはゆききの人の夜半のたよりか」
「討ちもせずうたれもせざるたび人の百首の望つらねまいらせ」
その後も時茂は淡々と和歌を詠み続けた。
信隆も信政も、そして金石斎も、いつしかそれに無心に聞き入っていた。
里見勢の城攻めが途絶えてからもなお、造海城中には張り詰めた空気が漂っていた。しかし今四人がいる広間の中では、その空気は緩み、駘蕩としたものとなっていた。
しかし……それは短く、儚いものでしかなかった。
「つくら海の河瀬定まる折なれば下れる水はいなしたいがい」
この句を詠み終えるや、正木時茂はゆっくりと筆を置き、苦しげな顔になって俯いた。
これまでに詠んだ句は三十二首。さらに倍以上の数を読まなければ、百には到底届かない。
「む……」
相変わらず動きを見せない根来金石斎に対し、真里谷信隆はなにかに気づいたようである。
潮時だな。
真里谷信政も悟った。
名うての歌人であっても即興で百首もの和歌を詠み上げるのは至難の業であろう。ましてや里見家重臣と言えども一武弁、到底成し遂げられるものではなかったのだ。
ここは一旦止めとし、時茂には牢に戻ってもらおう。彼の処遇については、改めて二人で話し合えばよいではないか。
信政がそう心に決めたときだった。
時茂が顔を上げ、一句詠み上げたのである。
「つくろ海うち出でて見れば白妙の富士の高嶺に 雪は降りつつ」
「なんと!」
信政は大声で叫んでしまった。
「田子の浦うち出でて見れば白妙の富士の高嶺に 雪は降りつつ」
百人一首を嗜んでいれば誰でも感づく、山部赤人の名歌である。その冒頭を造海に変えた代物だ。
だがこの一句は、造海城に初めて来た時のことを信政に思い起こさせた。
山深い真里谷で生まれ育った信政は、郷里を追われ、造海城に逃げ込んだとき初めて海を見たのだった。そしてその海の向こうには、房総の山々とは比較にならぬほど巨大な、そして美しい雄峰がそびえ立っていた。
富士山である。
「あの山の麓に甲斐国がある。真里谷家の祖先である甲斐武田家ゆかりの地だ」
感慨深げに語る父信隆。
甲斐の地が、富士山が見守っているのだ。必ずやその期待に応えてみせよう、武田一族にふさわしい武勇を見せつけてくれよう。そう決意した日からあまり時は経っていない。
思いもかけず感慨にふける信政をよそに、時茂はさらに歌を読み続けた。
「造海に紅葉踏みわけ鳴く鹿の声きく時ぞ秋は悲しき」
「音にきく造海のあだ波はかけじや袖の濡れもこそすれ」
「造海漕ぎ出でて見れば久かたの雲ゐにまがふ沖つ白波」
「あらし吹く造海のもみぢ葉は白狐の川のにしきなりけり」
白狐川は造海城の北側を流れる川だ。この川の両岸でも戦いは行われ、真里谷、里見両軍の流血で川面は赤く染まった。紅葉が雅に流れる姿などとても思い浮かべたものではない。
苦笑していた信政の耳朶に、低い声が響いた。
「もうよい」
六
真里谷信隆の声だった。
「いや、続けます。夜を込めて……」
「もうよい!」
言い放つと、信隆は傍らの脇息を掴み上げ、勢いよく正木時茂に叩きつけた。
鈍い音が広間に響いた。時茂の額は割れ、血がぼとぼとと畳にこぼれ落ちる。
「そなたは里見家の重臣であろう!祖先は相模の三浦一族に連なる血筋の持ち主であろう!にも関わらず、囚われの身となったことを恥もせず城から出してくれなどとぬけぬけと願い出おって!恥の一つもかかせてやれば思い知るであろうと歌を詠ませてみれば、名歌をくすねてまで百首でっち上げようとする!それでもそなたは武士か!主君に申し訳が立たぬと思わんのか!それほどまでに生きたいのか!」
先程までの悠揚とした雰囲気を吹き飛ばし、顔を真紅にして怒りをぶつける信隆。今にも背後の刀掛けに駆け寄らんばかりである。
いかん!
信政は立ち上がって父を止めようとした。
時茂が広間に入ってきてからこの方、行く先が見えない二人の会話に信政は動揺を見せないようにするのが精一杯であった。しかし、今感情に任せて時茂を切るというのはいくらなんでも拙すぎる。
だが次の瞬間、信政は動けなくなった。
いつの間にか根来金石斎が傍に寄っており、信政の太腿を片手でがっちりと掴んでいたのだった。
「お平らに」
「金石斎殿……しかし……」
「大丈夫、大丈夫でござる。父君は怒りに我を忘れたわけではございませぬ。もうしばらく、様子を見ましょう」
「ぐっ……」
老人の片手とは思えぬ力で抑え込まれ、信政はまるで身動きが取れない。しかし北条家に招聘される前は諸国の戰場を駆け巡っていたという金石斎である。修羅場を数多くくぐり抜けてきたであろう彼を信じるしかない。
大人しく座り直す信政をよそに、真里谷信隆と正木時茂はしばしにらみ合いを演じていたが、やがて時茂はゆっくりと口を開いた。
「それがしは、生きとうござる。この城から生きて出とうござる」
「まだ言うか!」
「何度でも申し上げまする。それがしは生きとうござる。この城から生きて出とうござる」
「……そなたには誇りというものはないのだな」
「そのとおりでござる」
信隆の冷たい言葉にも時茂は何らひるまなかった。
「義堯様をお支えし、里見の家を盛り立てていこうと決意したその時から、もはやこの身は里見のもの、それがし自身の誇りなどもはや塵芥も同然でござる。どれだけ笑われようと、蔑まれようと命を繋ぎ、最期の最期まで里見の家のために生き抜き、戦い抜くが本望でございます」
「……とんと理解できぬな。我が真里谷家は甲斐源氏の名門武田家の一族。そなたのような卑怯者をこれ以上城中に置く気はない。里見の陣に戻るがいい。我らは無二の戦をするのみぞ」
「本当にそれでよろしいのですか」
「何!」
「里見の軍勢はこの城に籠もる真里谷勢をゆうに上回っております。無二の戦といったところで最後に笑うのは我が里見義堯様であることは明白。そうなれば、謀反人は滅びた、真里谷家の正統は信応ぞと小弓公方様が喜ばれるだけでございます」
