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マルタの作ったスープは滋味あふれ、温かで美味だった。
マルタはルーに食事作法を教えることに注意をむけており、食事中カレン達にはあまり目をむけなかった。

カレンは食事中、叔父夫婦について聞くべきか迷っていた。

叔父夫婦は、昨夜マルタによからぬことを企んでいたようだったが、どうなったのだろう。
それをマルタに知ってて伝えなかったのはどこか後ろめたい気持ちがしていた。
しかし、朝起きたら叔父夫婦がいなくなっているのは、どういうことだろう。
マルタは細身の女性だ。叔父のようなガタイの良い人間をどうこうできるとは思えない。

(それに…)

昨夜、マルタの瞳は鮮血のように赤かったが、今は赤味おびた茶だ。夜に見た、異様な雰囲気は、朝の穏やかな空気の中では夢だったように思えてくる。

「この人、だれ?お父さんとお母さんは?」

アレンがカレンの服を引っ張ってきた。

(それはわたしも知りたい)

聞くのは怖いが、聞かないのも不自然だ。もしかしてら、叔父夫婦は何か急用があって、朝のくらいうちから出掛けているのかもしれない。お客であるマルタに出掛ける前に何か伝言を残しているのかも…。そうあって欲しい、と思いながらカレンはマルタに聞いた。

「マルタさん、叔父さんと叔母さんの姿が見えないのですが、どうしたのでしょうか?」

「二人とも昨夜のうちに出ていったの。もう戻ってこないそうよ」

マルタはこともなげに答えた。

「カレンちゃんとアレン君は私にお願いしますと頼まれたの。これからは私が面倒を見るわ」




「…きっと、わるい魔女だ」

食後、アレンはカレンに耳打ちした。

「お父さんと、お母さん、どうしたんだろう」

そして不安そうにカレンを見た。

「…あの人たちは、お父さんとお母さんじゃないわ」

カレンは呟く。

「カレンがそんなこと言うから、お父さんとお母さんが怒るんだよ」

アレンが非難するように言い、カレンはため息をついた。カレンは、自分にそっくりな子供が気になっていたのだが、アレンはそれより消えた叔父夫婦が気になるようだった。

(…その二人は消えてしまった。大人二人を消してしまえる悪い魔女を、こども二人がどうにかできるわけがない)

あの二人がいなくなってしまったのはカレンにとっては保護者を失ってしまったのと同義だ。あんな人間でも、弟のことは大事にしてくれていた。しかし、いなくなった以上カレンは一人で弟を守らなければならない。

「アレン、あなたは覚えていないでしょうけど、私たちはアニーとダレンの子供よ。母さんと父さんは私に弟をよくみるようにいいきかせたの。だから、私はあなたを守らなくちゃいけないの。叔父さんと叔母さんはあなたのことよく面倒みてくれたわね。でも、いなくなった以上別の誰かを頼らなくちゃいけないわ」

アレンは納得がいかない顔をしていたが、カレンはそれ以上言葉を続けられなかった。

「アレン、カレン。ここを出て行くわよ。荷造りしましょう」

いつの間にか背後にいたマルタが朗らかに言った。
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