化怪《バケ》〜幽霊騎士に守られて、呪われた私は恋を知る〜

名無し

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座学

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「………まずおさらいをするが………」
「はい!お願いします!目隠し先生、吉光先生!」

 昼休み。私たちはいつもの屋上へと足を運び、お弁当を広げていた。呪いを解除する為には、今後嫌でも霊たちと出くわしたり、戦ったりすることになる。その為にもまず、私も彼ら亡霊のことを知る必要があると思った為、詳しい目隠しさんと吉光に特別授業を開いてもらうことにした。今まで私は、幽霊が視えるというだけで、彼らのことを詳しく知ろうとはしてこなかったし、吉光にも知る必要はないと言われてきた。知ったところで私にはどうもできないし、変に知識をつけて逆に危険なことに巻き込まれたら、という吉光なりの気遣いでもあった。

「………亡霊というのは、死後もこの世に強い未練を残した者が辿る成れの果てだ………。普通の人間ならば、死後はそのまま魂が成仏し、冥界へと送られる………」
「ふむふむ。ってことは、目隠しさんも未練があるってことなの?」
「………そういうことになる………」

 目隠しさんはどこか居心地が悪そうに肯定した。その未練というのが何なのか、聞いてはならないような雰囲気を感じて、私もそれ以上は突っ込めずに言葉を飲み込む。目隠しさんの未練を知るには、まだ関係値が足りないということか。目隠しさんが亡霊となった理由が気になっていると、続けて吉光が口を開く。

「亡霊は皆が皆、生きている者に危害を加えようとはしません。そういった無害な亡霊は祓うのも難しくありません。未練を断ち切る手助けをしてやれば、後は自力で黄泉へと旅立っていきます。今まで恋白に集まってくる亡霊も、こういう無害なものばかりだったので、俺の手にも負えたのですが………」
「この間の鬼は、とても無害そうには見えなかったよね………」

 実際、私も吉光も死にかけたし。吉光のお札を1枚受けた程度じゃ、鬼は少し苦しむくらいで倒すまではいかなかった。ああいった凶悪な幽霊も、当然いるということか。

「………攻撃性の高い凶悪な亡霊は、大体階級が高い者が多い………。生きた人間や、同じ亡霊を食らって、より力や知性を身に着け、更に凶悪になっていく………」
「そういった亡霊は、俺の母でも手こずります。奴らは、自分が食物連鎖の頂点に立とうと、尽きない野心で容赦なくこちらを食おうとしてきます。そうして無数の魂を食らい続けた亡霊は、俺たち聖職者の力を以てしても、もう救うことはできない。ただ無に帰すしかない………。それが、あのご神木の力だと教わりました」

 鬼はあのご神木の力に充てられて、かなり苦しんでいるように思えた。あそこまでいくと、もうああやって苦しみを与えるしか方法がないというのか。少し同情してしまいそうになるのと同時に、だとすると、解呪の為に階級を上げようとしている目隠しさんも、その道を辿ることになるのかという不安が浮かび上がる。

「待って、そうすると目隠しさんも階級を上げたら………」
「………どうなるかは俺も試したことがないから分からないが………、少し階級が上がった程度ではああはならないだろう………。階級が上がれば上がるほど、亡霊は野心だけが残り、自分の未練のことを忘れる………。未練を忘れると成仏できなくなり、化け物と化すと………聞いたことがある………」
「未練を………忘れる………」

 目隠しさんが亡霊になった理由を忘れた時。その時、目隠しさんの魂が救えなくなる。ただ人を食らい、幽霊を食らうだけの化け物になってしまう、ということか。目隠しさんを化け物にはしたくない。させてはならない。そうなるくらいなら、呪いなんて………、

「………呪いなんてどうだっていい、と………考えているのだろう………」
「………!!」
「………忘れるな………、俺は既に死んでいる身だ………。生きている人間が、犠牲を払ってまで救おうとするような魂ではない………」

 そう冷たく制されて、私は押し黙る。目隠しさんが言っていることはごもっともだ。生きている人が、死んでいる人の為に死ぬなんて、あってはならない。でもそれでも、もう私にとっては目隠しさんも大事な友達だ。私の呪いが解除できるなら化け物になったっていいなんて、そう簡単には割り切れない。複雑な思いが胸の内を巡る。そんな私の心情は、吉光も汲み取っているようで。私を安心させるかのように、こちらをじっと意思のこもった目で見つめてきた。

「大丈夫です。俺がそんなことさせません。この男が化け物になったら、それこそ手に負えなさそうですし………。この男の魂は、俺が救ってみせます。そのために最近は修行のメニューも増やしたのですよ」
「………………」
「コイツが、危険性の高い悪しき亡霊を倒し、その魂を食らう。階級を上げる。そして解呪の力を身に着け、恋白の呪いを解く。そしてその後は………、俺が魂を救い成仏させる」

 成仏………。その言葉に、またチクりと胸が寂しくなるような気がした。死んだ者の魂がそう在るべきなのは頭で分かっているのだが、成仏というのは即ち、永遠の別れということだ。もう目隠しさんの姿を認識できなくなり、彼はこの世に留まることはなくなる。それが少し、悲しくて、寂しい。遺される者の悲しみというのは、もっと深く辛いものだとは思うが、こういうものなのだろうかと少しだけ理解できるような気がした。

「今はまず、恋白の呪いを解くことを考えましょう。幸い、今のところは呪いの効果も出ていないようですし、恋白が苦しむ前に早く解決しなければ」
「うん………、ごめんね、2人とも………。迷惑かけちゃって………」
「………今更だな………」

 目隠しさんの一言は全くもってその通りで、居たたまれず再度ごめんなさいと呟く。そんな私を庇うように、吉光はキッと目隠しさんを睨みつけ、目隠しさんもその視線にそれ以上は黙り込んだ。

「そうだ、吉光のお母さんは、呪いのこと何とかできないのかな」
「俺の母さん?」
「うん。だって吉光のお母さんは、有名な神主さんだし………、吉光の修行を付けてるのもお母さんでしょ?」

 なぜ今まで思いつかなかったのか。吉光のお母さんのことは、幼馴染故に小さい頃から知っていて、ここら辺では有名な神主だ。美人で朗らかで快活なお母さん。何度か会ったことがあるし、家にも遊びに行ったことがある。あのお母さんなら何とかしてくれるかもしれない。

 吉光は少し眉を顰めていたが、やがて納得したように頷いた。

「母に頼ることになるのは悔しいですが………。連絡を入れてみます。母さんが空いているなら、早速今日の放課後にでも見てもらいましょう」

 そうしてスマートフォンを取り出す吉光の背中を見つめながら、間違って目隠しさんまで祓われたりしないよね………?とちょっとだけ、心配してしまった。
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