「そなたには分かるまい。この造海城は、家祖である武田信長様が房総の地に足を踏み入れた場所なのだ。いかに不利な戦であろうと、我らにはもはや退く地はどこにも残っておらぬ」
「残っておるではありませんか!」
もはや会話の形勢は逆転し、時茂が信隆を説得する形となっていた。
「坂東の地は房総三国よりはるかに広く、そして日の本は坂東よりさらに広うござる。必ずどこかに信隆殿を受け入れ、再起を助けてくれる地があり申す!試してみもせずにいたずらに死を急いでも、小弓公方様が喜ばれるだけでございます!」
「ぬう……」
再び二人は睨み合いに入った。傍らで見守る信政にとって、無限とも思える時間が過ぎていき、そしてついに……。
「申したきことは申したようだな。下がれ」
「かしこまりました」
平伏した時茂が起き直るや、待ちかねていた近習たちが隣室から姿を現した。
血に塗れた時茂の額を布で拭う者、畳にこぼれた血痕を拭き清める者、文机や硯を片付ける者。
やがて彼らは時茂を促して起立させると、全員で静かに退出していった。
七
広間には三人が残された。
再び襖が開き、茶で満たされた茶碗が三人の前に置かれると、信政は茶碗を掴み、一息に飲み干した。
父のように長口舌を振るったわけではないが、緊張でからからになった喉を茶が優しく潤してくれる。
それは父も同じらしく、茶を飲み干すと深々とため息を付いていた。
「さて……どうしたものか」
空になった茶碗を弄びながら、信隆は苦笑いを浮かべた。
「金石斎殿、誠に恥ずかしいことながら、それがしは何が正しいのか、これからいかにすべきかわからなくなり申した。もしご意見があれば、伺いたいのだが」
「はっ」
意見を求められることは当然予期していたのだろう、途端に根来金石斎は威儀を正し、真里谷信隆に向き直った。
「それがしの考え、一から十まで正木時茂と同じでござる。もはやこの城での戦いに何ら意義はございませぬ。速やかに里見方に城を明け渡し、信隆殿、信政殿は相模に来られませ」
金石斎の言葉は簡潔にして決然としていた。主君北条氏綱に献策するときも、同じような佇まいであろうなと信政は思った。
「やはり金石斎殿も……そう思うか……」
「はい」
そこで金石斎は口調を変え、しみじみと語り始めた。
「それがしはあくまで北条の家臣。いくら正論を述べたところで、死を決した真里谷殿には届くまい、むしろその心を頑なにさせるだけだと諦めておりました。せめて落城間際に信政殿を引き取り、血筋をつなぐのが精々だと」
「そのようなことをお考えでしたか」
金石斎は信政に頷いてみせた。
「なれど時茂は囚われの身という屈辱を味わいつつ、それでもなお生を求める姿を見せることで、ついに信隆殿の心に声を届かせました。見事なものです」
「だが、今日まで戦ってくれた兵たちを見捨てて行くというのは」
「内輪の争いで無駄に兵を殺すのは、信応も小弓公方も望みませぬ。無理やり城に連れて来られたが、今後は信応様に忠義を誓うと言われれば、向こうも許すことでしょう」
「そうか……」
金石斎の言葉に信隆は大きくうなだれ、再び長考に入った。
その姿は、里見勢との戦いで懸命に味方を激励し、叱咤する父を見慣れていた信政にとって、ずいぶん小さく見えた。
だが長考を終え、立ち上がった父には確かに力が宿っていた。
それはまだ小さく、静かなものだったが、信政には間違いなく新しい力に思えたのだ。
「茶の代わりと筆墨、巻紙を持って参れ。里見義堯、それに北条殿に書を送る」
草木も眠る深夜であったが、造海城内は騒然としていた。足軽や中間、小者らに造海城の開城が伝えられ、主人と同行を希望する者以外は郷里に帰るよう命令が出たのである。
もちろん今まで自分のために戦ってくれた兵たちを、命令一つで放り出すような薄情なことは信隆にはできなかった。
蔵が開け放たれると金銭、米、塩といった貯蔵品はもとより、釘やかすがいのような鉄製品、木材、藁、家臣たちの馬に至るまで値の付くものはことごとく分配されていった。
分配の列が城内至る所で伸び、夜明けに迫った出立に備えて大勢の人間が動きを見せ、早くも大手門では人だかりができ始めている中、城内の地下牢では、二人の男が別れの時を迎えようとしていた。
「夜明け前の満潮に乗じ、船で我らは相模に去ります。夜明けとともに、兵たちもこの城から離れます。あとは里見勢がこの城を受け取ると」
「わかり申した」
信政の説明にも時茂はそっけない態度であった。
「最後に、父上へ伝えたきことありませぬか」
「いや……信隆殿にはあの場で心中すべて伝えました故。根来金石斎殿におかれましても、里見勢の戦いぶり、とくとご覧になられたでしょうから、それがしから何も付け加えることはございませぬ」
最初からばれていたか……内心頭を掻きつつも、信政は仏頂面で聞くしかない。
「左様ですか、では」
「待たれよ、真里谷信政殿」
背を向けた信政に対し、時茂は改まった口調で呼び止めた。
「どうされました」
「そなたには伝えておきたいことがある」
「うかがいましょう」
ゆっくりと牢の前に戻ってきた信政に、時茂は初めて微笑みかけた。
「次にお目にかかった時には、そなたを必ず討取る。無駄だとは思うがその時まで精々、鍛錬に励まれよ」
一瞬驚いて目を見開いた信政だが、すぐに同じように微笑んだ。
「お言葉、そのままお返し申す」
そして信政は背を向け、二度と振り返ることなく石段を登って姿を消した。
正木時茂が、城内に踏み入ってきた里見勢に解放されるのは、それからまもなくのことである。
八
「あれから十五年か……あっという間だったな」
馬上の正木時茂は、誰に言うでもなく呟いた。
天文二一年(一五五二年)十一月四日。
造海城の戦いから十五年が過ぎたこの日、上総の支配者に返り咲いていた真里谷信政率いる軍勢と、里見義堯率いる軍勢が上総国北西、椎津城南方で決戦を行った。里見勢の先鋒を務めるは、当然正木時茂である。
戦いは両軍一歩も譲らぬ激戦、戦死傷者が山積するさまは酸鼻を極めるものがあったが、ついに真里谷勢が力尽き総崩れとなった。
大勢が決したことを悟った信政は、椎津城内に退却、そこで家臣一同とともに自刃した。
報告を聞いた時茂はうなずくだけであった。
造海城で信政に突きつけた約束は、一度も忘れたことはない。だが今の自分は将として軍の指揮に当たる身、その責務を放りだして信政に挑みかかるわけにはいかないのである。
それは信政も同じであったろう。時茂と再度の一騎討ちに臨むよりもまず、負けが避けられぬときは潔くそれを認め、自らの命で締めくくりを行うという、当主の責務を取ったのである。
その翌日、時茂は物見という口実で、椎津城の周りを一人馬で巡り、追憶にふけっていた。
造海城から解放されたときには、さぞや笑われ、嘲られるだろうと覚悟していたが、実際には囚われの身でありながら、口舌一つで敵を開城に導いたと里見家中での評価は却って上昇していた。
もっともその「口舌」の中身を知るものは、今や自分一人だ。
前年に真里谷信隆が亡くなり、今年に入って根来金石斎も亡くなった。
それを好機と里見勢は総攻撃を仕掛け、真里谷信政もついに不帰の客となった。
物思いに耽りながら時茂が馬を駆けさせていくと、海辺に出た。
造海城と変わらない海だ。
紺碧の海水が純白の泡に彩られつつ岸辺に打ち寄せ、また沖へ戻っていく。その途中で新たに押し寄せた波に飲み込まれ、再び岸辺に打ち寄せる。
海は、陸で我らが繰り広げる有り様をどう思っているのだろう。青き海、青き空は、地を赤で染め続ける我らをどうみているのだろう。
答えの出ない考えを弄んでいると、ふと一句、心中に浮かび上がってきた。
「つくろうみ川瀬定めぬ折なれど下れる水は入るる大海」
海面に向かって言い終わると、時茂は馬に鞭を入れ、里見の陣に駆け戻っていった。
あとには、大海と大空が残された。(了)
真里谷信政を名乗る騎馬武者の叫び声にすかさず振り向く正木時茂であったが、その顔はみるみる失望に覆われた。
騎馬武者を見るに、なるほど真里谷の名字を名乗るだけあって纏う鎧兜は豪奢なものであったが、主の華奢な体に合っておらず、着慣れていないことが丸わかりである。いわば鎧に「着られている」といったところか。
声変わりを終えたばかりの細く若々しい声を振り絞って時茂を呼び止める様は、勇ましかったが同時に痛々しさも伴っていた。
時茂が馬首を巡らせると、信政は馬に鞭を入れ、瞬く間に時茂の眼前に突き進んだ。若さに似合わず、馬術の腕は確かな様子だ。
「真里谷……信政殿とおっしゃられたか」
「いかにも!我が生涯の一番首となってもらうぞ!」
なにを生意気な。
正茂は思わず鼻を鳴らした。
初陣を果たしたばかりの小僧が、このわしと一騎討ちできると本気で思っているのか。
槍を構え、今にも突きかからんとする若武者信政へ、時茂は冷たく言い放った。
「あいにくただ今は戦の真っ最中ゆえ、印地打ちのお誘いなら後にしていただけるかな」
後ろで様子を見ていた里見勢がどっと湧いた。
「真里谷の小童めが!大人しく引っ込め!」
「ぎゃあぎゃあ喚かずとも、すぐに親父ともども首実検にかけてくれるわ、震えて寝ておれ!」
しばらくの間、信政は場上で沈黙したまま、嘲笑と罵声を浴びていた。
勇んで一騎討ちを申し込んだつもりが、子どもの石投げ遊びと笑われてしまったわけである。最悪の形で始まった初陣。もはや彼の心は折れ、なすすべなく立ち尽くすしかないのか。
だが次の瞬間、信政は馬から飛び降りるや、足元の石を拾い上げ、渾身の力で時茂に投げつけた。
とっさに身を捻ってかわそうとした時茂であったが、鋭く飛んでいく石の狙いは彼ではなく馬であった。鈍い音を立て、馬の顔面に石がめり込む。
ヒヒーン!
上に乗った時茂のことなどお構いなしに、火のついたように馬は暴れ出した。
「どうじゃ、わしの印地は!今度押しかけてきたなら、こんなものでは済まさぬぞ、よく覚えておけ!」
ひとしきり言い返した後、信政は素早く馬上の人となり、鮮やかに駆け去っていった。初陣とは思えぬ俊敏さである。
馬を落ち着かせた時茂は歯噛みしつつこれを追う。若輩と思って侮っていた。まことに迂闊であった。
信政が里見の家の者であれば、長ずれば一角の武者になれようと楽しみに見守れたものだが、味方の眼前で面目を潰されたのだ。こうなれば自らの手で討ち取る以外はない。
造海城へ続く尾根道を、二騎の騎馬武者が懸命に駆ける。
前を行く信政も、追いかける時茂も、ともに馬の走る力を全て引き出せる才の持ち主であった。
それでもなお、じりじりと時茂の乗る馬は距離を詰めていった。
幼き日、一軍を預けられる大将ともなれば配下に下知するのも馬上、刀槍を振るうのも馬上、すなわち片手は常に塞がっている中馬を操らねばならぬと考え、両手で乗るのに慣れてからだと周りが止めるのも聞かずに、片手で手綱を取り馬に挑んだものだ。
若さと血気だけでは、大地に叩きつけられつつ身に付けたわしの馬術を超えることなどできようか……次第に信政の背中が大きくなってきた。城までの尾根道も半ばは過ぎ、残りは三分の一ほどか。
ぼやぼやしておると城の真里谷勢から応援が来る、一突きで終わらせねば!槍を場上で構えたその時であった。
道端に茂っていた藪の中から人影が二つ姿を現し、時茂に向かって奇妙な棒を構えた。長さは手槍ほど、その先に筒のようなものが取り付けられている。
やはり伏兵がいたか。しかし槍にしては妙だな……冷静に手綱を引き、馬の走りを緩める時茂であったが、次の瞬間、筒から轟音とともに火花と焼けた鉄玉が飛び出し、時茂に襲いかかった。
「ぐおっ!」
顔を伏せるのが精一杯であった。頭、胴、手足に弾丸が食い込んだ。鎧が守ってくれたとはいえ、苦痛に時茂の顔が歪む。
この火炎と鉄玉を裸で受けてしまった馬はもうひとたまりもない。悲鳴を上げて棒立ちとなり、ついに時茂は地面に投げ出された。
「今じゃ、網を!」
「おう!」
駆け戻ってきた真里谷信政の声に、さらに二人の真里谷兵が飛び出し、もがきながらも立ち上がろうとする時茂に網を投げかけた。
「く、くそっ!」
網を必死に外そうとするが、体に絡みついて離れない。丈夫な繊維で編まれた網は脇差しごときで切れるものではなかった。
転がりながらなんとか網から逃れようと苦悶する時茂は、ふと網から漂う潮の香りに気づいた。そうだ、山の中を駆けてばかりいたが、この城は海に面しているのだ、頑丈な漁網も、それを自在に打てる漁師も事欠かぬ。こうなれば自分は網にかかった魚、もはやこれまでか……。
両目に殺気をみなぎらせた信政が近づいてくるのを見た時茂は、観念して目を閉じた。
上にのしかかってくるのを感じる……だが、そのまま信政は動かなくなった。
「どうした信政殿、わしは命乞いなどせぬぞ、それともやり方を忘れたか」
「黙れ!」
だがやはり何も起こらない。そのうちに信政は時茂の体の上から降りてしまった。他の者たちも顔を強張らせたまま立ち尽くすばかりである。
そうか!時茂は体に巻き付いた網に目をやった。喉輪を外して喉を掻き切るところだが、首にも巻き付いた網でそれができないのだ。
一方の信政も焦っていた。戦場のど真ん中でこのまま立ち尽くしているわけにはいかない。後方から半狂乱になった里見勢が殺到してくる。
「若殿、どうしやす?」
「ぬうう……」
唸りながら脇差しをさやに納めた信政は、ぐっと大きく目を見開いた。
「皆、此奴を抱え上げろ!」
「なんと?」
「城に運び込め。後のことはその時考える」
生け捕りか。唇を噛む時茂だが、もはやもがくことしかできない。味方の声はまだはるか後ろだ。
信政ら五人は時茂の手足をむんずとつかみ、抱えあげると造海城へ小走りに駆け始めた。つい先程、勝ち誇って引き上げてきたはずの城門が、時茂の目に、再び大きく映り始めていた。
二
「信政、見事じゃ、よくやってくれた。此度の手柄に対し、これを授けよう。景光じゃ」
「有難き……幸せ!」
真里谷信政は目をうるませながら、父真里谷信隆から脇差を授かった。
「お見事でござるぞ、若殿!」
「いや目出度い!若殿が家督を継がれた暁には、真里谷の家の武名もさらに高まりましょうぞ」
後に控える家臣たちも、口々に信政を褒め称えた。
今宵は、信隆が信政の戦功を特別に褒賞するということで、防備に付いている者以外の全ての家臣が、祝意を伝えようと造海城の麓に構えられた居館の広間に集結していた。そこへこのようなときに備えて蓄えられていた酒肴もふるまわれ、ささやかながら宴の様相を呈していた。
「明日からはまた戦じゃ。里見の者共も引き上げたわけではない……だが今宵だけは、羽根を伸ばすがいい」
「有難きお言葉」
はにかみながら盃を受ける信政、そして陽気に飲み騒ぐ家臣たち。それを微笑みながら見つめつつも、信隆の心は暗かった。
こうまで立派に育ってくれた息子だ、本来なら里見義堯、真里谷信応、足利義明ら憎き敵どもにも、北条氏綱殿、内乱に明け暮れていた甲斐を再び己の足元に跪かせたと聞く武田宗家の信虎殿にも……。
坂東の武者全て、武田一族にもどうだわしの息子はと胸を張って誇りたかった。
しかし実際はどうだ。このぼんくらな父は息子を死地に追いやっている。明日なき戦いから救い出せずにいる。
苦戦にも関わらず最後まで付き従ってくれる忠臣が揃っていても、関東の大大名である北条氏から応援を受けていてもこのざまなのだ。
許せ、この不甲斐ない父を許してくれ……。
「いや信隆殿、立派なものでしたな、信政殿の武者振りは」
知らず知らずのうちに目を伏せていた信隆が顔を上げると、信政は席を移しており、根来金石斎が正面に座っていた。
「全ては金石斎殿の深謀遠慮によるもの。礼の言葉もござらぬ」
「いやいや、その褒め言葉は信政殿に差し上げましょう。よくぞ大役を引き受けてくだされた。返り討ちにされる覚悟がなければ、とても務まりませぬ」
一騎討ちに誘い出し、伏兵で動きが取れなくなったところを討ち取るという金石斎の策は、なるほどうまく当たれば正木時茂のような剛の者でも討ち果たすことができるだろう。問題は「誘い出し」というところ、時茂が是非討ち取らねばと心に決めるような者を、勝負の場に立たせなければならない。
この困難な任を、信政は進んで引き受け、そして見事成し遂げてくれた。
念には念を入れ、ある家臣が献策した「漁師に投網を放たせ動きを封じる」という策も一緒に実行してしまったため、首取りが生け捕りになったわけだが、大手柄であることには変わりはない。
「金石斎殿、こちらにおられましたか」
先程まで家臣たちと陽気に飲み騒いでいた信政が、再び戻ってきた。
「信政殿、お見事でした。北条家中にもあなたのような若武者がいてくれれば、上杉など数年で滅ぼせるものを」
「いやあ、昨夜より皆から褒められすぎ頭が茹だりそうでござる。なれども、金石斎殿が差し向けてくれたあの者たちの働きがなければ、それがしもどうなっていたことか」
信政の言葉に金石斎はにやりと笑った。
「慧眼ですな。あの二人に目を付けられましたか」
「いや、あの二人はわしも気になっておった。妙な杖を使うと思えば、そこから雷のような轟音が鳴り響くのだからな。金石斎殿、あの二人は何者じゃ?」
三人は、宴の末席で黙々と酒肴を口にしている二人をしげしげと見つめた。
「左は李、右は張と名乗りましたが、後は何一つ答えようとしませぬ」
「おお、唐人であったか。道理で」
「なんとかあの者たちが使う杖をもっと取り寄せられませぬか。百本、いや五十本もあれば里見勢を追い散らせてみせましょう」
「父上、それがしが出陣する折、あの者たちは筒の中に黒い粉を入れておりました。あるいは、妖術のための秘薬かもしれませぬ」
「いや、それがですな」
興奮する親子に対し、金石斎は渋い顔になった。
「金を積もうが女を宛てがおうが、ことその話になると言葉がわからぬとごまかすのです。信政殿の言う通り、あの黒粉にこそ秘密があると思うのですが」
「笑わせる。時茂を捕らえたときには、城に運び込めとそれがしが言うなり、即座に奴の体に飛びついたというに」
「まあ、唐には他にも伝はありますゆえ、なんとか探り当ててみるつもりです……それにしても、その時茂ですが、今いずこに?」
話題が変わるや、真里谷親子の顔が引き締まった。
「敵方といえども当主の信頼厚い重臣、しかもかの相模の名族、三浦氏の後裔じゃからな。土牢とはいえ、中をよく清めた上で入らせておる」
「此度のことは真里谷と里見の間のこと、北条は口を挟むつもりはないと前にもお伝えしたとおりですが、よろしければ時茂の身柄、いかがするか教えていただけますかな?」
「あやつも武士じゃ」
金石斎の問いに信隆はきっぱりと言い切った。
「傷が癒えるまでもなく自ら食を断ち、囚われの恥辱を命で雪ぐであろう。里見から時茂を帰せという申し出がないのは、奴らもそう考えておるからじゃ。時茂の骸を引き渡せば、仇を討たんと押し寄せてくるであろう。その時こそ無二の一戦を執り行う」
金石斎は信隆の答えに小さくため息を付いたが、信隆も信政もそれに気づくことはなかった。
広間の障子を開け放ち、縁側に歩み出た親子は燦々と輝く満月を満足気に見つめていた。欠けることなき真円の姿とその輝きは、最大の、そして最期の戦いに臨む我らの決意を反映しているのだ。
宴は夜更けまで続いていた。
三
「いかがいたしましょうや」
「ううむ……」
信政の手柄を祝い、賑やかな宴が繰り広げられたはずの居館の広間で、今や真里谷信隆は不快気な唸り声を上げていた。向かい合う真里谷家の家臣たちも渋い顔をしている。
信政が正木時茂を捕らえてから十日ほどが過ぎようとしていた。
里見勢の動きはない。
要所要所を厳重に固め、林の如く静かなれども山の如く動こうとしない。さらに、根来金石斎からの知らせによると、三崎城を始めとする海岸地域の北条方の城へ里見水軍が攻撃を仕掛け、周辺の漁村では放火や略奪を働いたという。
実害は僅かなものであったが、造海城へ予定されていた北条からの後詰めは、それらの城へと振り替えられてしまった。
この戦いはあくまで真里谷と里見の戦い、北条殿は米や武具を用立ててくれればそれで十分と胸を張ってみたところで、戦局を挽回する糸口はどこも潰えてしまったわけである。敵の有力武将を見事捕らえたという喜びや興奮は、急速に真里谷家中から失われつつあった。
問題はそれだけではない。
捕らえた正木時茂にしてからが……。
「是が非でもわしに会いたいと」
「はい。牢番も最初は相手にしなかったそうですが、その度に主君に対するような威儀と言葉遣いで丁重に頼んでくるそうで。さすがに申し訳が立たぬと訴え出てきた次第です」
「何を今更!聞く必要はございませぬぞ」
「左様。あるいは殿と刺し違えんと考え、そのような申し出をしておるのやもしれませぬ!」
家臣たちの言葉は皆、怒りと不信に満ちていた。
「皆の意見、尤もじゃ。一体、彼奴はなにを考えておるのか。本来なら自ら命を絶つことで、縄目の恥辱を免れんとするだろうに」
議論を聞く者の一人に真里谷信政もいたが、たまらず立ち上がり、次の間に向かった。
「金石斎殿」
「……なかなかまとまらないようですな」
苦笑して出迎えたのは、根来金石斎である。他家の家臣である彼の手を煩わせてはならぬと、父からは言われていたが、もはや躊躇ってはいられない。
「聞いてのとおりです。時茂の考えが読めない以上、こちらも身動きが取れずにおります」
「窮地にあっての行住坐臥など、その人の数だけございます!」
不意に金石斎は隣室にも聞こえるほどの大声で喝破した。
「したがって真意は時茂自身に聞くより他ございませぬ!」
金石斎の意図を悟った信政も負けじと怒鳴り返す。
「なれど、相手は里見の誇る豪傑、殿と指呼の間に置こうものなら何をしでかすか!」
「それならば即座に首を取り、里見方へ届けなされ。道は二つに一つ!」
言い終わると二人は耳を澄ました。隣室で父は、家臣たちは金石斎の意見を確かに聞いたはずだ。
道は二つに一つ。どちらを辿るか……。
四
緊張の面持ちで信政が見守る中、襖が開き、その男がゆっくりと姿を現した。
若いな。
それが、信政が正木時茂に対して抱いた第一印象であった。
精悍そのものの容貌に鋭く輝く眼を岩のように鍛え抜かれた体躯がしっかりと支えている。今のところおとなしい動きしか見せていないが、機を見るやまたあの恐るべき武者振りを見せつけるのだろう。
元服し、一人前の武将と見做されるようになってからは、父や根来金石斎、重臣たちと上下問わず年上ばかりと接してきた信政の心に、時茂の存在は以外な新風をもたらしていた。
そんな信政など知らぬげに、時茂は広間の真ん中までゆっくりと歩み出た後、おもむろに着座した。一騎討ちにおいて火炎や鉄丸を浴び、落馬したとはいえ、たいした傷は負っていないようだ。歩み方、身のこなしに変わったところはない。
まさか鎧を着せてというわけにもいかないので、背丈の似た家臣の肩衣に身を包んでいる。
当然ながら丸腰である。
「正木大膳亮時茂にござる。此度は、敵方のそれがしが願い聞き届けていただき、感謝の言葉もありませぬ」
口上を述べるや時茂は静かに平伏した。
「うむ、面を挙げられよ……真里谷八郎太郎信隆である。これにあるは一子信政じゃ」
その瞬間、信政を凄まじい殺気が襲った。圧倒される信政であったが、しかしそこに満足を覚えていた。
臆するな、これだけの気迫を放つ荒武者を自分は見事謀り、虜にしてみせたではないか。ここで借りをを返すというのなら受けて立つのみ!
勇気を振り絞った信政が目を開けると、何事もなかったかのように時茂は信隆に向き直っていた。
ほんの僅かに視線を向けられただけでこの迫力とは……。
傍からはただ父の傍らに控えているだけのように見える信政だが、内心この後どのような事が起きるのか、二人の会話に聞き入っていた。
「願いと申したな。だが、わしの面を拝むだけでそれが叶ったことにはなるまい。何ぞ、申し述べたいことがあるのだろう」
「いかにも」
「遠慮なく申せ。満座の中では思うように物を言えぬと思い、このとおり広間にはわしと信政しかおらん……ああ、あの僧は麓の寺の和尚でな。戦で出た死人を弔いたいと、時々城の周りを巡っておる。気にするに及ばぬ」
言うまでもなく根来金石斎である。相手は何を考えているのか、何を仕掛けてくるのかわかったものではないと渋い顔を崩さない信隆を説得し、時茂と邂逅する機会を得たわけである。
それがしはそこらの寺の和尚と思ってくだされ。気を遣われるとかえって時茂にも気取られます故。
実際、信政から少し離れたところに瞑目して端座する金石斎は、時茂とは対象的に気配といったものをほぼ消しており、さながら仏像のようであった。
「それならば……」
一瞬金石斎を見やっただけで視線を信隆に戻した時茂は、決然と言い放った。
「それがしをこの城から解き放ち、里見の陣へ戻していただきたい」
「なっ!」
思わず妙な叫びが漏れてしまった。慌てて周りを見渡す信政だが、誰も気に留めていないようだ。
「ほほう、それが願いと申すか」
「いかにも」
「よかろう。その願い、聞き届けよう」
「ありがたき幸せ」
素直に頭を下げる時茂だが、信隆は更に言葉を続けた。
「だが、条件がある」
「と申されますと」
「うむ、まずは里見義堯に書を送り、城の囲みを解き、安房へ戻るよう要請するのじゃ。里見勢が退いたのを確認できれば、そなたを解き放とう」
「それはできませぬ」
「どうした?言う通りに書を送って一旦軍勢を退かせ、己が里見の陣に戻り次第、また押し寄せる程度の知恵も沸かんのか?」。
信隆の揶揄に時茂の顔は憮然となった。
「それがしも義堯様も、騙し討ちで親を失い申した。故にやると誓えば必ずやり抜き、退くと約せば二度と造海に姿を見せはしませぬ。なれど、もし里見勢が造海城より退いたところで、それを聞いた小弓公方様がすかさず房総三国の武者を挙って造海城へ押し寄せてきましょう」
「あの御仁なら、そうするな」
「さすればこの堅城とて持ち堪えられますまい。そして里見家は不手際の責を問われること必定」
「で、義堯はそなたの首を差し出すと」
「はい、里見家を守るにはそれしかありませぬ。これでは、書を認めるだけ無駄になるかと」
「なるほどな」
信隆は低く唸った。
「わしも愚かなことを口走ったものよ。だがな、そなたが城門から出て行くのを指をくわえて眺めるだけというのは、それ以上に愚かなことに思えてならん……そうだな、何かしらこちらが用意した試練を越えてみせれば、考えないでもない」
「いかなる試練も乗り越えてみせましょう。それがしの武勇の程、他ならぬ信隆殿はよくご存知のはず!」
意気込む時茂を、信隆は冷たくせせら笑った。
「武勇は知っておるがどうにも脇が甘い。だからこそこのように囚われの身となっておるではないか。今もそう、誰が武勇を試すと言うたか」
「では、試練とは」
時茂の問いにしばらく考えを巡らせていた信隆だが、やがてにやりと微笑んだ。
「試練は武道だけにあるわけではない。歌道じゃ。この造海城を歌った和歌をわしの前で詠み上げてみせよ。和歌を、そうだな……百首読み上げれば、そなたは城を出て良いものとする」
「歌……でございますか……」
一瞬悄然となった時茂であるが、やがて気を取り直し、天井の一点を見つめて動かなくなった。頭脳を最大限に振り絞っているのだろう。
「ハハハ、そう堅くなっては名歌は生まれんぞ……おい信政……信政!」
「はい!」
先程から事態の展開に呆然となっていた信政を信隆は一喝した。
「何をしておる。筆と墨、それに短冊を用意させよ。これから里見家の歌道がいかなるものか、とくと見られるのだぞ。失礼の無いようにせねばな」
「は、はい……」
万が一に備え、隣室に控えていた近習たちに合図を送る信政。すぐに襖が開き文机、硯、筆、短冊の代わりに巻紙があらかじめ準備していたかのように次々と置かれていく。
こうして、奇妙な歌会が始まった。
五
「造り海かけ引自由なりければかかりし魚にひとしきは敵」
「うむ、よかろう」
「夜をこめて燈篭坂を越えぬれば味方の光日の出ますます」
燈籠坂とは、信政と時茂が死闘を演じた尾根道の辺りに付けられた地名である。
「うむ、よし」
鷹揚にうなずく信隆。端で聞いている信政も同じようにうなずいた。
この場にいる四人、皆一廉の武人であっても歌才豊かとは言い難いが、この時代、和歌は武家や公家、僧侶といった身分の敷居を超えた上流階級の共通教養として幅広く受け入れられていた。即興と言えども時茂が歌を詠み出すことができたのはそう驚くことではない。
巻紙に書かれていく歌を見ても、音数を大きくはみ出さず、歌われた情景も簡単に思い浮かべることができる。名歌とまではいかなくても秀でた歌、秀歌くらいは言えるだろう。
「風そよぐ萩生の野辺を狩りくらし今ぞ里見る有明の月」
「むむ……」
「萩生」が造海城周辺の地名である以上、条件に適っているとはいえ「今ぞ里見る」の一句に眉をひそめた信隆だが、それ以上止めようとはしなかった。
「里を見よはげしき春の山あらし世をつくろうみにさはらざりけり」
時茂はすかさず重ねてきた。これには信隆も苦笑いするしかない。
「世をふるまでとうろふ坂と聞くときはゆききの人の夜半のたよりか」
「討ちもせずうたれもせざるたび人の百首の望つらねまいらせ」
その後も時茂は淡々と和歌を詠み続けた。
信隆も信政も、そして金石斎も、いつしかそれに無心に聞き入っていた。
里見勢の城攻めが途絶えてからもなお、造海城中には張り詰めた空気が漂っていた。しかし今四人がいる広間の中では、その空気は緩み、駘蕩としたものとなっていた。
しかし……それは短く、儚いものでしかなかった。
「つくら海の河瀬定まる折なれば下れる水はいなしたいがい」
この句を詠み終えるや、正木時茂はゆっくりと筆を置き、苦しげな顔になって俯いた。
これまでに詠んだ句は三十二首。さらに倍以上の数を読まなければ、百には到底届かない。
「む……」
相変わらず動きを見せない根来金石斎に対し、真里谷信隆はなにかに気づいたようである。
潮時だな。
真里谷信政も悟った。
名うての歌人であっても即興で百首もの和歌を詠み上げるのは至難の業であろう。ましてや里見家重臣と言えども一武弁、到底成し遂げられるものではなかったのだ。
ここは一旦止めとし、時茂には牢に戻ってもらおう。彼の処遇については、改めて二人で話し合えばよいではないか。
信政がそう心に決めたときだった。
時茂が顔を上げ、一句詠み上げたのである。
「つくろ海うち出でて見れば白妙の富士の高嶺に 雪は降りつつ」
「なんと!」
信政は大声で叫んでしまった。
「田子の浦うち出でて見れば白妙の富士の高嶺に 雪は降りつつ」
百人一首を嗜んでいれば誰でも感づく、山部赤人の名歌である。その冒頭を造海に変えた代物だ。
だがこの一句は、造海城に初めて来た時のことを信政に思い起こさせた。
山深い真里谷で生まれ育った信政は、郷里を追われ、造海城に逃げ込んだとき初めて海を見たのだった。そしてその海の向こうには、房総の山々とは比較にならぬほど巨大な、そして美しい雄峰がそびえ立っていた。
富士山である。
「あの山の麓に甲斐国がある。真里谷家の祖先である甲斐武田家ゆかりの地だ」
感慨深げに語る父信隆。
甲斐の地が、富士山が見守っているのだ。必ずやその期待に応えてみせよう、武田一族にふさわしい武勇を見せつけてくれよう。そう決意した日からあまり時は経っていない。
思いもかけず感慨にふける信政をよそに、時茂はさらに歌を読み続けた。
「造海に紅葉踏みわけ鳴く鹿の声きく時ぞ秋は悲しき」
「音にきく造海のあだ波はかけじや袖の濡れもこそすれ」
「造海漕ぎ出でて見れば久かたの雲ゐにまがふ沖つ白波」
「あらし吹く造海のもみぢ葉は白狐の川のにしきなりけり」
白狐川は造海城の北側を流れる川だ。この川の両岸でも戦いは行われ、真里谷、里見両軍の流血で川面は赤く染まった。紅葉が雅に流れる姿などとても思い浮かべたものではない。
苦笑していた信政の耳朶に、低い声が響いた。
「もうよい」
六
真里谷信隆の声だった。
「いや、続けます。夜を込めて……」
「もうよい!」
言い放つと、信隆は傍らの脇息を掴み上げ、勢いよく正木時茂に叩きつけた。
鈍い音が広間に響いた。時茂の額は割れ、血がぼとぼとと畳にこぼれ落ちる。
「そなたは里見家の重臣であろう!祖先は相模の三浦一族に連なる血筋の持ち主であろう!にも関わらず、囚われの身となったことを恥もせず城から出してくれなどとぬけぬけと願い出おって!恥の一つもかかせてやれば思い知るであろうと歌を詠ませてみれば、名歌をくすねてまで百首でっち上げようとする!それでもそなたは武士か!主君に申し訳が立たぬと思わんのか!それほどまでに生きたいのか!」
先程までの悠揚とした雰囲気を吹き飛ばし、顔を真紅にして怒りをぶつける信隆。今にも背後の刀掛けに駆け寄らんばかりである。
いかん!
信政は立ち上がって父を止めようとした。
時茂が広間に入ってきてからこの方、行く先が見えない二人の会話に信政は動揺を見せないようにするのが精一杯であった。しかし、今感情に任せて時茂を切るというのはいくらなんでも拙すぎる。
だが次の瞬間、信政は動けなくなった。
いつの間にか根来金石斎が傍に寄っており、信政の太腿を片手でがっちりと掴んでいたのだった。
「お平らに」
「金石斎殿……しかし……」
「大丈夫、大丈夫でござる。父君は怒りに我を忘れたわけではございませぬ。もうしばらく、様子を見ましょう」
「ぐっ……」
老人の片手とは思えぬ力で抑え込まれ、信政はまるで身動きが取れない。しかし北条家に招聘される前は諸国の戰場を駆け巡っていたという金石斎である。修羅場を数多くくぐり抜けてきたであろう彼を信じるしかない。
大人しく座り直す信政をよそに、真里谷信隆と正木時茂はしばしにらみ合いを演じていたが、やがて時茂はゆっくりと口を開いた。
「それがしは、生きとうござる。この城から生きて出とうござる」
「まだ言うか!」
「何度でも申し上げまする。それがしは生きとうござる。この城から生きて出とうござる」
「……そなたには誇りというものはないのだな」
「そのとおりでござる」
信隆の冷たい言葉にも時茂は何らひるまなかった。
「義堯様をお支えし、里見の家を盛り立てていこうと決意したその時から、もはやこの身は里見のもの、それがし自身の誇りなどもはや塵芥も同然でござる。どれだけ笑われようと、蔑まれようと命を繋ぎ、最期の最期まで里見の家のために生き抜き、戦い抜くが本望でございます」
「……とんと理解できぬな。我が真里谷家は甲斐源氏の名門武田家の一族。そなたのような卑怯者をこれ以上城中に置く気はない。里見の陣に戻るがいい。我らは無二の戦をするのみぞ」
「本当にそれでよろしいのですか」
「何!」
「里見の軍勢はこの城に籠もる真里谷勢をゆうに上回っております。無二の戦といったところで最後に笑うのは我が里見義堯様であることは明白。そうなれば、謀反人は滅びた、真里谷家の正統は信応ぞと小弓公方様が喜ばれるだけでございます」
「そなたには分かるまい。この造海城は、家祖である武田信長様が房総の地に足を踏み入れた場所なのだ。いかに不利な戦であろうと、我らにはもはや退く地はどこにも残っておらぬ」
「残っておるではありませんか!」
もはや会話の形勢は逆転し、時茂が信隆を説得する形となっていた。
「坂東の地は房総三国よりはるかに広く、そして日の本は坂東よりさらに広うござる。必ずどこかに信隆殿を受け入れ、再起を助けてくれる地があり申す!試してみもせずにいたずらに死を急いでも、小弓公方様が喜ばれるだけでございます!」
「ぬう……」
再び二人は睨み合いに入った。傍らで見守る信政にとって、無限とも思える時間が過ぎていき、そしてついに……。
「申したきことは申したようだな。下がれ」
「かしこまりました」
平伏した時茂が起き直るや、待ちかねていた近習たちが隣室から姿を現した。
血に塗れた時茂の額を布で拭う者、畳にこぼれた血痕を拭き清める者、文机や硯を片付ける者。
やがて彼らは時茂を促して起立させると、全員で静かに退出していった。
七
広間には三人が残された。
再び襖が開き、茶で満たされた茶碗が三人の前に置かれると、信政は茶碗を掴み、一息に飲み干した。
父のように長口舌を振るったわけではないが、緊張でからからになった喉を茶が優しく潤してくれる。
それは父も同じらしく、茶を飲み干すと深々とため息を付いていた。
「さて……どうしたものか」
空になった茶碗を弄びながら、信隆は苦笑いを浮かべた。
「金石斎殿、誠に恥ずかしいことながら、それがしは何が正しいのか、これからいかにすべきかわからなくなり申した。もしご意見があれば、伺いたいのだが」
「はっ」
意見を求められることは当然予期していたのだろう、途端に根来金石斎は威儀を正し、真里谷信隆に向き直った。
「それがしの考え、一から十まで正木時茂と同じでござる。もはやこの城での戦いに何ら意義はございませぬ。速やかに里見方に城を明け渡し、信隆殿、信政殿は相模に来られませ」
金石斎の言葉は簡潔にして決然としていた。主君北条氏綱に献策するときも、同じような佇まいであろうなと信政は思った。
「やはり金石斎殿も……そう思うか……」
「はい」
そこで金石斎は口調を変え、しみじみと語り始めた。
「それがしはあくまで北条の家臣。いくら正論を述べたところで、死を決した真里谷殿には届くまい、むしろその心を頑なにさせるだけだと諦めておりました。せめて落城間際に信政殿を引き取り、血筋をつなぐのが精々だと」
「そのようなことをお考えでしたか」
金石斎は信政に頷いてみせた。
「なれど時茂は囚われの身という屈辱を味わいつつ、それでもなお生を求める姿を見せることで、ついに信隆殿の心に声を届かせました。見事なものです」
「だが、今日まで戦ってくれた兵たちを見捨てて行くというのは」
「内輪の争いで無駄に兵を殺すのは、信応も小弓公方も望みませぬ。無理やり城に連れて来られたが、今後は信応様に忠義を誓うと言われれば、向こうも許すことでしょう」
「そうか……」
金石斎の言葉に信隆は大きくうなだれ、再び長考に入った。
その姿は、里見勢との戦いで懸命に味方を激励し、叱咤する父を見慣れていた信政にとって、ずいぶん小さく見えた。
だが長考を終え、立ち上がった父には確かに力が宿っていた。
それはまだ小さく、静かなものだったが、信政には間違いなく新しい力に思えたのだ。
「茶の代わりと筆墨、巻紙を持って参れ。里見義堯、それに北条殿に書を送る」
草木も眠る深夜であったが、造海城内は騒然としていた。足軽や中間、小者らに造海城の開城が伝えられ、主人と同行を希望する者以外は郷里に帰るよう命令が出たのである。
もちろん今まで自分のために戦ってくれた兵たちを、命令一つで放り出すような薄情なことは信隆にはできなかった。
蔵が開け放たれると金銭、米、塩といった貯蔵品はもとより、釘やかすがいのような鉄製品、木材、藁、家臣たちの馬に至るまで値の付くものはことごとく分配されていった。
分配の列が城内至る所で伸び、夜明けに迫った出立に備えて大勢の人間が動きを見せ、早くも大手門では人だかりができ始めている中、城内の地下牢では、二人の男が別れの時を迎えようとしていた。
「夜明け前の満潮に乗じ、船で我らは相模に去ります。夜明けとともに、兵たちもこの城から離れます。あとは里見勢がこの城を受け取ると」
「わかり申した」
信政の説明にも時茂はそっけない態度であった。
「最後に、父上へ伝えたきことありませぬか」
「いや……信隆殿にはあの場で心中すべて伝えました故。根来金石斎殿におかれましても、里見勢の戦いぶり、とくとご覧になられたでしょうから、それがしから何も付け加えることはございませぬ」
最初からばれていたか……内心頭を掻きつつも、信政は仏頂面で聞くしかない。
「左様ですか、では」
「待たれよ、真里谷信政殿」
背を向けた信政に対し、時茂は改まった口調で呼び止めた。
「どうされました」
「そなたには伝えておきたいことがある」
「うかがいましょう」
ゆっくりと牢の前に戻ってきた信政に、時茂は初めて微笑みかけた。
「次にお目にかかった時には、そなたを必ず討取る。無駄だとは思うがその時まで精々、鍛錬に励まれよ」
一瞬驚いて目を見開いた信政だが、すぐに同じように微笑んだ。
「お言葉、そのままお返し申す」
そして信政は背を向け、二度と振り返ることなく石段を登って姿を消した。
正木時茂が、城内に踏み入ってきた里見勢に解放されるのは、それからまもなくのことである。
八
「あれから十五年か……あっという間だったな」
馬上の正木時茂は、誰に言うでもなく呟いた。
天文二一年(一五五二年)十一月四日。
造海城の戦いから十五年が過ぎたこの日、上総の支配者に返り咲いていた真里谷信政率いる軍勢と、里見義堯率いる軍勢が上総国北西、椎津城南方で決戦を行った。里見勢の先鋒を務めるは、当然正木時茂である。
戦いは両軍一歩も譲らぬ激戦、戦死傷者が山積するさまは酸鼻を極めるものがあったが、ついに真里谷勢が力尽き総崩れとなった。
大勢が決したことを悟った信政は、椎津城内に退却、そこで家臣一同とともに自刃した。
報告を聞いた時茂はうなずくだけであった。
造海城で信政に突きつけた約束は、一度も忘れたことはない。だが今の自分は将として軍の指揮に当たる身、その責務を放りだして信政に挑みかかるわけにはいかないのである。
それは信政も同じであったろう。時茂と再度の一騎討ちに臨むよりもまず、負けが避けられぬときは潔くそれを認め、自らの命で締めくくりを行うという、当主の責務を取ったのである。
その翌日、時茂は物見という口実で、椎津城の周りを一人馬で巡り、追憶にふけっていた。
造海城から解放されたときには、さぞや笑われ、嘲られるだろうと覚悟していたが、実際には囚われの身でありながら、口舌一つで敵を開城に導いたと里見家中での評価は却って上昇していた。
もっともその「口舌」の中身を知るものは、今や自分一人だ。
前年に真里谷信隆が亡くなり、今年に入って根来金石斎も亡くなった。
それを好機と里見勢は総攻撃を仕掛け、真里谷信政もついに不帰の客となった。
物思いに耽りながら時茂が馬を駆けさせていくと、海辺に出た。
造海城と変わらない海だ。
紺碧の海水が純白の泡に彩られつつ岸辺に打ち寄せ、また沖へ戻っていく。その途中で新たに押し寄せた波に飲み込まれ、再び岸辺に打ち寄せる。
海は、陸で我らが繰り広げる有り様をどう思っているのだろう。青き海、青き空は、地を赤で染め続ける我らをどうみているのだろう。
答えの出ない考えを弄んでいると、ふと一句、心中に浮かび上がってきた。
「つくろうみ川瀬定めぬ折なれど下れる水は入るる大海」
海面に向かって言い終わると、時茂は馬に鞭を入れ、里見の陣に駆け戻っていった。
あとには、大海と大空が残された。(了)
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